極寒の異世界(10)
目の前の異様な光景を前にタクヤは考え込んでいたが、皆の方へと振り返り。
「皆、俺は進もうと思うっす……確かに異様な光景っすけど、この先がどうなっているかを確認しない事には今までのやってきた事が全部無駄になってしまう……そんな気がするんす」
そう言って皆に理解を求めた。
そんなタクヤの言葉にアドラを始めとした面々はそれぞれ顔を見合わすと笑って頷く。
「アドラはもちろんタクについてくよ!」
アドラが真っ先にそう言うと他の面々も問題ないと同意する。
その事にタクヤは感動したようだった。
「ありがとう! やっぱ仲間がいると心強いっすね!」
そう言ってタクヤは皆に笑顔を見せるとこちらにも視線を送ってくる。
こちらはタクヤたちの方針に従うつもりでいたので頷いてみせた。
「それじゃ皆、何があるかわからないっすけど先に進むっすよ!」
「おー!!」
タクヤに皆がついて行くのを見て、こちらも歩を進める。
「さて、一体何が飛び出すかな?」
氷のブロックの中に所狭しと埋め込まれた遺体の数々をできるだけ見たいようにして奥へと進む。
遺体が埋め込まれたゾーンに入ってからも分岐路などはなく、ただひたすらに一直線の通路のみだった。
ゆえに迷ったりすることはなかったが、どこまで進もうと壁や床や天井に遺体が埋め込まれている状態がなくなることはなかった。
そのため、極力遺体を視界に入れないよう前だけを見てひたすら進むが、おかげで目印となる基点を定めにくく、一体どれだけ進んだのかわからなかった。
異様な空間ゆえに精神的負担も大きく、実際はまったく進んでないのかもしれないし、相当な距離を歩いてきたのかもしれない。
それすらわからなくなってきた時だった。
通路の先から眩しい光が差し込んでくる。
「出口……っすかね?」
タクヤが訝しむが、他の面々はタクヤとは違った反応を見せる。
「出口だよタク! きっとそうだよ!!」
アドラは喜んでタクヤに抱きつく。
他の面々も皆が遺跡を抜けれたと安堵の声を漏らし出す。
遺体がびっしりと埋め込まれた通路をどこまで進めばいいかわからない異常な状態の中、突然現れた目の前の光景に無理矢理希望的観測を持ち出しているのだろう。
彼らの精神状態から言えばこれは当然の心理と言える。
一刻でも早くこの異様な空間から抜け出したい、だからこそ訝しむ心を排除して明るい話題しか浮かばなくなっているのだ。
「タク! 早く行こう!! こんな空間早く出たいよ!!」
「ちょっ……アドラ待つっす!!」
タクヤが制するが気にせずアドラがタクヤの手を取って、眩しい光が差し込んでくる通路の先へ走って行く。
他の面々もアドラとタクヤに続く。
「おい! 早とちりするな!! こういう時こそ慎重に行かないと!!」
走りだしたアドラたちに叫ぶが恐らく聞こえていないだろう。
早く薄気味悪い空間から解放されたい。恐怖から抜け出したい。
その思いが彼らを突き動かしているのだ。
「かい君どうする?」
「くそ! 気持ちはわかるが考えなしすぎるだろ!! 罠だったらどうする気だ!?」
言って懐からアビリティーユニットを取り出し銃身をセット。
拳銃モードして周囲を警戒する。
「フミコ俺たちも行くぞ! 罠の可能性を考えてすぐに戦闘できるように準備しといてくれ!」
「うん、わかった!」
フミコは頷いてその手に丸木弓を構える。
そして周囲を警戒しつつアドラ達を追い、通路の先の眩しい光の中へと飛び込んだ。
そこは遺跡の外などではなく、大きく開けた広大な空間だった。
床や壁、天井は相変わらず氷のブロックでできているが、天井の高さはさきほどまでの通路より更に高くなっている。
その広大なスペースを覆う壁や床、天井にはさきほどのまでの通路と違って遺体は埋め込まれていなかった。
そして心なしか、天井からの光が今まで通ってきた通路よりも明るい気がする。
だからこそ、さきほど通路の先が出口のように思えたのかもしれない。
そして、この広大なスペースには招いた客人を楽しませたり感心させるような豪華な装飾など一切ないが、唯一インテリアなのかお洒落な装置なのか、そのようなものが空間の中央に置かれていた。
それは青白く輝く巨大なクリスタルだった。
そのクリスタルの壮麗さに皆が心を奪われて感嘆の言葉を漏らす。
「すごい……」
「ほんと……何だろうこれ?」
タクヤの手を放したアドラがそのまま魅入られたように巨大なクリスタルに近づいていく。
他の者も同じようにクリスタルに吸い寄せられるように中央へと歩いて行くが、自分とフミコ、それにタクヤだけがそれに近づくことに抵抗を覚えた。
なのでタクヤが皆に叫ぶ。
「待つっす!! それに近づかない方がいいっす!!」
「アドラ! ダメだよ!! 戻ってきて!!」
フミコもアドラに叫んだ。
その声に反応してアドラがこちらに振り返った直後、青白く輝く巨大なクリスタルの輝きが青から赤に変化する。
「へ?」
直後、巨大なクリスタルへと近づいた面々に向けてどこからか赤い稲妻が放たれる。
「危ないっす!!」
タクヤが慌ててアドラの元に向かって走り、間一髪アドラを突き飛ばして赤い稲妻を避ける。
フミコも素早く丸木弓を射て赤い稲妻を迎撃。
自分も何発か銃撃して赤い稲妻を迎撃した。
正直、咄嗟のことでアビリティーユニット拳銃モードの弾丸は光弾とはいえ、まさか稲妻を迎撃できるとは思っていなかったから迎撃できた事にビックリしたが、今はそんな事に喜んでいる時ではない。
今の攻撃は何だ? どこから受けた?
警戒して周囲を見回した時だった。
思わず固まってしまった。
自分だけではない、フミコもタクヤやアドラに他の面々も同様である。
赤い稲妻の攻撃は不意打ちながらも、ここにいる者のほとんどが間一髪で避けたり、迎撃する事ができた。
たった1人を除いて……
聖弓の少女ユプク、彼女の足下に血が滴っていた。
赤い稲妻は彼女の右腕を射貫き、吹き飛ばしたのだ。
ユプクは一瞬自分の身に何が起きたのかわからなかったが、吹き飛んで血をまき散らしながら床に転がった焼け焦げた自分の腕を見てようやく理解する。
脳が理解する。
傷みがようやく伝わってくる。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
激痛で叫んだ直後、体に異変が生じた。
体の至るところから血が噴き出し、視界が血で赤く染まる。
そして、ユプクはそのまま地面に倒れて絶命してしまった。
「ユプク!!!!」
アドラが悲鳴にも近い声をあげるが、もはやどうする事もできなかった。
倒れたユプクを見てアドラが泣き叫び、彼女の遺体へと駆け寄ろうとする。
それを見てタクヤがすぐにアドラを抱き寄せて制止した。
「アドラ、ダメっす!! 今あの子に近づくと何があるかわかないっす!!」
「タク何言ってるの!? 離して!! 嫌!! ユプクが!! ユプクがぁ!!!!」
「アドラ落ち着いてほしいっす!! あの子がやられて哀しいのはつらいのはみんな同じっす!!」
タクヤの叫びを聞いてアドラはユプクの元に駆け寄ろうとするのを止め、タクヤの顔を見る。
そして泣きながらタクヤの胸に顔を埋めた。
そんなアドラの頭を撫でてタクヤはあやす。
とはいえ、タクヤ自身の表情も涙で濡れていた。
当然だろう。目の前で仲間を失ったのだ。
それも、自分がもっと早く警告していれば事なきを得たかもしれない……悔しいに決まっているだろう。
フミコも少し悲しそうな表情をしていた。
女子3人組は移動中のイヌゾリの荷台で仲良く盛り上がっていた。
それだけに、アドラほどではないにせよ悲しいのは当然だろう。
他の面々も悔しそうな、悲しそうな表情をする中、再びユプクの遺体に異変が生じる。
いや、遺体ではなくその周囲の氷のブロックが突然形を変えたのだ。
まるで氷の手のような形に盛り上がると、そのままユプクの遺体を両手で握りつぶすように覆い被さる。
「ユプク!!」
アドラが思わず叫ぶがどうにもならない。
そして、そのままユプクの遺体は床の氷の中に埋め込まれてしまった。
それはまるで、今まで通ってきた通路の壁や床、天井に埋め込まれている遺体のようであった。
驚くことに吹き飛んだユプクの右腕も一緒に埋め込まれており、床の上には聖弓だけが残っていた。
「そんな……なんで!? なんでなの!?」
アドラが泣きながら叫んだ直後、空間全体の空気が澱む。
巨大なクリスタルが再び赤く光り輝き、それを見て全員が臨戦態勢を取った。
そして再び赤い稲妻がどこからか降り注ぐが、今度はこちらへの攻撃ではなく巨大なクリスタルに赤い稲妻が落ちていく。
「な!? 一体どうなってる?」
銃口を巨大なクリスタルに向けて次の攻撃に備えるが、赤い稲妻が収まると巨大なクリスタルの真上に何者かの姿が半透明に浮かび上がる。
その何者かは一見すると女性のようにも見える。
しかし、格好や体格などは男性と中性的だ。
その何者かはこちらを睥睨すると。
「悪魔どもが……」
一言、吐き捨てた。
「てめぇ、今何て言ったっすか?」
何者かの言葉にタクヤが誰の目にもあきらかなほど怒っている表情で問う。
そんなタクヤを見て、しかし何者かは特に気にした様子もなく答えた。
「悪魔どもと言ったんだよ、聞こえなかったか?」
「あぁ、聞こえなかったっすね! 悪魔? 一体どこの誰の事っすか?」
「お前たちだよ……わからないのか? 自分たちが何者なのかを?」
「はぁ? 意味がわからないっすよ!」
「なるほど……確かに1000年の年月は悪魔どもの記憶と記録を消すには申し分なかったようだ。だがな? こうしてここにたどり着いた以上は生きて帰すわけにはいかん……それが主との盟約だからな」
何者かがそう言って右手を掲げる。
そして名乗った。
「余はこの地を司る”氷の精霊”。精霊王と交した盟約により、ここより先に進もうとする悪魔を排除する」
直後、空間全体が冷気に包まれた。




