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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
15章:多次元の王との邂逅

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占星術の世界(1)

 そこはまるで、エーゲ海を望む美しい白い街並みで有名なギリシャのサントリーニ島のイアの街のような街並みであった。

 断崖絶壁に青いドームを要する建物や鐘楼がいくつも立ち並び、目の前に広がる絶景に目を奪われる。


 しかし、そこはサントリーニ島のイアの街ではない。

 なぜならば、断崖絶壁の先に広がっているのがエーゲ海ではないからだ。


 広がっているのはどこまでも続く雲海。

 そして遠くを見れば時折、雲海から稲妻が迸っていた。


 そんな雲海が一望できる建物の屋上に自分は今、ひとりで立っているのだが、ここである疑問が浮かぶ。

 それは……


 「ここはどこだ? なんで俺はこんな場所に?」


 思わず口にしてから腕を組んで考える。

 どうして自分はこんな場所にいるのだろうか?

 わからないが、とにかくさっきまで自分が何をしていたのか思い出すところからはじめよう。


 そう、自分はさきほどまで次元の狭間の空間内にあるトレーニングルームで新たに手に入れた能力のテストをしていたはずのだ。

 何せ、前回の異世界では多くの異能を手に入れたのはいいものの、ギルド活動が多忙でその多くをすぐにテストできていなかった。


 だからこそ、次の異世界に到着するまでまだ時間があり、ギルド<ジャパニーズ・トラベラーズ>のほうもそこまで依頼が溜まっておらず、忙しくない今のうちに数日かけてすべてチェックしようと考え、トレーニングルームに引きこもっていたのだが、どうやらトレーニングルームに引きこもってから2日目以降の記憶が飛んでいる。

 つまりは、1日目が終わった段階で意識がぶっ飛んだのか、それとも何かしらのトラブルに巻き込まれたかだ……


 「はぁ……まじかよ。もしかして、これカグのやろうかスプルとかいうやつの仕業じゃないだろうな?」


 まずは自称神を疑って周囲を伺う。

 というよりも、カグのやろうには尋問して色々聞かなければならない事が山積みなのだが、マリの能力を奪い、彼女を殺した後に次元の狭間の空間に戻った時に話をして以降、カグは姿を見せていなかった。

 まったく、あのカラスめ! 逃げ隠れているあたり、黒だと白状しているようなもんだろ!

 そう思っていると……


 「確かに……あなたが疑念を抱く通り、彼は黒でしょうね?」


 どこからか女性の声が聞こえた。

 その事に思わず警戒し、懐に手を入れてから周囲を見回す。

 そこである異変に気付いた。


 (っ!? どういう事だ? アビリティーユニットがないだと?)


 そう、懐にはアビリティーユニットもアビリティーチェッカーもなかったのだ。

 それどころか、もしもの時に備えて常日頃持ち歩いているM9銃剣すらない。

 完全に手ぶらの状態だ。


 (くそ! まじでどうなってやがる!?)


 冷や汗が頬を伝う中、それでも何とかファイティングポーズを取って奇襲に備えるが、そんな自分の目の前に突如人影が現れる。

 さきほどまで、そこには誰もいなかったはずなのだが、しかし、その姿ははっきりと捉える事ができる。


 目の前に現れた人物、それは女性であった。

 豊満な胸を強調するように大きく胸元が開いたドレスを着たその女性は、こちらを見るとニッコリと笑い。


 「はじめましてGX-A03の適合者(まるさん)。会えて光栄です」


 そう言って優雅に一礼して見せた。

 そんな女性を見て思わず目を細める。


 「誰だあんた?」


 自分の事をGX-A03の適合者(まるさん)と呼ぶのは自称神の連中かハーフダルムだけだ。

 つまりはこの女性も神を自称する存在かもしれない。

 警戒をより一層強める中、女性は口を開く。


 「私はネリル。そうね、わかりやすく女神と名乗ったほうがいいかしら?」

 「っ!!」


 ネリルと名乗った女性の言葉を聞いて、思わず後ろに下がって距離を取る。

 そんな自分の行動を見て、ネリルと名乗った女性は苦笑すると。


 「まぁ、あなたが警戒するのも無理はないでしょうね……そして、私が何を言っても、今のあなたは聞き入れてはくれないでしょう。それでも……これだけは覚えておいてください」


 そう言ってネリルは両手を広げ、こちらに向かって微笑みかけてくる。

 そして、こう述べた


 「この先、あなたが()()()の真実を知りたいと思ったのならば、この地を訪れてください。その時、私はあなたに真実をお話ししましょう」


 ネリルのその言葉の意味を一瞬理解できなかった。

 ()()()? それは一体誰の事だろうか?


 「は? それは一体どういう」

 「いずれ、この地で会いましょう。その時が来たならば……」


 しかし、ネリルはそれ以上の事は語らず、踵を返して姿を消した。


 「お、おい!! ちょっと待てよ!!」


 目の前に突如現れ、そして姿を消した自称女神に困惑していると、周囲の景色が一変する。

 サントリーニ島のイアの街を連想する街並みは一気に霧に包まれ、やがて濃霧で何も見えなくなった。


 「な、なんだこれ!?」


 そして、段々と意識が遠のいていき、気が付けばトレーニングルームの床に仰向けの状態で倒れていた。


 「今のは……」


 起き上がって周囲を確認するが、そこは紛れもなくトレーニングルームであり、エーゲ海を望む美しい白い街並みで有名なギリシャのサントリーニ島のイアの街並みなどではなかった。

 自分は今まで白昼夢でも見ていたのだろうか?

 そう思って考え込むが、やがてさきほどまでの記憶は薄れていき、そして……


 「あれ? 俺、今まで何やってたんだっけ?」


 そう言って頭をボリボリと掻きながら、忘れた何かを思い出そうとするが、まったく思い出せない。

 そうしていると、トレーニングルームにフミコが入ってきた。


 「かい君!! そろそろご飯にしない? というかみんなお腹減ったーって言い出してるよ?」


 こちらに手を振りながらフミコがそんな事を言うので時計に目をやると、確かにいい時間になっていた。


 「やっべ!! 急いで準備しないと!!」


 そう言ってフミコのほうへと走っていく。

 その時にはすでに、何かを忘れた事すら忘れ去っていた。




 マリから能力を奪い、彼女を殺して次の異世界へと旅立ってから次元の狭間の空間にはある変化が起きていた。

 それは、本来なら物音ひとつしない、寂しい空間であるはずの次元の狭間の空間が騒がしくなったのだ。


 次元の狭間の空間は自分たちの活動拠点である。

 とはいえ、寝床で寝て、食堂でご飯を食べ、トレーニングルームで戦闘訓練や奪った能力のチェックをし、メンテナンス施設でアビリティーユニットのメンテをする以外は基本的にここで何かをする事はない。


 異世界にたどり着いた場合は、その異世界に滞在するし、ケティーに別の異世界に連れていかれる場合もあるので、そもそも次元の狭間の空間に人がいないのが普通なのだ。

 なので、寝床や食堂、トレーニングルームから物音が漏れない限りは次元の狭間の空間内が騒がしくなる事はない。


 ではなぜ次元の狭間の空間が騒がしくなったかと言うと、この空間を利用する人の数が増えたからだ。

 当初は自分しかいなかったこの空間も、今ではフミコ、ケティー、ココが寝床をかまえ、TD-66を格納し、メンテする施設とリエルが仮眠する部屋に併設する形でリーナの寝床も新たに用意された。


 更に、ドリーやシルビアに頼み込まれる形で彼女らのゲストルームも渋々新たに追加したため、次元の狭間の空間は今やプチ集落に近い規模に発展していた。

 うん、これ大丈夫なのか? 色々と……


 異世界渡航者として、数多の異世界を巡る旅は続けるものの、ギルド活動は継続すると宣言した以上は仕方がない事なのだが、これ次元の狭間の空間が発展しすぎて、ここも異世界だって判定されないだろうな?


 そんなこちらの不安など気にせず、毎日のようにドリーにシルビアは食堂にご飯を食べに来た。

 さらにシルビアをサポートしないと!! などと抜かしてキャシーとシーナも同伴して食べに来た。

 それならば、わたしもリーナのサポートをしないと!! と言ってエマもご飯を食べに来たのだが、いや君はご自宅で家族と卓を囲んで食事しないとダメだろ……


 そう思ってヨハンにエマが次元の狭間の空間にご飯を食べに来ないようにしてくれと頼んだら、じゃあ僕が保護者の代わりをするよと言ってヨハンも食堂でご飯を食べるようになった。

 いやヨハン、そういう事じゃないんだが……


 こうして食事の際には食堂にギルドメンバー全員が集まる事が当たり前となってしまったのだ。

 まぁ、食堂は元々食堂というだけあってギルドメンバー全員が食事を摂る十分なスペースと席は用意されてはいるのだが、でも毎回この人数分の食事用意する身にもなってね?

 いくらパーフェクトクッキングって調理能力があるとはいっても、俺、料理人じゃないからね?


 しかも、これだけの人数の食材の用意とか大変なんだからね?

 この人たちわかってんの?


 それだけじゃない、毎日温泉にも当たり前のように入っていきはるけど、風呂場掃除するの大変なんだからね?

 入るだけ入って、掃除まったくしない人いるけど、いい加減出禁にするよ?


 というか、このメンツで男湯に入るのは当然ながら俺とヨハンだけなんだけど、ヨハンは遠慮して温泉には入らないのに気を利かして掃除は手伝ってくれてるってのに、ほんと女子のメンツどうなってんの?

 というか、一部の女子は毎度なんで棒読みで「あー男湯と女湯まちがえたー」って言って入浴中に突撃してくるの? アホなの? 普通逆でしょそれ?


 それ以外にも、フミコの勉強のためにと追加した施設である図書館、この施設はフミコ以外にもリーナとエマにも開放したが、ここはまだいい。

 問題は映画館だ。


 映画上映の際にフミコとケティーが揉めたので長らく閉鎖していたが、ドリーとココが興味を示したので再開したのだが、ドリーとココ以上にキャシー、シーナ、シルビアが映画館にドハマりし、これまた大変な事になった。

 食堂で朝ごはんを食べた後、ギルドに戻らず映画館に入りびたり、受けていた依頼すらすっぽかす事態にまで発展した。


 さすがにこれはダメだろうと、映画館の滞在時間に上限をかけたがまったく効果がなかったので、映画館は週末にしか開放しないようにした。

 これにシルビアたちは抗議したが、無視した。

 というか君たち、鑑賞後一切掃除しないだろうが!! こぼしたポップコーンくらい拾っていけ!!


 次元の狭間の空間にはクリーンスタッフなんていないんだぞ!!

 そんなに映画館にずっといたいなら掃除くらいちゃんとしろ!!

 ……うむ、マジで頭が痛い。




 と、そんなこんなで騒がしくなった次元の狭間の空間なのだが、以前に記憶はそのままにすると告げた後、異世界での手伝いをお願いするかもと言った時に「ワクワクする!」と彼女たちは言っていたにも関わらず、いざ次の異世界に到着するとなると。


 「あ、ごめん……今回の依頼はさすがにすっぽかせない」

 「異世界行きたかったけど、さすがにこれをほったらかすと信用問題になる」

 「護衛も必要だから、ココにもついてきてほしいんだけど、大丈夫かな?」

 「うーん、実は友好的な海賊連中との交渉の仲介頼まれたのよね……これはさすがに断れないかな?」

 「エマのやつ、今日学術ギルド<アカデミー>主催の学力試験があるらしんだ。さすがにサボらせるわけにはいかないし、抜け出さないか監視しとかないと」

 「マスター、ごめんなさい。その学力試験、わたしも受ける事になってて……」

 「悪い! TD-66の定期メンテがまだ終わってへんわ! 今回は出撃させられへんで堪忍な?」

 「ココ、カイトさまのお傍にいたいのに、なんであいつらのサポートなんですか!? いやです!! ココはカイトさまだけのココなんです!! ココの活躍が伝わらない仕事は嫌です!!」


 と、それぞれがギルドの仕事など外せない用事が発生し、結局新たな異世界に向かうのは自分とフミコ、ケティーのいつもの3人となった。

 とはいえ、ケティーも付いてくるのは途中までで、最終的に新たな異世界で転生者・転移者・召喚者を探すのは自分とフミコのふたりになるわけだが……

 うーん、これ仲間が増えた意味とは?


 と、そんなわけでTD-66のメンテがあるリエルとTD-66を残し、リーナたちを元の世界に戻した後、新たな異世界とつながった桟橋へと向かう。


 「いやー、しかし前の異世界が数か月もかかったせいで、新しい異世界に足を踏み入れるのも久々でなんだか新鮮だな!」

 「うん、そうだよね! この感覚久々かも」


 桟橋を歩きながらそう言うと、フミコも同意する。

 だが、ケティーだけは苦笑いを浮かべながら。


 「でも、私は商売で以前に訪れてるケースが多いから、あまりワクワク感ないかなー」


 そう言うと、フミコが。


 「じゃあ付いてこなくていいんじゃない?」


 そうニヤニヤしながら言ったものだからケティーは呆れたようにため息をつくと。


 「ワクワク感がないからって行かない理由にはならないでしょ? まぁ、商談の予定があるから途中までだけど」


 そう言ってスマホを取り出し、スケジュールを確認する。

 そんなケティーにフミコはジト目を向けると。


 「大事な商談が控えてるなら無理に付いてこなくていいんだけど?」


 そう言い放つが。ケティーはフミコのいう事など気にしない。


 「フミコだけじゃ心配だから、無理にでもついてくわ。当然でしょ?」

 「どういう意味よそれ!!」


 ケティーとフミコがそんな言い合いをしている間に、桟橋の先に発生している空間の歪みへと足を踏み入れる。

 そして、次の瞬間にはどこまでも地平線の先まで遮蔽物のない、草原の大地が広がっていた。


 そう、新たな異世界である。


 「さてと……まずは周囲の状況を確認しないとな」


 そう言って双眼鏡を取り出して360度ぐるっと見回して何かないか確認するが、しかし見渡す限り本当に草原しかなかった。

 うむ……これ、集落すら近くにないんじゃね?


 とりあえず双眼鏡は一旦しまい、ドローンを取り出して飛ばしてみる。

 そしてドローンを操縦しながらケティーに尋ねた。


 「なぁケティー、この異世界は以前来た事あるか?」


 するとケティーはムーブデバイスを開いて微妙な表情を浮かべる。


 「うーん、あるにはあるんだけど……この世界は……うーん……」

 「ん? 何か問題でもあるのか?」


 ケティーの煮え切らない反応をいぶかしんでいると、ケティーは渋々といった具合で口を開く。


 「問題と言うか何というか……そうだね……まぁ、いずれわかる事だろうし、単刀直入に言うと……この世界の異能は占星術しかないの」

 「占星術しかない?」

 「そう、占いが……占星術がすべてを決定する世界、それがこの世界なんだよ」

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