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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
13章:緊急クエストをこなそう!

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ドルクジルヴァニア防衛戦(46)

 フェイクシティー城壁の回廊、そこから見渡せる大地すべてがギガントどもで埋め尽くされていた。

 その圧倒的なまでの数の行軍によって地震と錯覚するほどに大地が揺れる。


 それらを食い止めるべく自走砲部隊が何度も砲弾の雨を降らせるが、彼らの足を止めることはできない。

 どれだけ自走砲部隊が砲弾をミサイルを撃ち込もうとも、どれだけ草原地帯に仕掛けておいた地雷が起爆しようとも、海水湖から海賊船団が無数の攻撃をしかけようとも、彼らは歩みを止めない。


 それらの攻撃の前に倒れた無数の仲間の屍を踏み越えて、ただまっすぐにフェイクシティーを目指す。

 否、その先にあるドルクジルヴァニアへと突き進んでいく。

 ギガントどもは止まらない、止まるわけがない。止めたければ殺し尽くすしかないのだ。


 そして、その時はやってくる。




 「くるぞーーー!! 全員配置につけ!!」

 「わかってらーー!! こちとら準備万端だ!! いつでもやってやる!!」

 「てめーら!! 尻に気合い入れていけよ!! 日和るんじゃねーぞ!!」

 「上等だ!! かかっこいやーーー!!」

 「ギガントどもめ!! 来るなら来い!! 返り討ちにしてやる!!」

 「ひひ! 殺しまくって、この通路をあいつらの血で染めてやるぜ!!」

 「いいねぇ、楽しい楽しい狩りの時間だ」

 「だ、大丈夫だよね? み、みんなでかかれば、へ、平気だよね?」

 「ビビってない……ビビってないぞ! 俺はやる!! やってやるんだ!! うぉぉぉぉぉ!!」

 「ねぇ、もう少し肩の力抜いたら? 今からそんなじゃ最後まで持たないよ?」

 「うるせぇ! これくらいで丁度いいんだよ!! これくらいでなきゃ、やつらは殺せねぇ!」

 「ここで一旗揚げてギルドランクをさらにあげるんだ!! そうすりゃ舞い込む仕事の数も報酬も桁違いになるぜ!!」

 「そりゃーいい、そうなりゃウハウハだな。まぁ、生き残れたらの話だが」

 「冗談でも縁起でもねぇ事言うなよ、もっと気がきいた事言えねぇのか?」

 「気が利いた言葉ひとつで勝てれば世話ねーよ」

 「絶対に生き残ってやる!!」


 城壁の内側で待ち構えていた複数のギルドの団員たちが思い思いの言葉を口走り、今か今かとその時を待っていた。

 城壁の外からは自走砲部隊が砲撃を放つ音に着弾音、地雷が爆発する音やギガントどもが地面に倒れる音が聞こえてくる。


 そして爆発音やギガントどもが倒れる音がするたびに地面が大きく振動し、周囲の壁や屋根の上から細かい石や噴煙が落ちてくる。

 そして、それはすぐに収まったりはしない。ずっと振動は続いている。


 何せ砲弾の着弾や地雷の起爆、それらにやられて倒れるギガントの数以上に、こちらへと向かって行軍してくるギガントたちの数の方が圧倒的に多いからだ。

 そのギガントたちはついにフェイクシティー城壁に到達、一斉に進撃の邪魔となる城壁を破壊すべく拳を振り上げたり、足を蹴り上げたりしだした。


 「よし!! 十分引きつけたぞ!! いまだ!! 一斉射!! てぇーーー!!」


 その瞬間を待ってたとばかりに円形の側防塔に陣取っていたギルドが城壁に張り付いたギガントどもに向けて大砲の砲撃を放つ。

 しかし放たれた砲弾は数体のギガントの頭部を吹き飛ばしたが、効果は限定的であった。


 それどころか、激昂した数体のギガントが円形の側防塔へと向かって体当たりをおこない、それによって円形の側防塔は崩壊してしまう。


 「あぁぁぁぁ!! まずい!! 退避だ!!」

 「に、逃げろーーー!!」


 ギガントどもの体当たりによって崩壊した円形の側防塔にいたギルドの面々は慌てて城壁の内側へと逃げようとするが、しかし続々と突撃してくるギガントどもに挽きつぶされて全滅してしまう。

 円形の側防塔の崩壊、そして城壁への一斉攻撃によってフェイクシティーを守っていた壁は崩壊し、フェイクシティー内へとギガントどもが大挙して侵入してくる。


 その光景を前にして城壁のすぐ内側で待ち構えていた複数のギルドの面々が雄叫びと共に攻撃を開始した。


 「いくぞ者ども!! 死を恐れるな!! バケモノどもに見せてやれ!! 俺たちの強さを!!」

 「上等だ!! やってたらーーー!!」

 「うぉぉぉぉぉ!!」

 「これでもくらえーー!!」

 「死ねーーーー!!」


 城壁が崩れ、噴煙と共にやってきたギガントどもに向かって、ある者は魔法を放ち、ある者は槍を投げ、ある者はクロウボウや弓で矢を浴びせた。

 また戦車部隊や自走対空砲部隊も駆けつけ、次々と砲撃をくわえていく。


 フェイクシティー内に突入したギガントどもが魔法や砲撃をくらい次々と倒れていく中、その様子を中に突入せず、城壁の外で観察していたギガント・シャーマンが右手を振って部下に指示を出す。

 その指示に従うように、すでにフェイクシティー内に侵入していたゴブリンやオーク、オーガたちが、路地裏から一斉に飛び出して複数のギルドの面々や戦車、自走対空砲の背後に回り、彼らを襲撃しだした。


 「っ!! こいつら!?」

 「ゴブリンにオーク、オーガだと!? どこに隠れてやがった!? 事前に見回った時はいなかったぞ!?」

 「こんな雑魚にかまってられるか!! 戦闘装甲車部隊はどこにいる!?」

 「がはぁ!? くそ!! オーク風情がこの俺さまに!!」

 「落ち着け!! 無秩序に動くな!! いいかパニックに陥って統制が取れなくなってしまうのは相手の思うつぼだぞ!! 態勢を立て直す!! 前方にいるメンツと自走対空砲はギガントども、後方にいるメンツと戦車はゴブリンどもの対処だ!! わかったか!?」


 リーダー格の男が怒鳴って指示を飛ばす。

 だが、完全に落ち着きを取り戻すまではいかない。

 不意打ちによって崩れた陣形の立て直しは容易ではない。


 そして、この混乱によって生じた隙をつき、続々とギガントどもがなだれ込んで来た。

 城壁の最前線で展開していたギルドの面々はこれを抑えきれず、フェイクシティー内に戦いは拡大していく。




 『川畑くん、中央区画への入り口を守るバリケード、突破されちゃった。もうじきそっちに現れるよ』

 「了解」


 ケティーからの報告を受けて屋根の上からある区画を双眼鏡で眺める。

 ギルド<ジャパニーズ・トラベラーズ>の面々は城壁からフェイクシティー中心部まで移動していた。


 フェイクシティーの中心には絶大な破壊力を持つ80cm列車砲が鎮座しており、これの守護は絶対であるからだ。

 そんな80cm列車砲はさきほどから砲撃の準備に取りかかっているが、まだまだ発射までには時間がかかるだろう。


 だからこそ、80cm列車砲の周囲に自分達は展開して警戒しているのだ。


 (まぁ、80cm列車砲が一発ぶちかましたところで、まだフェイクシティーに入って来てない城壁の外のギガントどもの一部を吹き飛ばす程度だろうが……他の自走砲部隊よりも威力が桁違いなぶん、ギガントどもの最後尾にも影響は与えられるはずだ)


 そう思って周囲に視線を向ける。

 すでに修理を終えたTD-66が合流しており、その背中にはオプションパーツである高火力のキャノン砲がドッキングされ、いつでも砲撃が放てる状態になっていた。

 同じく合流を果たしたヨハンも大型の魔獣を召喚して待機している。


 フミコたちも一箇所に固まらず間隔をあけて、それぞれ屋根の上に陣取っており、誰もがギガントどもの襲来に備えていた。

 そんな時、リエルから連絡が入る。


 『カイトー、ちょっとええか?』

 「ん? どうした?」

 『そっち方面の情報やないんやけどな? カイトが仕掛けてた地雷、えっと何やっけ事象の遅延やったか? 先に爆発させておいて、それを遅らせてるってやつ』

 「あぁ、それがどうした?」

 『カイトがいる場所とはちょいと離れてて、そこを通過したギガントどもがそっちに向かう可能性は低いんやけど、結構な数のギガントが事象の遅延で爆発が遅れてる地雷の上通過するんや……どないする?』

 「どうするって……」

 『地雷を起爆させるか? っちゅー話や。事象の遅延を解除せな、地雷は爆発せんのやろ? でも、それしたらカイトに負荷がかかるっちゅー話やん。それやったら、カイトらのおるところに害がないなら無視してもええし、地雷起爆させるならタイミングは知らせるで、だからどないする?』


 リエルのその問いに少し考え込む。

 確かに今日はここまでタイムリープ能力をそれなりに使用しているためDPもかなり消費している。

 後々の事を考えたら事象の遅延を解除してDPを消費するのは極力避けたいところだが、今地雷を起爆すれば倒せる相手を見逃して、後々後悔する事にはならないだろうか?

 タイムリープで仕切り直せるとはいえ、それにも限度がある。


 ならば、倒せるタイミングで地雷は使っていくほうがいいのかもしれない。

 地雷を使い切った時はその時だ。

 そう思ってリエルに返答する。


 「そうだな……頼む」

 『あぁ、任せしとき!』


 それから、リエルの報告によって、いくつかの地雷の起爆凍結を解除した。

 おかげでフェイクシティー内各地で爆発が連発し、そこを通過していた多くのギガントどもを倒す事ができた。

 だが根本的な撃退には繋がっていない。


 フェイクシティー内には次々とギガントどもが入り込んでくるが、その終わりはいまだ見えない。

 80cm列車砲が火を噴き、地平線の先に破壊の砲弾を落とす。

 フェイクシティーの外で展開している自走砲部隊も弾薬がつきるまで砲撃を続け、海水湖から海賊船団も艦砲射撃を絶えず行っている。

 そして空賊と無人爆撃機も絨毯空爆を続けているが、戦果は実感できない。


 フェイクシティー内に入り込んだギガントどもは各区画に展開するギルドの奮戦によって倒されてはいるが、途切れる事なくフェイクシティー内にギガントどもは入り込んでくる。

 終わりが見えない状況で、誰しも疲労が限界に近づいているのではないだろうか?


 (この地で踏みとどまって、ここを死守しなきゃいけないとはいえ、このままでいいものかな? 何か好転するきっかけがないとさすがに現状を維持するのも厳しいような気がする……)


 そう思いながらも、では何か手はあるか? と言われたら答えに詰まる。

 結局はギガントどもを殺しきるまで踏ん張らないといけない。

 こちらが先に倒れるか、ギガントどもが先に全滅するかの戦いなのだ。


 しかし、現状ではこちらが先に倒れる可能性が高いだろう。

 どうにかして、こちらが優位になる状況を作らなければならない。


 「……ここはひとつ賭けにでるか?」


 そう呟いて懐からアビリティーチェッカーを取り出し、その液晶画面に映し出されているエンブレムを見つめる。


 「混種能力……ギガントどもをある程度一箇所にまとめる事ができれば、これで……」


 少し迷った後、アビリティーチェッカーを力強く握りしめ、そして決断した。


 「出し惜しみはなしだ。ここを切り抜けられなければ次なんてないんだから!」


 気合いを入れ直し、そして皆にインカムで作戦を伝える。

 こうしてギガントを一掃する作戦がはじまった。

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