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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
5章:ロストシヴィライゼーション・コア
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ロストシヴィライゼーション・コア(5)

 眼下で繰り広げられているフミコと次元の迷い子達の戦闘は見ていて驚きのあまり開いた口が塞がらなかった。

 カグは倭国大乱の時代の弥生時人だからと言うが、その一言で片付けていいのか?

 困惑しているとフミコは銅剣二刀流で無双しだした。

 もうフミコ1人にすべて任せていいんじゃないか? ってレベルだ。


 「いや待て! マジでフミコなんであんな強いの?」

 「だから倭国大乱の時代の人間じゃからと何度も」

 「それはわかった! でもフミコはその……女の子だろ? しかも司祭を司る巫女じゃないのか?」

 「まさか巫女は戦闘しないとでも思っとるのか?」

 「違うのか?」

 「中世以降ならともかく、国家黎明期より前の太古の戦乱の時代じゃぞ? 生きるための技術がなくてどうして生き残れる? あの子が生きていたのはそういう時代じゃ」

 「……まじか」


 聞けば聞くほどおっかない時代だな弥生時代って……

 それでも理解しがたい現象がある。


 「じゃあ、あのどこからともなく武器を取り出してるのは何なんだ?」

 「あぁ、あれか。ありゃ呪術の一種じゃろ」

 「いや、だから呪術って何だよ? 異世界の魔法みたいなもんか?」

 「まぁ、似たようなもんじゃの? オカルトの分野に興味があればすぐに気付くじゃろうが、あの子の首飾り。翡翠でできとったじゃろ?」

 「ん? あぁ、そういや緑色の石だったな」

 「翡翠は古代においては貴重で非常に価値の高い代物じゃ。特に呪力を溜め込みやすく重宝されとっての」

 「ほう」

 「あの翡翠の首飾り、高密度の呪力が詰まっとる。一種の呪物(フェティッシュ)じゃの」

 「ふむ……なるほど、さっぱりわからん」


 いきなりオカルト分野のことを言われてもまるで知識がないので、まるっきり頭に入ってこない。

 というか歴史以上に理解できそうにない。

 そのことはカグも察したのだろう、苦笑しながら言う。


 「じゃろうな。まぁ説明の手間を省いて言うならば……あの子の首飾りは核となる勾玉を除いた翡翠の数だけ何かしらの道具を収納でき、任意で取り出しができるということじゃ」

 「まじか!?」


 なるほど、つまりは移動の際は手ぶらで大丈夫と言うことだ。

 ならどれだけ武器や防具を持ちだそうが軽装ですむ。言うなれば歩く武器庫だ。


 とはいえ能力的には雑貨屋の能力に近い気もするが、便利さでは劣るという。

 雑貨屋の能力が登録数に上限がなく、登録した物にもよるが無制限で無限に引き出せるのに対し、翡翠の首飾りは翡翠1つに対し道具1つしか収納できず数には限度がある。

 そしてあくまで収納しているだけなので、取り出して使ってないからといって劣化しないわけではない。

 仮に収納して数十年ぶりに取り出したとして、収納当時の状態は期待できないらしい。


 「あの首飾りの翡翠にどれだけ詰め込んでるのか、空きはどれくらいなのかはわからんが……まぁ、武具は相当な数を持っとるじゃろ」

 「まじか……」


 それを聞くと少しフミコを見る目が変わってくる。

 すると、眼下ではフミコが新たな攻撃を開始した。

 2本の銅剣を重ね合わせ、まるで枝が複数突起したような剣に変化させる。

 直後、突起した枝が緑色に輝く蛇のようなものに変化し、剣から出現した6匹の蛇が次元の迷い子たちを襲っていく。


 「な!? おい! あれってニギハヤヒの!?」


 その蛇は色こそ違えど、まるで古墳の頂上や精神世界でのニギハヤヒの姿そのものだった。

 フミコがそれを出したことに驚いたがカグは何を今更といった具合で言ってくる。


 「そりゃそうじゃろ? 言わなかったか? あれがフミコの本来の次元の迷い子としての姿じゃと」

 「それは言ってたが、あれはニギハヤヒに取り込まれたからじゃなかったのか?」

 「それもあるが、そもそもフミコはニギハヤヒの国の巫女じゃ。言うなればフミコの呪術の師はニギハヤヒ。技が似通うのは当然じゃろ? 貴様は柔道の道場に弟子入りしたのに空手の型が突然できるようになるのか?」


 そう言われて唸るしかなかった。

 すると、フミコがこちらへと叫ぶ。


 「かい君!! 耳を塞いで!!」


 一体何だ? と思ったが、カグも慌てて頭を埋める。


 「貴様も早く耳を塞がんかい!」

 「?」


 言われるまま両手で耳を塞ぐと眼下でフミコの隣に巨大な釣り鐘が出現する。

 それは教科書に載っている写真で見たことがあった。

 あれはたしか銅鐸、するとフミコは棍棒で思いっきり銅鐸の表面を叩く。

 直後、大きな音が周囲に響き渡り次元の迷い子たちの動きが止まった。


 その音は耳を塞いでいても、頭にズキズキとした痛みを与えた。


 「ぐっ……!? なんだこの音!?」

 「以前に言わなかったか? 音はありとあらゆるものの基本じゃと。鬼道……呪術においては特にの」


 音でこれだけのダメージをまき散らせる。そのことに驚愕するが、それ以上のことが直後に起こる。

 眼下のフミコは銅鐸を消すと掲げたその手に丸い何かを出現させる。

 その丸い何かも教科書に載っている写真で見たことがあった。あれはたしか……


 「三角縁神獣鏡だったか? あんなもの取り出して一体何を?」

 「まずいぞ? 今度は目を閉じといたほうがいい」

 「は? なんで?」

 「銅鏡じゃぞ? 鏡は何ができる?」

 「何ができるって……」


 自分の姿を確認したり、角度をつけて曲がり角の先の景色を確認する以外に何があるんだ? と思ったが、すぐに気付く。

 そう、鏡は光を反射する。反射する光を一点に集中させれば火事だって起こせる。つまりは……


 「まさか!」

 「いいから目をつむれ!!」


 カグに言われて慌てて目をつむった直後、瞼の下で真っ暗になったはずの視界が真っ白になった。

 恐ろしいまでの光源、目を開けたままだと目をやられていたかもしれない。


 恐る恐る目を開け眼下を確認すると、あれだけいた次元の迷い子たちが消滅していた。

 それどころが地面のところどころで小さな火の手が上がっている。


 「まじかよ……」


 ただの鏡の反射でここまでできるものなのか?

 そもそも、ここまでの威力を出せるほどの光源がこの空間にあるか?

 しかし、そんな考えをカグはあっさり否定する。


 「勘違いしとるようじゃが、あれは光の反射ではなく()()()()()じゃぞ?」

 「は? どういうことだ?」

 「言った通りじゃ、あれは鏡に溜め込んでいた呪力を解き放ったにすぎん。それだけであの威力、まさに鬼道恐るべしじゃの」


 カグは笑いながら言うが理解が追いつかなかった。


 曰く、鬼道とは呪力を操る呪術。とはいえ呪術と言っても呪詛ばかりではない。

 そこには豊穣や幸福の祈りも含まれる。

 祈りと呪いは表裏一体。そして鏡は鬼道や古代神道、現代の神道においてもご神体。最も重要な呪物(フェティッシュ)だ。


 鏡には祈りも呪いもすべての感情が届けられる。それを取り込み続けることで鏡の呪力は増すのだ。

 そして、現代と違って弥生時代はその祈りも呪いも至ってシンプルなものが多い。


 現代の神道の鏡でも似たようなことはできるが、複雑多様化した祈りや呪いでは貯まる呪力の量も少ない。

 しかし祈りや呪いがシンプルかつ一括されたものばかりの太古では貯まる量がまるで違うのだ。

 これが、時代が進むにつれ社会が複雑化し呪力総量が減って呪術が廃れていった原因の1つだ。


 「つまりフミコは最も強力で最も純粋だった頃の呪力を溜め込んでいる鏡を持っているわけだ。おそらく所持してるのはあの鏡だけじゃないだろう」

 「まじかよ……」


 一体何個鏡を持っているかはわからないが、フミコの底知れぬ強さは相当なようだ。

 これ、フミコのほうが自分より強いのではないか?

 そう考えているとカグが頭を突いてくる。


 「痛っ! 何すんだ!!」

 「何をボケっとしておる。今のでやつの注目がフミコに向いたぞ? 今がチャンスじゃ」


 カグはそう言うが、実際穴から抜け出せても自分が今いる位置から魔王グベルまではかなりの距離がある。

 一瞬でこの距離を埋めるのは難しい、なので。


 「まずは挨拶代わりにかましてみるか」


 アビリティーチェッカーのライフルモード、スナイパーライフルのスタイルを選択。

 その手にマクミラン TAC-50を構えると床に伏せスコープを覗き照準を合わせる。

 そして引き金を引き魔王グベルの頭部へ向けて弾丸を放つ。

 しかし……

 

 「………クックック! くだらんな? 通じると思ったか!!」


 魔王グベルの頭上に光り輝く巨大な目の形をした紋章からビームが放たれ弾丸を撃ち落とす。


 「だと思ったよ!!」


 その様子に落胆することなく、すぐに起き上がってグベルの元へと走り出す。

 走りながらマクミラン TAC-50の外装をパージ、アサルトライフルのスタイルを選択してステアーAUGへと変更する。

 そして銃口を前へと向け、迷わず引き金を引いた。


 同じく魔王グベルも目の紋章からこちらへ向かってビームを放つ。

 自分より少し前の床をなぎ払ったビームだが、直後大量の次元の迷い子たちが姿を現す。

 しかし、こちらは先手を打って先に引き金を引いていた。


 なので姿を現したばかりの次元の迷い子たちはすぐに弾丸の雨にさらされ姿を消していく。

 銃口にM9銃剣を取付け、撃ちもらした個体は斬りつけて先へと進む。


 しかし、グベルはまたしても目の紋章からビームを放ち次元の迷い子たちを出現させる。

 どうやらあの目の紋章を何とかしない限り、グベルは無限に召喚できるようだ。

 もしくは疑似世界とはいえ、ここが次元の狭間であることも無限召喚できる理由の1つかもしれない。


 どちらにせよ、たどり着くまでにあと何回この攻防が繰り返されるのか?

 そう思ってると穴の下からフミコの弓矢での援護があった。

 そのおかげが魔王グベルの注意がこちらから穴の下のフミコへと逸れる。


 その隙をついてステアーAUGの外装をパージ、聖剣の能力を選択してレーザーの刃を出す。

 聖剣の能力で出力が上がったレーザーブレードを振るい光のカッターをグベルへと飛ばした。


 「おら! どうした!! てめーの相手はこっちだぞ!! お望みの勇者の力だ! くらいやがれ!!」


 走りながら無作為にレーザーブレードを振るって次々と光のカッターを飛ばす。

 それを見て魔王グベルは雄叫びをあげ、目の紋章がこちらにビームを連続して放つ。

 ビームは今までと違って次元の迷い子を召喚するものではなく、純粋にこちらの放った光のカッターを迎撃するものだった。


 光のカッターはすべて迎撃されたが、その間もベグルとの距離を詰める。

 走りながらレーザーブレードを地面に突き刺して進み、光の竜を出現させる。


 「………無駄なことを!!!」


 魔王グベルは叫び、目の紋章からビームを光の竜へと放つが、直後穴の下から緑色の大蛇が這い上がってきてグベルへと襲いかかる。

 フミコの放った攻撃だ。


 「………邪魔をするな!!」


 魔王グベルは怒鳴って目の紋章から放つビームの軌道を光の竜から緑の大蛇へとそらす。

 しかし、この行為は攻撃自体を中途半端なものにしてしまった。


 光の竜、緑の大蛇どちらもビームをかわして魔王グベルへと襲いかかる。

 これらに向かって魔王グベルは両手を高々と掲げ。


 「………調子に乗るな!!!」


 頭上の目の紋章を分裂させて目の紋章の数を複数にすると、それらすべてからビームを放つ。

 このビームの雨をくらって光の竜も緑の大蛇も消滅してしまうが、構うことなくグベルの元へと走って行く。

 距離を詰めることはできた。もうグベルは目と鼻の先だった。

 レーザーブレードを構えて一気に踏み込む。


 「………バカめ!! わざわざ殺されにきたか!!」


 魔王グベルは叫ぶが、頭上の複数の目の紋章は沈黙を守ったままだった。

 それどころか次々と消滅していき、元の1つだけの状態に戻ってしまう。


 「………何!?」


 そのことに魔王グベルは驚きの声をあげる。

 元より劣化、損傷が激しかったグベルだ。能力を使いすぎたせいで出力が落ちたのだろう。

 しかし本人にそんなことはわからない、だから信じられないといった態度をグベルは取るがこちらは気にすることはない。

 そのまま地を蹴ってジャンプし魔王グベルの顔に足を乗せると。


 「よそ見するなよ?」


 魔王の顔を踏み台にしてさらに上へジャンプ、目の紋章へと手を伸ばし。


 「おらぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 レーザーブレードを突き刺した。

 直後、目の紋章はあっけなく砕け散る。


 「………バカな!!!!」


 魔王グベルがその光景を見て膝をつく。

 そんなグベルに背中を向ける形で地面に着地するとレーザーの刃をしまう。


 「魔王って言う割には大したことなかったな?」


 言ってグリップに取付けたアビリティーチェッカーから浮かび上がった一番大きいエンブレムをタッチする。


 『Take away ability』


 音声が鳴り響いた。そのままグリップを魔王グベルに向ける。

 するとグベルの体から光りの暴風があふれ出した。暴風はそのままグリップへと押し寄せてきて収束しグリップの中へと吸い込まれていく。


 「………うぐ!! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!! なんだこれは!? 力が吸い取られていくぅぅぅぅ!!!!!! やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 魔王グベルが叫ぶが聞いてやる通りはない。

 やがて光の暴風はすべてグリップの中に吸い込まれ収まった。

 するとアビリティーチェッカーの液晶画面上に新たに目の紋章が浮かび上がった。グベルから魔王の能力を奪ったという証だ。

 とはいえ、グベルの劣化具合を考えるに、この能力がまともに機能するかは怪しかった。


 「ふぅ、やれやれ……本当に戦力強化になったのやら」


 言ってグリップからアビリティーチェッカーを取り外すとレーザーの刃を出しグベルへと近づいていく。


 「さてご退場の時間だぜ魔王さんよ? 地獄に落ちな!」

 「………おのれ許さんぞ異世界渡航者! 余にこのような仕打ちただで済むと思うなよ?」


 グベルは能力を奪われたにも関わらず、まだ諦めておらず怨嗟をぶちまけてくる。

 そんな悪人のなれの果てにため息しか出てこなかった。


 「まったく、地球でも異世界でも死んだんだ。いい加減成仏しやがれ!」


 言って適当にレーザーブレードを振るって魔王グベルの首を斬り落とす。

 ほぼ骸骨の頭部はどこかへと転がっていき、体はその場にバサっと倒れた。


 「かい君!!」


 直後、穴の下からフミコが緑色の大蛇の頭に乗って脱出してきた。

 それを見て、あれ? 最初からそれ使ってれば苦労なく2人して出られたんじゃ? と思ってしまうが、まぁ終わったことなので触れないでおこう。

 そんなこちらの心情など知らず、フミコが笑顔で抱きついてきた。


 「わ!? ちょ! フミコ!?」

 「かい君やったね! あたし達の勝利だよ!!」

 「あ、あぁ……そうだな」


 感慨に浸ろうにも、毎度抱きついてくるこの子のクセを何とかしないとなぁーと考える。

 いや、女の子に抱きつかれて悪い気はしないんだが、その……今度は理性との戦いになるからね?


 精神世界では助けることに必死で意識してなかったが、疑似世界に戻ってきてからというもの、この抱きつきクセを何とかしないとと思っていた。


 そんな複雑な男心からにやけているのか、腑抜けているのか、注意すべきなのか、わからない表情をしていると今までどこにいたのか不明なカグが飛んでくる。


 「何をしとるか! さっさと脱出せんと次元の狭間に放り出されるぞ?」

 「へ? 何?」

 「何腑抜けとるんじゃ! 疑似世界を生み出しとった元凶を排除したんじゃぞ? すぐにこの空間の崩壊がはじまるぞい」


 カグが言うやいなや地面が大きく揺れ出す。


 「わ!?」

 「きゃ!? 何!?」

 「ほれ見ろ! 崩壊が始まったわい! 急いで戻るぞ!」


 ついて来い! とカグが道案内すべく羽ばたき出すが、すぐには後に続かずまずはフミコをまっすぐ見つめる。

 その事にフミコは顔を真っ赤にしながらも嬉しそうな表情を見せる。


 「な……何かな、かい君?」

 「フミコ聞いてくれ、ここが崩壊する以上すぐにでも俺たちのホームである次元の狭間の空間に戻らなきゃならない」

 「うん……あたしも行くよ! あたしもかい君と一緒に!」

 「それでいいのか?」

 「え?」

 「この疑似世界が崩壊してる以上はここから最短コースで戻ることになる。カグはそのナビゲートをするだろうが、たぶんフミコのいたあの遺跡には寄らない……いや寄れない。つまりあそこには二度と戻ることはできず、あの景色を見ることもできない。本当にそれでいいか? 後悔はしないか?」


 故郷を二度と見ることは叶わない。何せ、現代日本でフミコの故郷は存在すらも知られていない。

 その事にフミコは耐えられるだろうか?

 しかし、フミコは安堵のため息をもらすと。


 「はぁ………よかった。一瞬あそこに置き去りにされるのかと思ったよ?」

 「いや、さすがにそんなことはしないよ」

 「うん、わかってる。かい君はそんな事しないって……気遣ってくれてありがとう。でも、あたしはもうあの地に未練はない。今更見たって感慨にふけることはない。だから気にせずまっすぐ向かおう、かい君の家へ!」


 笑顔で答えるフミコの本心はわからない。

 本当にあの遺跡に未練がないのかも……だからそっと抱きしめた。

 フミコからは「はわわわ」といった声が漏れたが耳元で「すまない」と囁く。

 それをどう捉えたのかフミコが不満そうな表情を向けてくるが、あまり時間をかけると脱出自体ができなくなる。

 なのでフミコの手を取って。


 「じゃあ、最短ルートを駆け抜けるぞ! 走り抜ける覚悟はあるか!?」


 明るい表情で聞いた。

 

 「もちろん!!」


 フミコも笑顔で答える。

 そしてフミコの手を引いてカグの案内の元、崩壊していく疑似世界を駆け抜け、次元の狭間の空間を目指すのだった。




 「はぁ………はぁ………なんとか………ギリギリ間に合ったな」


 息もきれきれに次元の狭間の空間の玄関口である桟橋に倒れ込む。

 かなりグロッキーな状態だが、ただ飛んでるだけのカグは当然、平然としていて若者が情けないの~と言ってくる。

 ただ飛んでるだけのカラスがぶん殴ってやろうかと思ったが、そんな気力すら今はない。

 本当にギリギリだったからだ。

 あと一歩遅かったら崩落に巻き込まれて帰ってこれなかった。


 「はぁ………はぁ………フミコも………よく頑張ったな」


 隣で同じく地面に倒れ込んでいるフミコに声をかけるが、こちらは声を出す気力もないようだ。

 とにかく戻ってきた。

 そのことに安堵してしばらく桟橋で横たわっていたが、しばらくしてフミコよろよろと上半身を起こす。

 周囲を見回し、ここからは少し離れたところにあるトレーニングルームなどを見て表情をほころばせる。


 「ここが……かい君の家」

 「まぁ、正確には活動拠点だけどな」


 こちらも体を起こして同じく施設群の方を見る。

 そんな自分の方を向いてフミコが笑顔で手を差し出してきた。


 「これからよろしくね! かい君」

 「あぁ、よろしくフミコ! そしてようこそ我が家へ!」


 差し出してきた手を握り握手を交す。

 フミコという新たな仲間を迎えて次元の狭間の空間は次なる異世界へと動き出す。

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