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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
15章:多次元の王との邂逅

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占星術の世界(12)

 エリス・ベアリーはこの世界最高位の占星術師である。

 にも拘わらず彼女は現在、さきほどの自身の決断を誤りではなかったか? と疑問に感じ、心がかき乱されていた。


 その自身の決断とは、カイトとフミコに荒野へと消えたメシアたちの事を任せた事だ。

 メシアたちの消えた荒野は危険な汚染地域だ、とてもではないが自分たちには足を踏み入れる事はできない。

 そんな場所に彼らを送り込んで、あまつさえ彼らに一任して本当によかったのだろうか? と……

 長官という立場上、皆の前で不安を口にする事はできないが、心の中では誰かにすがりつきたい気持ちでいっぱいだった。


 どれだけ星を覗こうといまだ未来は暗黒に染まったままで、これから先を見通す事はできない。

 星が未来を導いてくれない以上、あの判断が正しかったのか? 決断を下してよかったのか? 本当に彼らを行かせて大丈夫だったのだろうか? ひょっとしたら大きな過ちを犯してはいないだろうか? と、疑問が常に付きまとってしまう。

 長官としていけない事だとわかっていながら、そもそもあの星詠みは本当に正しかったのだろうか? と疑ってしまうほどだ。


 それは占星術で常に未来を読み解き、これから取るべき行動を常に導き出してきたこの世界の占星術師にとって、はじめて直面する言いようのない不安であった。

 とはいえ、これが本来の正しい姿なのである。

 普通に考えれば占いでその日の全人類の行動をすべて決める方が歪で異常なのだ。


 しかし、もう何百年もこのやり方を続けてきたこの世界の住人にとっては、これこそが普通であり、そうでないほうが異常なのだ。

 だからこのやり方に疑問を抱くことは、この死にゆく世界で最期の時を生きる人類そのものを否定する事と同義でなのである。


 そう、この世界を生きる人類を否定しているのだ。

 だからエリス・ベアリーは不安になる。

 そんな思考回路に陥ってしまう事に。

 そして、ある可能性にたどり着く。


 そもそも、最初から自分は間違っていたのではなかろうか? と……

 彼らはメシアでも何でもなく、むしろその逆ではないだろうか? と……


 しかしエリス・ベアリーにその答えを知る術はない。

 カイトとフミコはもう荒野へと旅立ってしまった。

 そこに自分たちは立ち入れない以上、ただ待っているしかない……もう後はなるようにしかならないのである。


 そして、それは占星術が支配するこの世界において、世界の命運を左右する重大な事案にも関わらず占いで結果が読めない、何もできないという、占星術が敗北した瞬間であった。

 その事を理解したうえでエリス・ベアリーは思う。


 ひょっとすると、失われた大予言者ノルラルトムス最後の予言は、この事が示されていたのではなかろうか? と……

 占星術が人類を支配する終末世界で、その占星術が否定される出来事が起こると……

 ゆえに最後の予言は葬られたのではないだろうか? と……


 いずれにせよ、もうエリス・ベアリーをはじめとしたこの世界の占星術師たちはこれから荒野で起こる出来事に介入する事もその一旦を覗き見る事もできない。

 そう、ここから先は異世界渡航者たちのステージなのだ。




 そこはまるでアメリカ西部の内陸部ユタ州やアリゾナ州にまたがって広がるグランドサークル。

 グランドキャニオンやモニュメントバレーを連想させる絶景がどこまでも広がっている場所だった。


 赤い岩と大地がどこまでも広がり、草木はどこにも生えておらず生命の息吹は感じられない。

 そして周囲に吹き荒れる風は体に悪そうな有害物質を多く含んだ砂利を大地から大気中に大量に舞い上がらせており、なるほどこれは確かに現地人が危険地域と近づかないわけだと納得した。


 あんな汚染物質を舞い上がらせる風の中に突っ込んだなら一瞬で全身何かしらの毒に冒されたり、放射能に被爆したりしそうだ。

 そんな事を思いながら頭から被ったガスマスクを再度入念に確認し、問題ない事を確認してから。


 「フミコ、体に異常はないか? 体調に変化は?」


 隣を歩くフミコに声をかける。

 自分に声をかけられたフミコはガスマスクに隠れてその表情は窺えないが、どこか嬉しそうな声で。


 「大丈夫だよかい君! 心配してくれてありがとう! うん、今のところは何も問題はないよ?」


 そう答えてから。


 「それに何かあってもかい君が治療してくれるんでしょ?」


 そんな事を言ってきた。

 さすがにこれには呆れてしまう。


 「いや、確かに治癒魔法も以前よりは効果が上がったし、万能薬も効き目をさらに向上させた万能薬改二を作って量産させる事には成功したけど……それがこの世界の汚染や被爆にどこまで効果があるかはわからないんだから、俺を頼るのは極力避けて注意を払ってほしいんだけど……次元の狭間の空間に戻ってメディカルセンターで治療するにしてもここから入口までかなり距離があるし」


 そう言ってからここから次元の狭間の空間に戻る入り口までの移動手段を考える。

 飛行魔法で全速全快で飛ばして何分かかるだろうか? それとも戦闘機を召喚してぶっ飛ばすか……

 そんな事を考えているとフミコがこちらの考えなど気にせず根本的な事を尋ねてくる。


 「というかかい君、そもそもメシアって呼ばれてる転生者か転移者にアシュラ? ってやつはどこにいるわけ? 見たところ、人なんてどこにもいなさそうなんだけど」


 周囲を見回しながら言うフミコを見て、こちらも双眼鏡を手にしてため息をつく。


 「そうなんだよな……草木も生えていない、どこまでも続く荒れた赤い大地。こんな場所に人がいたらたとえ数十キロ先であろうとすぐにわかるはずなんだが……」


 しかし双眼鏡で覗こうとどこにも人影は見当たらない。

 本当にメシアと呼ばれている転生者か転移者にアシュラはこの場所にいるのだろうか?

 向かったのはどこか別の場所なんじゃないのか?


 そう思いながらもドローンを飛ばし、高高度から周囲一帯を見渡してみる。

 だが、ドローンを飛ばしても、ドローンが撮影した映像には人影は見当たらなかった。

 うむ、これは本格的に別の場所に向かったほうがいいかもしれん……


 とはいえ、連絡がつかなくなって数日というからには、もしかしたら大規模な砂嵐に遭遇して巻き込まれ、どこかの谷底に落ちて生き埋めになっている可能性も否定できない。

 もしそうだとすれば、ドローンで撮影した上空からの映像で谷底のような地形になっていた場所はひとつだけだ。


ここからかなり離れた場所にあるモニュメントバレーのような形をした、かなりの標高がありそうな高い岩山。その反対側である。


 「可能性があるのはここだけだな……とりあえず行ってみるか!」


 諦めて別の場所を探すにしても、ひとまずはあのモニュメントバレーのような岩山までは行ってみよう。

 そう思い、ミリタリーバイクChristini AWDを召喚しようと右手を突き出してから我に返る。


 「いや、何考えてんだ俺! バイクはまずいだろ! どんな有害物質や放射能を巻き上げるかわかったものじゃないのに!」


 バイクを召喚するのをやめ、歩き出そうとする自分を見てフミコは絶句する。


 「え? かい君もしかして歩くの? あんな遠くまで?」

 「まぁ、この世界に着いてからも同じくらいの距離歩いたし今更だろ?」

 「まぁそうかもだけど……でも地面に付着したりしてる有害物質や放射能なんかが舞い上がらないように慎重に進むんでしょ?」

 「そりゃな」

 「……空飛んでいったほうがはやくない? ジェットスーツとかヘリとか飛行機とか、かい君の飛行魔法にあたしがそのだ、抱きつく……とか? かい君があたしを抱きながら飛行魔法で飛ぶとか……きゃ」


 なんかフミコさんが最後にすげー事言ってこちらに期待の眼差しを向けてらっしゃる。

 いや、ガスマスクしてるから実際どういう表情してるかわからないけども……


 「……いや、それはさすがに向こうにバレるだろ。あの岩山の向こうにいるかはわからないけど、いるとしたら最初は向こうに気付かれず様子を見たい。というか最後のは……」

 「え? ダメなの?」


 フミコが懇願するようにこちらの顔を覗き込んでくる。

 いや、ガスマスクしてるから実際どういう表情してるかわからないけども……


 「いや、ダメというか、こっちの位置をわざわざ向こうに晒す必要もないだろ? とにかく!! 日が暮れる前に向かおう! な?」

 「もう! せっかくかい君と楽しく遊覧飛行できると思ったのに!」

 「いや、汚染された世界の上空とか楽しく遊覧飛行できるわけないだろ!」

 「そんな事ないよ? どんな場所でもあたしはかい君となら楽しめるから」


 そんな事を言ってフミコはこちらに笑顔を向けてきた。

 いや、ガスマスクしてるから実際どういう表情してるかわからないけども……




 そうして、かなり離れた場所にあるモニュメントバレーのような形をした岩山に向けて歩き出したカイトとフミコであったが、その向かう先では一人の男が岩に腰掛けて()()()骨付き肉を食していたが、ある気配に気付き不気味に笑う。


 「ようやくお出ましか後輩……まったく遅すぎだろ! 待ちくたびれたぜ?」

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