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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
14章:討伐クエストをこなそう!

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カイト/ハンスvsヤーグベルト(12)

 神を自称するスプルからアビリティーユニットの強化アイテムであるプロトアブソーブ・コネクターを受け取り、ヤーグベルト打倒を宣言したまでは良かったが、ここである問題が発生する。それは……


 (これ一体どうやって使うんだ? 皆目見当がつかん!)


 アビリティーユニットの強化アイテムだというプロトアブソーブ・コネクター。しかし、どこをどう見てもこれはなんだ? と首をひねってしまう代物だった。

 全体を見る限りはただの四角い黒い箱だ。

 そして、表面には何か蓋やカバーを開けたりだとかするようなギミックは見当たらない。

 本当に何の変哲もない、ただの小さな箱なのだが、これを一体どうしろというのだろうか?


 第一印象はハンディーチェーンソーやレシプロソーといった電動工具に取り付ける互換性のあるリチウムイオン電池バッテリーなのだが、まさか本当に互換バッテリーじゃないだろうな?

 そう思っているとスプルが小馬鹿にしたように鼻で笑い声をかけてきた。


 「どうした? ひょっとして使い方がわからないのか?」


 そんなスプルを思わずジト目で睨んでしまう。


 「いや、わからないのかって……普通、こんな四角い箱だけ渡されても、どう使えばいいかなんて常人にはわかるわけないだろ」


 そう言うとスプルはやれやれと言わんばかりのジャスチャーを取った後。


 「いちいち口で説明しないと理解できないとは……呆れて物が言えんな?」


 そんな事を言ってきた。

 こいつ、カグ以上にムカツク奴だな?


 「だったらトリセツくらい一緒に渡せ」

 「説明書ね……そんな物を添えるほど複雑なものじゃない」


 スプルは小馬鹿にしたような口調でそう言うとプロトアブソーブ・コネクターを指差して説明をはじめた。


 「そいつの上部に突起した2本のレールがあるだろ?」

 「ん? 上部と言われても、どこが真正面でどこか底か上部かわからんが……ってこれか」

 「あぁ、そいつだ。そしてアビリティーユニットの、グリップの底も見て見ろ。2本のレールを差し込めるような窪みがあるはずだ」


 スプルに言われてアビリティーユニットの底の部分を見て見る。

 すると、スプルの言うようにプロトアブソーブ・コネクターの上部にあるレールを差し込めるような窪みが確かに存在した。


 へぇ~こんなのがあったのか、全然気がつかなかった……

 というか、何気にアビリティーユニットの底の部分をはじめてじっくり見た気がする。


 「つまり、この窪みにこいつを差し込めばいいのか?」

 「あぁ、そうだ。どうだ? この程度の事に説明書などいらないだろ?」


 そう小馬鹿にしたように言うスプルに苛っときたが、今はこの神を自称するユニット開発者に突っかかっても仕方がない。

 戦う敵を間違えてはいけない。今倒すべき相手はヤーグベルトだ。


 「っち……そうだな、ご教授どうも助かりました」


 なので、そう嫌みったらしくスプルに言ってからプロトアブソーブ・コネクターをアビリティーユニットの底に取り付けようとしたところでスプルが。


 「あぁ、そうそう。ひとつ言うのを忘れていたが、プロトアブソーブ・コネクターを取り付ける前にまずは側面のスイッチを押して起動しないと意味がないぞ?」


 そんな事を言ってきた。

 なるほど、確かにプロトアブソーブ・コネクターの側面にはスイッチらしきものがあった。


 しかしこいつ、このタイミングでそれを言うか?

 カグもそうだが、本当にこいつ手助けする気あるのだろうか?


 「おい、そういう事はもっと早く言え」


 スプルへの不信感が募り、ジト目で睨みなら言うと、スプルは小馬鹿にしたように笑って。


 「まぁ、そうだな……だが、これでもう扱い方がわからないと嘆くこともないだろう。思う存分暴れてデータの提供に勤しんでくれ。それがGX-A03の適合者(まるさん)、君自身を助ける事になる」


 そう言うと踵を返し、こちらに背中を向けた状態で手を振りながらどこかへと去って行き、すぐにその姿が見えなくなった。

 そんなスプルが去って行った方角をしばらく呆気にとられて見ていたが。


 「はぁ……ったく、神を自称する連中は皆あぁなのかよ」


 思わずため息をつきながら愚痴をこぼしてしまったが、今は去って行った自称神の事を考えていても仕方がない。

 そう、やるべき事はただひとつだ。


 「さて、そろそろこの戦いに決着をつけようか」


 そう呟いてプロトアブソーブ・コネクターを握る手に力をこめた。




 ヤーグベルトは自身に降りかかった異変に困惑していた。


 ジムクベルトの肉体を修復して一体化したはずの自分が。

 その肉体の調整役として選んだ生け贄らから異能を取り上げ、絶対的な優位に立ってはずの自分が。

 どういうわけか、何らかの力に行動する事を阻まれていたのだ。


 (おかしい! 絶対におかしい!! この場において、この空間を支配しているのは紛れもなくヤーグベルトたるわしの肉体のはず!! なのに、なぜわしが動きを封じられている? まだこの肉体に馴染めていないとはいえ、こんな事はあってはならない!! そう、あってはならないのだ!!)


 ヤーグベルトはそう思いながらも、まったく動かない体に焦りを感じていた。

 とはいえ、動いていないのは自身の体だけではない。

 観察できる範囲では、生け贄に選んだユニオンの若造2人の動きも止まっている。


 つまりは、この空間全体の時間の流れが止められているのだ。

 では、なぜヤーグベルトはそれを観測し、思考を巡らせる事ができるのか?

 それはジムクベルトの肉体と融合したおかげであろう。


 ヤーグベルトとなった事で、時間の流れを止められて動く事ができなくても、何が起きたか察知できているのだ。

 だからこそ、同時に恐ろしいまでの、とてつもないプレッシャーも感じていた。


 (なんだ? さきほどから感じているこの身の毛もよだつような感覚は? 一体何がこの空間に降臨したというのだ? 観測できる範囲では時間が静止して、何も起っていないはずのこの空間に何が……)


 ジムクベルトの肉体を手にしてから感じる事がなかった恐怖をヤーグベルトは今、初めて感じていた。

 時間の流れが止まっているため、そのような現象は起きないのだが、冷や汗が頬を伝うような緊張を覚えた時だった。

 止まっていた時間の流れが動き出した。


 ヤーグベルトはゆっくりとした動作で手足の可動を確認し、そしてそのまま肉体の調整役として選んだ生け贄2人へと視線を向ける。

 すると……


 「っ!!」


 これまで圧倒的優位に立っていたはずのヤーグベルトが一歩後退った。


 「な、なんだあれは!?」


 ヤーグベルトは思わず驚愕の表情を浮かべた。

 何せ肉体の調整役として選んだ生け贄のうちの1人、その者が手にしている小さな箱のようなものから、今まで感じた事がないような強大な力が発せられていたからだ。


 しかも、その圧倒的なまでのプレッシャーを放つ何かを奴はさきほどまで持っていなかったはずなのである。

 一体どこからそれを取り出したのだろうか?

 まさか、さきほど時間が静止していた時に感じたとてつもないプレッシャーの正体はあれなのか?


 思わずヤーグベルトは尋ねていた。


 「な、なんだそれは!? 貴様! それは一体何なんだ!!」


 この問いに、彼はヤーグベルトにその小さな箱を見せつけながら言い放つ。


 「……これか? これはプロトアブソーブ・コネクター。神を自称する男からもらった強化・拡張パーツだよ!」




 慌てふためいているヤーグベルトに言い放った後、スプルに言われた通りプロトアブソーブ・コネクター側面のボタンを押す。

 するとプロトアブソーブ・コネクターが起動し、四角い箱全体が虹色に輝き『Start setup』と音声が発せられた。


 直後、プロトアブソーブ・コネクターを手にする自身を中心地として、周囲一帯に波紋が広がっていく。

 その波紋はまるで、ヤーグベルト優位の空間を自分優位の空間へと書き換えるように、地面の色や空間全体の色彩を真っ青で明るいものへと塗り替えた。


 見渡せる限り、水平線の彼方まで書き換わったその空間をちらっと眺めてから、左手にプロトアブソーブ・コネクターを持ち、右手にアビリティーチェッカーが装着された状態のアビリティーユニットを持って一度大きく深呼吸する。

 そして、プロトアブソーブ・コネクターを勢いよくアビリティーチェッカーの底へと取り付け、アビリティーユニットのボタンを押した。

 するとアビリティーチェッカーから音声が発せられ、空間全体に響き渡る。


 『absorb connect』


 それと同時に、自分の周囲に透明で巨大なブロックがいくつも降り注ぎ、やがてそれらは自分を閉じ込めるようにドーム状に積み上がっていき、その中に自分を閉じ込めた。




 「ここは……」


 ここは透明で巨大なブロックが積み上がってできたドームの中。

 しかし、透明だったはずのブロックの内側からでは、なぜか景色が歪んで外の様子は確認できない。

 その一方で、自分の目の前には巨大なモニターが投影されていた。


 その投影された巨大なモニターにはこのような文字が浮かんでいる。




 ・以下の機能を使用できます。使用する機能をタッチしてください。


 ■能力リミッター解除モード

  これまで奪い、獲得してきた異能にかけられていた保護フィルターを取り払い、制限を解除できます。

  これにより異能を奪った時点での能力上限値に縛られず、異能本来の能力上限値を最大限発揮する事ができます。

 ■混種能力・疑似再現モード

  これまでに解放し、使用可能になった混種能力を威力は少し劣りますが反動なしで使用できるようになります。

  ※こちらの機能は現在開発中のため、本製品では使用できません。




 これを見て、思わず混種能力のほうが欲しかったのにと舌打ちしてしまうが、それでも十分すぎるチート性能であった。

 これまで奪ってきた能力を本来の上限値で発揮できる? なんだそれ! リミッター解除モードやばすぎだろ!


 そう思って能力リミッター解除モードをタッチする。

 というか、これしか使用できないのだから選択のしようがない。


 能力リミッター解除モードをタッチすると、今度は目の前に今まで奪ってきた能力すべてのエンブレムが投影され、モニターに新たな文言が表示される。

 そこにはこう書かれていた。




 ・リミッターを解除する能力を3つ選択してください。

  ※本製品では最大で3つまでしか能力を選ぶ事ができません。




 「は? 3つしか選択できないのかよ!」


 思わず口に出してしまったが、所詮は試作品、期待するのが間違いなのだ。

 とはいえ、3つ選択できるだけでも十分ありがたい、なので迷わずエンブレムをタッチしていく。

 するとモニターにタッチしたエンブレムが大きく表示され、これで問題ないか? との確認画面が表示された。


 「あぁ、問題ねぇ! これで完璧だ!」


 ここで迷って別の能力に変更する事もないので、構わず「はい」の選択肢をタッチする。

 するとモニターに大きくこう表示された。




 ・能力リミッター解除モード「タイムリープ」「魔法」「補助」を実行します。




 それを確認した直後、透明で巨大なブロックで作られた空間が崩壊し、周囲一帯に衝撃波を撒き散らした。


 「おわ!?」


 近くで声が聞こえたと思ったらハンスがさきほどの衝撃波で数メートルほど飛ばされていた。

 ヤーグベルトのほうを向けば、さきほどの衝撃波で飛ばされそうになったのか、必死で踏ん張りながら驚愕の表情を浮かべてこちらを見ていた。


 そんなヤーグベルトの反応を見てから、手にしているプロトアブソーブ・コネクターとアビリティーチャッカーが装着されたアビリティーユニットに目を落として思わずニヤリとしてしまった。


 (なるほど……確かに、今までとはまるで違うな……そう、まったく負ける気がしねー!)


 そして視線をヤーグベルトに向けたままハンスの元まで歩いて行く、そして倒れているハンスに声をかけた。


 「ハンス、まだ戦えるか?」


 するとハンスは何とかズタボロの体を必死で起こそうとするが、しかし起き上がれない。

 そして、無理して起き上がろうとしたせいで体中から血が噴き出し、再び地面に倒れ込んでしまった。

 そんな自身の状態に諦めがついたのか、乾いた笑みを浮かべると。


 「いや……ダメだな……体がもう動かない……だからあとは任せた。何だかわからないが、そっちは復活したみたいだしな? ……頼んだぜカイト」


 そう言ってきた。

 そんなハンスを見てやれやれとため息をつくと。


 「ったく、勝手に俺に押しつけて休もうとするな。安心しろ、今回復してやる」


 そう言ってハンスに向かって左手をかざした。

 そんな自分を見てハンスは怪訝な表情を浮かべる。


 「……は? カイト何を言って? ……もう万能薬は使い切ったはずじゃ?」

 「あぁ、そうだな。万能薬改はもうない、だから治癒魔法でお前を治す」

 「へ? カイト……な、何を言って? ……治癒魔法? 異能は封じられてるはずじゃ」


 ハンスのその問いに答えず、治癒魔法をハンスと一様自分にもかけた。


 「ヒール」


 自分とハンスの体が眩しい光に包まれて、負った傷と体力が癒えた。

 治癒魔法によって復活したハンスは驚きながら起き上がり、問題なく動ける事を確認する。


 「ま、マジかよ! カイト、一体どうやって!?」


 信じられないといった表情のハンスに何か言おうとした時だった。

 自分が治癒魔法を使う様子を見ていたヤーグベルトが怒り叫んでくる。


 「ば、バカな!! そんな事があってたまるか!! 治癒魔法だと!? ありえん!! 断じてありえん!! 貴様らの異能は封じた!! そう封じたのだ!! なのに何故治癒魔法が使える!? 貴様!! 一体何をした!!」


 そんなヤーグベルトを鼻で笑い、こう言い放った。


 「何、簡単な事だ。てめーに異能を封じられる前まで巻き戻したんだよ、時間をな」


 そう言って手にしているアビリティーユニットに装着したアビリティーチェッカーを見せつけた。

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