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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
15章:多次元の王との邂逅

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占星術の世界(10)

 「は? 最後のメシア? いきなり何を言って」


 エリス・ベアリーと名乗った女性の言葉に思わず面食らってしまう。

 会って早々、この人は何を言い出すのだろうか?

 眉をひそめる自分たちを見てエリス・ベアリーと名乗った女性は。


 「そうですね、いきなりこんな事を言われても困惑しますよね。当然です……何せあなたたちはこの世界の人間ではないのですから」


 そう口にした。

 この発言に自分もフミコも驚きを隠せなかった。


 「え! うそ!? な、なんでバレてるの!?」

 「っ!! あんた、どうしてそれを?」


 そして思わず身構えた自分たちを見てエリス・ベアリーは。


 「星が教えてくれました。我々は星の導きによってすべてを見通すことができます」


 そう言って儀式場の天井に空いた穴から覗くことができる太陽を指さす。

 そこから差し込む日の光は儀式場の床に特殊な影を映し出していた。

 それが何を意味しているのかはわからないが、この世界の占星術の一種なのだろう。


 とにかく、エリス・ベアリーをはじめとしたこの場にいる面々は自分とフミコが異世界人である事を占星術で知っているのだ。

 ならば、ここから先は下手に何かを隠す必要はないだろう。

 そう思って、遠慮なく懐からアビリティーユニットを取り出す。


 「なるほどな……だから俺たちを誰にも見られない地下通路を使ってここまで連れてきたんだな? だったらもう少し待遇のいいお出迎えがほしかったものだが……まぁいい、俺たちも地下からこっそり潜入しようとしてたし、そこはおあいこだ。けど、占星術で俺たちの事を知ったと言うなら俺たちが何を目的にこの世界に来たかも知っているんだろ?」


 言いながらアビリティーユニットのボタンを押しレーザーの刃を出す。

 そしてレーザーブレードの剣先をエリス・ベアリーに向けた。


 「事情がわかってるなら話がはやい、余計な手間は省こう。この世界にいる俺の世界からきた転生者か転移者はどこだ? 俺たちが用があるのはそいつだけだ! そいつを出せ!!」

 「うん、さっさとかい君の言うとおりにしたほうが身のためだよ!!」


 自分に続いてフミコもその手に銅剣を持って構えるが、そんな自分たちを見たエリス・ベアリーは。


 「まぁ、ここまでは星詠み通り……そうなりますよね」


 そう呟き。


 「やめておいたほうがいいですよ? ここは儀式場、言うなればもっとも占星術が効力を発揮する場所なんですから」


 右手を突き出して儀式場にいる兵士たちに命じる。


 「取り囲みなさい!!」


 エリス・ベアリーの命を受けて儀式場の壁際に控えていた複数の兵士たちが槍(というよりは鉄パイプの先を切り落として鋭利に尖らせたもの)を手に自分とフミコを取り囲むように展開してこちらに槍を向けてきた。

 そんな兵士たちを鑑定眼で視てみるが、ステータス値はどれも平均程度といったところで、別段脅威になるとは思えなかった。


 兵士たちだけではない。この儀式場にいる全員、長官と呼ばれるエリス・ベアリーも含めた全員が脅威と思えるようなステータス値ではないのだ。

 こんな弱い連中相手に戦闘して大丈夫だろうか? と気が引けてしまうが、そんな自分の考えを見透かしたようにエリス・ベアリーが。


 「楽に勝てると思ったら大間違いですよ? さっきも言いましたがここはもっとも占星術が効力を発揮する儀式場なんですから」


 そう言って兵士たちに命令を下す。


 「突撃!! ハウス第6室!!」

 「了!」


 エリス・ベアリーの命に応じ、自分たちを取り囲んだ兵士たちの一部が槍を手にこちらに向かって突撃してきた。

 そして一斉に槍を突き出してくる。

 とはいえ、その動きは特段素早いわけでもなく、普通に対処できるレベルである。


 なのでレーザーブレードを振るって突き出された槍を薙ぎ払う。

 だが……


 「かい君!! 危ない!!」

 「っ!?」


 こちらがレーザーブレードで薙ぎ払うのを待っていたかのように、別の兵士の集団が自分がレーザーブレードを振るった時にできる死角から槍を突き出してきたのだ。

 とはいえ、この突きはオートシールドモードによって出現した魔術障壁によって弾き返される。


 オートシールドモードによって槍を弾かれた兵士たちは、しかし深追いする事なく、すぐに下がり距離を取る。

 そんな兵士たちと入れ替わるように別の兵士の集団が別方向からこちらに突撃してきた。


 「今度はそっちか!」


 叫んで突撃してきた兵士たちの方を向いてレーザーブレードを振るう。

 それから、自分とフミコと兵士たちとの攻防戦がしばらく続いた。


 とはいえ、兵士たちが自分たちに何かダメージを負わせるような攻撃が繰り出される事はなかった。

 そう、なかったのだが……同時に奇妙な事も起こっていた。

 兵士たちはこちらの動きを最初からすべて知っているかのような対処法をするのだ。


 その動きはあらかじめ自分やフミコがここにレーザーブレードや銅剣を振るい、オートシールドモードがここで発動するとわかっていなければできないものであった。

 そう、兵士たちは知っているのだ。自分とフミコがどういった攻撃をするのか最初から。


 そうしてようやく理解する、皆のステータス値が低いにも関わらずエリス・ベアリーが強気に出ていた理由を。

 つまりはこれが占星術師の戦い方なのだ。

 タイムリープ能力を駆使した戦闘と少し似ていて、決定的に違う戦い方。


 星詠みによって、戦闘中の相手の行動をすべて占星術師は把握しているのだ。

 そしてここは占星術の儀式場、刻々と変わる一寸先の最新の未来が常に見通せる場所。これほど占星術師に優位な戦場もないだろう。


 だからこそ、兵士たちはステータス値が低くとも自分たちに対処できるのである。

 とはいえ、それはあくまで強力な異能をこちらが使用しなかった場合の話だ。


 (もしも本気で俺がこの場を破壊しにかかったら……それこそ混種能力なんか使用したらどうなる? 回避不能な未来を占星術で見たら……こいつらはそれでも抵抗するのか?)


 そんな事を考え、そして懐からアビリティーチェッカーを取り出す。


 (試してみるか)


 そしてアビリティーチェッカーをアビリティーユニットに装着し「混種能力:獣」のエンブレムをタッチしようとしたところで。


 「皆そこまで!! 下がれ!!」


 自分がエンブレムをタッチするよりもはやくエリス・ベアリーが兵士たちに命を下し、兵士たちは一斉に動きを止め、こちらに槍を向けるのをやめ、数歩後退する。

 そしてそんな兵士たちと入れ替わるようにエリス・ベアリーがこちらに向かって歩いてきた。


 「さすがにそれを今ここで使われたら、この場所が崩壊してしまいますからね? ここまでとさせていただきますよ」


 そう言って兵士たちに壁まで下がるよう命じる。

 そんなエリス・ベアリーを見てこちらもアビリティーチェッカーをアビリティーユニットから外し、懐にしまいながら尋ねた。


 「混種能力の使用まで占星術で知ったのか?」

 「えぇ、あなたがそれを使用する未来が視えたので止めさせてもらいましたよ。さすがにそれは許容範囲外です」


 そう言って苦笑するエリス・ベアリーを見ながらため息をつく。

 自分は別段、本気で使用する気はなかったのだが、エリス・ベアリーの口ぶりからは自分が使用する未来が視えたようだ。

 何にせよ、占星術によって自分たちの行動が先読みされている以上、下手な強硬策は通じないと見た方がいい。

 ならば、まずは向こうの出方を見るのが得策だろう。


 占星術とは違うが、こちらもタイムリープ能力で過去に戻れるのだ。

 先読みに対して過去改変がどこまで通じるかわからないが、何にせよ話を聞くとしよう。


 「なるほどな……占星術が厄介なのはわかった。で? そんな未来を見通せるあんたらがどうしてメシアなんて呼んで俺たちに助けを求めるんだ? 正直未来を見通せるなら、俺たちに助けを求める必要はないんじゃないか?」


 そう尋ねると、エリス・ベアリーは小さくを首を振り。


 「そうではないからメシアにすがるのですよ。そうですね……それではまずは順を追って話しましょう。今、ここで起きている非常事態を」


 そう言って、今この世界で起こっている事件について話し始めた。

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