カイト/フミコvsアシュラ(11)
振り返れば追いついたアシュラ、行く手の先には逃走ルートを阻むハーフダルム。
そして少し離れた場所まで下がったザフラ。
そんな3人に囲まれてしまった今の状況をどう打開して連中を振り切り、次元の狭間の空間に逃げ込むべきか……
頭を抱えそうになるが、問題はそれよりもフミコの容体だ。
フミコに目をやれば、もはや限界だと言わんばかりにさきほどよりも苦しそうな表情を浮かべており、息も荒い。
誰がどう見てもこのまま放置するのはまずい状況である。
(クソッタレが!! 万能蘇生薬は完全じゃなかったって事か? 錬金術の異能が強化されてない、±0の状態だからなのか? 錬金術関連の異能を複数奪ってないから完全じゃなかったのか!?)
錬成した万能蘇生薬アルファーが不完全だった可能性は否めない。
何せ自分は巡った異世界の数も奪った異能の数も少ない。追いついてきたアシュラと比べたら異世界渡航者として経験不足なのは明らかだろう。
GXA-02の適合者の高杉夏治がどれだけの異世界を巡り、どれだけの異能を奪っていたかは知る由もないが、自分の巡った異世界の数と奪った異能の数が多くない事は理解している。
そしてアシュラがどれだけの数を異世界を巡り、異能を奪ってきたかはわからないが、奪った異能についたプラスの数字はとんでもない事になってるはずだ。
それくらいの数字がつかない事には完璧な蘇生薬など錬成できないのだろう。
中途半端な見習い錬金術師から奪った錬金術だけで錬成しようとしたのが間違いだったのだ。
とはいえ、不完全であっても、それすらなければフミコを生き返らせる事はできなかった。
(とにかく今は一刻も早く次元の狭間の空間のメディカルセンターにフミコを運ばないと!)
そう思うものの、そうするにはこのアシュラ、ハーフダルム、ザフラの3人を振り切らなければならない。
この状況下でそれが果たして可能だろうか?
そう思っていると。
「まったくつれねーな? 後輩。これから盛り上がるって時によぉ? くだらねー目くらましで逃走とかありえねーぞコラ! あぁ? 楽しい楽しい殺し合いはこっからが本番だってのによぉ? ようやく体が温まってきたんだ。しらけさせんなコラ! わかったか?」
アシュラがそう楽しそうに言いながら、手にしたボーンブレードを乱雑にぶんぶん振り回しながらゆっくり近づいてくる。
「何が楽しい殺し合いだクソッタレ!!」
そう吐き捨ててフミコを抱き寄せながらアビリティーユニットを手にして炎の刃を出す。
フレイムブレードを振るって周囲に炎をまき散らし、それに乗じて逃走しようかと考えたが。
「おいおい後輩。そんなつまらねー、やる事がバレバレな手品使おうとしてんじゃねーぞ?」
アシュラがそう言ってボーンブレードを軽く振るうと突風が吹き荒れ、炎の刃が消滅した。
「なっ!?」
フレイムブレードを潰された事に驚いているとアシュラはため息をつき。
「驚く事かよ? それしきの魔法潰したくらいでよ? ったく……なぁ後輩、そんなつまらねー事してねーで、もっと本気で来いよ? あんだろ? まだ披露してない切り札がよ?」
そう言ってニヤリとしてみせた。
「っ!!」
「ひひ!! そいつを見せてくれよ? なぁ? おい、先輩の言う事は素直に従っとけ! 何度も言わせんな! それに今のてめーにはそれしか対抗手段はねーはずだがな? ひひ!」
楽しそうに言ってボーンブレードを肩に乗せるアシュラを見て、やつの言う通り混種能力をここで使うべきか考える。
(やろう、なめやがって! ……いや、挑発に乗るな。冷静になれ! こんな状況で、不意打ちでもなんでもない場面で使っても決定打は与えられない。何よりここで使ってしまったら誰がフミコをメディカルセンターまで運ぶ? 自分しかフミコを運べる人間はいないんだ。その自分がここで挑発に乗って混種能力を使ってぶっ倒れたら終わりだろ!! ここは何としても逃げる方法を考えるんだ!)
そう思ったところでハーフダルムが。
「そこらへんにしとけアシュラ。今日はあいさつだけのはずだろ? もう十分楽しんだはずだ」
そんな事を言い出した。
このハーフダルムの発言にアシュラは眉をひそめ。
「あぁ? 何言ってやがんだ? 黙れよハーフダルム。今は俺様がお楽しみに最中だ。口を挟むんじゃねー! ぶっ殺すぞ!!」
そう不機嫌そうに吐き捨てると、同じくクファンジャルを手に構えたザフラも。
「そうだ何言ってんだハーフダルム! それじゃまるで、こいつらをここで見逃せって言ってるようなものじゃないか! ふざけんな!! 殺すべき簒奪者がわたしの目の前にいるってのにありえないだろ!! わたしは殺すぞ!! 簒奪者を殺す!! 今ここで!!」
そうハーフダルムに怒鳴る。
そんなアシュラとザフラに対してハーフダルムはやれやれと言わんばかりに首を振ると。
「何度も言わすな。今日はただのあいさつ、顔合わせだ……これからジムクベルトの力を巡って争うGX-A03の適合者とGXA-00/01の……その愉快な仲間たちとのな」
そう言ってこちらに視線を向けてきた。
そんなハーフダルムを見て思わず眉をひそめる。
(なんだ? ハーフダルムのやろう、もしかして俺たちを逃がそうってのか? 一体どういうつもりだ?)
ハーフダルムの真意は掴めない。
だが、あいさつ程度と言いながらヒートアップして暴走しかけているアシュラを見かねての発言なのはわかった。
ならばここはハーフダルムの助け舟に乗るしかないだろう。
そうでもしない限り、この状況下でこの場から逃走する事は不可能だ。
いずれにせよ選択肢はない。
「おいハーフダルムよ? まずはてめーの口から黙らせた方がいいか? あぁ?」
アシュラの怒りがハーフダルムへと向いた。
逃走を図るには今しかない。
アビリティーユニットから風の刃を出し、エアブレードを足元の地面に思い切り叩きつける。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!」
エアブレードによって暴風が吹き荒れ、瞬間的に巨大竜巻が発生する。
「っ!!」
「ほう?」
この巨大竜巻にザフラは警戒して距離を取り、アシュラは楽しそうな表情を浮かべる。
ハーフダルムは全身が西洋甲冑に包まれているため兜の下の表情は窺えないが、巨大竜巻を見ても棒立ちのままだ。
そんな3人の反応を気にせず、一気に逃走にかかる。
支援サポート能力で速度を強化し、超加速を発動後、飛行魔法で一気にこの場から立ち去る。
その際、無駄とわかっていながらも、召喚で空中射出装置AN/ALE-47を出しフレアやチャフをまき散らした。
効果がないのはわかっている。
だが、欺瞞できる可能性があるものはすべて撒いておいて損はない。
そうして、その場から一気に離脱し、超加速で目にも止まらぬ速さで空を飛び、一瞬で次元の狭間の空間の入り口へとたどり着き、飛び込んだ。
カイトが去った後、巨大竜巻が消え去った後でアシュラはニヤリと笑った。
「ひひ! 即興にしては中々にいい威力を吐き出しやがったじゃねーか」
そう言って、カイトが放った巨大竜巻によって大地に大きく空いた穴を見て、次に空を見上げる。
そこにはキラキラと輝く無数の紙切れが舞っていた。
「しかもご丁寧にあんなもんまで撒いていってやがるぜ? ひひ! あれで俺様を欺いたつもりか? レーダー相手でないと意味ねーだろあれ? どういう考えであれ撒いたんだ? バカか?」
そう言ってアシュラは腹を抱えて笑うが、そんなアシュラにハーフダルムは近づく。
「さてな? まぁ、前の世界で何かしらの効果があったんだろう。だから使ったんじゃないか?」
そんなハーフダルムにアシュラは舌打ちすると。
「てめー、この代償は高くつくぞ?」
そう言って踵を返した。
そんなアシュラを見てハーフダルムはやれやれと首を振るが、そんなハーフダルムの元にザフラが怒りを隠さずにやってくる。
「ハーフダルム!! おまえふざけんな!! もう少しであいつを!! 簒奪者を殺せたのに!! なんで逃がした!!」
そう怒鳴るザフラにハーフダルムは。
「まぁそう焦るな。殺す機会ならこれからいくらでもあるさ。そういくらでもな……」
そう言ってカイトが去っていた方角を見る。
そして小さく呟いた。
「さぁ、これから楽しませてくれよ? GX-A03の適合者……ジムクベルトの新たな宿主、もうひとつの可能性よ」




