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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
5章:ロストシヴィライゼーション・コア

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ロストシヴィライゼーション・コア(4)

 魔王グベルに銃口を向けて引き金を引く。

 飛び出した弾丸はまっすぐ魔王へと飛んでいくが……


 「………まったくくだらんな」


 グベルの言葉と同時にグベルの周囲の床が盛り上がっていき目の前に壁ができあがった。


 「何!?」


 弾丸はできあがった壁に当たってむなしく弾かれる。

 しかしそれだけではない、壁は目の前のみならず左右にも後ろにも出現する。


 「壁に閉じ込められた!?」

 「かい君違う! これあたし達の周囲の地面が下がったんだよ!!」

 「!?」


 フミコの指摘でようやく気付く。

 グベルのいる場所が盛り上がり、自分たちを取り囲むように壁が出現したように見えたが実際は自分たちのいた場所が床より下へと下がったため壁が生まれたように見えたわけだ。

 いうなれば空母の戦闘機やヘリを格納庫から飛行甲板へと出し入れするための昇降機に立って飛行甲板から格納庫へと下ろされている状況。


 「つまりは落とし穴に落とされたのと同じ状況ってわけだな」


 これは少々、いやかなり面倒なことになった。

 この場合どう考えても圧倒的に上にいる者のほうが有利に決まっている。さて、どうする?


 「………クックック! 哀れな異世界渡航者め、今なら命乞い1つで許してやってもいいぞ?」

 「はん! 誰がてめーのようなクズに命乞いなんてするか! 寝言は寝て言え!」


 言って銃口をこちらを見下ろすグベルへと向ける。

 しかしグベルは気にすることなく愉快に笑う。

 そして両手を高々と掲げた。


 「………アーハッハッハッハ!! 威勢がいいのは結構な事だが余に刃向かった時点で貴様の運命は決したのだ!! せいぜい後悔しながら死ぬといい!」


 言うやグベルの頭上に光り輝く巨大な目の形をした紋章が浮かび上がる。

 そして目の紋章から高出力のビームのようなものがこちらに向かって放たれた。


 「危ない!!」


 慌ててフミコの手を取って後ろに下がるが打ち放たれたビームはこちらを狙ったものではなかった。

 真下に放たれたビームはまるで地面を焼き切るように真横へと流れていく。

 そしてビームが通過した後の地面からは大量の次元の迷い子たちが湧き出てきた。


 「すごい数……」

 「おいおいマジかよ? 今のって次元の迷い子を召喚する技なのか?」

 「かもな」


 呑気にカグは答えるがそんな余裕がどこにあるのだろうか?

 まぁこのカラスはどうせ戦闘が始まったらどこかに飛び去るだろうから気にしないんだろうが……

 それにしたって数が多い、しかもスペースはそれなりに確保されているとはいえ穴の中という状況。

 このままでは多勢に無勢だ。


 「さて、どうしたものか……とはいえこいつらを蹴散らす以外に手はないんだろうが」


 しかし、穴の中でこんな数を相手にしていたら体力が持たない。

 とはいえ壁をよじ登るにしても次元の迷い子たちが黙ってはいないだろう、やはり先になんとかしないといけないか?

 いずれにせよ早めに上へと上がる算段をつけないと……そうやって頭を悩ませているとフミコがちょんちょんと肩を突いてきた。


 「どうした?」

 「まずは上に行かないとなんだよね?」

 「そうだな、だがここをなんとかしないことには……」

 「なら、あたしがここを引き受けるよ」

 「……はい?」


 笑顔で答えるフミコに驚いてしまった。

 いきなり何を言い出すのか? さすがにこの数を密閉空間で1人で対処できるとは思えない。


 「何言ってんだ! そんなの……」

 「無理って言いたいの?」


 不満そうに言うフミコを見て言葉が詰まる。

 まさか本気なのか?


 「かい君、あたしが提案しない限りちっともあたしを頼ってくれないんだもん。少しは役に立つってところ見せないと! あたしは守られてばかりじゃ嫌なの! あたしだってかい君を守りたい! 役に立ちたい!!」

 「いや、しかし……」

 「大丈夫! あたしはかい君が思ってるほどか弱くはないよ?」


 フミコは訴えるが、どうにも乗り気にはなれなかった。

 別段フミコが役に立たないとは思ってはいない。精神世界とはいえ石の短剣や弓の腕前は目を見張るものがあった。

 しかし、だからと言ってこの逃げ場のない空間で、あれだけの数の相手を任せるのは気が引ける。

 対処できるとは到底思えなかった。


 決断できないでいるとカグが突然頭をクチバシで突いてくる。


 「何をしとるか! 任せろと言っとるんじゃ、素直に任せんかい!」

 「あ痛っ!! この野郎! 何すんだ!!」

 「貴様がいつまでも渋っとるからじゃろ」

 「わかった! わかったから突き続けるなこのクソカラス!!」


 叫んでカラスの首元を掴む。するとカラスが激しく暴れた。

 神になんたる無礼を! とか騒いでるが無視しよう。

 バサバサと翼を動かして暴れるから羽根が飛び散ってくしゃみが出そうになるが我慢する。

 自称神には少し制裁が必要だろう。


 「はぁ……本当に大丈夫なのか?」

 「うん、心配ないよ任せて!!」


 言ってフミコが笑顔で拳を前に突き出す。

 弥生時代式の任されよ! ってポーズだろうか?

 何にせよ、本人がここまで言って自称神もそれを後押しするようであれば任せるしかない。


 そうこうしてるうちに無数の次元の迷い子たちが一斉にこちらへと襲いかかってくる。

 しかし、フミコはそれに動じず、むしろウキウキといった雰囲気すら漂わせている。

 よほど俺の役に立つのが嬉しいらしい。


 その様子を男として複雑な思いで見てしまう。

 そこまで思ってもらえて嬉し恥ずかしな反面、女の子を前線に立たせてその後ろで見ているという情けない状況は漢として正しいのか? と……


 そんなこちらの苦悩などいざ知らず、フミコは迫り来る次元の迷い子たちへと攻撃を加える。


 「かい君見てて!! あたしがかい君を守るから!! はぁぁぁぁ!!!!」


 どこから取り出したのか独特な形状と輝きを放つ幅広の両刃の剣の形をした穂先を付けた槍を手にし、迫り来る次元の迷い子たちへと突き出す。

 その威力はすさまじく一突きで複数の次元の迷い子たちが吹き飛んだ。


 フミコが手にした武器は銅矛。

 弥生時代に朝鮮半島からもたらされた武器の中では最も強力なもので、九州と一部西日本の地域のみで生産された代物だ。


 長い柄と銅剣と同じ長さもある穂先という、武器としては大きな得物であるはずの銅矛を軽々と振るって扱うフミコを見て言葉を失った。

 開いた口が塞がらないとはこのことだ。あれ? もしかして自分よりもフミコのほうが強いんじゃ……? そんなことさえ思えてくる。


 とはいえ、銅矛の突きやなぎ倒しだけで裁ききれるほど甘くはない。

 フミコの攻撃で消滅した次元の迷い子たちの隙間を埋めるようにまた、次から次へと次元の迷い子たちが迫ってくる。


 しかしフミコは顔色1つ変えない。

 手にしていた銅矛を一瞬手放すと銅矛が緑色の光を放って霧散する。

 直後新たにフミコの手元に武器が出現する。


 さきほどと同じく矛。しかし形状が違う。

 銅矛が柄に対して穂先が垂直だったのに対して今出現したのは直角だった。


 クリス形銅器とも呼ばれる形状の刃をつけたその武器は銅戈。

 中国では殷の時代から存在する戦闘用馬車で扱う武器であるが、日本に伝来し広まってからは刃の部分が大型化していき、やがて武器としてではなく祭礼用として浸透した代物だ。


 しかしフミコはお構いなしに武器として使う。

 両手で構え一気に突き出し、迫り来る前方の集団に刺突すると倒れた個体に穂先を振り下ろし引っかける。

 そのまま柄を横凪に振るい、穂先に引っかけた次元の迷い子を集団へとぶつけていく。

 その勢いに次々と次元の迷い子たちはなぎ倒されていき消滅していく。


 さらに銅戈を振るい別方向の集団もなぎ倒す。討ち漏らした個体は突き倒し引き斬る。

 まさに無双とはこのことだった。

 その鬼気迫る戦いぶりにただただ圧倒された。


 「……まじか」

 「まぁ、倭国大乱の時代の弥生人じゃからの?」

 「いや、その一言で片付けていいの?」


 カグの呑気な物言いに思わずツッコむが、いやほんと倭国大乱ってまじ物騒だったんだな。


 「かい君、隙が生じたよ! 今ならいける!」


 多数の次元の迷い子たちが倒されたことで相手側に躊躇が生まれたのを見てフミコが叫ぶ。

 とは言っても肝心の壁の上へと移動する手段がない。

 どうしたもんかと思っているとフミコがその手の銅戈を手放し霧散させ、再び銅矛を手に取る。

 そして両手で構えると。


 「かい君飛んで!!」


 フミコが叫んだ。

 飛ぶ? いや無理だろ! と思ったがフミコが「いいから!」と急かす。

 耳元ではカグが「ジャンプしろってことだよ」と囁いてくる。


 「あぁ、もうわかったよ!! 飛べばいいんだろ! 飛べば!!」


 叫んでその場で思いっきりジャンプする。

 もうヤケクソだ!!


 直後、フミコが銅矛を遠心力をつけて大きく振り回す。

 振った穂先は勢いをつけたままこちらの足を捉え、そのまま真上へと押しあげる。

 ようやくフミコの意図に気付き、タイミングよく穂先を蹴る。

 まるでカタパルトで射出されたように一気に上昇し、穴の底から抜けだし地上へと放り出される。


 「うぉぉぉぉぉ!?」


 勢い余って地面に叩きつけられそうになるがなんとか受け身を取ることができた。

 とはいえ生きた心地がしない。冷や汗をダラダラと流しながら起き上がる。


 「はぁ………はぁ………もう二度とこのやり方はしないぞ?」


 汗を拭いながら息を整える。

 穴の底を見ればフミコが笑顔で手を振っていた。

 その様子に引きつった笑みを浮かべてこちらも手を振り返す。

 なんだか乾いた笑いも出た。


 「おいカグ、あれはなんだ? フミコなんであんな力あるんだ?」

 「ふむ? さっきのはただ単に遠心力を利用しただけじゃと思うが?」

 「いや、その一言で片付けていいのか? どう考えてもそれだけで人1人をここまで飛ばせんだろ!! こっちもタイミング合わせたが、それだけじゃ納得できん! あの槍についてもだ!!」


 隣に悠長に飛んでやってきたカグに聞くが相変わらずカグは核心には触れない。


 「いいも何も鬼道じゃからの? それ以外の何でもないわい」

 「いや、だからほんと鬼道って何? どうなってんの弥生時代?」

 「貴様が気にしても仕方ないわい」


 こちらの質問にまったく答えようとしないカグをよそに、穴の底では戦闘が再開される。




 「かい君は上に届けられた……でも」


 フミコは前を見る、そして左右も。

 次元の迷い子というらしい怪異の存在が周囲を取り囲んでいる。


 「はやくここを片付けて合流しなきゃ!」


 銅矛を構え突き出す。今にも飛びかかってきそうだった手前の集団はそれによって突き倒した。

 次に真横に振るう。右側の集団をなぎ倒し、続いて反対方向へと振るって左側の集団もなぎ倒した。


 が、すべてが倒れたわけじゃない。

 難を逃れた複数の個体が一気に飛びかかってくる。


 それを横目で見て銅矛を手放す、銅矛が緑色の光を放って霧散、新たに武器を手にする。

 それは有柄銅剣。

 銅剣は鉄剣よりは脆いが呪力で強化された代物は鉄剣を凌駕する。


 これを振るい、飛びかかってきた次元の迷い子たちを斬り倒す。

 時に打撃しなぎ倒して突き刺し、時に振り回して胴体を斬り落していく。

 正直、負ける気がしない。


 それでも次元の迷い子たちは数で押し寄せてくる。

 なので右手に有柄銅剣を持ちながら左手を頭上に掲げる。

 すると左手に新たな銅剣が出現する。


 新たに出現した銅剣は有柄銅剣とは形状が違っていた。

 これは自身の国とは別の国の銅剣。

 滅ぼした国の武具で()()()()()()()()()()()()()()()


 左右に形状の違う銅剣を持って全方位から迫り来る次元の迷い子たちを返り討ちにしていく。

 この程度の敵と数なら問題はない。

 でも、それでも……


 「やっぱり数が多すぎるよね」


 斬り倒しながら考える。

 いくら次元の迷い子たちが弱いとはいえ、こちらも半永久的に動けるわけじゃない。

 体力がなくなってきたら動きも鈍る。足も手も止まる。

 剣も矛も振るえなくなる。弓も射れなくなる。

 ならば……


 「あまり使いたくはないけど……()()を使うしかないか」


 言って2本の銅剣を大きく振り回し、両手を合わせ2本の銅剣を重ね合わせる。

 すると2本の銅剣が緑色に輝き、融合して形状を変えた。

 剣身の左右に段違いに3本ずつの枝刃が生えだす。

 今のフミコが知る由もないが、それは百済王から倭王に送ったとされる七支刀によく似ていた。


 ーーーーでは枝剣とのみ呼ばれていた剣を手にし、上空へと掲げる。


 「仰ぎ見よ!!」


 枝剣はその形状から武器としては使わない。祭を行う時に神を降ろす祭具としてのみ使う。

 そして降ろした神はその剣身に宿り実体化する。


 左右に段違いに3本ずつの枝刃が緑色に輝く蛇のようなものに変化し6匹の蛇が次元の迷い子たちを襲っていく。

 その姿はカイトが見れば間違いなくこう思うに違いない。

 「古墳の遺跡の頂上や精神世界で戦った大蛇のようだ」と。


 この光景をどう思うだろうか? と不安になったが、気持ちを押し殺す。

 やがて緑色に輝く蛇たちが次元の迷い子たちを吹き飛ばすと上にいるカイトへと叫ぶ。


 「かい君!! 耳を塞いで!!」


 届いたかどうかわからない。

 もしかしたら蛇のことで困惑してるかもしれない。

 それでも、今は届いたと信じてやるしかない。


 枝剣を手放し、新たに祭具を手に取る。

 それは釣鐘式の祭具である銅鐸。


 巨大なその青銅器の楽器を横に置き、呪力を使ってほんの少しだけ宙に浮かせると棍棒を手に持つ。

 大きく息を吸い込み、そして………


 「はぁぁぁぁぁ!!!!」


 思いっきり表面を叩いた。

 ゴォォン! と大きな音が周囲へと響き渡っていく。

 その音は次元の迷い子たちに軒並み響き、その場に(うずくま)らせる。


 その隙を逃さない。

 銅鐸が緑色の光を放って霧散すると、右手を高らかに掲げる。

 直後、その手に丸い鏡が出現した。

 それは最上級の祭具である銅鏡。


 今のフミコが知る由もないが、縁部の断面形状が三角形状になっていることから、現代では三角縁神獣鏡と呼ばれている鏡裏の図画意匠をいまだ立ち上がれない次元の迷い子たちに向ける。

 自身と鏡を中心点として周囲の呪力が満ちていき鏡へと吸い寄せられていく。そのため、まるで嵐が吹き荒れているかのような強風が吹き荒れた。

 そして……


 「日は満ちた。その加護の元闇へと帰せ!!」


 言ってくるっと表面、鏡の部分を次元の迷い子達に向ける。

 鏡に収束した呪力を解放するためだ。

 そして目も開けてられないほどの眩しいまでの光が鏡面から放たれ、すべてを消し去った。

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