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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
15章:多次元の王との邂逅

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占星術の世界(2)

 「占いがすべてを決定する世界?」


 ケティーはこの世界の事をそう述べた。

 占いがすべてを決定する。それはつまり今日一日自分がどう行動するか、服装から食事の献立から何もかもすべてを占いに頼って生活するという事だろう。

 しかし、そんな自分自身の意思のない生活を誰もが主体とする文明など成り立つのだろうか?


 そう思ってからある事に気付きフミコに目をやる。

 そう、文明がまだまだ未成熟であった古代はある意味、それがまかり通るのだ。


 支配階級が自らの権威を保持するために占いを用い、その占いの結果、取るようになる行動が風習となり、それはやがて宗教となっていく。

 そして、占いを命じる立場にある支配階級の者は宗教をコントロールするようになり、それによって神に近い権威を保持するようになるのだ。


 だからこそ、彼らはみな宗教指導者としての立場で巫女に色々な占いを命じる。

 そして、その占いが導き出した吉凶は民衆を支配する道具となるのだ。


 となれば、占いに支配されたこの世界はフミコが生きていた弥生時代のような文明レベルなのだろうか?

 その弥生時代で巫女姫であったフミコは目を細めると。


 「ふーん、占いがすべてを決定するねぇ……占星術っていったけど、それって星詠みみたいなもの?」


 そうケティーに尋ねる。

 これにケティーは頷くが。


 「まぁ、似たようなものかな? とはいっても、かつては星占いだけじゃなく、いくつか種類があったみたいなんだけどね?」


 そう付け加えた。

 これを聞いたフミコがケティーに尋ねる。


 「それって土占いとか骨占いとか?」

 「そうだね、あとは水占いとかそのあたりかな?」


 土占い、それは手に握った石や砂を地面に投げてできあがる形をいくつかのパターンに分類し、それぞれに意味を与えて解釈を加える占い方法である。

 この方法はジオマンシーと呼ばれ、中東のアラビア世界が起源と言われている。


 骨占い、それは太占(ふとまに)と呼ばれる、獣骨や亀の甲羅を傷付けて火で焼き、それによって生じた亀裂の入り方を見て吉凶を判断する占い方法である。

 古代中国を起源とし、日本には弥生時代に朝鮮半島経由で伝わった。


 水占い、それは水占(みなうら)と呼ばれる、水に影を映したり、水の増減をみたり、川辺に物を流して流れる方向で吉兆を判断する古代の占い方法である。


 これらの占いはフミコには馴染みのある古代の占いであるが、ケティーが「かつては」と言ったあたり、今は廃れて使用する者はいないのだろう。

 しかし、占星術以外の占いが廃れたとはいえ、唯一残る占星術がすべてを決定するとは一体どういう事だろうか?

 そのあたりをケティーに尋ねてみる。

 すると……


 「なぁ、なんでこの世界は占いがすべてを決定づけるんだ?」

 「あぁ、それはね。この世界がすでに終末を迎えてるからだよ」

 「は?」


 思わぬ言葉がケティーから返ってきた。

 思わず呆気に取られてしまう。


 「終末を迎えてるって……それはどういう」

 「そのままの意味だよ。この世界というか、まぁここの人類文明だね。たぶんだけど、あと30年も持たないんじゃないかな?」


 そうケティーはあっけらかんと答える。

 ケティーによれば、この世界はかつては高度に発展した文明が栄えるなど、人類が栄華を誇っていたようだが、いきすぎた繁栄は世界の環境をがらっと変えてしまい、急速な大地の汚染や資源の枯渇、異常気象を招いて人がまともに住める土地がどんどんと減少していったという。

 人類の住まう土地が急速に縮小していくなかで、食料の確保も難しくなり、世界規模の大飢饉が発生。人口は一気に減少したという。


 そうした中で、生き残った人類は数少ない資源と食料をなんとかやりくりし、人類に残された安全な土地を有効活用するため人類全体の行動を統制して管理する事にしたのだ。

 そのための手段として用いられたのが占いなのだという。


 そして土占いや骨占い、水占いに数秘術など、いくつかの占いを試した結果、最も効率よく残された人類をうまく統率できたのが占星術だったのだ。

 ゆえに占星術以外の占いは廃止され、この世界には占星術だけが残った。


 とはいえ、占星術による統制管理を行ったとしても、残された資源の埋蔵量とこの先どんどん縮小していくであろう人類が住める土地の面積を考えると、もはや人類に未来はない、生きながらえられる時間は限られているのは目に見えていた。

 だからこれはただの延命処置でしかない。


 いや、延命処置ですらないだろう……前倒しで絶滅しないための単なる下手くそな時間稼ぎという処置。

 言うなれば考えられる最大の限られた期限まで生きながらえるための人類全体の終活なのだ。


 しかし、それすら行わなければ、明日にでも人類は絶滅するであろう。

 だからこそ、生き残った人類は占星術に従って1日の行動を定めているのだ。


 そんな終末を迎えた黄昏のこの世界には国はひとつしか存在しない。

 この世界の人類にはもはや、いくつもの国家に分かれて資源や利益を外交や駆け引きという政治で争う余力はないのだ。

 ひとつの統制下のもとで行動を制限し、資源を分配しないともはや立ち行かないのである。


 そんなこの世界には人類が住む都市は5つしかない。

 しかも、その5つの都市は互いに行き来が難しいほどに離れた場所に存在し、実質連携が取れない状況である。

 というより、他の都市に資源を分け与えられるほど豊かな都市など5つの都市の中には存在しないのだ。


 世界には4つの大きな大陸が存在するが、それぞれの大陸に人類にとって必要な資源が揃っているわけではない。

 だからこそ、数少ない人類が残り少ない資源を有効に活用するには、こうするしか他に選択肢はないのだ。


 そして、この人類最期の管理体制は異世界行商人であるケティーにとってあまり魅力のある市場ではない。

 不思議に思うかもしれないが、消滅寸前の世界に市場価値はない。当然だろう。


 確かに、明日を生きるための資源が底を突きそうな切羽詰まった人類はどんな粗末なものにでも食いつくだろう。

 別の世界では見向きもされない、誰も欲しがらない不人気な品でも我先にと奪い合うだろう。

 そう、彼らには資源がない、資源がない以上はどんな粗末な品であってもないよりはましで喉から手が出るほど欲しいのだ。

 考えようによってはいいカモだろう。


 だが、どれだけ人気になろうとも彼らからのリターンがないのだ。

 何せ、彼らには提供する品と交換するだけの資源がないのだから……

 金貨、銀貨、銅貨を大量に作ろうにも資源がない。


 そもそも、皆の行動を占いで制限し、残り少ない資源を分配している以上、この終末世界では貨幣は意味をなさないのだ。

 そして、資源を分配している以上、商人が自由に物を売り買いするという行為も廃止されている。

 この世界においては商売自体ができないのだ。


 闇市という形で違法に行うにしても、この世界には富裕層と呼ばれる者たちはほぼ存在しない。

 この世界で、何か物を流通させるとしたら無償提供と言う形の寄付でしか成り立たないのだ。

 だからこそ異世界行商人にとっては魅力のない、むしろ損をする市場なのである。


 いや、そもそも市場ですらない、市場と言う概念が存在しないのだから……

 まさに共産主義者や社会主義者もビックリな詰んでる世界なのである。


 そんな、この異世界の現状を聞いて思わず「まじか……」と口走ってしまった。

 というか、そんな死が直前に迫った世界、いくら転生者・転移者・召喚者がトンデモチートを発動しようとも、もうどうにもならないんじゃないか?


 かつて同じように滅亡しかけてる異世界を訪れた事はあった。

 そこでは転生者が聖女として海へと沈みゆく大地を祈祷で食い止めていたが、あの世界にはまだ救いが残されてはいた。

 けど、この世界はそうではない。


 多少目立つ何かを転生者・転移者・召喚者が行ったところで世界の命運を変える事は厳しいのではないか?

 そして、それは転生者・転移者・召喚者がチートを行ってても、滅亡するその日まで限られた資源を分配する行動が制限された人類に埋もれて見つけ出すのが厳しくなるって事なのでは?


 幸い、この世界の残された人類の総人口は少なく、さらに世界に5つしかない都市に分割されている。

 つまりは、ここから一番近い都市に転生者・転移者・召喚者は確実にいるわけだが、いくら人類が残り少ないとはいえ、鑑定眼でひとりひとり確認できる人数ではないだろう。


 「こいつは骨が折れそうだな……」


 そう思い、飛ばしたドローンからの映像を確認する。

 すると、はるか彼方に都市のようなものがぽつんと映っていた。


 「こいつか……ってかこれかなり距離あるじゃねーか!」


 思わずため息が出てしまう。

 さて、あそこにたどり着くまでに一体どれだけかかるやら……


 とにかく、ケティーが離脱するまでにできるだけの情報は聞いておこう、そう思って目的地へと歩き出した。

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