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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
15章:多次元の王との邂逅

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占星術の世界(3)

 ドローンが捉えた都市らしきものの映像を確認しながら前へと進む。

 とはいえ、ながらスマホでの衝突事故に代表されるように、手元に持った端末の操作に集中して前を見ず歩くのは危険極まりない。

 特にドローンがリアルタイムで送ってくる映像を見ながらの移動などもってのほかである。


 とはいえこの世界、特に現在地においては別段問題はないだろう。

 何せ、見渡す限り地平線の彼方まで草原しかない、ぶつかる物も人も障害物が何もない場所なのだから……


 なので、隣を歩くフミコとケティーも周囲を気にせず自分が手にしている端末を覗き込み、ドローンが送ってくる映像を注視する。

 とはいえ、フミコはドローンの映像を見たところで、「なんだか特徴のない丸い都市だね」という感想しか述べないのだが、どうやらケティーに対抗して自分も何か言わないと! というある種の脅迫概念に駆り立てられて述べているようだ。


 一方のケティーは映像を見て。


 「これはたぶん連合都市アルトゥールだね……この世界の首都みたいな場所だよ」


 そう断言した。


 「へぇー首都みたいな場所ね……よくわかったな」

 「まぁ、この特徴的な形を見ればね? 当然でしょ!」


 ケティーは得意げに言ってドヤ顔を見せるが、そんなケティーを見てフミコが。


 「いや、これのどこが特徴的なの? ただの丸い都市でしょ!」


 そうツッコんだ。

 うん、言いたいことはわかる、わかるぞフミコ。

 たしかに空から見ると城壁で丸く囲まれた都市多いもんな!


 しかしケティーはこのツッコミに対し。


 「あぁ、それはね、この世界に都市は5つしかないってさっき言ったけど、残りの4都市は全部四角く壁に囲まれた都市なのよね。で、丸く囲まれた都市はここだけ。だから特徴的なわけ」


 そう簡潔に答えた。

 これを聞いたフミコは面白くなさそうに「ふーん」とだけ返し、それを見たケティーはニヤニヤしながら、「あれ~? それだけなの~? 他に何か言うことは? 博識な私が無知なあなたにせっかく教えてあげたのに」とフミコを煽り立てる。

 それを聞いたフミコは「は?」と一言発した後、表情は引き攣ったものとなった。


 おいおい、このパターンはふたりが喧嘩をはじめるいつものパターンじゃないか! 勘弁してくれ、こんな何もないところで……

 いや、何もないところだからこそ誰にも迷惑はかからないから別にいいのか?

 って、いやいや、そういう問題じゃないだろ!


 一瞬思考が停止しそうになるが、すぐに我に返ってふたりを止める。


 「ふたりとも落ち着け! ここで争っても仕方ないだろ? 今は一刻も早くあの都市に辿り着かないといけないんだから! な?」


 しかし、これにケティーが。


 「いや、これだけ離れてるんだから別に急いだところで、たぶんすぐには着かないから問題ないでしょ」


 そう言ってドローンが映し出す映像を指さし。


 「まぁ、見たところ周囲に害獣もいなさそうだしね。行動が統制されてるって事は、都市の外で活動してる人もほぼいないんだろうし、誰かの目を気にする必要ないと思うよかい君」


 フミコまでそんな事をいいだした。

 こうなるともうふたりは聞く耳を持たないだろう。

 そして数秒後には予想通りふたりは喧嘩をはじめた。


 あぁ、うん……やっぱそうなるよね。




 フミコとケティーの喧嘩は意外にもはやく終わった。

 何がどうなって終わったかはわからないが、とにかく終わった。


 ふたりが喧嘩をはじめると、いつも自分は無の境地で思考を停止させているため、ふたりが言い合う内容など一切聞いていないのだ。

 だから、どっちが勝ったかなどは知らない……とにかく喧嘩は終わった。その事実がわかればそれでいいのだ。


 うん、このふたりもう少し仲良くはできないのだろうか?

 そんな事を思いながらケティーに尋ねる。


 「なぁ今回の世界、ケティーはどうみる? 時間がかかると思うか?」


 するとフミコがどうして自分ではなくケティーに聞くんだ! と言いたげな不満そうな表情を浮かべるが、それを見たケティーがニヤーとした表情を浮かべてフミコを見た後。


 「どうだろ? 私はそんなに時間はかからないと思うよ? むしろすぐに見つかるんじゃないかな? うん、そう思う」


 そう言ってのけた。


 「まじか」


 返ってきた答えを意外に感じた自分の反応を見たケティーはため息をつくと。


 「だってそうでしょ? こんな終末を迎えた世界で異能を振るう転生者か転移者なんて100%目立つに決まってるよ! 川畑くん、ちょっと深く考えすぎ」


 そう言って自身の考えを述べる。


 「これはあくまで私の推測だけど、この世界の異能が占星術なだけな以上、地球から誰かを召喚する術をこの世界の人間は持っていない。だから召喚者の線はここで消える。となればターゲットは転生者か転移者。そして人口が減り、その数が統制されたこの世界では、戸籍データがない転移者なんてすぐに大きな問題になるはず。だからそのあたりを調べればすぐにでもわかるんじゃないかな?」


 ケティーが述べたこの意見には納得だ。

 確かに今まで訪れたどの世界も戸籍データを作成し管理するという事はしていなかった。

 リエルとリーナの前世の世界はちゃんとデータは作成し管理はしていたが、それ以外の世界はどこもそこまでの文明レベルではなかったのだ。


 冒険者登録など例外的な処置はあるにはあるが、すべての領民に登録を義務付けしている世界はなかった。

 だからこそ失念していたが、普通に地球の現代社会で考えれば戸籍がなく身分を証明するものがないなど密入国者であり不法滞在者だ。

 そして、この世界は残り少ないすべての人類を占星術で統制管理している。つまりは統制するための戸籍データがあるはずなのだ。


 そして戸籍がなければ占星術で統制管理などできない、だからそんな人物がいればすぐに大騒動になるだろう。

 ゆえにケティーは探しやすいと言ってのけたのだ。


 「確かに……言われてみればそうだな」


 自分が納得し、頷いたのを見てケティーはさらに続ける。


 「それともうひとつ。私は行商人の立場から、この世界は市場価値がない、魅力がない世界だと言ったけど、それは()()()()()()()()()()()()()()だからね?」

 「商売をする前提? どういう事だ?」

 「いい? 商人がその地で商売をするのは、そこにうま味があるから商売をするんだよ? 当たり前の話だけどね。儲けられる確証があるからその地で面倒な手続きやら根回しをして、地道に準備をして商売を始めるんだ。どれだけ初期投資で損しようとも、のちの利益で取り返せるなら喜んで投資するし、出資するし、お金を叩いてでも人脈作りに勤しむんだよ……後にすべてを取り返せるほどの儲けが得られる事がわかっているから。でもね、どれだけ手間暇かけても、そもそも利益が、儲けが、リターンが何もなければそれはやるだけ無駄ってものだよね? だって商人は大損こいただけなんだから……自ら進んでお金をドブに捨てるようなもの、この世界で商売するってそういう事だよ。だから行商人からしたらこの世界は魅力がない。でも、それはあくまで商売をする前提での話。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 そう言うケティーが何を言いたいのかなんとなくわかった。


 「ボランティアか……」

 「そう。慈善事業。博愛精神。勝手なひと助け。善意の押し付け……色んな言い方ができるけど、まぁ川畑くんが言ったのが一番しっくりくるかな? 私的には偽善のようにも感じるけどね」


 ケティーはそう言ってため息をついた後、こう述べた。


 「こんな資源もほとんど底をついて枯渇しかけて人口の残り少ない、占いで行動を統制管理された世界で、仮に埋蔵量を気にせず魔法で資源をどんどん生み出せる転生者が現れたらどうなると思う? しかも見返りは求めないときたら」


 そう、それは例えば、川や池の水が干上がってしまい、水分が確保できなくなった地域に水を無尽蔵に生み出し、自在に扱う事ができる魔法使いが現れたら大変な騒ぎとなるだろう。

 それは残り少ない資源を全人口の行動を統制して管理し、皆に平等に分配しなんとか延命している文明にとって、とんでもない劇薬となる。


 「そうだな……確実に救世主だ何だと取り沙汰されるよな。そして、そうなるともう他の人と同じようには生活できないはずだ」


 この意見にケティーは頷いて同意する。


 「そりゃね……それこそ、この世界秩序の在り方すら変えてしまう力なんだから」

 「なるほどな……確かにそこまで目立ってれば、探す手間はまったくかからないな」

 「そういう事」


 そう言ってウインクするケティーを見て思う。

 ケティーは以前にこの世界に訪れた事があるが、その時すでにそういった人物の存在を知っていたのではないか?

 だからこそ偽善に感じると述べたに違いない。


 とはいえ、このあたりは詳しく聞いてもはぐらかされるだけだろうが……


 「ま、そういうわけでここはすぐに片付くと思うよ? 後は連合都市アルトゥールに潜入した後、どうやってその偽善者に近づくかって問題だけだね」

 「普通に都市に入ってからその話題を追っていけばいいんじゃないのか?」

 「まぁ、そうなんだけど……さっきも言ったように、この世界は行動の統制管理を占いで行ってるけど、実質的に残り少ない人類は戸籍データで管理されてるのよ? つまりは都市内部で動き回るにしても、その辺りの戸籍データを何とかしないと面倒な事になるんじゃないかなって」


 そう言うケティーを見て。


 「でもケティーはこの世界に以前に来た事があるんだろ? だったらケティーの戸籍データはこの世界にはあるって事だよな? あとリーナちゃんの前世の世界……リエルの住んでる世界だな。あそこにもケティーは戸籍データ持ってるんだろ? つまりは偽の戸籍データを作ったり偽装したりするのは容易いんじゃないのか?」


 そう尋ねるとケティーは呆れたと言わんばかりの表情を浮かべ。


 「人を密入国者を手引きするブローカーみたいに言わないでよ」


 そう口にした。

 するとフミコが鼻で笑いながらツッコむ。


 「事実でしょ? 色んな世界で違法に商売してるんだから。何が違うの?」

 「おい、てめー、今何つった?」

 「真実を述べただけですけど何か?」


 再びフミコとケティーが喧嘩しそうな雰囲気になったので慌てて止めに入った。

 うん、ほんと疲れるからふたりとも仲良くしてくれ……


 そんな自分の姿を見てケティーはため息をつくと。


 「はぁ……残念だけど、戸籍に関しては手伝えないかな? というかさすがに無理」


 そう言って懐から1枚のカードを取り出し。


 「でも……都市内部の機能を誤魔化せる手段ならあるかな?」


 そう言ってこちらにカードをチラチラと見せてきた。

 そのカードの表面には見た事もない文字が書かれていたが、それはこの世界の文字であり意味はこうであった。

 『特別優遇証』と……

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