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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
14章:討伐クエストをこなそう!

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カイト/ハンスvsヤーグベルト(7)

 「うおぉぉぉぉぉぉ!!」


 ヤーグベルトの右手首に照準を合わせ、引き金を引く。

 耳をつんざくような爆音と共に弾丸が発射され、大きな反動が銃底を当てている肩に襲いかかってくる。

 それと同時に空薬莢が排出され、次なる射撃の準備が整う。

 なので躊躇うことなく引き金を引き、銃撃を続ける。


 今使用しているのはゲパードGM6 Lynx .50 BMG。連射可能な対物ライフルだ。

 そして、自分がゲパードGM6 Lynx .50 BMGを構えて撃っている場所はヤーグベルトの頭上……上空である。


 そう、今自分は地に足がついた状態ではないのだ。

 一体どういう事なのか? と思うかもしれないか 、簡単に言うとハンスに抱えられて飛翔している状態なのである。


 ハンスが2本の短刀をヤーグベルトのすぐ近くの地面に投擲して突き刺し、2本の短刀を繋いでいる紐の長さを短くする事で一気にヤーグベルトの近くまで猛スピードで移動する。

 が、ヤーグベルトの近くまでくると地面に突き刺した2本の短刀のうち、1本を引き抜いて別の場所へと投擲して突き刺す。


 別の場所に突き刺さったのを確認すると、もう1本も引き抜いて今度は新たに突き刺した短刀に向かうべく紐の長さを短くしていく。

 そして、そこに近づくと今度は先程引き抜いた短刀を別の場所に投擲して地面に突き刺し、次はそこへと移動するように紐の長さを変え、今まさに近づこうとしていた短刀を引き抜き、それをまた新たな場所へと投擲する。


 先程からこの動作を繰り返し、ヤーグベルトの周囲を飛び回っているのだ。

 それは一見すれば森の中をロープで縦横無尽に飛び交うターザン。もしくは進○の○人に登場する立○起動○置による空中移動のようであった。


 そんな空中移動を行うハンスに抱えられる形で自分は高速で移動する上空からヤーグベルトに向かって銃撃を浴びせているのである。

 とはいえ、実際のところは見た目は酷いものである。


 何せ、ハンスとしても人ひとりを抱えたまま、地面に着地せず、ずっと飛び続ける行為は初めてなのだ。

 そのため、バランスを取るのにかなり苦労しており、時折墜落しそうになる事があった。

 さきほども、低空飛行になりすぎて危うく地面に叩きつけられそうになり、心臓が止まるかと思ってしまったほどだ。


 「お!! 落ちるぅぅぅ!!! ハンス!! もっと高度上げろ!!」

 「おっと危ない!! すまないカイト、今なんとか持ち直す!!」


 ハンスが叫んで必死に持ち直そうとするが、こちらはそれをただ黙って見ているわけにはいかない。

 何せ、今にも地面に足がつきそうになっているのだ。

 当然、高速で空中を移動している最中に少しでも足が地面に触れればそのまま体を持って行かれて墜落するに決まっている。


 なので必死でハンスの体にしがみつく。

 とはいえ、そんな事をするとハンスの体にかかる負担が増えて、より一層持ち直すのが困難になるため、ハンスは。


 「こらカイト!! 気持ちはわかるが今はくっつくな!! 地面に足や体がつかないようにだけ気をつけてろ!!」


 そう叫ぶが、知った事か!!

 こっちは命がかかってるんだ!! 必死でしがみつかせてもらうぞ!!


 「んな事わかってるよ!! わかってるけど、この状況でんな事言うな!!」


 地面すれすれを男二人が必死に抱き合いながら、くんつほぐれつ高速移動していくという野獣先輩もビックリなまさに地獄絵図……そんな光景、誰が見たいだろうか?

 いや、一部の界隈には受けるかもしれないな……時にこの場にソラあたりがいたら涎を垂らして眼福とか言いながら筆を走らせたかもしれない。


 そんな事を考えているうちに高度は上昇していき、なんとか墜落の危機は脱したようだ。

 思わず安堵の息をもらすと、ハンスも同じくふぅと安堵の息をもらし。


 「危なかった……次は気をつけないとな、少し調整を誤ったか?」


 そうつぶやく。

 それを聞いて、思わずハンスに声を荒げてしまった。


 「危なかったじゃねーよハンス!! 死にかけたぞマジで!!」


 だが、その言葉にハンスも反論する。


 「悪い悪い! てか、それを言うならこっちもだぞカイト!! あの場面であんなに抱きついてくるな!! あんなの普通に制御不能になるに決まってるだろ!! もっと冷静になれ!!」

 「じゃあお前は立場が逆の時、本当に冷静になれるのか!?」

 「それは……まぁ、無理だろうな」

 「おい!! ハンス、お前も無理なんじゃないか!!」


 そう怒鳴るとハンスは話題を逸らすように本来の目的へと話を軌道修正させてくる。


 「いいから!!カイトはとにかく今は攻撃に集中してくれ!! 俺はこうして移動で手一杯なんだから、カイトしかあいつを攻撃できないんだぞ!」

 「言われなくてもわかってるよ!! あぁくそ!! あのやろう、少しはダメージをくらいやがれってんだ!!」


 文句を垂れながらも銃撃を続ける。

 だが、ゲパードGM6 Lynx .50 BMGが放つ強力な12.7mm×99弾は一向にヤーグベルトに届いてはいなかった。

 なぜならば、ヤーグベルトの周囲には透明の薄い膜のような結界が展開しており、それによって銃撃が阻まれているからだ。


 戦闘が始まった当初のヤーグベルトは口から炎弾を放ったり、溜め込んだオーラを解き放つなどの異能は見せていたが、基本的には地面に潜らせた尻尾で攻撃してきたり、腰から無数に生えた触手を伸ばして攻撃してきたり、それらを上空から飛ばしてきたり、肩や腕や背中に生えた無数の棘を伸ばしてムチのように攻撃してきたりと物理攻撃の側面が多かった。


 だが、ある時を境にして、物理攻撃の割合が各段に減り、異能での攻撃が増えだした。

 口から吐く炎弾での攻撃を増やしたり、肩と肘に生えた棘にエネルギーを溜め込んで光らせて、それをこちらに向けてビームのように放ってきたり、地面から飛び出させた尻尾の先から脳を揺さぶるような超音波を発してこちらの動きを鈍化させたりと、攻撃パターンが変わったのだ。


 曰く、これはフェーズ2だという。

 物理攻撃が多かったフェーズ1は、まだウラス・ヨルドがヤーグベルトの体に馴染んでおらず、体を慣らす期間であった。

 そして、ある程度体が馴染んだ……いうなれば準備運動が完了した状態となったので少しずつヤーグベルトの異能を使い始めたのだ。


 なので、ヤーグベルトに異能を使わせないためにハンスと共に空中を常に移動して銃撃を加えるという手段を取ったのだが、結界を展開されている以上はこちらがどれだけ攻撃したところで意味はない。

とはいえ、結界を展開している間はヤーグベルトは他の異能を放ってこないのである。


 それだけが唯一の救いであったが、それもいつまで続くかはわからない。

 それこそフェーズ3に以降すれば、結界を展開しながらでもこちらに攻撃を仕掛けてくるだろう。

 そうなる前に、なんとかあの結界を崩したいところだが、どうにも攻略の糸口が掴めないでいた。


 (くそ!! 対物ライフルじゃダメなのか? しかし、空中で、この距離で、安全で尚且つダメージが見込める火力となればこいつ以外には……ここは一度、賭けに打ってでるか?)


 そう考えて、ゲパードGM6 Lynx .50 BMGでの銃撃を一旦止め、ハンスに声をかける。


 「すまねぇハンス!! ここは博打に出るぞ!! やろうにもっと接近しよう!!」

 「は? カイト、お前何言って!? これ以上近づくとか自殺行為だぞ!?」


 当然、ハンスはこの提案に反対するが。


 「そうでもしなきゃ状況を覆せないだろ? いつまでも、この状況キープできるわけじゃない……だったら踏み込もうぜ!! 至近距離であの結界をぶっ飛ばす!!」

 「……何か策があるのか?」

 「あると言えばあるし……ないと言えばない!」

 「は? なんだそれ? そんなの、全然話に乗る気になれないんだが!?」

 「だろうな? けど、言っただろ? 博打だって……そもそも異能を封じられた状態で、あんなバケモノとまともにやり合える策なんてあるわけないだろ! だから、出たとこ勝負だ!! 違うか?」


 そんなハンスにそう本音をぶつけると、ハンスはニヤリと笑い。


 「まぁ、そうだな……確かに、博打でも何でもしなきゃどうにもならないよな!! わかった、しっかり捕まっとけよ!! 軌道を変えて、一気に突っ込む!!」


 そう言って、短刀を投擲する場所をヤーグベルトの近場に変え、移動する方向を急激に変える。

 一気にヤーグベルトへと迫る中、ゲパードGM6 Lynx .50 BMGをパージし、Origin-12へと変化させて構え、その時を待つ。

 そして、ヤーグベルトが展開する結界が目の前に迫った時に引き金を引いた。


 「おらぁぁぁぁぁぁ!!! これでもくらいやがれ!!」


 結界の直前で放たれたスラッグショットが結界に触れた時、一瞬だが結界に歪みが生じた。


 「カイト!!」

 「わかってる!! いっけぇぇぇぇぇぇ!!!」


 それを見逃さずにスラッグショットを連射すると、結界の一部が消え去ったのだ。

 まさに千載一遇のチャンスである。

 なのでハンスに叫んだ。


 「いまだハンス!! 俺をここからやつに向かって放り投げろ!!」


 その言葉を聞いたハンスは驚き、目を見開く。


 「は!? カイト何言って!? 正気か!? 自殺行為だぞ!!」


 しかし、悠長に説明している暇はない。

 チャンスは一度きりなのだ。

 だから、とにかく急かす。


 「いいから!! チャンスは今しかない!!」

 「あぁ!! もう!! どうなっても知らねーぞ!!」


 ハンスはやけになって叫びながら自分をヤーグベルトに向かって放り投げた。


 「おらぁぁぁぁぁぁ!!! いっけぇぇぇぇぇぇカイト!!!」

 「あぁ!! 任せろハンス!! この好機、絶対に無駄にしねーーーぞ!!」


 ハンスに放り投げられ、一気にヤーグベルトの真正面まで来るとOrigin-12をパージし、XM556(マイクロガン)へと変化させ、空中で構えながらその銃口をヤーグベルトの右手首へと向ける。

 そして……


 「これでもくらいやがれ!! クソッタレがぁぁぁぁぁぁ!!」


 空中から放り投げられ、猛スピードで突っ込む勢いのままXM556(マイクロガン)を射撃し、圧倒的なまでの火力がヤーグベルトの右手首を襲った。


 「こいつ!! がぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 ただでさえ、1分間に数千発の5.56mm弾を吐き出すXM556(マイクロガン)がさらに猛スピードで突っ込んできた状態で放たれたのだ。

 ただ単にXM556(マイクロガン)を撃ったのとはわけが違う。

 さすがのヤーグベルトもたまらず被弾した右手首を庇うような姿勢を取る。


 それを見て、XM556(マイクロガン)を撃ち尽くした後でガッツポーズを取る。


 「っしゃあ!! 思い知ったかクソッタレ!! ざまぁみろ!!」


 そう叫んだ直後、ハンスが横から高速で空中移動してきて自分の腹を抱える形でキャッチし、その場から離れる。

 空中を移動してヤーグベルトから距離を取りながらハンスが声をかけてきた。


 「やるじゃないかカイト!! でもよ肝を冷やしたぞ! まったく」

 「すまないハンス、助かった!!」

 「ったく、こういう策があるなら先に言っといてくれよな?」

 「策があったわけじゃねーよ。言っただろ? 出たとこ勝負だって」


 そう言うとハンスが疑いの眼差しをこちらに向けてくる。

 どうやら、ハンスは自分がこうなるよう作戦を練っていたと勘ぐっているようだ。

 そんな策士じゃねーよ……と言いたかったが、しかしすぐに事態は一変する。


 「まぁ、何にせよ博打は成功したみたいだな? 後は畳みかけて……」


 ハンスが言い終わるより先に、空中移動する先の空間が歪み、そこから無数の触手が飛び出して襲いかかってきた。


 「なっ!? まずい!!カイト、迎撃を!!」

 「ダメだ!! 銃がまだ……」


 今の状態でXM556(マイクロガン)はぶっ放せないし、撃つ準備もできていなかった。

 なので自分とハンスは為す術なく無数の触手に体中を貫かれ、そのまま地面に叩きつけられる。


 「がぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 そして、叩きつけられた勢いのまま数百メートル地面を転がり、全身に傷を負いながらようやく仰向けの状態で体が止まった。


 「が……がはぁ!!」


 血を吐き出し、朦朧とする意識の中、なんとか呼吸を整え、体を転がしうつ伏せの状態となって、なんとか上半身を起こす。

 しかし、全身打撲と無数の触手に体を貫かれた影響で体の至るところから血が噴き出し、激痛で思うように体が動かなかった。

 それでもなんとかウエストポーチに手を伸ばして万能薬改を手に取り、一気に飲み干す。


 「はぁ……はぁ……はぁ……くそ!! 油断した!! 最悪だ!!」


 万能薬改のおかげですぐに傷が癒えた。

 なので、まずはハンスがどこにいるかを探す。

 すると、自分が今いる場所から100メートルほど離れた場所に倒れているハンスを見つけた。


 「おいハンス!! 生きてるか!?」


 なのでまずは意識があるかを確認すると。


 「あ、あぁ……なんとか、無事だ」


 そう返事が返ってきた。

 だが、ハンスが起き上がる気配はない。

 恐らくは重傷を負っているのだろう。


 となれば、すぐに万能薬改を持ってハンスの元に駆けつけないといけないが……


 (今までのパターンから言って、そうするとまた触手か棘の攻撃がくるよな?)


 そう考えて万能薬改を取り出し、ハンスがいる方向に向かって万能薬改の瓶をおもいっきり蹴って転がした。


 「ハンス、受け取れ!!」


 ハンスの方へと勢いよく転がっていく瓶を見ながら、うつ伏せになりアビリティーユニットをスナイパーライフルのマクミラン TAC-50へと変えて構える。

 そしてスコープ越しにヤーグベルトを見据え、ハンスの元に万能薬改が届くまでの間、引き金を引いて牽制の狙撃を行う。


 マクミラン TAC-50から放たれた弾丸は確かにヤーグベルトへと届いた。

 しかし、弾丸が当たるよりも先にヤーグベルトの目の前に空間が波打った結界が現れ、弾丸はその波打った結界の中へと吸い込まれてしまう。


 「何!?」


 スコープ越しにそれを目撃した直後だった。

 うつ伏せの状態でスコープを覗き込みマクミラン TAC-50を構える自分の目の前の空間が波打ち、先程弾丸を吸い込んだ結界が現れたのだ。


 「なっ!?」


 これはまずい! と思い、慌ててマクミラン TAC-50をパージして素早く起き上がってその場から離れようとするが、時すでに遅しであった。

 目の前に現れた空間から、先程自分が狙撃した弾がこちらに向かって、威力そのままに飛び出してきたのだ。


 「がぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 そして、その弾丸は違うことなく、自分の左肩を撃ち抜いた。

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