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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
16章:魔導書の世界

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カイトvsハーフダルム(10)

 中国の甲冑はその長い歴史の中でいくつもの種類、奇抜なアイディアを採用した代物が数多く存在しているのだが、これは漢民族とその宿敵である周囲の遊牧民族との戦いに由来している。

 そもそも中国は長い歴史を持っているとはいえ、漢民族自体が統一王朝を長く存続させた例は少なく、統一王朝のほとんどが周辺の異民族により征服され生まれた例がほとんどだ。


 たとえ、漢民族の国が長く続いていたとしても、それは多くの国家に分裂していた時代である事が多い。

 そんなわけで、どの民族と対峙するかによって、戦い方も求められる装備も違ってくるし、征服と統一が進むにつれて他民族の武具が融合していき、どんどん奇抜なものが出来上がっていくのだ。


 とはいえ、そんな歴史の中でも最終進化系といえる甲冑はいくつか存在する。

 そして、そんな甲冑の中で間違いなく最高峰なのは歩人甲だろう。


 とはいえ、この甲冑は多数の金属で体全体を覆ったため、頑丈なぶん、その重量は相当なものになっていた。

 ゆえに、敵軍を撃退できてもその後の追撃をする事ができず、その重さがデメリットとなっていた。


 だからだろう、元王朝が倒れ、再び漢民族の統一王朝が復古すると、古い時代の甲冑が数多く採用され復活を果たす。

 そういった意味でも、中国最強の装備ではなくとも最適解の装備は明光鎧といえるだろう。


 そして、甲冑だけでなく、刀剣に関しても中国は多種多様だ。

 というよりも、中国は世界的に見ても極めてレアなケースといえる。


 何せ、西洋の主流が両刃の剣。日本の主流が、大陸から片刃の刀がもたらされて以降、日本刀が主流となったように、どの国でも基本的に剣か刀、どちらかが主流となり、どちらかが廃れているのだが、しかし中国だけは剣と刀、両方が主流となった極めて異例な地域なのである。


 さらに中国には軍事面での中国剣、中国刀だけでなく、中国武術で扱う専用の漢剣、中国刀も存在し、これらはまったくの別物という何とも奇妙なケースである。


 とはいえ、剣と刀の両方が主流として存在するといっても双方には明確な違いがある。

 漢剣は軽量であるため取り回しがよいが、それゆえに基本的には刺したり突く事にしか使われなかった。

 一方の中国刀は漢剣に比べ強度が優れているため、接近戦による斬りつけ合い、叩き合いなどの威力重視の戦いに用いられた。


 そんな中国の刀剣の中で、ハーフダルムが手にしたのは柳葉刀。

 それは軍事面ではなく中国武術で使用される中国刀だ。

 そのチョイスに思わず眉を潜め、訝しんでしまう。


 (柳葉刀? カンフーでもするつもりか? 甲冑姿で?)


 しかし、ハーフダルムはそんなこちらの思考など気にせず懐中時計の蓋を蓋を開き。


 「っ!!」


 こちらの傷と体力を治癒すると。


 「さぁ、万全な状態にしてやったぞGX-A03の適合者(まるさん)。混種能力を使った反動も治ったはずだぜ」


 そんな事を言ってきた。

 明光鎧を纏った姿となっても、やはり兜と一体化した鉄仮面を被っているためその表情は掴めないが、ニヤニヤしているだろう事は想像に容易い。

 思わず舌打ちしてしまう。


 「っち! どういうつもりだ?」

 「何、全力が出せなきゃつまらないだろ? さっきのあれ……混種能力をもう一回使えよ。でないと対応できないかもしれないぜ?」


 そんな事を言ってきた。

 混種能力を使った反動を癒し、もう一度「混種能力:縮地」を使えとはどういう事だろうか?

 何にしてもハーフダルムに指図されるいわれはない、なので反発して言い返そうとしたところで。


 「それじゃ、耐えて見せろよGX-A03の適合者(まるさん)


 ハーフダルムはそう言って懐中時計の蓋を開く。

 直後、ハーフダルムの背後にまるでいくつもの歯車が動き重なり合うような懐中時計内部の精巧なムーブメントが投影され、ハーフダルムが手にする柳葉刀の刀身が眩しく光り輝いていく。


 「っ!!」


 柳葉刀から一体どんな攻撃が飛び出すかはわからないが、恐らくそれを見てから対応したのでは遅いだろう。

 何せ「混種能力:縮地」を使えとわざわざ言ってきたくらいだ。恐らくは「混種能力:縮地」をもっと見たいのか、あるいは「混種能力:縮地」を使うことによってまた新たな混種能力が解放されると見込んでいるに違いない。


 (クソッタレが! かなり癪だが言われた通り、使うしかないのかよ!?)


 心の中で悪態をつきながらもアビリティーチェッカーの液晶画面上に投影された「混種能力:縮地」のエンブレムをタッチ。


 『ability blend……teleportation』


 アビリティーユニットが音声を発し、直後、アビリティーチェッカーの液晶画面上に投影されていた混種能力:縮地のエンブレムが巨大化し、そして景色が一変した。

 それと同時にハーフダルムも眩しく光り輝く柳葉刀を振るう。


 「混種能力:縮地」と柳葉刀の異能が同時に発動するが、しかし「混種能力:縮地」は一瞬で相手にとって致命傷となりえる、急所を確実に突ける位置、回避不能な攻撃を繰り出せる最適解の場所に移動し一撃必中の攻撃を放つ秘儀だ。

 発動したタイミングが同じならこちらに分があるはず、そう思ったのだが……


 「忘れたかGX-A03の適合者(まるさん)、ここは俺がおまえを鍛えるために用意した特別な空間だ。そう、俺が創造したな? つまりはこの場所は本来()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだよ。神々の連中であっても、アシュラのやろうであっても、それこそジムクベルトであってもな? 言ってる意味がわかるか? 要するにさっきは様子見で強制的に距離を縮めるなんて空間の基盤への干渉を認めたが、以降はもう認める気はねーぞ?」


 ハーフダルムはそう言って柳葉刀を振り下ろしたが、そんなハーフダルムとの距離はまったく縮まらなかった。


 「なに!?」


 それどころか、逆にハーフダルムの姿は遠ざかっていき、直後自分の周囲を取り囲むように無数の漢剣が宙に浮かんで姿を現す。

 それらすべてが長穂剣、蛇剣、刺剣、九曲剣、龍形剣、螳螂剣といった具合にカテゴリーが違う漢剣であった。


 「なんかすげーいやな予感がするぞこれ」


 そう口にした直後、周囲を取り囲むように現れたそれらの漢剣が一斉にこちらに向かって襲い掛かってきた。

 しかも、すべての漢剣が同じ動きで襲ってくるのではなく、それぞれの剣の特性にあった動きでだ。


 「っち! こんなのいちいち対応できるかよクソッタレ!!」


 叫びながらもアビリティーユニット・スピアモードを振るい、ひとつひとつを切り落としていく。

 ハーフダルムを攻撃できる位置に瞬間移動できなかったとはいえ、「混種能力:縮地」はまだ発動しているのだ。

 相手にとって致命傷となりえる、急所を確実に突ける位置、回避不能な攻撃を繰り出せる最適解の場所に一瞬で移動で一撃必中の攻撃を放つその秘儀によって、目にも止まらぬ速さですべての漢剣に対応できたわけである。


 しかし、どれだけ切り落としても漢剣は次々と出現してくる。

 それどころか今度は環首刀や斬馬刀、雁翎刀に九環刀といった中国刀まで出現しだした。

 これでは埒が明かない。というよりも、今以上に複雑な動きをしてくる刀剣が増え、より一層注力して個別に対処しないといけない状態になってしまたらもうお手上げ、キャパオーバーだ。


 (クソッタレ!! なんとかしないと!!)


 なんとか1本1本対処しながらも、このまま増え続ける漢剣、中国刀に「混種能力:縮地」が持続する限り対処し続けるか、それとも別の一手を打つか、判断に迷っていた。

 だが……


 (どっちにしろ、「混種能力:縮地」はいつまでも持続しない。となれば行動は早めにすべきだ!)


 そう判断し、個別に切り落としていくのを一旦やめ、大振りにアビリティーユニット・スピアモードを振るって迫る漢剣、中国刀を牽制して素早くアビリティーユニット・スピアモードをパージ。

 そして間髪入れずアビリティチェッカーの液晶画面上の魔物の擬態のエンブレムと聖斧のエンブレムをタッチし、ゴリラアームでもってアビリティユニット・アックスモードを手にして足元の地面から大量の岩を吸い寄せ巨大な岩石のハンマーを生み出し。


 「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!! こいつでどおだぁぁぁぁぁぁ!!!」


 支援サポートの能力で身体強化を行い、そのまま全力で巨大な岩石のハンマーを振り回して周囲の漢剣、中国刀をすべて薙ぎ払った。


 「ほう?」


 その光景を離れた場所で見ていたハーフダルムは興味深そうに頷くと。


 「新たな混種能力は発現しなかったが、これはこれで別の混種能力発現のきっかけになるか? くっくっく、いいねぇー中々鍛えがいがあるじゃねーか」


 そう言って手にしていた柳葉刀を横へと放り捨てる。


 「しかし力でのゴリ押しに打って出るとか頭を使うのを放棄したか? GX-A03の適合者(まるさん)


 仮面に隠れて表情は窺えないが、恐らくはニヤニヤしながら言っているのだろう。

 その態度に苛っときてしまった。


 「黙れよハーフダルム! あぁそうだ! 悪いか? だったらこのままてめぇも叩き潰してやるぞ!!」


 なのでそう言って、巨大な岩石のハンマーを両手で持って構えるとハーフダルムは笑っているのか肩を震わせながら。


 「力比べってか? くっくっく、いいぜ? その遊び乗ってやるよ」


 そう言って胸元からジャラジャラと無数の懐中時計を取り出し、その中のひとつを引きちぎる。

 そして、左手のガントレットの窪みにはめこまれた懐中時計を取り外して、新たにひきちぎった懐中時計をはめこんだ。


 『ヴァイキング』


 直後、ガントレットから音声が鳴り響き、その姿が中国の明光鎧を身に纏った姿から北欧、バルト海、デンマークの戦士であるヴァイキングを連想させる鎧と兜を纏った姿へと変化した。

 とはいえ、やはり顔は仮面で隠されており表情は窺えない。


 そして、その左腕には木製の丸い盾が取り付けられており、腰の鞘には北欧、およびデンマークで用いられたヴァイキングの象徴たる剣、ウルフバートが収められているが、しかしハーフダルムはそのウルフバートを抜かない。

 代わりにウルフバートと同じくヴァイキングを象徴する武器である巨大な刃を備えた戦斧を手に取って肩に担ぎ。


 「さぁ、どっちのパワーが上か……試そうぜ? GX-A03の適合者(まるさん)


 楽しそうにそう言って構えをとる。

 そんなハーフダルムを睨みつけ、より一層アビリティーユニット・アックスモードを握る手に力を込める。


 「何が力比べだ、ふざけるなよクソッタレが!!」


 にらみ合う事数秒、どちらともなく地面を蹴って駆け出し、互いに斧を振るう。


 「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 「ふははははは!!! さぁ、どっちが上だ?」


 2つの斧が激突し、空間全体に衝撃波が走った。

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