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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
15章:多次元の王との邂逅

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カイト/フミコvsアシュラ(6)

 魔導書ネクロミコンの姿となったアビリティーユニット・ブックモード、その開いたページが眩しく光り輝き、同時に地面に寝かせたフミコの死体も連動して眩しく光り輝く。

 もし死体に外傷などがあれば、この光によってみるみるうちに塞がっていくのだが、フミコは即死魔法を受けたため外傷などはなく、目に見えた変化は見られない。


 なので蘇生が成功しているのかそうでないのかの判別がしづらいのだが、しかしアビリティーユニット・ブックモードの開いたページがまだ眩しく光り輝いているにも関わらず、フミコの体が発する光はすぐに消えてしまった。

 それが意味する事はひとつ、蘇生の失敗である。


 「っち! クソッタレが!」


 舌打ちしてアビリティーユニット・ブックモードを閉じ、そして再び開いて蘇生(レイズ)を発動する。

 だが結果は同じだった。


 「くそ!! まだだ!!」


 それから3回ほど蘇生(レイズ)を連続して発動したがフミコを生き返らせる事はできなかった。


 そもそも蘇生(レイズ)はトレーニングルームで召喚したモンスター相手に何度も試しているのだが、その成功率はとても低かった。

 20回に1回成功したらまだマシな方、そんな状態なのだ。


 つまりは死人がでるかもしれないという戦闘において、たとえ死んでも蘇生できるから安心だ! と胸を張っていえるレベルではない技なのである。

 とはいえ、トレーニングルームでの結果は実際のところ、蘇生できる確率が極端に低いのか、それとも検証相手が召喚したモンスターだったためこういう結果になったのか、人間相手だったらまた違った結果だったのかはわからない。


 何せ、その検証をするには人間の死体が必要となるからだ。

 魔導書ネクロミコンの中には死体を数体ストックする事ができるのだが、邪教徒アズフから異能を奪った際にストックの中身もリセットされている。

 つまり、人間相手の検証をするには誰かを殺してこないといけないわけだが、さすがに仲間に蘇生の検証のために死んでくれとは言えない。

 最悪の場合はタイムリープ能力で時間を戻せるとはいえ、仲間で検証しようなんてサイコパスな事はできなかった。


 そのため、人間相手の蘇生の成功率はどれほどなのかわからないままに実戦を迎えてしまったが、数回発動してもフミコが生き返らないあたり、蘇生(レイズ)の成功率は蘇生相手が誰であろうと極端に低い事は間違いない。つまりは……


 (どうする? このまま蘇生(レイズ)をかけ続けてもフミコが生き返る気配がしない……それにあまり時間をかけすぎるとアシュラに壁を破壊されてしまう。これ以上蘇生(レイズ)は使えない!)


 蘇生(レイズ)を諦め、アビリティーユニット・ブックモードをパージする。

 蘇生(レイズ)がダメな以上、もうひとつの手段に訴えるしかない、それは……


 (作るしかない、錬金術で蘇生薬を!!)


 もうひとつの手段、アイテムによる蘇生。

 しかし、ゲームでは死んだ仲間を復活させるために必ずある定番のアイテムではあるが、とはいえ実際はそんな便利なアイテムこの世に実在するわけがない。

 そう、たとえファンタジー全快の異世界であってもだ。


 死者の魂を操る死霊術(ネクロマンシー)がある以上、死者を復活させるアイテムが存在してもおかしくはないはずなのだが、そう簡単なものでもないらしい。

 そもそもファンタジーではメジャーと思われがちな死霊術(ネクロマンシー)ですら訪れる異世界によっては存在しなかったり、禁忌(タブー)とされていたりとレアなケースが多い。


 そんな中で死者を簡単に復活させられるアイテムが普通に市場に流通していたら、その世界は大変な事になっているだろう。

 たしかに特定の迷宮やダンジョンの中でのみ、死んでも神官がいれば蘇生場で復活できるという特例はある。

 だがそれは、その世界全体では適用されない。あくまで特定の場所の中でのみの話だ。

 迷宮やダンジョンの外で死んだ場合は生き返らせる事はほぼ不可能、そういった世界がほとんどだ。


 だから死者を蘇らせられるアイテムを作るなど、生半可な事ではできないのである。

 そんな夢のようなアイテムの作り方など、どの世界にもないのだから……

 しかし、例外がないわけではない。

 それは……


 (賢者の石、錬金術の最高峰の秘宝……こいつがあれば!)


 ポケットの中から拳ほどの大きさのダイヤモンドのような赤い石を取り出す。

 それは先日、ケティーの協力もありようやく調合に成功し、完成したアイテムであった。


 賢者の石。不老不死の薬たるエリクサーの原料である。


 (読み直すのも嫌になるほどの膨大な量のレシピを解読して錬成した結果、ようやく完成に漕ぎつけたこいつを使えば!! 何せ錬金術の最高峰の素材だ。永遠の生命を得るなんて馬鹿げた妄言は信じてないが、それでも、その効果があるとされるエリクサーを調合するのに必須のこいつを使えば……蘇生薬を作る事だってできるはずだ!!)


 そう自分に言い聞かせて賢者の石以外の必要素材を収納魔法(アイテムボックス)から呼び出す。

 本来なら素材に賢者の石が必須な高等アイテムの錬成など、ちゃんとした設備が整っている工房(アトリエ)で調合しないといけないだろう。

 しかし次元の狭間の空間の工房(アトリエ)に戻っている時間はないし、それをアシュラは許してくれないだろう。

 何より時間がない、正式な施設で正式な手順を踏んでじっくり調合などしてられないのだ。


 本来なら正式な手段でも調合が成功するかわからない、錬金術最高峰レベルの調合を限られた時間で簡素な手段で行う。

 どう考えても成功率は低いだろう。

 だが、もうこの簡易錬成に賭けるしかない。


 今この場で、どの錬金術師も成し遂げた事のない偉業を達成しなければならないのだ。


 (頼むぜ!! 成功してくれ!!)


 願って素材と簡易錬成の成功率をアップさせるアイテムをできるだけ取り出して、さらに支援サポート能力で能力値を底上げし、深呼吸。


 「……ふぅ」


 そして、簡易錬成に取り掛かった。

 開始からわずか数分、即席の錬金窯から煙があふれ出し、窯の中から眩しい光が漏れだした。


 「頼む!!」


 窯の前で両手を合わせて拝み、それと同時に光は消えて即席の錬金窯が粉々に砕けちる。

 そして、即席の錬金窯があった場所に薄緑色に輝く液体が入った1本のフラスコが転がっていた。


 「こ、こいつは……」


 そのフラスコを手に取り、雑貨屋の能力でアイテム鑑定をかけてみる。

 すると……


 「は、はは……ははは!! やった……やったぜ!! 成功だ!! っしゃぁぁぁぁ!!」


 アイテム鑑定の結果に思わずガッツポーズを取って叫んでしまう。

 鑑定結果はこうであった。



 アイテム名「万能蘇生薬アルファー」

 効果:死者の蘇生及び状態異常の完全無効化

 自動量産:不可



 鑑定結果に喜ぶのも束の間、すぐに万能蘇生薬アルファーを寝かせているフミコの元へと持っていく。

 右手に万能蘇生薬アルファーを持ちながら左手でフミコの上半身を持ち上げて自分の胸元へと抱き寄せる。

 そして万能蘇生薬アルファーが入ったフラスコの上部に蓋として押し込まれているコルクを歯で噛んで無理矢理引き抜き、真横に吐き捨ててから慎重にフミコの口元へとフラスコを近づけ、口の中へと万能蘇生薬アルファーを流し込む。


 「頼むフミコ、飲んでくれよ?」


 だが、そもそもフミコはすでに死んでいるのだ。

 死者がただ単に口に流し込まれた液体を飲み込めるわけがない。

 口に流し込んだ万能蘇生薬アルファーはそのまま口元から流れ出ていく。


 「くそ!! どうしてもダメだっていうのかよ!!」


 フミコの口から万能蘇生薬アルファーが流れ出るのを見て、思わず叫んでしまうが、しかしそこで投げ出さず冷静に頭を回転させる。


 (諦めるな!! 何かあるはずだ! 飲ませる方法が!! そもそも事故なんかで心臓が止まったり、息がしてなかったりした人にはどうやって対処してた? 呼吸を復活させる蘇生法は……)


 そこで一瞬思考が止まった。

 否、思いついたといったほうがいいだろう。


 そう、至極簡単な事だ。

 それは……


 (人工呼吸!!)


 そう、とても簡単な事だ。

 あれは呼吸を止まった人の呼吸を呼び戻すものではあるが、だが同じ要領で体内に水を流し込む事もできる。

 そう、確実にフミコに飲ませる、というより体内に流しこむにはそれしかない。

 それしかないわけだが、しかし自分で思いつきながら激しく動揺してしまった。


 (え? や、やるのか? 俺が? 今ここで? フミコに? 人工呼吸を? いや、蘇生薬を飲ませるんだから人工呼吸じゃないんだけど……口移しだけど……でも、それって、つまり……抵抗できない無防備な状態のフミコにキスするって事だよな? いいのか? そんな事して? 訴えられないか? いや、色んな異世界を巡ってる状態で一体どこの誰に訴えるの? って話だけど。やっていいのか? 問題ないのか?)


 思考がグルグル巡り、パニックになっていくが、しかし頭の中ではフミコの自分への好意を考えれば問題ない、むしろ歓迎されるぞ! という声もあがってくる。

 そう、そんな事はわかっている。わかっているからこそ問題なのだ。

 相手が自分に好意を寄せているのをわかっているからと言って、相手に好き勝手していいわけではないのだ。その好意に付け込んではいけないのだ。


 とはいえ、これは自分自身のケジメの問題だ。

 フミコと付きあってもいない、ましてや出会った最初の時にフミコに言った自分自身の言葉を、フミコが自分に好意を寄せてくれるようになったきっかけの言葉を自分自身が覚えていない。

 そして、その事を打ち明けられず、真相を話すべきかという問題に真正面から向き合えていない。


 そんな自分が、フミコはたぶん拒絶しないだろうとわかっていて手を出していいのか?

 何より自分自身、フミコへの想いをちゃんと示せていないというのに。


 しかし、いつまでも二の足を踏んでる暇はない。

 悠長にしている暇はないのだ。


 「悩んでる暇はないな……アシュラのやろうが壁をぶっ壊してくる前にやらないと!!」


 そう口にしてからフミコの顔を見て大きく唾を飲み込んだ後、勢いよくフラスコを口につけて万能蘇生薬アルファーをラッパ飲み。

 すべてを口に含んだ後、空になったフラスコを真横に放り捨てて両手でフミコの頭を支え、自らの顔に寄せる。

 そしてその唇に唇を重ね、口の中へと万能蘇生薬アルファーを流し込む。


 (これは蘇生だ、フミコを助けるためだ、これは蘇生だ、フミコを助けるためだ、これは……)


 やましい考えが浮かばないように頭の中でお経のように唱えながら数秒、フミコに口移しで蘇生薬を飲ませ続ける。

 わずか数秒が永遠に感じられ、そして体を寄せたフミコの体に徐々に体温が戻ってくるのを感じた。


 (フミコ……)


 気付けば、フミコの体を完全に抱き寄せながら口移しで薬を飲ませていた。

 そして密着する体からフミコの心臓が再び動き出す鼓動を感じる。

 すでに薬はすべて流し込んでいたが、構わず唇を重ね続けた。


 時間にしてわずか数秒であったが、体感時間は1時間にも2時間にも感じたそれは突然終わりを迎える。

 心臓は完全に動き出し、そして……


 「フミコ!!」


 重ねていた唇をフミコから離し、フミコの顔を覗く、それと同時にフミコは軽く咳き込んで目を開けた。

 蘇生は成功したようだ。


 「ごほっつごほっ!! か、かい君? あれ? あたし一体……」


 状況が読み込めていないフミコはそこまで言って、自分が軽く抱き寄せられている事に気付き、そして唇に軽く手を触れてから。


 「あ………あわわわわわわ!!! うひゃぁぁぁぁぁぁー-----!!!」


 顔を真っ赤にしながら叫んだ。

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