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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
15章:多次元の王との邂逅

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多次元の王(4)

 「なっ……インプラント型……だって?」


 アシュラが語った、アビリティーユニットが体の中に埋め込まれたインプラント型は相手から異能を奪うには相手の体を食し直接摂取しなければならないという事実に戦慄を覚える。

 だとすれば、このアシュラという男はこれまで一体どれだけの数の転生者、転移者、召喚者を食ってきたというのだろうか?


 アシュラの羽織っているボロボロのローブに書かれたキルマークはまるで模様のように布の表面全体を埋め尽くしている。

 恐らくはこちらからは見えない裏側も同様だろう。

 そのすべてのキルマークを数えるのは困難で、そもそもアシュラが殺した数はローブにつけられたキルマークの数だけではないだろう。


 それだけの数の人間を食い殺して、こいつは何とも思わないのだろうか?

 罪悪感に苛まれないのだろうか?

 疑問に思い尋ねてみた。


 「アビリティーユニットが体内に埋め込まれているから異能を奪うためには仕方なく相手の体を食わないといけないだと? だとしても……だとしてもあんたは何とも思わないのか!? そうするしかないとはいえ、同じ人間を食い殺してあんたは平気なのかよ!? そんな事をする以外の道がない自分に嫌気がささないのかよ!!」


 この質問に対しアシュラは小バカにしたように鼻で笑う。


 「あぁ? なんだそりゃ、別にどうとも思わねーよ。むしろ何を気にする必要があるっていうんだ?」

 「なっ……」

 「まぁ、強いて言うなら男の肉はまずくて食えたもんじゃないって事だな? できれば食うのは女の肉のほうがいい、女の肉のほうがうまいからな?」


 舌なめずりしながらそう楽しそうに答えるアシュラは罪悪感など到底持ち合わせてなどいなかった。

 まさに予想通りの最低な返答に反吐がでそうになる。


 「おまえ……それ本気で言ってるのか?」


 思わずアシュラを睨むと、そんな自分を見てアシュラは楽しそうに笑う。


 「おいおい、そんなに怒ることか? というか何に対して怒ってるんだ? 男の肉はまずいって言った事か? あのな? 鶏肉だって同じことが言えるんだぜ? 知ってるか? 養鶏場で卵から孵ったひよこのオスは圧搾機で圧殺プレス処分されんだぜ。なんでかっていうとな、オスの肉が硬くて食えたもんじゃないし、メスより食える肉の量が少ないらしいからな? それに卵も産まねー、養鶏場からしたら生かしておく意味はねーってわけだ。トリですらそうなんだぜ? ならヒトの肉なんて考えるまでもねーよな?」


 そんな事を平然と言ってのけるこの男の話をこれ以上聞く気にはなれなかった。

 頭がどうにかなりそうだ。もう取り合う必要もないだろう。


 「狂ってやがる」


 なので一言そう吐き捨てると。


 「おいおい、人肉の好みを言っただけで軽蔑か? まったく、さっきも言ったがてめーカニバリスムを否定しすぎだぜ? 大体、俺様は望んでこのインプラント型のアビリティーユニットを得たわけじゃねーんだ。文句なら俺にこいつをよこした神に言ってくれねーか?」


 アシュラは楽しそうにそう言ってから。


 「まぁ、嫌いじゃないがな。むしろ俺様にピッタリだと感謝してるぐらいだ」


 ニヤリと笑って最後に付け足す。


 「感謝だと?」

 「あぁ、だってそうだろ? こんなに楽しい事他にないぜ? 何せくだらねー人間の道徳観など気にせず、神の求めるままに転生者どもから能力を奪うために気兼ねなく連中を食い殺せるんだ、最高じゃねーか!」

 「……おまえ!」


 その言葉でハッキリとした。

 ジムクベルトの力を奪える異世界渡航者はひとりだけだとか、そのひとりになるために殺し合うとかそういった事は関係なく。こいつは殺さなきゃならない。

 このままのさぼらせていてはいけない。


 こいつは……アシュラは絶対に殺さなければならない相手だ。

 何よりもまず最優先に。


 そう決意してアビリティーユニットを握る手に力を込めてアシュラを睨み、鑑定眼でそのステータスを覗く。

 しかしハーフダルムの時と同様、ステータスはすべての表記が???となっていた。

 ステータスが覗けない。そう、つまり相手は格上。それも自分とは比較にならないほど転生者、転移者、召喚者を殺し多くの異能を得ている。

 現時点では挑んでも足元にも及ばないだろう。


 それでも……たとえ今ここで勝てない相手だとわかっていても、みすみすこのイカレポンチを放置するわけにはいかない。

 小さく深呼吸してからレーザーブレードの剣先をアシュラへと向ける。


 「よーくわかったぜアシュラ、あんたの考えが……俺とは到底相容れない、理解できない、いや理解しようとも思わない……というよりもこのまま野放しにしておくのはあまりに危険だ……だから! あんたはこのまま生かしておくわけにはいかない!! 今ここで、殺す!!」


 この言葉に隣に立つフミコも頷き。


 「うん、あたしも同じ意見だよかい君!! あいつはここで絶対に倒さなきゃいけない気がする」


 そう言って両手に持った銅剣を構えてアシュラを睨む。


 「だから倒そう!! あたしたちふたりで!!」

 「あぁ!! 当然だ!!」


 そんな自分とフミコを見てアシュラは鼻で笑うと。


 「おいおい、正気か? てめーらやる気まんまんじゃねーか! うひゃひゃ! 最高じゃん!! ていうかよ? 俺様との実力差、まさかわかってないわけじゃないよな? なんでわざわざ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? 俺様とてめーがジムクベルトの力をかけて殺し合う事に変わりはねーが、今のてめーじゃ俺様が瞬殺してしまってつまらねーから、ちゃんと俺様が満足できるようにこれから必死で力つけろよ? って言いに来ただけなんだが、そこんとこわかってるか? あぁ?」


 そう口にしてから。


 「というかよぉ? そもそも、てめーがどれだけ力をつけようとまぁ正直結果は変わらねーんだ。俺様はてめーを殺し、ジムクベルトの力は俺様のものとなる。これはすでに決まってるってわけだ。あとはてめーがどれだけ力をつけて俺様を満足させられるかってだけの話でよ? それなのに、雑魚の状態で俺様を満足させないまま死ぬつもりとか、てめー不敬にもほどがあるだろ! この多次元の王に対してよ?」


 手にした骨で肩をぽんぽんと叩きながらニヤリと笑う。

 そんなアシュラを見て思わず眉をひそめた。


 「多次元の王だと? おまえ、何言ってやがる」

 「なんだ? 俺様が多次元の王の前を名乗るのは不満か? けどよぉ? 実際、どの異世界においても俺様に勝てるやつはいねーんだよな。そしてその気になればいつでも任意の世界をぶっ壊せるし、占領も征服もできる。それだけの力をすでに俺様は持ってるんだ。だったら多次元の王を名乗らずして何とする? 違わねーか? 俺様がわざわざ明確に支配しに出向かないだけで、実質的にどの世界も俺様がいつでも支配できるんだからよ」


 アシュラはそう言うと手にしていた骨を指揮棒のように振るい。


 「そしてジムクベルトの力を手にしたあかつきには、すべての次元、世界の歴史書に俺様の名が絶対的な支配者として記載されるように同時に記憶を記録を歴史を改変しようじゃないか! どの世界、どの時代、どの文明に行っても俺様を敬い崇めたてまつるようにな!! ひーっひひ!! 最高に痛快だろ?」


 そんな事を言い出す。

 アシュラのその言葉に思わずため息をついてしまった。


 「なんだそれ? ジムクベルトの力を得てどんな大層な事をする気かと思ったがくだらないな……おまえの目的はそんなチープでくだらない事なのか?」


 この言葉にアシュラは。


 「いや? まさかまさか……けどよぉ、世界征服なんて戯言を述べるやつが誰でも口にするセリフだろ? ま、確かにくそつまらねーとは思うけどな」


 そう冷めた口調で返した後。


 「それよりも、今日はあいさつだけで済ませてやろうってこの多次元の王の寛大な慈悲を無下にした命知らずな後輩よぉ? 威勢よく啖呵を切ったんだ、覚悟はできてるんだろうな? あぁ?」


 手にしていた骨をこちらに向けてくる。

 そんなアシュラの物言いに呆れてしまった。


 「は! あいさつだけで済ませてやろうって寛大な慈悲だ? 笑わせるな! おまえだって最初からやる気まんまんじゃねーか! ずっと戦いたくてうずうずしてるってのが透けて見えてたぞ!」


 なのでそう指摘すると、アシュラは目を大きく見開き。


 「あ? バレてたか?」


 間の抜けた声を出す。

 そして、口元を歪めると。


 「そうかそうか、なら隠す必要はもうねーよな? 先輩の威厳を見せようとして損したぜ、ひひ! あぁ安心しろ。てめーを今ここで殺しはしねー、手加減してやるよ? 楽しみはまだまだ取っておかないとな? まぁ、そういう意味では本当に『あいさつ』程度だ」


 楽しそうにそう言ってきた。

 実力差は理解しているが、それでもその言いぐさに思わず苛っときてしまう。


 「こいつ……なめやがってクソッタレが!!」

 「うん、あたしのかい君をバカにするなんて許せない!! 絶対にかい君を下に見た事後悔させてやる!!」


 自分だけじゃなくフミコも怒り心頭で臨戦態勢に入る。

 そんな自分たちを見てアシュラが楽しそうに笑う。


 「いいねぇ! その敵意、ゾクゾクするぜ!! ひひ、じゃあはじめようか! 楽しい楽しい殺し合いだぁ!!」


 アシュラは手にしていた骨を高々と掲げた。

 直後、アシュラが手にしていた骨がブルブルと微振動しだす。


 それに呼応するようにアシュラの足元に広がる血の海に浮かんでいた無数の人骨も同時に微振動しだし、そして次の瞬間、まるで磁石に吸い寄せられる金属のようにアシュラの手にしている骨にすべての骨がくっつき収束していく。

 そして、収束した骨は剣の形を形成した。

 アシュラはそれを振るい、斬りかかってくる。


 ここに異世界渡航者同士の戦いの幕が切って落とされた。

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