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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
13章:緊急クエストをこなそう!

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ドルクジルヴァニア防衛戦(17)

 フレデリカによる攻撃によってギガント側は壊滅的な被害を受けた。

 何せ何十キロも続いていた行軍の行列に対して圧倒的なまでの津波を放ったのだ。

 ギガントどもが逃げ場のない渋滞でパニックを起したかはわからないが、無事で済むわけはないだろう。


 夜であったためギガント側の被害の全貌は確認できなかったが、地平線を埋め尽くしていたギガントどもは例外なく流され跡形もなく消えていた。


 フレデリカの事前の打ち合わせなしのこの攻撃にギルドユニオン側の誰もが思うところはあったが、しかしこれによって少なくとも夜の間はゆっくりと休息を取る事ができた。

 海賊側に強く抗議するギルドが特にいなかったのはそういった事も絡んでいるのだろう。


 何にせよ、この日はフェイクシティー自体に損害は生じず、突破されなかった事からギガント襲来の初日はドルクジルヴァニアの防衛は成功したと言えるだろう。

 とはいえ、外に展開した自走砲部隊の半数と補給部隊の多くが壊滅する被害は被ったのだが……


 翌朝、フェイクシティーの城壁から見る草原地帯は静寂に包まれていた。

 とはいえ、ギガントどもが去ったわけではない。


 フェイクシティー周辺の上空を飛空挺で飛ぶ空賊達は地平線の彼方からギガントどもがやってくるのを確認しているし、偵察ドローンも同様にその様子を撮影していた。

 間もなく、昨日同様にギガントどもが押し寄せてくるだろう。

 誰もが息を呑んで昨日同様に、静かにその時を……総攻撃の時を待っていた。


 そんなフェイクシティー内の空気を肌で感じながら、フェイクシティー内のギルド拠点の屋根の上に立って朝食変わりのサンドイッチを片手にケティーからの報告を聞いていた。


 『航空写真の解析と偵察ドローンからの映像を見るに、間もなくやってくるギガントの連中は昨日の奴らとは形状が違うみたい』

 「具体的には?」

 『偵察ドローンの映像を見るに角やらトゲやらがやたら生えてる個体ばっかりだね。あと川畑くんが言ってた一目の個体も確認できるね、これが空賊の言うサイクロプスって事かな? だとしたら一目の個体がいる場所の近くに偵察ドローンは飛ばせないかも』


 ケティーの報告を聞いてカストム城門での戦いを思い出す。

 確かに一目のギガントはその1つしかない目玉から強力なレーザービームを放っていた。

 あんなものくらってはドローンなどひとたまりもない、そしてそれなりの数を用意したとはいえ、1機でも偵察ドローンが撃墜されれば、それはこちらの情報収集能力の低下に繋がり痛手となる。

 それだけはなんとしても避けなければならない。


 「わかった。とはいえ、さすがにノーマークにするわけにもいかない。サイクロプスに迎撃されない適度な距離をとって監視にあたってくれ」

 『そうするよ。それよりもうすぐ戦闘開始だろうけど皆を起さなくていいの?』


 ケティーの問いをサンドイッチを一口頬張って考える。


 昨夜は数時間おきの交代制で警戒監視をする班と休息を取って就寝する班に分かれたが、早朝からは自分1人が警戒監視の役を引き受け、他の皆には就寝してもらっている。

 十分に休息も取れたと思うし、眠る事もできたとは思うが、それでもまだギガントがこちらの砲撃射程範囲にやってくるまでには時間があるだろう。


 ならば、ギリギリまで皆を休ませておきたい。何せ自分達は自走砲や自走対空砲を扱う砲兵部隊ではないのだ。

 砲撃が開始されても出番がすぐにあるわけではない。


 「いや、もう少し寝かせておいてあげよう。睡眠時間が少ないケティーには悪いけど」

 『あら、気遣ってくれるの? それは嬉しいな』

 「当たり前だろ、ケティーがいなきゃ情報解析ができないんだから」


 航空写真の画像解析やドローンの映像の分析はケティーとリエルが行っている。

 というよりかはこの2人にしかできない。

 一様はリーナとエマもギルド拠点にやってきて2人の手伝いを行っているが、子供にできる手伝いには限度がある。

 何より、昨夜はふたりともすぐに眠ってしまい、作業を手伝ったのか? と言われたら言葉につまるだろう。


 とはいえ、夜のうちにギガントどもにこれといった動きがなかったため、情報のアップデートがない分、作業はそこまで大変だったというわけではなかったようだ。

 だからこそ、ケティーとリエルも交代で休憩し、それなりに睡眠時間は確保していたのだ。


 『まぁ、頼りにしてくれるのはこちらとしても悪い気はしないんだけどさ。だったら他の子にももっと頼ってもいいんじゃない? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 「それは……」


 ケティーに言われ、言葉に詰まった時だった。

 目が覚めたのか、フミコが窓を開けて身を乗り出し、そのまま屋根へと上がってきた。


 「よっと! かい君おはよう!」

 「フミコ、もう少し寝ててもいいんだぞ?」

 「ん? いいよ、かい君が起きてるのに寝てるなんてもったいないし」


 そう言ってフミコは自分の隣に立つと両手を上げて大きくのびをする。

 そして意地悪い顔をして自分の手から食べかけのサンドイッチを奪った。


 「それに他の皆が寝てるならかい君を独占できるしね! もーらい!」

 「あ!? おいフミコ! 何俺の朝食奪ってるんだよ!」

 「いーじゃん! 後であたしのあげるから」


 そう言ってフミコは自分から奪った自分の食べかけのサンドイッチを頬張る。

 そんなフミコに対してケティーがインカム越しに苛々した声をかける。


 『おいフミコ、私もいる事忘れるなよ?』

 「ん~? そうだね? でもケティーがいるのはコントロール室でしょ? かい君の隣にいるのはあたしだし、かい君の食べかけサンドイッチを食べてるのもあたし何だけど?」

 『おいテメー今なんっつった?』

 「ん~おいしい! かい君とふたりきりで食べる朝食おいしい!」

 『フミコ、テメー! 今すぐカミカゼ・ドローンぶつけてやる!!』

 「はは! やれるものならやってみろー! あたし相手に無駄玉撃てる余裕があるならなー!」

 『こいつー!!』


 インカム越しとはいえ、恒例の朝食時の喧嘩をはじめたフミコとケティーだが、まぁインカム越しの会話だし問題ないかとスルーする事にした。

 なのでフミコにサンドイッチは奪われたが、マグカップに入った飲み物は奪われていないのでそれを一気に飲み干す。


 ちなみに中身は昨日、商業ギルドから支給されたこの異世界のミルクなのだが、何の動物のミルクかは不明である。

 うん、臭みがあって喉ごしも悪く、とても爽やかな気持ちになれない飲み物だ。


 なんだこのミルク? とてもじゃないがまずくて二杯目は飲めんなこれは……後でケティーに頼んで次元の狭間の空間からジュースを取ってきてもらおう。

 そう思っていると、フミコとインカム越しで喧嘩をしていたケティーが突然焦った声をあげる。


 『え?ち ょっと待って何こいつ!?』

 「ケティーどうした?」

 『なんか見た事ない新手のギガントが地平線の彼方から物凄いスピードでこっちに走ってきてるよ!? まずい川畑くん!! これ今から砲撃しても間に合わないかも!! これ突破されるよ!!』

 「な、なんだって!?」


 ケティーの報告に思わず慌てるが、それの出現はフェイクシティーの外に展開している自走砲部隊や、フェイクシティー上空の空賊たちも気づいたのだろう。

 すぐに遠くから無数の砲撃音が聞こえてきて、フェイクシティーの中心にある80cm列車砲も砲撃を行い、フェイクシティー中にその砲撃音が響き渡った。


 しかし、ケティーの焦り具合から察するに、気づいてからの砲撃ではすでに手遅れだろう。

 それを証明するように、こちらの砲撃の着弾音が聞こえる前にフェイクシティー内に轟音が轟き、衝撃と地響きがフェイクシティー全体を襲う。


 それだけで何が起こったかは察する事はできたが、それでもケティーに確認する。


 「ケティー、何が起こった?」

 『城壁が……破られた』


 ケティーの言葉に思わず息を呑む。


 『新手のギガントが城壁を破壊して侵入したよ川畑くん!! 第1防衛ラインは突破された!!』


 その報告を聞き、一旦深呼吸してから遠く城壁のほうを見つめる。


 「そうか……想定していたより少し早いが、ようやく出番が回ってきたようだな! フミコ! みんなを起してきてくれ!! ケティーはフェイクシティー内に警報の発令を!!」

 「うん、わかった!」

 『了解!』


 フミコとケティーに指示を出し、懐からアビリティーユニットを取り出す。

 そして考える、ウラス・ヨルドのやろうも来ているだろうか?

 恐らくは来ているだろう、そしてどこかのタイミングで絶対に妨害してくるはずだ。

 ここからはその事を前提として動かないといけないだろう。


 何にせよ、ギガントとの市街戦が始まろうとしていた。

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