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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
14章:討伐クエストをこなそう!

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地球からの転生者(9)

 時間は戦いが始まる直前へと戻り、そして再び動き出す。


 右手で眼帯を軽く突いたカリウスが真横に右手を振るう。

 直後、その右手に剣身から禍々しいオーラを放つ錆びついた剣が出現し。


 「勝利をこの手に」


 そう呟いてカリウスは一歩前に踏み出した。

 悠長に構えている暇はない。何せ次の瞬間にはやつはフミコを殺してしまうのだから……


 カリウスの動きを目で捉えることはできない。

 だが、どの方向から攻撃を仕掛けてくるかはすでにわかっている。

 なので。


 「危ないフミコ!!」


 隣にいたフミコを横に突き飛ばす形で無理矢理退避させ、さきほどまでフミコがいた場所にレーザーブレードを振るう。


 「か、かい君!?」


 驚くフミコはしかし、次の瞬間息を呑む。

 自分がレーザーブレードを振るった、フミコがついさきほどまでいた場所に、いつの間にか現れたカリウスがこちらに向かって剣を突き出していたからだ。


 そんなカリウスの刺突を受け止めるべく振るったレーザーブレードとカリウスの剣が激突し、周囲に衝撃波が広がる。


 「ほう」


 カリウスは攻撃を読まれていた事に少し感心したような声をあげたが驚くのはこっちのほうだ。

 何せレーザーブレードとカリウスの錆びた剣は激突したまま拮抗しているのだ。

 素材はわからないが、普通なら何かしらの鋼鉄でできた錆びた剣などレーザーの刃に当たればすぐに焼き切れるはずなのに、なんで錆びた剣がレーザーの刃を受け止められ続けているんだ?


 そんな疑問が浮かぶが、似たような状況は以前にも経験している。


 最初の異世界で戦った異世界転生者の勇者、今元(ススム)

 彼が持っていた聖剣シルブルムフゲンは剣身に纏わり付いてる光が剣の耐久値をレーザーの刃と同等まで高めていた。

 そして、カリウスが持つ錆び着いた剣も剣身から視覚できるほどの禍々しいオーラが放たれており、そのオーラが剣の耐久値を聖剣シルブルムフゲン同様、レーザーの刃と同等まで高めているのだろう。


 (剣は破壊できない、ならば普通に斬り合いの攻防になるが……けど、この手ごたえ。真正面からだと押せるか?)


 そう思って錆びた剣を受け止めたまま一歩前に踏み出すが……


 「あまいな」

 「っ!?」


 次の瞬間にはカリウスはすでに自身の背後にいた。

 一体いつの間に移動したのか? 一瞬、目を離して隙を見せたわけでもないのに、気づけばすでに目の前には誰もおらず、レーザーブレードが空を斬る。


 するとどうなるか? 勢いそのままに前へと倒れそうになってしまう。


 「まずっ!!」


 すぐさま大勢を立て直そうとするが、時すでに遅し。

 カリウスは容赦なく、自分の背中に錆びた剣を突き刺す。


 「がはぁ!?」

 「かい君!!」


 フミコの悲痛な叫びが聞こえたと同時に右胸から心臓を貫いて飛び出した、自身の血で染まる剣先が視界に映る。

 それと同時に大量の血を吐き出して、そのまま地面に倒れた。


 「まずひとり」


 視界が暗転する中、最後にカリウスの言葉が耳に届く。




 気付くと霊魂のような透明のタイムリープ能力待機中モードの姿となって再び宙を浮遊していた。

 すぐさま眼下に転がっている自分の死体を確認し、考える。


 「う~ん、やっぱりどうにも妙だな。ハンスのような高速移動系ではない気がする」


 自分は確かにカリウスから目を離さなかった。

 にもかかわらず、やつは自分の背後をいつの間にか取っていたのだ。

 これがハンスのような超高速の移動をおこなったのだとしたら、多少なりとも動き出す直前にモーションがあるはずなのだ。


 しかし、それは一切なかった。

 本当に、気づけば後ろにいたのだ。


 「最初の一撃は動きだす仕草は見せていた。だが2つ目の攻撃はそうじゃない……もしや、やつもこれと似たような時間操作系なのか?」


 そう口にしてから表示されているDPの数値に目をやる。

 そこには現在の数値とともに、フェイクシティーでのギガントとの戦いからずっと、消費するのを保留にしたままの数値も赤文字で並記されていた。


 その数値はヤーグベルト相手にプロトアブソーブ・コネクターで能力リミッター解除モードを使用した事もあって、とんでもない桁数となっている。

 恐らく保留を解除してDPを消費すれば、丸1日寝込む程度では済まないほどの負荷を負うはずだ。

 つまりはこれ以上、保留中の数値を増やすわけにはいかない。


 「できればタイムリープ能力を何度も使って、じっくり検証したいところだが……ここから先はできる限り、死なないようにしないとな!」


 下手にタイムリープ能力の便利さに慣れると、死んでも仕切り直しができる。一度攻撃をわざとくらって死んでみて検証するという、負け癖がついてしまう。ハングリーさが欠けてしまう。

 今はその状態に近い気がした。


 そして、当然ながらそれではダメだ。

 それではこの先、再びヤーグベルト戦の時のように異能が封じられる状況に陥った時、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 両手でパンと頬を叩き、気合いを入れ直す。


 「よし!! やってやる!!」


 そうして再び時間を戻す。今度はカリウスの初撃を受け止めた直後に。




 時間が戻った直後から、カリウスとの攻防ははじまる。

 さきほどと同じように、カリウスは自分に攻撃を受け止められた事に感心したような声をあげるが、こっちはそれどころではない。

 カリウスの次の一手が何であるがかわっているとはいえ、気づけば背後にいるという緊張感は先の展開を知っていても拭えないものだ。


 とはいえ、わかっているからこそ体は動く。

 攻撃が突然くるとわかっていても、それがどこからくるかわからなければ当然ながら体は動かない。

 反応速度をどれだけ高めたところで後手になる。遅れを取るのは仕方がないのだ。

 特に極限の緊張状態だと筋肉もこわばり、やはり動きが鈍る。


 だが、自分はそうではない。

 もう背後から襲ってくるという答えを知っているのだ。

 ならば対処は簡単だ。


 あとはどれだけスムーズに、カリウスに気取られずに自然と攻撃を待ち構えるかだけである。

 そして、さきほどと同じくカリウスは背後に現れた。


 「あまいな」


 そうカリウスが口にするより前に、こちらも動いていた。

 カリウスがそのセリフを口にするコンマ数秒前に魔術障壁を背後に展開し、そしてカリウスがそのセリフを口にした瞬間に魔術障壁をカリウスにぶつけた。


 「!?」


 魔術障壁をぶつけられ、一瞬たじろいだカリウスに向かって一気に振り返りレーザーブレードを力いっぱい振るう。


 「あまいのはどっちだ? このクソ野郎!!」


 叫んで、しかし同時に次の一手も講じる。

 何せ目で捉える事ができない違和感を覚える速度を発揮する相手だ。

 これ以上死なないためにも、同時並行で策を講じていかなければならない。


 カリウスに振るったレーザーブレードを持っている手は左手、そして同時に右手を真横に突き出し叫ぶ。


 「召喚……こい!! コンソールグローブ!!」


 右手の先に魔法陣が現れ、そこからメタリックな手袋が出現、即座に右手に装着される。

 それと同時に左手で振るったレーザーブレードがカリウスの喉元を襲うが、これをカリウスは錆びた剣で受け止める。


 レーザーブレードと錆びた剣がぶつかり、さきほど同様、衝撃波が周囲に広がる。

 それに紛れるようにコンソールグローブが装着された右手で腰からM9銃剣を引き抜き叫ぶ。


 「システム起動!! ナノマシン、ブレード形成!!」


 するとどこからか、まるでハエのようなナノマシンの群れがどこからかあふれだし、M9銃剣の刃に群がっていく。

 そして、それら無数の小さなハエのようなナノマシン群はM9銃剣の刃をベースにそのまま互いにくっついていき、ひとつの長い刀身になった。


 「ナノブレード展開完了! こいつでどうだぁ!!」


 ナノマシンによって生み出されたナノブレードを手に、二刀流でカリウスへと斬りかかった。


 召喚したアイテム「コンソールグローブ」はナノマシン他、空気中のいたるところに散布された無数のミクロ単位の目には見えないコンピューターシステムの制御装置である。

 そして、そんなシステムの集合体であるナノブレードだが、当然ながら戦いながらでも、形成している目には見えないナノマシンの一部を密かに戦っている相手に付着させる事は可能だ。


 そして付着したナノマシンは相手が気付かぬうちに情報を収集するのである。

 なので、積極的にナノブレードで斬りかかっていく。


 「おらぁぁぁぁ!!」


 レーザーブレードで鍔迫り合いをしながらナノブレードでカリウスの脇腹を狙う。


 「っち!」


 これをカリウスはレーザーブレードを押し返してかわした。


 「どうした? また目にも止まらぬ速さで回避して背後に回り込まないのか? それとも今はできないのか!?」

 「さて、答える義理はないね?」


 言ってカリウスは自分と距離を取ろうとするが、直感で引き離されたらまずいと思い、一歩踏み出してカリウスにくらいつく。

 レーザーブレードとナノブレードを交互に振るってカリウスとの斬り合いに持ち込み、カリウスに何かを仕掛ける隙を与えない。


 それと同時に、ナノマシンをカリウスの体に複数付着させる事にも成功した。


 (よし! うまくいった!! 後はどうにかしてケティーにデータを送る事ができれば!!)


 そう思ってレーザーブレードを振るった後、続けてナノブレードを振るおうとしたところで。


 「っ!?」


 地面に転がっていた形の悪い石ころを踏んでしまい、安定感の悪さから足を滑らせてしまった。


 (やばっ!!)


 態勢が崩れそうになるが、なんとか踏ん張ってこらえる。

 だが、それによって攻撃の手が止まってしまった。

 そして、当然ながらカリウスはこの機を逃すわけがない。


 ニヤリと笑って錆びた剣をこちらに向かって突き出すと、剣先から禍々しいオーラの矢を放ってきた。


 「っち!!」


 これをレーザーブレードを振るって斬り落とすが、その隙にカリウスは数歩下がって自分と距離を取る。

 そして、錆びた剣を構え直すと。


 「ふぅ、さすがに接近戦を仕掛けられると面倒だな」


 そんな事を言って眼帯をとんとんと突く。

 カリウスのそんな行動を見てこちらも態勢を立て直してレーザーブレードとナノブレードを構え直して挑発するように言い放つ。


 「おいおい接近戦は得意じゃないのか? 常勝無敗というからにはもっと積極的に斬りかかってくるやつかと思ったが、案外不意打ち以外には手がないんじゃないか? 化けの皮が剥がれてきたな勝利(ネツァク)のセフィラーよ!!」


 これを聞いたカリウスは鼻で笑うと。


 「何もわかってないな貴様」


 そう言って眼帯を指さす。


 「気づいてないのか? 僕はまだ眼帯を一度も外していない……魔眼の力を解放していないという事に」


 そう言うカリウスに尋ねる。


 「へぇ? まだ本気でないと?」


 するとカリウスはニヤリと笑い。


 「あぁ、そうとも。今は眼帯に刺激を与えて魔眼の力のほんの一部を絞り出しているにすぎない……こんな風にな!!」


 次の瞬間にはカリウスは自分の目の前にいて、すでに自分の右肩をその錆びた剣で貫いていた。


 「がはぁ!?」

 「かい君!!」


 激痛が走り、右肩から大量の血が飛び出す。

 これには自分が突き飛ばした後、少し離れた場所から見守っていたフミコも思わず反応し、こちらに駆けつけようとするが。


 「待てフミコ!!」


 そんなフミコを制止すべく声をかけるが、時すでに遅し。

 自分の右肩を貫いていたカリウスはすでに目の前にはおらず、駆け寄ろうとするフミコの目の前でフミコに向かって錆びた剣を突き放っていた。


 「へ?」


 そして、その突きは寸分違わずフミコの心臓を貫き、カリウスが小さくつぶやく。


 「まずひとり」

 「フミコぉぉぉぉぉぉ!!」

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