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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
6章:極寒の異世界

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極寒の異世界(6)

 「くそ! マジかよ!!」


 マガムスイロドゥスの群がこちらに襲いかかってくるが、どれだけボタンを押してもレーザーの刃が出ない。

 焦ってグリップを激しく振ったりするが、まったくダメだった。

 そうしてる間に1匹のマガムスイロドゥスがこちらに飛びかかってくる。


 「げ! まずっ……!」


 思わず目をつぶるが、直後フミコが銅剣でマガムスイロドゥスの腹を刺し、そのまま地面に叩きつける。


 「かい君に手出しはさけない!!」

 「フミコ、すまん助かった!」

 「当然! かい君はあたしが守る!!」


 言ってフミコはもう1本の銅剣も出して2本の銅剣を構えマガムスイロドゥスの群れを威嚇する。

 しかしマガムスイロドゥスの群れは気にすることなく再び襲いかかってくる。


 「この数を相手にするのはちょっと厳しいかな? あれを使うしかないか……」


 言ってフミコは2本の銅剣を大きく振り回し、両手を合わせ2本の銅剣を重ね合わせる。

 すると2本の銅剣が緑色に輝き融合して形状を変えた。

 剣身の左右に段違いに3本ずつの枝刃が生えだす。

 

 フミコのいた国では枝剣とのみ呼ばれていた百済王から倭王に送ったとされる七支刀によく似たその剣をフミコは上空へと掲げる。


 「仰ぎ見よ!!」


 フミコが叫ぶと剣身の左右段違いにある3本ずつの枝刃が緑色に輝く蛇のようなものに変化し、6匹の蛇がマガムスイロドゥスの群れを襲っていく。


 その様子を見ながら、必死にボタンを押しているとようやくブーンという音がしてレーザーの刃が出た。

 しかし……


 「は? なんだこれ?」


 レーザーの刃が異常に短かった。

 何というか、ナイフとまではいかないまでも短刀のような長さだ。

 もしくは子供用の玩具の剣のような長さ。

 なんにせよ、いつもより短い。そして出力が弱いのか時々こちらが消していないのに消えそうになっている。


 「おいおい、まじかよ?」


 これで戦えるのか? と心配になるが悠長にしている暇はない。

 フミコの蛇の攻撃をかわした1匹がこちらへと襲いかかってくる。


 「かい君!!」

 「かまうな!! フミコはそっちのほうの対処を!!」

 「でも!!」

 「いいから!!」


 叫んで短いなりにもレーザーの刃を振るってマガムスイロドゥスを迎え撃つ。

 しかし、やはりリーチが短い。

 そして、今にも消えそうな出力なのも心許ない。

 なので長さが短いなら短いなりの戦闘スタイルに切り替える。


 雪山登山用のピッケルを手に取り、レーザーの短刀との二刀流でマガムスイロドゥスに斬りかかる。


 「この戦い方はまだトレーニングルームで試しただけでどこまでいけるかわからないが……やるしかねぇ!!」


 疑似世界における次元の迷い子にしては動きが良すぎたピエロの戦闘スタイルを模したものだが、さすがにあそこまでのスピードは出せないが、それでも経験と勘でなんとか間合いを取ってマガムスイロドゥスの動きを見切る。

 そして……


 「これでどうだ!!」


 足下の地面を蹴って雪をマガムスイロドゥスに飛ばす。

 飛んできた雪にマガムスイロドゥスが一瞬怯んだ隙を見逃さず、一気に間合いを詰めてマガムスイロドゥスの喉元を切り裂く。


 雪原に赤い血が飛び散り、マガムスイロドゥスが雪に埋もれる形で倒れた。


 「ふぅ……なんとかなったか」


 フミコの方を見れば、フミコもマガムスイロドゥスの群れを蹴散らしたところだった。


 「かい君無事!?」


 フミコが心配そうに声をかけてくるが問題ないと手を振る。

 はぁ、情けない……女の子に心配かけるなんてな。

 本当なら俺が守ってやらないといけないのに……


 そんな事を思っていると、タクヤ達が仕留めた大量のマガムスイロドゥスを縛って引きずりながらこっちにやってきた。


 「おいーっす! そっちはどんな感じっすか?」

 

 雪原での狩りに慣れているからだろう、軽い感じで聞いてくる。

 やれやれ、タクヤ達の戦闘というか狩りの風景を見逃してしまったな……

 もしかしたら能力を使っていたかもしれないのに……


 狩ったマガムスイロドゥスの処置された亡骸をすべて集めてソリの荷台に載せる。

 そして大量の雪を被せて一旦冷凍保存しておく。


 解体して持って帰る前に、もう一狩り。

 そして遺跡にも向かうからだ。


 とはいえ、処置は済ませてある。害獣の駆除と違って狩りとった獲物はすぐに処置を行わないと傷んで食べるにも、素材にするにも難しくなる。

 なので、狩りが成功すればすぐに獲物の処置を行わなければならない。


 まずは防寒具として使えるマガムスイロドゥスの毛皮を剥ぎ取った後、頭部を下にするようにして吊し、喉元などを切り開いて血抜きをしないといけない。

 血は腐敗を早める元になるからだ。


 生きたまま捕獲できれば動脈を切れば自然と心臓からの血流ポンプで勝手に血が噴出してくれるが殺してしまうとそうはいかない。

 だから処置を手軽にすませたければ本来なら生け捕るのがベストなのだ。


 その後、十分血抜きを行った後に腹を切り開いて腸を取り出し、使える物はいただき、空になった腹の中に大量の雪を掻き込んで冷やす作業をする。


 これは猪や鹿でも同様で、日本の猟友会による狩りの場合だと腸を抜いた腹に大量の岩を詰め込んで沢の渕に沈めて十分冷やし、それから解体して持ち運びやすくして下山する。


 日本と違い、ここは極寒の雪原のため冷やす環境は十分と言えるだろう。

 剥ぎ取った毛皮の保存にだけ気をつければすぐさま次の狩りへ迎える。


 「とはいえ、今回の群れは意外と数が多かったっすから、次は控えめのほうがいいかもっす……あまり狩りすぎるのもよくないっすから」

 「そうなのか?」

 「魔獣とはいえ、彼らもここの生態系の1つで生息数にも限りはあるっす。あまり狩りすぎると絶滅の危険があるんすよ。彼らが絶滅したことで生態系のバランスが崩れてしまったらどういった状況になるかわからないっすから狩る数も注意してるんすよ」


 タクヤの言葉に関心する。

 ここら辺は厳しい環境を生き抜く知恵というか、人間も含めた生態系のバランスが成り立っているのだなと。

 そして、それが分かっていながらタクヤは南下したらその先に何があるのかが何故わからないのか余計に疑問に思ってしまう。


 (まぁ、そこは自分の周りの環境しか見えておらず分析できないってことなんだろうな……良くも悪くも自分の周りさえよければそれでいいって考えか)


 なんとも自分勝手というか、自己満足でしかないというか……

 転生者や転移者、召喚者はそういうものなんだろう。

 まぁ、達観していたらそれはそれで厄介ではあると思うが……


 さて、故障したかと思ったアビリティーユニットだったが原因がなんとなく掴めてきた。

 このグリップ、内部構造はブラックボックスだがメーサー炉と呼ばれるレーザーの刃なりを発生させる結晶が納められているらしい。

 どうやらこの結晶が寒さに弱いらしく、急激に冷やされたことで機能不全を起こしているようだ。


 アビリティーチェッカーは起動するが、こちらもここまでの寒冷地でどこまで機能するかは定かではないし、そもそもアビリティーユニットに装填しない限り使い物にはならない。


 要するに、この異世界の今の地域において、アビリティーユニットは今現在使い物にならないということだ。


 とはいえ、アビリティーユニットとアビリティーチェッカーを使わなければ能力は奪えない。

 アビリティーユニットは最悪暖めれば使えるだろうが、屋外では厳しいだろう。


 一体どうしろっていうんだ? と言いたくなる状況だ。


 (とにかく今は能力を奪うその時までにアビリティーユニットを使える状態にしておかないといけない。アノラックの内側ポケット、いやインナーのポケットで暖めておくか)


 アビリティーユニットを防寒具の中に入れて、次の狩り場へ向かうタクヤ達について行く。

 とはいえアビリティーユニットがない以上、獲物はピッケルしかないが、ピッケルは元々雪山登山の為の道具で魔獣を狩る武器ではない。

 だから、あまり本来の使用目的以外に使うとすぐに傷んでしまう。

 なのでフミコに声をかけた。


 「フミコ、銅矛を借りてもいいか?」

 「え? 別に構わないけどどうして?」

 「アビリティーユニットが使い物にならない以上何か武器がいる。ピッケルでは話にならない」

 「……心配しなくてもかい君はあたしが守るよ?」


 フミコはキリっとした顔でグッと拳を握って言った。

 頼もしい限りだが、さすがに女の子の後ろに隠れて狩りに参加するというのは恥ずかしいを通り越して惨めに感じる。

 なので、フミコには悪いがそれは遠慮する。気持ちだけ受け取ることにしよう。


 「いや、さすがにそういうわけにもいかないだろ? 俺だって男だ。ちゃんとフミコを守りたいんだ」

 「かい君がそういうなら……」


 フミコはもじもじして照れながら銅矛を出し、こちらに渡してくれた。


 「でもかい君、銅矛の扱いは大丈夫なの?」

 「ん? あぁ、槍の扱いならトレーニングルームで訓練してるから大丈夫だ。さすがに馴染んだ武器とまではいかないが足を引っ張らずには済むくらいの嗜みはある……はず!」


 言って銅矛を軽く振るって感触を確かめる。

 うん、問題ない。これなら大丈夫だ。


 そんなこちらの様子を見ていたタクヤとアドラが声をかけてくる。


 「お、武器の交換っすか? カイトさん色んな武器扱えるんすね?」

 「そんな事ないよ。扱える武器を借りただけだ」


 隣ではアドラがフミコに笑顔で話しかけて何やら盛り上がっている。

 何の話をしてるかは気にしない事にしよう。




 しばらく歩いて小高い丘にやってくると、先頭を行くタクヤが何かに気付いて後続に止まるよう制止をかける。


 「どうしたんだ?」


 身を潜めるようにかかんだ姿勢でゆっくりとタクヤのもとに向かう。

 タクヤは小高い丘の上から下を見下ろしたまま緊張の面持ちで一点を見つめる。


 「どうやら今日はもうこれで狩りは打ち切りかもしれないっす……」

 「?」


 そういうタクヤの視線の先を見ると……


 「な……!?」


 その姿に驚愕した。


 歩くたびに地面が揺れ、雪原の大地に足跡が生まれる。

 雪の下に垣間見えた土の大地は余りの巨体の重さにえぐれている。


 小さな山が動いてるのかと思うほどの巨体、その迫力、体中の剛毛を揺らし我が物顔で雪原を進むその姿。

 長い鼻を揺らし、長く鋭利に先が尖り曲がった牙を見せつけるその姿。

 それはまさに……


 「あれは……マンモス!?」


 圧倒的なスケールでその魔獣はそこに君臨していた。

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