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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
14章:討伐クエストをこなそう!

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カイト/ハンスvsヤーグベルト(10)

 曾祖父は曾祖母の写真に視線を向けたまま、しばらく無言であった。

 そんな曾祖父に合わせるように、自分も仏間の方に視線を向けていたが、やがて曾祖父が自分の頭を優しく撫でると。


 「カイト、わしのかわいいひ孫よ……日本は戦争に負けてしまったが、今の世は平和じゃ。だからこそ、カイトにはわしのような思いはしてほしくないの」


 そう言って立ち上がり、自室へと戻って行ってしまった。

 そんな曾祖父の背中は、どこか寂しそうに当時の幼かった自分には見えた。




 あの戦争を経験した世代はいくつかのタイプに分れる。


 当時の大本営のプロパガンダを信じ、自分たちは正義の行いをしたのだと語る者。

 これは階級が高かった将校や指導する立場にあった者などに多いのだが、戦争を肯定し、自分たちは間違っていなかった、あれはアジアの独立、民族解放のためのだった。侵略戦争ではなく自衛戦争だったと主張する肯定タイプ。


 戦争を嫌悪し、当時の軍部や政府を批判し、自らの戦争体験を語る際、上層部や上官からの仕打ちがいかに理不尽だったか。自分の従軍した部隊が戦地でいかに残虐で野蛮な行為を行ったかを、時には他人から伝え聞いた他の部隊の話も交えて語る反戦タイプ。


 そして、その体験を他人に一切語らず、口を閉ざすタイプ。


 主なタイプはこれらである。

 そして、曾祖父は恐らくは口を閉ざすタイプであった。

 なぜならば、自分が曾祖父の口から戦争体験を聞いたのが、あれが最初で最後だったからだ。


 あれ以降、曾祖父が自分に戦争について語った事はなく、弟も、ましてや母も曾祖父から戦争の話は聞かされていないのだ。

 祖父や祖母はどうだったのかはわからないが、何にせよ、曾祖父は自身の戦争体験の多くを語り継ぐ事なく数年前に他界してしまった。


 そんな曾祖父が、唯一語った戦争体験。

 なぜ、自分にあんな事を語ったのか?

 かわいいひ孫にドン引きされてまで、見せたくもなかったであろう、自らの体に刻みついて消えない戦争の爪痕を晒してまで……


 それは考えるまでもなく、自分に同じ体験をしてほしくなかったからだろう。

 語らないよりは語ったほうがその道に自分が進むことはないと思ったからだろう。

 だからこそ、恐怖心を与えるように、その傷跡をさらけ出したのだろう。


 とはいえ、いざ語り聞かせると、予想以上に自分自身への精神的ダメージが大きかったのだ。

 きっと辛かった日々や亡くなった曾祖母の事を思いだしてひどく堪えたのだ。

 だからあれ以降、戦争について口を開くことはなかったのだろう。


 そういう意味では、自分がこれからする事は、そんな曾祖父の思いを踏みにじる事になるかもしれない……

 それでも、ここを切り抜けなければ未来はない。

 だから心の中で亡くなった曾祖父へと感謝と謝罪を述べる。


 (感謝するよひいじいちゃん、あの時、あの話をしてくれて……おかげでまだ首の皮一枚つなげられる! まだ戦える! そしてごめん……きっとひいじいちゃんはこんな事は望んではいないと思うけど、でも……こうでもしなきゃ、この先には進めない!)


 あの時、曾祖父は絶対に生きて帰ると誓って自らの脚を撃ったと言って曾祖母の遺影へと視線を移した。

 きっと脚を撃った時、曾祖母の事を思いだしていたのだろう。

 だから曾祖母の元に生きて帰ると誓ったのだろう。

 それが曾祖父の活力だったのだ。


 では自分はどうだろうか?

 自分にはそういった生きて帰ると誓える、活力になる存在はいるだろうか?

 これは考えるまでもないだろう……


 それはこの旅の目的、使命でもあるジムクベルトに破壊される前の地球だろうか?

 否、自分はそこまで人類のため、地球を救うためと意気込んでいる人間ではない。

 では何か? それは……


 (フミコ……)


 そう、真っ先に頭に浮かんだのは彼女だった。


 もし、自分がここで死ねば彼女をひとりにしてしまう。

 孤独にしてしまう。それだけは絶対にしてはダメだと思った。


 本来なら彼女は弥生時代に亡くなっている。

 記録にも残っていない、発見されてもいない日本のどこかの遺跡の下で今も眠っているはずの故人なのだ。

 そんな彼女を自分が疑似世界で存在を確定させ、無理矢理起こしてしまった。

 彼女が本来なら生きているはずのない、知るはずのない、体験するはずのない時代に、世界に、強引に存在させてしまった。


 いうなれば彼女は転生者でも転移者でも召喚者でもなく、死人でも現世を生きる者でもない、あやふやな存在なのだ。

 自分がここで死ねば、そんな彼女をこの世界に、次元に、無責任に放置する事になってしまう。


 それだけは絶対に避けなければならない。

 自分には彼女を目覚めさせた責任を追う義務があるのだ。


 しかし、本当にそうだろうか?

 ただの義務感から、自分はフミコの元に帰らなければと思っているのだろうか?


 それは違う……自分は確かに、精神世界で偽物のニギハヤヒと戦う直前にフミコにかけた言葉を覚えていない。

 それでも、今この瞬間なら彼女にあの時何を言ったのかわかる気がした。


 そう、自分はフミコの事が……




 ヤーグベルトが放った巨大な空気の衝撃波の壁は目前まで迫っていた。

 いまだに体は動かないが、それでも頭は至って冷静であった。

 焦ることなく、アビリティーユニットに銃身とアビリティーチェッカーを慎重にセットして投影されたエンブレムをタッチする。

 すると、アビリティーユニットが機関拳銃(マシンピストル)のMini UZIへと姿を変えた。


 そのMini UZIを手にして、小さく深呼吸をする。


 (今扱える銃の中で最も弾丸の口径が小さく、威力が弱いのはこいつだ。とはいえ、威力が弱いと言っても機関拳銃(マシンピストル)……気を抜くと何十発と一瞬で撃ちだしてしまう。だから慎重にいかないと……撃つのは1発だけでいいんだから)


 そして、手にしたMini UZIの銃口をゆっくりと左脚のある箇所に押しつける。

 それは10年前の夏休みに亡き曾祖父が幼い頃の自分に見せてくれた銃痕の位置とまったく同じであった。


 しかし、銃口をつきつけても手が震える。

 そんな自分自身を鼓舞するように叫んで引き金を引いた。


 「今更怖じ気づいてるんじゃねーぞ!! これくらい、ひいじいちゃんに比べたら大した事ねぇ!! 気合い入れやがれ俺!! うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 空間に銃声が響き渡った。

 巨大な空気の衝撃波が迫る中、血が地面に飛び散る。


 「がぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 あまりの激痛に意識が飛びそうになるが、だがおかげで反射的に体は起き上がった。

 その事にヤーグベルトもハンスも驚き目を見張る。


 「は!?」

 「な、何をしてやがんだあいつ!?」


 そんな彼らの反応など気にせず、次の行動へと移る。

 起き上がれたところで、目の前に死が迫ってきてるのには変わりがないのだ。

 なので、Mini UZIをパージし、新たに91式携帯地対空誘導弾SAM-2Bへと姿を変えて肩に担ぐ。


 「さて……うまくいくかはわからねーが、何とかなってくれよ!!」


 そして、迫る巨大な空気の衝撃波に向かってミサイルを放った。

 発射したミサイルはそのまま巨大な空気の衝撃波にぶつかり爆発する。

 すると、その爆風が巨大な空気の衝撃波の真ん中に、小さな穴を作りだした。


 とはいえ、それは爆風が消え去っていくのと同時にすぐに塞がっていく。

 そんな小さな穴に向かってSAM-2Bをパージし、全速力で駆け出した。


 「うぉぉぉぉぉ!!! このチャンス逃してたまるか!!」


 叫んで気合いで駆けるが、やはり自ら撃った左脚が大きく痛む。

 しかし、不思議と駆ける速度は落ちなかった。

 これが火事場の馬鹿力というやつだろうか? それとも気合いと根性の精神力だろうか?


 何にせよ、小さな穴が塞ぎきる前にそこを通過して、巨大な空気の衝撃波をすり抜けた。

 そんな自分をヤーグベルトは信じられないといった顔で見ていたが、すぐにハンスが短刀を自分の近くに投擲して紐を引いて飛翔してくる。

 そして、自分の元までやってくると右手で自分の腰を掴んでそのまま回収し、少し離れた場所まで移動した。


 ハンスは着地する際に、自分の左脚に注意しながら慎重に着地してくれたが、それでも左脚からは多少の血が飛び散った。

 思わず激痛に顔をしかめてしまうが、そんな自分にハンスは自身が着ている服の一部を強引に破るとそれを包帯変わりにして自分の左脚に巻き付けてきた。


 「ハンス、すまねー」

 「ったく無理しすぎだ、バカかよ? 自分の脚を撃つって何考えてんだ、もう回復手段はないんだろ? それなのに」

「あぁ、そうだな……だからあれは一回きりの荒技だな!」


 そう言ってサムズアップしてみせると、ハンスは呆れた顔になった。


 「そういう事を言ってんじゃなくてだな……」

 「わかってるよ、いのちだいじにだろ? 傷の手当てサンキューな!」


 ハンスに左脚を破った服で巻いてくれた事に感謝を述べ、アビリティーユニットを手にしてヤーグベルトのほうを向く。

 ヤーグベルトはそんな自分を見て小馬鹿にしたように笑うと。


 「いやー、まったくさっきのは驚いたぞ? うむ、実に驚いた! しかし、自分の脚を自分で撃つとはどうかしてるな? 気でも狂ったか?」


 そう口にするが、そんなヤーグベルトにこう言い返した。


 「気でも狂ったかだと? 笑わせんな! いたって正常だクソッタレ!! ひいじいちゃん直伝、帝国陸軍仕込みの緊急対処法だ! 大和魂、舐めんなコラ!!」


 その言葉にヤーグベルトは呆れたと言わんばかりの表情になると。


 「自分の脚を撃ち抜く緊急対処法のどこか正常なんだ? どんなイカレた軍隊だそれ?」


 そう言ってくる。

 何とも言い返せないのが辛いところだが気にする事はない、何せ自分もそう思うからだ。

 なので。


 「黙れクソッタレ、今からその口に一発かましてやるからちょっと待ってろ!!」


 そう言ってアビリティーユニットからレーザーの刃を出して構えた。

 それを見てハンスも短刀を構える。


 そんな自分とハンスを見てヤーグベルトが楽しそうに笑った。


 「おいおい、さっきの攻撃を凌いだとはいえ、貴様が満身創痍には変わりないぞ? そんな状態で一体何をするっていうんだ? くく……滑稽、実に滑稽だ!!」


 余裕のヤーグベルトを見て思わず舌打ちしてしまうが、確かに現状ではヤーグベルトの優位に変化はないだろう。

 何せ、こちらが現状を打破する何かを手にしたわけではないのだから……

 だが、それでも、まだ動ける限り可能性はある。


 そう思っているとハンスが声をかけてきた。


 「なぁ、カイト……何か策があるのか?」

 「ん? そうだな……策ってほどでもないが、前みたいに俺をやつの元まで届けてくれないか?」

 「は? 何をする気だ?」

 「まぁ……至近距離での銃撃かな?」

 「それは、前にやった時に」

 「あぁ、効かなかったな……いや、何かしらダメージは与えたんだろうけど、大ダメージってほどじゃない」

 「だったら……」

 「けど、現状じゃ、あの戦法が一番ダメージを与えられる。そして、そこに賭ける以外に俺たちに手はない」


 そう言うと、ハンスは一瞬迷った表情をしたが、すぐに頷くと。


 「わかった。それに賭けよう」


 承諾した。


 「おーけー! 判断が早くて助かる」


 なのでこちらもレーザーの刃をしまって準備に入る。

 そんな自分の腰に手を回してハンスが短刀をヤーグベルトに向かって投擲し叫んだ。


 「よし!! それじゃ行くぞ!!」

 「あぁ、頼んだ!!」


 直後、ハンスが短刀に結んだ紐を引いて、一気にヤーグベルトに向かって突撃を開始する。

 そんな真正面から突っ込んでくる自分とハンスを見てヤーグベルトが鼻で笑う。


 「何を仕掛けてくるかと思ったら、いよいよ策がなくなって突っ込む事しか考えられなくなったか?」


 そんなヤーグベルトに向かって自分とハンスは最短距離で真正面へと一気に突っ込んでいく。

 そして……


 「ハンスいまだ!! 前みたいに俺をやつの元へと投げつけてお前は離脱しろ!!」

 「は!? ここまできて何を!? 俺も……」

 「いいから!!」

 「っち!! わかったよ!! くそ!! そこまで言うなら何かしら戦果をあげてこいよ!!」


 ハンスは叫んで自分をヤーグベルトに向かって投げつける。


 「いっけぇぇぇぇぇぇ!!! カイトぉぉぉぉぉぉ!!!」

 「あぁ!! まかせろ!!」


 猛スピードでヤーグベルトに突っ込んでいく中、アビリティーユニットをOrigin-12へと変化させて構える。


 「ふははは!! いいぞ!! 実にいい!! 飛んで火に入る夏の虫だ!! 焼き殺してやる!!」


 そんな自分を見てヤーグベルトは愉快そうに笑うと炎弾を吐き出すべく口を大きく開けるが、そんな口元に向かってバックショットを撃ち込む。

 大きく開けた口の中に散弾をくらい、ヤーグベルトは一瞬ふらつく。


 その隙にスラッグショットへとマガジンを替え、狙いを右手首へと定め銃撃する。

 放たれたスラッグショットは右手首に直撃し、ヤーグベルトは悲痛な叫びをあげた。

 だが、大ダメージを与えたわけではない。


 ここまでは以前と同じだ。

 だから……


 「お土産だ!! じっくり堪能しやがれクソッタレが!!」


 ヤーグベルトの頭上を通過する際にベルトに取り付けた専用ポーチから手榴弾を取り出して素早く安全ピンを歯で噛んで引き抜き、ヤーグベルトの右手首付近に向かって投げつける。

 それは、フェイクシティーで今と同じように異能が使用できない状況で、ゴブリンたちと戦った時に使用したM67破片手榴弾のうち、使わなかった余り物だ。


 それがヤーグベルトの右手首に落ち、そして大爆発を起こした。


 「ぐおぉぉぉぉぉぉ!?」


 手榴弾を使用する際には自身も爆発に巻き込まれないよう、遮蔽物に隠れる必要があるが、この何もない空間でそれを見つけるのは難しい。というか、そんな都合のいい地形はない。

 だが、ヤーグベルト自身が遮蔽物となってくれるなら話は別だ。


 ハンスに投げ飛ばしてもらい、通過する途中で手榴弾を投げつけ、ヤーグベルトの背後に落下という形で地面に激突すれば、爆発には巻き込まれない。

 結果、地面に叩きつけられて激痛に苛まれながら地面を転がっている時に手榴弾は爆発したが、ヤーグベルトのおかげで自分は爆発には巻き込まれなかった。


 とはいえ、地面に激突した激痛には苛まれるのだが……


 何にせよ、攻撃は成功したようだ。

 爆発を受けてヤーグベルトは体から煙をあげながらその場に倒れるとまではいかなかったものの、片膝をついたのだ。

 それを見て、激痛に顔を歪めながらも言い放つ。


 「ざまぁみろ、クソッタレが!!」

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