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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
16章:魔導書の世界

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魔導書の世界(4)

 「転移者! かい君やったじゃない!! これは探す手間が省けたってものだよ!! 速攻で任務達成じゃないかな!」


 そう興奮気味に話すフミコを見て苦笑しながらも。


 「確かにな。ただ……転移者があの子だけとは限らなだろ? だからまずは様子見しないと。それに、この妙な世界の事も聞き出さないといけないし、判断はそれからだな」


 そう指摘する。

 するとフミコはついさきほどまでの興奮気味な様子から一変、恥ずかしそうに頭を掻きながら。


 「それもそうだよね……あはは、ちょっと早とちりしすぎたかな?」


 そう口にするが、しかしその隣でココが。


 「何言ってるです? 速攻で能力を奪って殺すべきなのでは? でないとこの世界を抜け出せないのでは? ココはそう聞いてますけど」


 そう首を傾げながら言ってきた。

 どうにもココには思考を凝らすという事ができないらしい。

 人の姿になれるとはいえ、これがギガバイソンの限界なのか?

 ココの怪力は戦闘で役には立つが、それ以外ではどうにも使えないようだ。なんとも頭が痛い。


 「うん、まぁそれはその通りなんだけどね……」

 「だったらすぐに殺ればいいのでは? それともココが殺ってこようか? はっ!! まさかカイトさま! ココの大活躍が見たいからココに譲ってくれてるの? 任せてカイトさま!! ココの大活躍見ててくださいね!!」


 鼻息荒くそんな事を言い出したココは今にも雪原の先に現れたアカデミックドレスのような衣装に身を包んだ少女に殴りかかりにいきそうになったので慌てて止めた。


 「いやココ、なんでそういう発想になるんだ!? というか能力を奪う前に殺ったら意味ないから!! 落ち着け!!」

 「ココ、あんたねぇ!! いくらギガバイソンとはいえ、少しは頭を使って考えたら? 普通そんな結論にならないわよ!!」


 フミコと二人がかりで必死になんとか止めようとするも、ギガバイソンの怪力に歯が立つわけがない。

 問答無用で進むココに引きずられる形で雪原の上を進む中、雪原の先に現れたアカデミックドレスのような衣装に身を包んだ少女に動きがあった。




 極寒の冬の景色を食す巨大なジンサンシバンムシに対して、雪原の先に現れたアカデミックドレスのような衣装に身を包んだ少女は手にした本を開けると。


 「覚悟しろ! 人類の遺産を食い荒らすダニめ!! 施錠解除!! うぇ~いくあっぷ!!」


 その言葉を口にした途端、開いた本のページが風もないのに勝手にペラペラとめくれだす。

 やがてそれらのページがバラバラになって破れ、舞い上がっていく。

 すると不思議な事に、その舞い上がったそれらが虹色に輝きだした。


 そして虹色に輝き出したのはそれだけではない、本を手にした少女もまた全身が虹色に輝いていた。

 しかもいつの間に脱衣したのか? 少女は全裸となっている。

 とはいえ、どストレートな全裸ではない。体全体が虹色に輝いているため、辛うじて大事な部分は直視しても拝むことはできないが……それでも体のラインははっきりとわかった。


 うむ、ぺったんこというわけでもないが、かといって膨らんでるとはいえない微妙なラインの胸のシルエットとまったく協調されていないお尻のラインに目を奪われてしまうが、そうしているうちにさきほど宙を舞った無数の本のページが少女の全身へと吸い寄せられていき、腕や脚、お尻にお腹、胸元にくっつくとフリフリ衣装へと変化していく。

 しかもご丁寧に各部位につくたびにSEが鳴る始末だ。


 そして最後に突然長く伸びた髪の毛を縛るようにクソデカリボンが後頭部に出現すると、少女は突然メインのカメラ1に向かってカメラ目線でニッコリ笑顔でウインクを決めると、その手元に小さなダイヤモンドと羽根がついた杖が出現。

 それをキャッチし、新体操選手のようにクルクル回して頭上に投げた後、再びメインの1カメにカメラ目線を向け落ちてきた杖をキャッチ、そして謎のポーズを決めて叫んだ。


 「リーダーエンジャルいよ!! ここに見参!! ダニはまとめて、ム〇ューダよ!!」


 1カメ、2カメ、3カメとあらゆる角度から少女のポーズが映しだされ、背後に謎のエフェクトが発生し、異世界変身ヒロイン・リーダーエンジャルいよの登場を盛り上げた。

 うむ、我々は一体何を見せられているんだ?




 (うわーこれはひでぇ……昭和か平成初期の変身ヒロインがいやがる……)


 スキップ不可の強制視聴が義務化された変身バンクを見た率直な感想がそれであった。

 なんとも反応に困る事この上ない演出が突然目の前で起こり、死んだ魚の目になっていたが、ショート寸前になっていた思考回路はすぐに復活し、否が応でも現実を直視する。


 そう、今目の前にいる少女は自分のターゲットたる地球からの異世界転移者だ。

 スキップ不可の視聴が義務化された変身バンクによって変身する変身ヒロインだ。

 うむ、こんな目を背ける事が許されない強制演出、どう考えてもこれだけで異能に分類して問題ないんじゃね? という事はもう能力奪う条件整ったのでは?


 そう脳内で結論付ける。

 うん、これはもう決まったな! さっさと能力奪って殺して、この理解不能な異世界とはおさらばだ! 短かったな16章……


 そんな事を思いながらうんうんとひとりで頷いた時だった。

 ある事実に気付いてしまう。


 (あれ? ちょっと待て? あの転移者の能力が変身ヒロインに変身するって事はつまり……あの能力を奪って、()()()()()使()()()()()()()()()()()()? まさか……俺も変身するのか? 変身しないといけないのか? あの……フリフリ衣装に? というか、あの衣装着る事になるの? 俺が? え? 俺、男ですよ? おとこのこですよ? は? へ?)


 頭が混乱したところで、さきほどの少女のスキップ不可、強制視聴義務の変身バンクが脳内再生され、少女の姿が自身に置き換えられる。

 あまりの酷さに思考回路がショートした。


 「あ、あかん!! これはあかんで!! きつすぎるやろ!! 無理無理無理!! これは上級者にしか無理や!! 俺には無理や!! 俺にそっち方面の趣味はねー! レベルが足りなすぎる!!」


 思わず頭を抱えて叫んでしまったが、そんな自分にフミコとココが怪訝な視線を向けてくる。

 だが、ふたりの反応を気にしている場合ではない。

 これは今後の旅に大きく関わる問題なのだ!


 (いや、能力を奪っても使わなければいいだけの話じゃないか? うん、奪った能力を絶対に使わないといけないルールはない! そうだとも! あんなもの、一度でも使ってしまったら黒歴史だ! うん、黒歴史は発生さえしなければ黒歴史となる事はない! 小泉構文ちっくになったが、まさにこれだ! 使うな危険!! アビリティーチェッカーにはメモ書きしておこう)


 そこまで考えて、自分自身を無理矢理納得させる。

 だが、一方である可能性も脳裏に浮かぶ。


 (しかし、あの能力が仮に魔法だったらどうなる? 魔法+4となった途端、使用する際にはあの姿がデフォルトなんて恐ろしい事になったりしないか? なんだかすげー嫌な予感がするんだが……今はジェンダーを受け入れる時代、おとこのこでもプ〇キュアになれる時代だとか理屈こねくり回されそうな気がするんだが……)


 そんな最悪の事態を想定して青ざめていると、変身ヒロインの転移者が巨大なジンサンシバンムシに対して攻撃を開始した。


 「いくよ、全量噴射式エアゾール術式展開!!」


 変身ヒロイン転移者が杖を前にかざすと杖の先にエネルギーの球体が出現し、それを押し出すように無数の魔法陣が次々と出現していく。

 そして……


 「スーパーピレスロイドショット、発射!!」


 変身ヒロイン転移者が叫び、杖の先に展開していたエネルギーの球体が破裂、それを無数の魔法陣が空間全体へと拡散、超強力な殺虫剤が一気に撒き散らされた。


 「攻撃魔法じゃないんか~~~~い!!」


 思わず叫んでしまったが、同時に慌ててガスマスクを召喚してフミコとココの口に被せ、自分自身もハンカチを取り出して素早く口を塞ぐ。

 殺虫剤とはいえ、毒である事に変わりはない。


 そして、あれだけ大きな虫を殺すために広範囲にわたって強力な殺虫剤を勢いよく散布したのだ。万が一にも健康被害がないとは言い切れない。

 そうしてしばらく身を伏せていると、極寒の地の景色を食していた巨大なジンサンシバンムシが苦しそうにのたうち回ったのち、動きを止めて空から地面へと落下した。


 そして仰向けに倒れ、そのまま動かなくなる。

 どうやら死んだようだ。

 それを確認した変身ヒロイン転移者はかるく一息つくと。


 「ふぅ、駆除完了……人類の遺産を食い漁る悪しき害虫はもういない。この(ページ)は守られた」


 クールな表情でそんな事を言うと、変身を解き、元のアカデミックドレス姿に戻ると神妙な面持ちとなって懐からジンサンシバンムシ誘引捕獲用のフェロモントラップを取り出し足元に置く。


 「もう大丈夫だろうけど念のため、これを置いておこう。まぁ、この(ページ)は救われたけどね、私の手で……」


 ふっと小さく笑い、変身ヒロイン転移者はクールにその場を去ろうとするが、そこでひとつ疑問が沸いた。


 「というか、それって臭いというかフェロモンでおびき寄せて捕獲するタイプだから逆に設置すると害虫を呼び寄せるのでは?」


 なのでクールに去ろうとする彼女にそう指摘すると変身ヒロイン転移者は。


 「はみゅ!?」


 などと奇妙な声をあげて振り返ってこちらを見る。

 その表情は羞恥で真っ赤に染まっていた。


 「な、なななななな!? あなたたち一体いつからそこに!? というか私を認識してる!?」


 そんな彼女を見てため息をつきながら。


 「最初からずっといたが? というか認識してるって当然だろ」


 そう言うと変身ヒロイン転移者は。


 「あ、あらそう?」


 そう言って数秒目を泳がせた後、ゴホンとわざとらしく咳き込んでから。


 「えーっと……私をはっきりと認識できてるって事は、この(ページ)に記録された人物じゃないって事ね?」


 そんな事を訊ねてきた。


 「あぁ、俺たちは地球から来たからな。というか(ページ)に記録された人物ってなんだ?」


 なので正直にそう答えると変身ヒロイン転移者の表情がぱぁーっと明るくなる。


 「地球!! 私と同じ!! つまり新しい読者(リーダー)ね? やったぁー!! 仲間が増えた!! しかも女の子!! やっっほ~~~い!!」


 そして、そんな事を言い出した。


 「新しい読者(リーダー)? それって一体……」


 変身ヒロイン転移者に聞き返そうとするが、そんなこちらの質問を変身ヒロイン転移者は聞かず自分を無視して彼女はフミコとココの前まで一気に駆けてくるとふたりの手を取り。


 「うわー! ふたりともかわいい! ぐへへ! これは是非とも仲良くなりたい!! 私は八重野伊予、それなりに古参の読者(リーダー)だよ! ふたりともこれからよろしくね!」


 そう自己紹介した。

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