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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
13章:緊急クエストをこなそう!

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ドルクジルヴァニア防衛戦(16)

 地平線の先に日が沈み、空はだんだんと暗くなっていく。

 しかし、フェイクシティーの周囲に夜のとばりは訪れない。


 なぜならギガントたちは進軍を止めず、それを討ち滅ぼすためにフェイクシティー側からの砲撃がずっと続いているからだ。

 ギガントたちの途切れる事のない行軍による地響きが常に響き、それを討ち滅ぼすべくフェイクシティー内から砲撃が絶えずおこなわれる。


 フェイクシティーの外に展開している複数の自走砲は数発の砲撃ごとに陣地転換を繰り返し、彼らへ弾薬を届けるべく、補給部隊がフェイクシティーから命がけで飛び出していく。


 しかし、そんな補給部隊のいくつかはギガント・シャーマンによって操られたゴブリン、オーク、コボルト、オーガ、トロルたちに襲われ壊滅していく。

 それによって補給を受けられなかった自走砲部隊のいくつかは弾薬がつき、フェイクシティー内への撤退か、無謀な特攻かの選択を迫られる。


 一部は補給を受けられた部隊と合流を果たし、戦力の立て直しが行えたが、残りは自走砲を放棄し、そのまま行軍するギガントの群れへと突っ込んでいった。

 彼らがその後どうなったかは言うまでもないだろう。


 そんな状況は人工の海水湖上に展開する海賊船からでも確認できる。


 「おいおい、まさか1日も経たない内に壊滅なんて事にならないだろうな?」


 甲板から望遠鏡で陸地の様子を観察しながらフレデリカが部下たちに指示を出す。

 フレデリカの指示の元、甲板上では誰もが走り回って作業を行っていた。


 「まぁ、そうなったらなったでサングルス海にさっさと戻って、キャプテン・パイレーツ・コミッショナー総出で海上戦力を結集させればいいのでは?」

 「バカ! それだと今この状況と変わらずユニオンの二の舞だろ!」


 フレデリカの横に立って報告を行った部下の頭をフレデリカは殴り、そのまま砲撃を指示を出す。

 海賊船団は次々と砲撃を行い、地上にいるゴブリン、オーク、コボルト、オーガ、トロルたちをミンチに変えていく。

 だが、どうしても海賊船に搭載された大砲の射程では地平線の向こうに控えているギガントたちには届かない。


 そのため、海賊船団の戦果は人工の海水湖の港やフェイクシティーの城壁に近づいてきたゴブリン、オーク、コボルト、オーガ、トロルたちの一掃に限られていた。


 彼らを操っていたギガント・シャーマンは海賊船団の一斉砲撃を目の当たりにした直後から後退し、射程圏外へと逃げており、安全圏からゴブリン、オーク、コボルト、オーガ、トロルたちに人工の海水湖への突撃を指示していた。

 そんなギガント・シャーマンを海賊船団は撃ち殺せないわけではない。


 通常の海賊船では無理でも、今フレデリカの乗船している海賊団ブラックサムズの海賊船団の旗艦ストーンウォールに搭載されたアームストロング砲ならばギガント・シャーマンを狙撃する事も可能だろう。

 だが、今それは行っていない。


 なぜなら、ここに現れたギガント・シャーマンを排除するという事は、ゴブリン、オーク、コボルト、オーガ、トロルたちをコントロールする指揮官がいなくなる事を意味する。

 通常の戦闘ならば、それは相手側の混乱を招く絶好の機会であり、指揮官を殺せるならば真っ先に殺すだろう。


 だが、相手はギガントであり、これは通常の戦闘ではない。

 具体的にどれだけの個体数が存在するかは不明だが、ギガント・シャーマンはレアなのだ。


 そして、そんなレアな一体が姿を晒しており、こちらにゴブリン、オーク、コボルト、オーガ、トロルたちを差し向けている。

 ここであのギガント・シャーマンを殺してしまったら、もうゴブリン、オーク、コボルト、オーガ、トロルたちは自分たちの射程圏内に突撃してこないだろう。


 その結果、自分達が手出しできない場所で補給部隊が次々と壊滅していく……

 補給部隊がゴブリン、オーク、コボルト、オーガ、トロルたちに襲撃されるリスクを下げる意味でも、ここに釘付けにしておく必要があるのだ。


 とはいえ、かなりの数のゴブリン、オーク、コボルト、オーガ、トロルたちをミンチにしたが、それでも補給部隊は襲撃されているとの報告があがってくる。

 当然ながら陸地の奥深くにもギガント・シャーマンはいて、そいつがゴブリン、オーク、コボルト、オーガ、トロルたちを操り、補給部隊を潰して回っているのだ。


 「さて、どうしたもんかな?」


 フレデリカはため息をつきながら頭をガシガシと掻く。

 そして、補給を終えて旗艦ストーンウォールから離れていくカイトから提供を受けた「はやぶさ型」ミサイル艇に目を向ける。


 「あれの武装なら陸の奥地にいるシャーマンを殺せるか?」


 そう独り言のように呟いて考える。


 カイトは「はやぶさ型」ミサイル艇をブラックサムズに提供した際に、操作方法と共に搭載する武装についても説明しており、フレデリカもしっかりとそれを熟知している。

 だからこそ、「はやぶさ」が装備する武装が、射程範囲では陸の奥深くにいるシャーマンに届くことは理解していた。


 「はやぶさ型」ミサイル艇は艦首にイタリアのオート・メラーラ62口径76mm単装速射砲を1基装備しており、艦尾には90式艦対艦誘導弾連装発射筒を2基搭載している。

 これらを使えば、奥地にいるシャーマンを殺す事は可能だろう。

 ただし、それはシャーマンの正確な位置がわかっている場合の話だ。


 今、海賊船の大砲の射程圏から離れながらも姿を見せているシャーマンと違い、奥地のシャーマンはどこに潜んでいるかはわからない。

 それではミサイルや艦砲射撃など到底できない、警戒されるだけだ。


 上空を飛ぶ空賊どもと連携が取れれば、もしかしたら可能かもしれないが、現状ではそれは不可能である。

 何せキャプテン・パイレーツ・コミッショナーとしてはユニオンとは一時休戦し共闘する事を約束したが、空賊とはそのような約束はしていないのだ。

 だから、この場において海賊、空賊、ギルドは足並みを揃えているわけではなく、ギルドを通じて間接的に連携しているだけなのである。


 そうなれば、ギルドを通じて協力を依頼するしかないが、果たしてそれでシャーマンの位置を割り出せるだろうか?

 何せ、空賊の連中も日中は上空からシャーマンを探していたはずだ。

 だが補給部隊への襲撃が続いているという地上からの報告を聞くに空賊どもはシャーマンを発見できていないのだろう。


 明るく視界が良好な日中でそれなのだ。

 ならば辺り一面闇に閉ざされてしまう夜ではより厳しいものになるだろう。

 空賊には期待できない。

 そうなると「はやぶさ型」ミサイル艇の武装は今は使えない。


 「やれやれ、まったく面倒だな……しかし補給部隊の消耗はいずれこっちにもしわ寄せがくるぞ」


 フレデリカは顎に手をついて考え、そして深く頷き。


 「うむ、色々とめんどくさくなってきたな」


 考えるのをやめた。


 「キャ、キャプテン?」

 「あー、なんかもうダルくなってきわ。おまえらだってそうだろ? 明日以降もまだまだギガントどもの襲来は続くんだ。なのに夜も寝ずに押し寄せる連中と戦うなんてやってられっか!」


 フレデリカの言葉にざわつく甲板上の海賊達の事など気にせず、フレデリカは指をパチンと鳴らして口元を歪める。

 直後、ストーンウォールの周囲の至る所で渦巻きが発生しだした。


 それを見てフレデリカの隣にいた海賊が慌て出す。


 「キャプテン!? まさかこんなところでぶっ放つつもりですかい!?」

 「あぁ!? ここでやらないでいつやるんだ? せめて夜の間は熟睡できる程度には連中の数を減らして押し返さないとな!!」


 フレデリカは叫んで再び指をパチンと鳴らす。

 すると日が落ちて暗くなりだした空が急に曇りだし、巨大な水上竜巻がストーンウォールの周囲の至るところで発生しだした。


 「一様信号弾で城砦の外に出てる連中に退避を知らせとけ!! 間に合うかわからんがな!!」


 フレデリカの言葉を聞いて甲板上にいた海賊の1人が慌てて信号拳銃を取り出し、頭上に掲げて信号弾を放った。

 暗くなった上空に青い煙が昇っていくが、それを確認する事なくフレデリカが叫んだ。


 「すべて押し流せ!! タイダルウェーブ!!」


 フレデリカが叫んだと同時にストーンウォールの周囲に発生していた無数の巨大な水上竜巻はより大きくなり、やがて上空で重なり合うとそのまま弧を描いて地上へと落下、そのまま地上を巨大な水の壁で呑み込んでいき、一気に陸の奥地へと恐るべき激流でもって進んでいく。

 その光景はまさに抗う事ができない巨大な津波だ。


 この攻撃にゴブリン、オーク、コボルト、オーガ、トロルたちと海賊船の大砲の射程から逃れていたギガント・シャーマンは抗う事ができず呑み込まれ流されていく。

 そして恐るべき速度で津波は地平線の彼方まで呑み込んでいき、遙か遠くの彼方からギガントどもの悲鳴のようにも聞こえる無数の気味の悪い叫び声がかすかに聞こえてきた。


 そんな自らが放った攻撃である津波に呑まれた大地を眺めながらフレデリカは満足そうに頷くと。


 「これで今夜はじっくり睡眠が取れるな。まぁ一様交代制で警戒は必要だろうがな」


 そう言うとフレデリカは大きなあくびをしながら。


 「港の酒場でバカ騒ぎは昨日やったから諦めろよ? 誰が先に寝て、後で寝るかはてめーらで勝手に決めめな! じゃあ朝になったら起してくれ」


 ひらひらと手を振って船内へと入っていった。

 それを聞いて誰もが「アイアイサー!」と返事をする。


 そして津波に呑まれた大地を見ながら「明日問題にならなきゃいいがな」と誰もが思うのだった。

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