カイト/ハンスvsヤーグベルト(2)
異能が使えなくなった事に驚く自分達を見て、ヤーグベルトが面白おかしく笑う。
そして自分を見てこう言い放ってきた。
「残念だったな? 何やら警戒してタイムリープ能力は使わないようにしていたようだが、もしタイムリープ能力を使っていれば、あるいは防げたかもな? まぁ、異能を封じた以上、今となっては後の祭りだがな?」
「なっ!! まさかあの時の反応はこういう事だったのか!!」
タイムリープ能力を使う気はないと宣言した時、ウラス・ヨルドの反応がおかしかったが、こういう事だったのか!
つまりは、あの時点でウラス・ヨルドからすれば、タイムリープによる妨害が発生しない事が確定し、確実に現在の状況が作り出せる基盤が生まれていたのだ。
警戒しすぎるあまりに、それが裏目に出てしまった。
自分が招いてしまった失態、まったくもって最悪である。
「こいつはちょっとまずい状況かもな」
冷や汗が頬を伝う。
ハンスから効率よく能力を奪って殺すためにハンスと二人きりのグループを作ったが、それも裏目に出てしまった。
いや、異能を封じられる以上はこの場に何人いても結果は同じだったか?
何にしても、完全ではないとはいえ、ジムクベルトの肉体を持つヤーグベルト相手に、異能を封じられた状態で挑まなければならなくなったのだ。
まったくもって最悪な事態である。
とはいえ、自分はこれまでの旅で転生者・転移者・召喚者たちから異能を奪ってきたが、これは彼らに対して自分が散々行ってきた行為でもある。
そうすると、もしかしたらこれは因果応報というやつなのかもしれない……
そんな事を考えてしまった時だった。
ハンスが手にした2本の短刀の柄を紐で結んで繋ぎ、そして2本のうち1本の短刀を頭上へと投げ放った。
一体何をしだしたのか? と思ったが、直後2本の短刀を繋いだ紐を掴むとそのままブンブン紐をと振り回しはじめる。
そうすると、当然ながら紐で繋がれた短刀は投げ放たれた頭上で大きく回転するが、そうしながらハンスは紐の長さを伸ばしたり縮めたりと調節し、何かを確認していた。
やがてハンスは満足したのか、紐を振り回すのを止め、短刀を手元に引き寄せキャッチすと。
「こっちは問題ない、か」
そう言って短刀を持ち直す。
「ハンス、お前一体何を?」
一体何が問題ないのか? 疑問に思ったのでハンスに尋ねてみる。
するとハンスはニヤリと笑って2本の短刀を繋いだ紐を見せてきた。
「ん? ちょっとした確認だよ」
「確認?」
「そ。この紐、自在に長さを伸ばせるマジックアイテムだって言っただろ?」
「あぁ」
「だから試してみたんだ。異能は封じられたが、アイテムのほうもなのか? って思ってな」
ハンスの言葉を聞いて納得する。
あぁ、だから短刀を繋げた紐をブンブン振り回してたのか!
というか、そうならそうと振り回す前に一声かけてほしいものなんだがな? 危ないだろ!
そんな心の声を押し殺して尋ねる。
「で? 問題ないって事はつまりマジックアイテムは使えるって事なのか?」
「あぁ、この紐は間違いなく効果を発揮した」
「まじか……けどやつはやつ以外が異能を使うのを禁止するって言ったはずだが?」
「確かにな……でもどうやら、その異能を封じたって言うのも、割とガバガバ判定みたいだぜ?」
ハンスの言葉を聞いて、改めてアビリティーチェッカーの液晶画面から投影されたエンブレムをスライドさせていく。
すると確かに、転生者・転移者・召喚者から奪った能力のエンブレムには大きな×マークとロックされていて使用不可の注意書きが表示されているが、それ以外のエンブレムには大きな×マークはついていなかった。
(なるほど……確かに奪った能力以外は使用できるな?)
大きな×マークがついていないエンブレムは銃の各種エンブレムと転生者・転移者・召喚者から能力を奪うエンブレム、ユニットの設定を弄る画面に飛ぶエンブレムだ。
現状ではユニットの設定と転生者・転移者・召喚者から能力を奪う力は意味を成さないが、銃火器を使えるのはありがたい。
元よりアビリティーユニットはマルチウェポンである。
故に銃火器モードは異能判定から外れたのだろう。
ハンスの言う通り、なんともガバガバ判定な気がするが、今は首の皮一枚繋がった気分であった。
そして、マルチウェポンであるアビリティーユニットが銃火器モードを使えるという事は当然、レーザーの刃も使えるはずだ。
そう思ってグリップのボタンを押すと、ブーンという音と共にレーザーの刃が出てきた。
「確かに……異能は封じられたが、マルチウェポンというノーマル機能は生きてるみたいだな」
レーザーの刃を軽く振るって動作を確認し、そしてハンスに目を向ける。
ハンスは2本の短刀を構え直して頷く。
それを見て、こちらもレーザーブレードを構え、ヤーグベルトを見据えた。
「ハンデのつもりか? ヤーグベルト! その余裕が命取りになるぞ?」
「俺たちを舐めた事、後悔させてやるぜ!!」
そんな自分達をヤーグベルトは鼻で笑う。
「あぁ、確かにまだ完全に力を使い切れていないな? まさかマジックアイテムを取りこぼすとは……不覚!! 実に不覚だ!! しかし、だから何だ? そんなアイテムが使えた程度で何ができる?」
これを聞いたハンスは言い返す。
「笑わせんな!! てめーを倒すには十分だろ! それに侮りすぎじゃねーか? この世界じゃ異能を使える人間はほんの一握りだ。ほとんどの人間は異能なんて使えない、それでも異能を使える連中に抗ってるんだ!! 貴族様が恐れる貴族殺しは異能なんて使えないただの平民だぞ? 知らないわけねーよな?」
ハンスの問いかけにヤーグベルトに小さく頷くと。
「貴族殺し、確かにな……だが、貴族殺しと呼ばれる平民どもが殺せるのは結局は貴族までだ。それよりも上……それこそドラゴンなどには歯が立たん。その事もわかっているな?」
そう笑いながら尋ねてくる。
そんなヤーグベルトにハンスは短刀を握る手に力をこめながら言い返す。
「あぁ、わかってるとも……けど、それがどうした? 異能が使えない平民であっても、やり方次第で貴族殺しになるんだ。だったら……たとえ異能を使えなくても、ドラゴンだろうが神だろうが殺せる可能性は十分にあるんだよ!! 異能が、魔法がなければ絶対に抗えないなんて事はない!! それを今から見せてやるよウラス・ヨルド!! いや、ヤーグベルト!!」
力強く言い放ったハンスを見て、思わず口元が緩んでしまった。
まったく……言ってくれるじゃないか!
「あぁ、その通りだハンス! このクソッタレをぶちのめして証明するぞ!! 抗えないものなんてないってな!!」
「当然!! 覚悟しろヤーグベルト!!」
ハンスは姿勢を低くし、紐で繋がれた2本の短刀を構える。
自分もレーザーブレードを構え直しヤーグベルトを睨み付ける。
そんな自分達を見てヤーグベルトは小さく笑うと。
「身の程知らずが……まぁ、活きがいいほうが生け贄としては価値がある。くっく……結構!! 実に結構だ!! さぁ、でははじめようか!! 創世の第一歩を!!」
大きく手を広げて叫んだ。
そんなヤーグベルトに向かってハンスが駆け出していく。
「余裕ぶってられるのも今のうちだぞ、このバケモノが!!」
それを見て、こちらもヤーグベルトに向かって斬りかかっていく。
「クソッタレが!! その体斬り裂いてやる!!」
二人してヤーグベルトに斬りかかっていくが、しかしハンスのスピードはスロル山の麓の宿場町や中腹、山頂で見た時のような目にも止まらぬ速さではなかった。
せいぜい自分より少し速く走っている程度のものだ。
これはやはり、ヤーグベルトに異能を封じられた影響なのだろう。
まだ確定ではないが、つまりはあの異様なスピードはハンス自身の速さではなく、能力による加速だったわけだ。
(この局面でそれがわかったのは収穫だが、けど同時に今の状況であのスピードが使えないのはかなり痛いな)
そう思いながらも、勢いよく地面を蹴ってジャンプし、レーザーブレードを振り上げ、そのまま目一杯ヤーグベルトの頭部に向かってレーザーブレードを振り下ろした。
同じくハンスも両腕を大きく振るって2本の短刀をヤーグベルトの首元へと叩きつける。
そんな自分とハンスの斬撃をヤーグベルトはすっと持ち上げた両腕で受け止めた。
「っち!!」
「クソッタレが!! レーザーの刃の斬撃で切り落せないのかよ!?」
ヤーグベルトは両腕をかるく振るって自分たちの斬撃を弾き返す。
「ふん、軽いな?」
「そうかよ、だったらこいつはどうだ?」
斬撃を弾き返されたハンスは地面を蹴ってヤーグベルトから離れて距離を取るが、離れながらも右手で握っていた短刀をヤーグベルトの腰回りに向かって投擲する。
だが、この投擲はヤーグベルトが体をひねってムチのように振るった尻尾によって弾かれる。
「っち!!」
ハンスは紐を引っ張って弾かれた短刀を手元に引き寄せて回収、新たな攻撃位置へと移動を開始する。
その最中にも紐で繋げた短刀を何回も投擲して攻撃を続けるが、すべて尻尾や腕や肩から生えた鋭利な棘に防がれていた。
やはり目にも止まらぬスピードと属性添付がなければハンスの攻撃力はかなり落ちるようだ。
ならばと、こちらは一旦ヤーグベルトから距離を取り、レーザーの刃を収める。
ヤーグベルトの体が生物の肉体である以上、レーザーの刃ならば金属の刃と違って簡単に切り落せるのではないか?と 期待したが、簡単に弾かれてしまった。
ならば無理に接近戦を仕掛けるのは今はまずい。となれば、遠距離攻撃に専念すべきだろう。
アビリティーユニットにアビリティーチェッカーを取り付け、ライフル銃モード・バトルライフルスタイルのエンブレムをタッチ。
(やろうにどの火器が通じるか未知数だ。だからまずは検証しないと!)
アビリティーユニットがSCAR-Hに変化する。
SCAR-Hを素早く構えてハンスに声をかける。
「ハンス!! 射撃範囲に入ってくるなよ!」
しかし、自分とはヤーグベルトを挟んで反対側を走って移動していたハンスは投擲した短刀を紐を引き寄せて回収しながら慌てた声をあげる。
「は!? いやいやカイト、ちょっと待て!! いきなり何を!?」
しかし、そんなハンスが安全な場所まで逃げるのを待っているわけにはいかない。
そうしてる間にヤーグベルトが何が仕掛けてくるとも限らないのだ。
だから構わず引き金を引く。
安全勧告はちゃんとしたんだ、問題はないだろう。
……たぶん。
「ヤーグベルト!! これでもくらいやがれ!!」
SCAR-Hの銃口から7.62x51mm弾が発射される。
その銃声にハンスが慌てた声をあげた。
「お、おい!! まずは安全確保しろよ!! てか俺、どこまで退避すればって……おい!! だからまだ撃つなよ!! カイトおまえ!!」
ハンスの叫び声は気にせず、ヤーグベルトに向かってひたすらに銃撃を続ける。
だが……
「ふん、効かんな? まったくもって効かん」
ヤーグベルトは軽く腕を持ち上げただけでSCAR-Hの銃撃を防いだ。
「っち!! やっぱバトルライフルじゃ無理か……だったら!!」
SCAR-Hをパージし、次なる銃へと変化させる。
こうしてヤーグベルトに対する有効な銃を探る検証が幕を開けた。




