カイトvsハーフダルム(8)
ハーフダルムの放った居合切り、しかし抜き放たれた日本刀がこちらに届く事はなかった。
なかったが、しかし……視界の半分がおかしな事になっていた。
「は?」
目の前の視界の左半分の景色がまるで断層がずれたようになっていたのだ。
それは目の前に展開していた魔術障壁も同様で、破壊され砕けるわけでなく、景色と同じく断層がずれたような状態となっている。
それはまさに空間がずれていると言っていい状態であった。
しかし、なぜこんな事が起こっているのか?
理解が追いつかないでいるとハーフダルムが。
「あぁ、こいつを防ぐ手立てはまだ持ってないか……それともあと数回切り落とせば何かしらの混種能力が発現するか? ふむ、試してみるか」
そんな事を言いながら抜き放った日本刀を再び鞘へと納める。
そんなハーフダルムの「あと数回切り落とせば」という言葉にはっとして、慌てて視界の断層がずれた左側に視線を移す。
すると、自身の左腕がずれた景色と連動して自らの体から切り離されていた。
「なっ!?」
鋭利な何かで切られたような切断面が見えたと同時にずれていた景色が元に戻る。
だが、切り離された腕は元には戻らず、そのまま切り落とされた左腕は大量の血をまき散らして地面へと落下した。
そんな自身の左腕を見て、ようやく激痛が全身を駆け巡る。
「がぁぁぁぁ!?」
切断された左肩から大量に血が噴き出し、思わずその場にしゃがみこんだ。
左肩を手で押さえるが出血は止まらない。
激痛で意識が飛びそうになるが、しかしハーフダルムがすぐに懐中時計の蓋を開き。
「っ!?」
直後、ハーフダルムの背後ではなく、こちらの体全体を包み込むように重なって、いくつもの歯車が動き重なり合うような懐中時計内部の精巧なムーブメントが投影される。
すると、さきほどまで地面に落ちていた左腕は消え、直後に痛みもなくなり、きれいさっぱり体が元に戻っていた。
「こいつは……治癒魔法か」
そう口にするとハーフダルムは。
「そりゃ五体満足でないと話にならないからな? さて、こいつを克服できるまで何度でも切り落としてやるぞ? 安心しろ、腕はすぐに治してやる。くっくっく、そういや前回の戦いでも腕を切断してやったっけな? おいおい、一体何回俺に腕を切り落とされたら気が済むんだ?」
そう言ってハーフダルムは再び懐中時計の蓋を開き、居合切りの構えに入る。
そんなハーフダルムを見て、すぐさま魔術障壁を再び無数に展開する。
とはいえ、さきほどの状況を鑑みるにこれは意味をなさないだろう。
何せ魔術障壁は砕かれず、景色ともども切断されていたのだ。
そんな空間ごと相手を切断する居合切りなどどう防げばいいのか?
まったく考えが思いつかなかった。
(やろう、空間ごと断ち切るとか反則だろ! こんなのどうやって防げって言うんだクソッタレ!!)
そう心の中で毒づきながらも、防御一転特化で混種能力:防御を使えば防げるだろうか? と一瞬考え。
(ダメだ! 混種能力は使えない。たとえ防げても、それで倒れてしまっては意味がない)
すぐにその考えを打ち消す。
そうして思考を巡らせている間にハーフダルムは準備を整い終え、居合切りを放ってきた。
「っ!!」
それを見て反射的にアストラルシールドを発動するが、結果は……
「がぁぁぁぁ!?」
さきほどと同じく左腕を切り落とされる結果となった。
激痛に苛まれ、地面に倒れてのたうち回るが、そんなこちらを見てハーフダルムは。
「おいおい、何も手立てを講じなかったのか? 少しは頭を使えよ頭」
そう言って挑発するように兜をトントンと指先で突いて見せてくる。
そんなハーフダルムの言動に本来なら激怒するところなのだろうが、しかし激痛でそれどころではない。
ハーフダルムはそんなこちらを見てため息をつくと懐中時計の蓋を開き、こちらの傷を癒す。
そして。
「さて。次は少しくらいは違った何かを見せてくれよ?」
再び懐中時計の蓋を開いて居合切りの構えに入る。
そんなハーフダルムを見て、一旦地面を蹴って後方に下がりハーフダルムと距離を取る。
とはいえ、距離を取ったところであの居合切りを防げるとは思っていない。
何せ空間ごと断ち切ってくるのだ、間合いなどないも同然だろう。
ならば。
(一か八か、スピード勝負を仕掛けてみるか!)
超加速を発動、ハーフダルムが居合切りを放つ前に、逆にこちらがハーフダルムを斬り付けるのだ。
とはいえ西洋甲冑の姿の時は超加速で飛び込んでも対応されてしまった。
そして今回は時間がないため、支援サポート能力で素早さのバフをかけていない。
だが、西洋甲冑の時と違って今はまだ鞘に日本刀が収まったままだ。
なら多少の勝機があるかもしれない。
そう思い、超加速で一気にハーフダルムの懐に飛び込みレーザーブレードを振るう。
だが……
「遅いな」
超加速よりもはやく、ハーフダルムが日本刀を抜き放って居合切りを放つ。
そして、そのまま右腕と右脚を斬り落とされてしまった。
「がぁぁぁぁ!?」
右腕と右脚を失い、勢いのままに地面を転がるこちらを見てハーフダルムは楽しそうに兜をカクカク揺らして笑うと。
「いいぞGX-A03の適合者、とにかく行動する事が大事だ。そうすれば新たな混種能力が発動するかもしれんぞ? くっくっく、中々に楽しくなってきたな!」
そう言って懐中時計の蓋を開け、再びこちらの傷を癒し、体を元に戻してくる。
腕も足も元に戻ったのを確認すると、すぐに起き上がって支援サポート能力でスピードを強化。
「黙れ! こっちは全然楽しくねーんだよクソッタレが!!」
そして即座に超加速を発動してハーフダルムへと斬りかかる。
「余裕ぶっこいてんじゃねーぞ!! ようは居合切りの準備をさせなきゃいいだけだろーが!! おらぁぁぁぁ!!」
ハーフダルムが日本刀を鞘に納めておらず、懐中時計の蓋もまだ閉じて再び開けていない今なら勝機がある! そう思ったのだが……
「まぁ、隙をつくなら今だよな? けどよぉ? そんな見え透いたストレートな強襲意味ないぜ?」
ハーフダルムはそう言って、居合切りに使っていた日本刀である打刀を横に放り捨てると、素早く脇差を引き抜き、こちらの斬撃を受け止める。
「なっ!?」
「一瞬の隙をつくにしても、まだまだ健在な相手に一太刀入れたいならもう少し工夫が必要だぜ?」
ハーフダルムはそう言って脇差を真横に振るい、こちらのレーザーブレードを弾き返すと、新たに鞘に出現した日本刀を引き抜く。
その日本刀は太刀。
さきほどまで居合切りで使っていた打刀と違い、より刀身が反っており、一般的に日本刀と言われて連想するのはこの太刀であろう。
室町時代中期という戦国時代に突入してから誕生した打刀は合戦が頻発した乱世の時代に、馬上よりも地に足をつけて戦う事に特化した刀であった。
一方の太刀は侍が誕生し、表舞台で活躍しだした平安後期、まさに源平合戦期に誕生した代物であり、当時の合戦の基本である騎馬戦を想定した作りであった。
そんな太刀を手にしたハーフダルムは脇差を横に放り捨てると、すぐさま懐中時計を手にして蓋を開く。
直後、ハーフダルムの背後にいくつもの歯車が動き重なり合うような懐中時計内部の精巧なムーブメントが投影され、手にした太刀の刀身が光り輝いていく。
「っ!!」
そんな光景を見て、あれが放たれる前に攻撃を仕掛けようとするが、足がすくんで動けなかった。
(くそったれ!! 俺はビビってるっていうのか!? 何を今更!!)
何とか必死で体を動かそうとするが、心と体の動作が一致しない。
そんなこちらの様子など気にせず、ハーフダルムは懐中時計を懐にしまい、両手で柄を握って構えを取る。
「それじゃあいくぞGX-A03の適合者。今度は居合切りじゃねーんだ、耐えてみせろ」
そう言って刀身が眩しく光る太刀を力強く、こちらに向かって振り下ろした。
直後、空間全体を揺るがすほどの大地震とともに莫大なエネルギーが刀身の先から解放され、大爆発を起こす。
「こんのぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
これをレーザーの刃に光の魔法を纏わせ、シャイニングブレードに変化させ、最大出力を出して振るい受け止める。
しかし、ハーフダルムの放った大爆発を相殺する事はできなかった。
「がぁぁぁぁ!?」
そのまま爆発に飲み込まれ、数メートル後方へと吹き飛び地面に激突、そのまま数十メートル地面を転がり、ようやくその場に倒れ込んだ。
「が…ぐ、ぞ……」
なんとか起き上がろうとするが、しかし体に力が入らない。
そんなこちらを見てハーフダルムは。
「ふむ……少し強すぎたか? まだこれを防げるレベルではないか」
顎に手を当てながらそう言って、太刀を真横に放り捨てる。
そして、新たにその手に、まるで槍かと見間違うほど長い柄と、それと同じほどの長さを誇る刀身を備えた大太刀の発展型である刀、長巻を出現させる。
これを構えたハーフダルムは、しかしすぐに考えを改め。
「いや……こっちのほうが面白いか」
そう言って手にしたばかりの長巻を真横に捨て、新たな日本刀を出現させる。
その日本刀は長大な刀である大太刀。
とはいえ、ただの背負い太刀ではない。
その大太刀の刃渡りは4.65メートル、刀身幅は13センチ、重量は75キロと日本最大の大きさを誇る。
その名は破邪の御太刀、そんな恐るべき大太刀を肩に担いでハーフダルムは懐中時計の蓋を開く。
背後にいくつもの歯車が動き重なり合うような懐中時計内部の精巧なムーブメントが投影され、担いだ破邪の御太刀が徐々に光り輝いていく。
「さぁて……こいつの威力はこれまでの比じゃねーぞ? くっくっく、おまえがどう足掻いて何を見せてくれるか楽しみだな?」
ハーフダルムは楽しそうにそう言うと、担いでいた破邪の御太刀を一気に地面に向かって振り下ろした。
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