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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
14章:討伐クエストをこなそう!

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カイトvsハンス(1)

 「なるほど、それがこの異世界に転生した経緯か」


 ハンスは前世の頃の自身を赤裸々に語った。

 幼少期の境遇と経験、その時感じた思いが速さを渇望した。

 それを聞いたうえで、ある疑問が浮かぶ。

 それは……


 「なぁハンス、些細な疑問なんだがちょっといいか?」

 「なんだ?」

 「さっき、日本で生きてた頃はオートレーサーだったと言ったが、話を聞いた限りじゃ正式なオートレーサーじゃないんじゃね?」


 この疑問にハンスがきょとんとした顔を見せる。


 「は?」

 「だってそうじゃないか? 何せデビュー戦の途中で事故ったんだろ? そのせいでレース自体も不成立になっただろうから、デビュー戦自体中止でなかった事になってるはずだろ。俺はそのあたり詳しくないからわからないが、車券も払い戻しになってるだろうし……だったら正式なオートレーサーとは言えないんじゃないか?」


 そう指摘すると、きょとんとした表情のハンスの口が徐々に開いていき。


 「あーー-------!!!!」


 やがて頭を抱えて叫んで、その場にうずくまってしまった。

 そんなハンスを見て、これは疑問を投げかけるべきではなかったか? と一瞬申し訳なく思ってしまったが、まぁいずれは本人も気づいた事だろうと気にしない事にした。


 (そんな事よりもデビュー戦で事故死した新人レーサーか……)


 うずくまっているハンスを見ながら考えてしまう。


 正式にデビューしていないとはいえ、デビュー戦で事故死した新人ならば何かしらの記事にはなっているはずだ。なら、調べれば名前くらい出てくるだろう。

 公営ギャンブルにおける選手の死亡事故リスクがどれだけのものかはわからないが、あまりにも死亡事故が多ければ社会的に問題視されて、レースの開催自体危ぶまれる事態になるはずだ。


 下手をすれば日本からそのギャンブル自体がなくなってしまうだろう。

 だが、そんな話は日本にいた頃聞いたことがない。

 確かに自分は世の中の出来事に無関心であったが、それでもある程度のニュースには目を通していたつもりだ。


 そんな中で公営ギャンブルの存続が危ぶまれるほど死亡事故が続いたというニュースには出会っていない。

 ならば、散発的には死亡事故は起こるものの、運営側の再発防止策によって死亡事故は頻繁には起こらず安全管理は徹底されているという事になる。


 であるならば、そう多くない死亡事故を調べていけばハンスの前世が誰だったのか特定は可能だろう。

 特にハンスは日本の元号が令和に変わった事を知らず、反応から察するに平成が終わった事に驚いていた。つまりはまだまだ平成が続くと思っていた頃に死亡事故にあっている。


 上皇陛下が天皇陛下だった頃に生前譲位の考えを公式に述べられたのは平成28年、2016年の夏の事である。

 この象徴としてのお務めについて、天皇陛下自らが考えを述べられてから世間は天皇陛下がご存命のうちに皇太子殿下への譲位が可能かの議論が巻き起こったわけだが、それを知らないとなれば前世のハンスの死亡事故は平成28年以前だという事になる。

 また、ハンスの語った生い立ちについても調べれば一致した人物の特定は容易いはずだ。


 と、そこまで考えてから。


 (いやいや、何を考えているんだ俺は!)


 頭を振り払った。

 そもそも特定して何になる? 能力を奪えば、後は殺してそれまでではないか!

 ならばこれ以上ハンスについて何かを知ったり、理解する必要はない。


 そういうのが不要だという事はこれまでの旅で十分理解しているはずではないか!

 自分自身、フミコにも散々注意してきた事ではないか!

 仲良くなりすぎるなと、後が辛くなるだけだと。


 そう、殺す時に判断を鈍らせる材料を手にすべきではない。

 確かに、相手から力と命を奪って突き進んでいく旅をおこなっている以上、せめてもの償いというか、罪悪感から逃れるために殺した相手の想いや願いを背負っていこうという考え方はあるにはある。

 だが、そういったものはやがて重荷となって自身の精神をすり潰し、心を病む原因となる。


 そうならないためには、できるだけ気楽がいいのだ。

 相手の事情など気にしない、でも最低限の労りは持つ。それが精神を病まない秘訣なのだ。

 だからこそ、日本で高校生をしていた頃の自分の性格は異世界渡航者にはうってつけだったのだろう。

 気負いすぎず、怠けすぎず、されど淡白ではない性格が……


 だが、人は変わる生き物だ。

 旅を続けるうち、自分自身、性格に多少の変化が生じていることは自覚している。

 だからためらっているのだろうか? このまま感傷もなくただ淡々と能力を奪って殺すことに……


 (何にせよ、やる事は変わらない……ハンスが地球からの転生者である以上、能力を奪って殺すことは既定路線だ。たとえ、カグやスプルのやろうが信用ならなくても、先に進むにはそうするしかない)


 自分自身にそう言い聞かせてから、不要な考えを頭の中から消し去る。

 そうして、アビリティーチェッカーに手をかけようとしたところで。


 「ところで俺の事は話したがカイト、君はどうなんだ?」


 頭を抱えてうずくまっていたハンスだったが、立ち直ったのか起き上がるとこちらを見てそう尋ねてきた。


 「どうとは?」

 「日本にいた頃の話だよ。俺にだけ話させるつもりか?」


 ハンスにそう言われたので。


 「どうも何も、普通の高校生だったとしか言いようがないな……あと、俺はこの異世界に目的があって渡航してきただけで別にこの異世界の住人になったってわけじゃないからな? だから正確には今も日本に住んでいる事になってるから日本での生活は過去ってわけじゃない……まぁ、これも現状は微妙なところなんだけど」


 そう答えるとハンスは眉をひそめた。


 「どういう事だ?」

 「そうだな……まずは俺自身についてなんだが、俺は異世界渡航者だ。さっきも言った通り、目的を持ってこの異世界に渡航してきた」

 「異世界、渡航者……つまりカイト、君は俺みたいに死んでこの世界に転生したわけじゃなく、生きたままこの世界にやってきたのか。しかも漫画でよくあるような巻き込まれるような形で転移したり、この世界の誰かに召喚されたわけじゃなく自分の意志で? そんな事、可能なのか?」


 ハンスの疑問に小さく笑うと。


 「まぁ、普通はそう思うよな? あと目的を持って来たとは言ったが自分の意志で行きたい異世界を選べるわけじゃない。神を自称するやつが指定した異世界を巡るだけだ」


 そう答えてからポケットからスマホを取り出して操作する。

 ハンスは神が関与しているという話に驚愕していたが、これまでも数多の異世界で転生者や転移者、召喚者が散々見てきた反応だけに無視して動画アプリを起動しハンスに渡す。


 「まずはこいつを見てくれ、スマホは……さすがにわかるよな?」

 「あ、あぁ……」


 ハンスは少し言葉に詰まっていた。

 それがこの異世界に赤ん坊の頃から転生しているのでスマホの存在を忘れてしまっていたのか、それともススムの時のように前世がガラケー全盛期の時代であったため、スマホの存在は知っていても触れた事がないのかはわからない。


 とはいえ、動画アプリはすでに起動しているので操作に関しては特に問題はないだろう。

 あとは動画アプリが流すニュース映像でハンスに理解してもらうだけだ。


 そして、ニュース映像を見たハンスの表情が変わった。


 「な、なんだこれ……一体、どうなってるんだ!?」


 ニュース映像を見て驚愕するハンスに事実を告げる。


 「それが地球の現状であり、俺が数多の異世界を渡航している理由だ。すでに地球人類の文明は壊滅寸前、空前の灯だ。俺はそんな地球滅亡を阻止するためにこの異世界にやって来たんだ」


 そう言った後で小さく呟く。


 「まぁ、本当にそうであったらいいんだけどな……」


 カグやスプルら自称神に対する不信感から出たこの呟きは、恐らくはハンスには聞こえていないだろう。

 何しろ、ハンスはニュース映像に自分の言葉を聞いて、はたから見れば混乱しているように思えたからだ。

 しかし、これは無理もないだろう。自分だって相手の立場だったらそうなるはずだ。


 とはいえ、ハンスはすぐにある事に気付く。


 「ちょっと待て! そういえばカイト、ウラス・ヨルドと戦う前にあいつに言ってたよな? てめーよりも少し詳しいだけだって……そして連中の崇める邪神の名前がジムクベルトだと知っていた……それってまさか」


 ハンスの言葉に頷き、答える。


 「あぁ、地球を滅亡の危機に追いここんだのは他の誰でもない……ジムクベルトだ。姿形もヤーグベルトとまるっきり同じだったよ、サイズはまったく違ったけどな」

 「なっ!!」


 それを聞いてハンスは絶句するが、しかしすぐに。


 「ならカイト、もしかしてこの異世界に渡航してきた目的ってのはあのヤーグベルトだったのか?」


 そう尋ねてきたが、ハンスのこの問いには首を横に振る。


 「まさか、俺だってこの異世界にジムクベルトがいたなんて寝耳に水だった」

 「じゃあカイトがこの異世界に来た目的って」

 「それはだな……」


 それからハンスにすべてを話した。

 自分の目的、ジムクベルトを地球から追い出すその手段を。

 すべてを話した上で宣告する。


 「そういうわけでハンス、俺は地球を救うためにより多くの転生者、転移者、召喚者達から能力を奪って殺していかなければならない。そのために俺はいくつもの異世界を旅して回っているんだ。だからハンス、お前に恨みはないが地球を救うためだ。お前から能力を奪い、そして殺す!」


 宣告してアビリティーユニットを手に取り、ボタンを押してレーザーの刃を出し、そのままハンスへと刃先を突き付ける。

 そしてレーザーの刃を突き付けられたハンスは小さく鼻で笑うと。


 「そうかよ……地球を救うため、ね……カイト、俺を殺すのにずいぶん大層な理由(いいわけ)を言ってくれるじゃないか! でもよ、日本にいた頃の俺の前世の人生聞いてどう思った? そんな前世を送った俺が地球のためにわざわざ命を差し出すと思うか? あ!?」


 少し怒った表情でそう言い返してきた。

 これに対して首を横に振る。


 「いやハンス、前世での境遇を考えればお前はまず絶対に命を差し出さないだろうな……でもいいのか? そうすると大好きだった公営ギャンブルも消えてなくなるぞ?」

 「それはこっちの世界でもやろうと思えばできるだろ! 競艇やオートレースは難しいかもしれないが、自転車くらいなら作れるだろうし、競馬も可能だ! それに捕らえた狼を走らせるギャンブルならこの世界にも存在してる! 問題はない!!」


 ハンスの反論に「まぁ、それはそうだな」と頷いてから。


 「別にハンス、俺は地球のために黙って殺されろとは言ってない。地球で嫌な事があった転生者、転移者、召喚者はいくらでもいる。そして、そいつらは絶対に俺に対して協力的にはならないだろうな。地球なんて滅びろ! 今の自分たちはこの居心地の良いこの世界が大事なんだ! と、そう考えるのは普通だ。俺はそれを否定する気はない。地球の事を心配せよと改心させる気もない」


 そう言って突き付けていたレーザーの刃を下す。

 自分のその言葉と行動をどう受け取ったのか、ハンスはため息をつくと。


 「否定する気はない、か……だとすればカイト、お前は衝突するのがわかってて、拒絶されるのをわかっててすべてを話したのか? 今までも色んな世界でそうしてきたのか? どうしてそんな戦いが避けられない方法を取る? 能力をこっそり奪い、油断させて殺すやり方もあるだろうに」


 そう問いかけてきた。

 この誰もが抱く疑問に苦笑すると。


 「さぁ? なんでだろうな……ただ、そうしないとこちらとしてはバツが悪い、それだけだよ」


 そう言ってボリボリと頭を掻いた。

 するとハンスは。


 「なんだそれ、生真面目にもほどがあるだろ」


 そう言って笑ってきた。

 それを見てため息をつき。


 「よせよ、俺が生真面目なわけないだろ。だからこそ異世界渡航者に選ばれたんだからな」


 それから再びレーザーの刃を突き出し。


 「さて、話は終わりだハンス。俺は俺の世界を……地球を救うために戦う。だからハンス、お前は気にせずお前の今いるこの世界を、居場所を守るために戦え! どっちが勝ってもどっちが死んでも恨みっこなしだ!」


 そう言い放つ。

 それを聞いてハンスも「あぁ、そうかよ」と呟くと腰から2本の短刀を引き抜き構える。


 「上等だ!! だったらカイト、手加減はしねーぞ! 俺はお前を返り討ちにしてこの世界で生き続ける!! 地球滅亡の危機? 知った事か!! 今の俺は日本人じゃねー! 俺はハンス=ビストリツァ=ドルクジルヴァニア! ギルド<明星の(アシェイン)>のギルドマスターだ!! この世界で仲間とともにこれからも生きていくんだ!! だからカイト、お前を倒す!!」


 そう叫んだハンスに対して、こちらもレーザーの刃の出力をあげ、シャイニングブレードに変化させ構えると。


 「あぁ、その覚悟しかと受け取った!! いくぞハンス!!」


 こちらも気合いを入れて叫び、ハンスに向かってシャイニングブレードを振り下ろす。

 同じくハンスも2本の短刀を素早く振るってきた。


 「「勝つのは俺だ!!」」


 異世界渡航者と異世界転生者の戦いが今幕を開けた。

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