ドルクジルヴァニア防衛戦(47)
フェイクシティーの中をギガントどもが我が物顔で突き進む。
そこが狭い通路だろうが、進路上に建物が数多く点在し進路を阻んでいようが関係ない。
彼らはただただ進む、フェイクシティーを越えた先にあるドルクジルヴァニアを目指して……
そんな彼らに対して建物の影に隠れていた87式自走高射機関砲が道路へと飛び出してギガントどもに対し砲撃を開始する。
強力な35mm対空機関砲から放たれる射撃に頭部をブチ抜かれた複数のギガントがバタバタと倒れていくが、そんな仲間の死など気にせず、ギガントどもは歩みを止めることなく突き進んでいく。
そんなギガントどもの様子を見て87式自走高射機関砲の車長が舌打ちをした。
「っち! 仲間が隣で倒れようがお構いなしってか? 俺たちの抵抗を脅威と感じてねーのかよ!?」
「仲間が死んでも、次は自分の番かもとは思わないんでしょうね……もしくはそんな考えすら持ち合わせてないのかも」
「くそ! 馬鹿でかいだけの脳なしどもめ!」
車長は悪態をつきながらも操縦手に指示を出して陣地転換を図る。
いくらこちらの射撃で仲間が死んでも気にせず行軍するバケモノとはいえ、いつまでも同じ場所で射撃を続けていたら、そのうち目障りに感じた個体にやられるかもしれない。
なので別のまだ安全に射線を確保できる建物の影へと移動し、別の自走対空砲部隊にも連絡を入れる。
今度は複数の車両で同時に攻撃をくわえようというわけだ。
この呼びかけに、近くに身を潜め、機会をうかがっていたM247サージェント・ヨークにITPSV 90 マークスマンが応じ、同時に射撃を開始するが、しかし結果は変わらなかった。
ギガントどもの数は減らせてはいるのだろうが、彼らの歩みを止める事はできない。
その事に焦る自走対空砲部隊であったが、そんな彼らの車両に1本の通信が入る。
それは……
『はい、それでは指示通りお願いします』
TD-66は通路を歩きながら独り言のように呟いて通信を切った。
その通信の相手はギルドの拠点にいるケティーやリエル、リーナにエマではなく、カイトたちでもない。
さきほどから少し離れた通路を行軍しているギガントどもに対して射撃をおこなっている自走対空砲部隊である。
TD-66が彼らと通信していたのには理由があった。
それはこれからTD-66がおこなうことに彼らにも協力してもらうためだ。
もちろんTD-66だけでも十分それを実行できる可能性はあるが、相手は仲間が隣で死のうが気にせず行軍を続けるバケモノである。
であるならば、一方向からの火力だけでなく、多方面からの火力で攻めたほうがギガントどもの注意は引けるだろう。そう考えて彼らとコンタクトを取ったのだ。
『さて、それではこちらも準備に取り掛かりますか』
TD-66はそう言うと自身の周囲にソーラーパネルのような物体を取り付けたドローンを複数飛ばし、そして背中にドッキングした無尾翼デルタ翼の戦闘機のような外観をしたオプションパーツの機首から伸びた2基の砲身を折り曲げ、肩から前へと突き出す。
『荷電粒子砲……安全装置解除』
さらに無尾翼デルタ翼の戦闘機のような外観をしたオプションパーツの機尾からベルトが伸び出してTD-66の腹に巻き付き、正面に光を反射するダイヤモンド・コーティングされた装置が取り付けられたバックルキャノンが装着された。
『バックルキャノン……展開完了』
それと同時にTD-66の周囲を飛んでいたソーラーパネルのような物体を取り付けた複数のドローンが、そのソーラーパネルのような物体を光らせてエネルギーをTD-66に向けて供給しだす。
『エネルギー充填開始』
ドローンからもたらされる膨大なエネルギーが、TD-66の肩から飛び出す2基の砲身、ドッキングキャノンと腹部のバックルキャノンの前に集束してプラスマボールを形成していく。
その影響でTD-66の周囲に暴風が吹き荒れ、少し離れた通路を行軍しているギガントたちも危険を感じたのか、歩みを止めてTD-66のほうを向く。
そんなギガントたちを見てTD-66は淡々と準備を進める。
『エネルギー充填完了……自走対空砲のみなさん、それでは予定通りお願いします』
TD-66のその言葉に答えるように87式自走高射機関砲、M247サージェント・ヨーク、ITPSV 90 マークスマンが一斉にギガントたちに向かって射撃を開始する。
自走対空砲部隊はギガントを挟んでTD-66とは反対側に展開していた。
その位置からの射撃によって、ギガントたちに「こちらには敵がいる」とあらかじめ認識させる。
そのうえでTD-66はギガントどもへの攻撃に踏み切った。
『プラズマキャノンビーム……発射!!』
TD-66は両手を握りしめ、両足で力いっぱい大地を踏みしめる。
そして集束してプラズマボールとなったエネルギーを一気に放出し、ギガントどもに向けて発射した。
2基の荷電粒子砲とバックルキャノンから放たれた高火力のビームがギガントどもを次々となぎ倒していく。
その恐るべき光景にギガントたちは慌てふためきだし、行軍をやめて逃げ出そうとするが、87式自走高射機関砲、M247サージェント・ヨーク、ITPSV 90 マークスマンの対空射撃によって逃げる場所を制限されてしまう。
まるで誘導されるように、ギガントたちはある一方向へと逃げていった。
それを見てTD-66が小さく頷く。
『どうやら成功のようですね』
TD-66が行ったのはギガントたちをある一か所に集めるための誘導であり、そのギガントたちの誘導を行ったのはTD-66だけではない。
別の区画ではフミコも枝剣から6匹の緑色の大蛇を出し、近場にいたゲパルト自走対空砲、SIDAM 25と協力して誘導を行った。
ヨハンも召喚した大型魔獣を使って、近場の09式自走対空機関砲、K30対空自走砲と協力し、シルビアたちも中型のゴーレムを錬成できる元貴族と彼が所属するギルドが使用しているM163対空自走砲を使って誘導に成功した。
ドリーとココは自走対空砲部隊の協力なしでギガントどもの撃退と誘導に成功していたが、ココは元より大型の魔獣であるギガバイソンだ。これくらいは朝飯前なのだろう……
それ以外にもケティーとリエルに協力してもらって、ドローンを使い、フェイクシティーに展開しているすべてのギルドに通達して、侵入してきたギガントどもを一か所に集まるように誘導してもらった。
フェイクシティー内外に展開している自走砲部隊と80cm列車砲には引き続き、草原地帯を行軍し、フェイクシティーに入ってこようとするギガントどもへの攻撃に専念してもらい、無人爆撃機や空賊たち、海賊たちにもそれらの対処をお願いした。
おかげで夕方になる頃には草原地帯のギガントどもはほぼ全滅しており、残るはフェイクシティー内に入り込んだギガントどもだけとなっていた。
そんなギガントどもも、各区画の部隊の誘導によって数を減らしながら徐々に一か所に集められていく。
そして日没が訪れ、フェイクシティー全体が薄暗い闇に包まれはじめた頃、舞台は整った。
「よし、みんなちゃんとここから見える範囲にギガントどもを集めてくれたな」
この区画で一番高い建物の屋根の上から双眼鏡を使って、少し先の区画に誘導されて集まったギガントどもを見回して思わずニヤリとしてしまう。
そして双眼鏡をウエストポーチにしまい、懐からアビリティーチェッカーを取り出す。
「さて、ケティーがドローンで見てくれてるとはいえ、使用後にここでぶっ倒れて大丈夫なもんかな?」
そう思って今いる屋根の上を軽く見回す。
今、この場所には自分しかいない。
ギガントどもの誘導が終わった後、フミコたちには少し離れた区画に退避してもらっているからだ。
これは混種能力に仲間を巻き込まないためであり、今から使うそれはトレーニングルームで事前に使った事のない、まさにぶっつけ本番であるため、どれだけ周囲に被害がでるか予測がつかないのだ。
本来であれば事前にトレーニングルームで使用状況を確認していない能力は実戦では使わないのだが、そうも言ってられない状況であるため、このような対応をとっている。
しかし、さすがに能力使用後にぶっ倒れてフミコたちが駆けつけてくれるまでの間、無防備なのはまずいだろうか?
ギガントどもを殲滅できてもゴブリンたちの生き残りが近くに潜んでいないという保証はない。
また、混種能力使用後はタイムリープ能力も発動できないだろう。
となるとケティーによるドローンの監視だけで大丈夫か? と少し不安になるが、だからといって、今更巻き込む可能性が高いのにフミコたちをここに呼ぶわけにはいかない。
あとは覚悟を決めるだけだ。
「まぁ、なるようにしかならないよな……」
そうつぶやいてアビリティーチェッカーを握りしめた。
「ギガントどもを誘導したみんなの戦い方を見るに、やつらを相手にするにはこちらも大型である事が必須のような気がするな……だったら!」
アビリティーチェッカーを握りしめていない手を懐に突っ込みアビリティーユニットを取り出す。
そして暗い夜空に向かってアビリティーチェッカーを軽く放り投げて落下してきたアビリティーチェッカーをキャッチ、そのままアビリティーユニットへと取り付け「混種能力:獣(進化)」のエンブレムをタッチする。
するとアビリティーユニットが音声を発した。
『ability blend……creature、Hi-Evolution』
直後、アビリティーチェッカーの液晶画面上に投影されていた「混種能力:獣(進化)」のエンブレムが巨大化し、まるで獣のように蠢いて以前にも増して大きな雄叫びをあげた。
その大きな雄叫びに引き寄せらるかのように、夜空には雷雲などないにも関わらず、目を開けていられないほどの眩しさを放つ黄金の稲光が発生し、今自分がいる屋根の上に落雷した。
その落雷によって自身の体が膨張し、そのすべてが別の何かに書き換えられていくのが実感できる。
獣の擬態化能力で魔獣ビッグフットになった時とはわけが違う。そういった次元のレベルの話ではない……
これは完全に人間より上位の生物に生まれ変わる。生まれ変わろうとしている、そんな感覚であった。
(これは、まずいな……下手したら戻ってこれなくなるかもしれない……けど、これならいける!!)
そう思って拳に力を入れる。
それに答えるようにより強く体が変異する。
(こいつら全員、なぎ倒す!!」
そして、眩しい黄金の稲光が消え、再びフェイクシティーを夜の闇が覆い始めた時、それは大地に降臨した。
ギガントどもは混乱していた。
誰もが目的地に進めず、何かに導かれるように一か所に集まっていく中、ギガント・シャーマンに操られるゴブリンやオーク、コボルトたちがギガント・シャーマンの命を受け、ドルクジルヴァニアへと向かおうと動き出した。
だが……
「!?」
突如ゴブリンたちの行く手を何かが阻んだ。
それが遠くから飛ばされてきた巨大な瓦礫だと気づいた時にはもう遅く、ゴブリンたちは瓦礫によって吹き飛ばされミンチとなっていく。
その様子を見て驚いたオークは次に自身の体が一瞬宙に浮いてしまうほどの振動にさらされる。
ギガントどもが行軍している時も同じような事は起こるが、今感じたのはそれ以上の振動だ。
一体何が? と思い、さきほど瓦礫が飛んできた方向を見ると、そこには視界を遮るほどの黒い壁が聳え立っていた。
そんなもの、さきほどまではなかったはずだが?
理解が追い付かないオークはしかし、さらにおぞましい光景を目にする。
その黒い壁は高速で動いているのだ。
そして、それが壁ではなく、何か巨大な生物の尻尾であると気づくがもう遅い。
振り払われた巨大な尻尾に巻き込まれる形でオークにコボルトたちは引きつぶされ、ミンチとなって全滅した。
突然の事にギガントたちは驚き、見上げ、放心する。
何せ、そこには闇夜に隠れているせいで全体像はつかめないが、自分たちギガント以上に巨大な二足歩行の爬虫類のような外見の魔獣がいたのだから……




