ロストシヴィライゼーション・コア(1)
泣いているフミコを抱きしめていたが、やがてカグからツッコミが入る。
「いつまでそうしてるつもりじゃ?」
カグの言葉で我に返る。
思わず抱きしめていた手を放して素早く距離を取った。
冷静になれば「なんちゅう恥ずかしい柄にもないことをしてんだ!」と悶絶しそうになる。
一方のフミコは赤面して下を向いているが何やらモジモジとしている。
なんというか、ここは一度切り替えたほうがいいだろう。
というわけで、本来の目的を思い出すためにもフミコから視線を逸らし疑似世界の中心の建物、上空に青白い光を放つ巨大な構造物を見据える。
古墳のような遺跡の頂上からはそれがよく見えた。
「さて、いよいよ疑似世界の中心も目前だな!」
言って大きく息を吸い込む。
両手でパンパンと頬を叩き気合いを入れる。
「フミコがあんな目にあったのも中心にいるやつのせいなんだろ? 落とし前つけにいかないとな!!」
フミコからやたらと熱っぽい視線を感じるが、とにかく今は先に進む事を考えよう。
地上へと下りる階段へ向かうとフミコも後に続いた。
階段を下りた先の通路を進み、遺跡を抜けると次のエリアへの入り口があった。
今までは景色が切り替わったように次の遺跡に入り込んでいたが今回は違う。
エリア全体がコンクリートの壁で覆われており、自動ドアのような入口が小さく申し訳程度にあるだけだ。
「これ開くんだよな?」
もし開かなかった場合、このどこまで続くかわからない壁を迂回しなければならない。
ここに来て疑似世界の中心を目の前にそれだけは避けたい。
緊張の面持ちで自動ドアのような入り口の前に立つ。
すると音もなく入り口が開いた。そのことにほっと安堵の息を吐く。
一方のフミコはそのことに驚きの声をあげた。
「え? 何? 今のどうなったの!?」
まぁ自動ドアなんて見たことがない弥生時代人の反応は普通そうだろう。
とりあえず説明は後回しにして中へと入る。
壁の中は長い通路となっていた。
歩く度に床や壁、天井が光っていき近未来的なSFっぽさを感じる。
そのことにフミコが驚きの声を上げキョロキョロとしている。
うん、そりゃそーなるよね……正直自分もこのSFっぽい感じはちょっとソワソワする。
そして通路を抜けると広い空間に出た。
天井は高く無機質な壁には無数のモニターが取付けられている。
さらに奥にはコンテナのようなものが多数並べられており、中にはコンテナの中身が外に散らばっているものもあった。
何かの管理をしているコントロールセンターだったのかもしれない。
壁のモニターに表示されている文字は当然読めるわけはない。
広い空間の中央には高い天井まで届く巨大なコンピューターのような物が設置されていた。
一様覗いてみるがプログラミングの能力を使っても何の装置なのか、どうやったら動かせるかさっぱりだった。
「まぁ期待はしてなかったけど、次元の迷い子が出てくる前にさっさと進むか……ん?」
ふと画面の下に妙な物が落ちていることに気付く。
クレジットカードほどの大きさと薄さで右端にボタンがある以外はガラスのような透明なものでできている。
普通ならスルーするところだが、なぜだかそれを拾い上げていた。
「かい君それ何?」
拾い上げたそれをフミコも覗き込んでくるが答えようがない。
自分でもこれが何なのかわからない、だがなぜか気になって仕方がなかった。
「何だろうな? ……これって何だ?」
なのでカグに質問していた。
とはいえ答えが返ってくることは期待はしていなかったが……
ここはどこかの異世界の忘れ去られた文明の欠片だ。
そういった観点から地球の文明とは無関係とはいえ教えてはくれないだろう。そう思っていたが……
「あぁ、それは危険物発見装置じゃの?」
普通に答えた。教えていいのかよ?
「え? 危険物発見装置? これでどうやって?」
「その右端のボタンを押しながらガラスを周囲に向けてみよ」
「こうか?」
言われた通りにしてみるが何も起こらない。
「何もないぞ?」
「危険物がないってことじゃろ」
カグが小馬鹿にした口調で言ってくる。しかし直後にガラスに謎の文字だか記号が浮かび上がる。
「な、なんだ?」
「お、発見したようじゃの?」
「そうなのか? まったく読めんが」
「そりゃそーじゃろ。貴様が知らない異世界の忘れ去られた遺跡じゃぞ?」
「だったら読み上げてくれ。何て書いてあるんだ?」
カグに丸投げするがカグは「自分で考えよ」と意味不明な返しをしてきた。
読めない文字を自分で考えよとはどういうことかと思ったが、カグ自身もそれが固有名詞なのでどう読むべきか迷ってるらしい。
ガラス越しで見えているのはコンテナ。正確には扉が開いてコンテナから外にばらまかれている代物だ。
それをガラス越しに見た時に謎の文字だか記号がその代物を説明するように浮かび上がったのだ。
「で、何て書いてあるかは後にして、一体これは何なんだ? どう危険なんだ?」
コンテナの外にばらまかれているのは色合いといい大きさといい金の延べ棒のようなものだった。
それが床に大量にあるわけだが危険物だという以上拾い上げるのも憚られる。
しかしカグは特に気にした風もなく金の延べ棒のようなもののところに羽ばたいていき上に止まると、こんな事を言い出した。
「こいつは可塑性の高い混合爆薬じゃの。わかりやすく言えば粘土のように形を変えられる爆薬じゃ」
「は!? 爆薬!?」
カグが呑気に言ったが慌ててコンテナからフミコの手を取って距離を取る。
というかそんな代物の上によくカグは気軽に乗れるな。
「ほっほっほ! 心配するな。こいつはセットして起動させない限り爆発せんわい」
「そうなのか?」
「その危険物発見装置にも起動プログラムをインストールできるぞ? 試しにやってみるか?」
言われて一瞬どうしようか迷ったが使えそうなら使おうとやってみる。
空間中央の高い天井まで届く巨大なコンピューターのような物に危険物発見装置をセット。
そしてカグの指示の元、アビリティーユニットにアビリティーチェッカーを取付け、プログラミングの能力のエンブレムをタッチする。
プログラミングの能力は自動発動するためメンテナンスの時もエンブレムをタッチしたことはなかったが、こうすることで自動発動では扱えない機器もすべてではないが扱えるようになるらしい。
「こういう使い方はもっとはやく言って欲しかったがな」
「ステータス画面で調べられるじゃろ」
「……ステータス画面ねぇ」
カグに言われてその存在を思い出した。
アビリティーチェッカーの画面やメンテナンス施設のモニターで自身の数値化されたステータスを確認することができるのだが、そこに奪った能力の詳しい説明も記載されているらしい。
とはいえ、個人的にはこのステータス画面はあまり好きではなく確認したことはあまりない。
オタクやゲーマーなら好んで確認するのだろうが、完全に数値化された自身のデータなどじっくりと見る気にはなれなかった。
その数字を見てしまった時点で満足なり、自身の限界なりを意識してしまいそうで怖いからだ。
しかし、そのステータス画面を見ない限り得られない情報があるのも事実だ。
それこそカグが言ったように能力も説明もそうだし、現在のポイント保有数もステータス画面でしかわからない。
とはいえ、今のところポイントが何なのか? どうしたら獲得できるのかイマイチわからないのだが……
「お、インストールできたみたいだな」
コンピューターから危険物発見装置を取り外す。
そして危険物発見装置のガラスにメニューのようなものが表示された。
「なるほど、この項目から起動する爆薬を選択してガラスに映した爆薬をタッチして右端のボタンを押せば爆発すると……」
文字は読めないがなぜだか頭の中に大まかな使い方が流れ込んできた。
これもプログラミングの能力なのかもしれない。
「で、この爆薬の名前は無理矢理読むならCVZI-E。危険物発見装置はVALか」
試しにどれくらいの威力があるか確認したいがここでするとこの遺跡が崩落する恐れがある。
なので即戦力になるかどうかは不明だ。
疑似世界の中心にいる元凶相手に使えるかどうかわからないが、一様持って行くことにする。
そうなるとどれだけCVZI-Eを抱えて携帯するかだが、悩んでいるとカグがまた小馬鹿にした言葉を投げかけてくる。
「ほんとに貴様はステータス画面をよく読め」
「は?」
「雑貨屋の能力をタッチしてみい」
「雑貨屋の能力って……まさかあれって次元の狭間の空間以外でも使えるのか?」
「はぁ……だからステータス画面を見ておけと言うとるんじゃ」
カグが呆れた様子で言ってきたが確かに雑貨屋の能力はきちんと理解はしてなかった。
上限や制限、制約、登録してないといけない物、登録出来ない物等はあるものの道具をほぼ無尽蔵に引き出せるが、それは次元の狭間の空間でのみという認識だったが、どうやら道具を引き出せる場所はどこでも可能らしい。
つまり異世界に大きなザックを背負って行く必要はないようだ。
そしてアイテムの登録も次元の狭間の空間のメンテナンス施設でなくても簡易でできるらしい。
それがわかった以上、CVZI-Eを登録しない手はない。
しかし、登録してる過程で注意書きがアビリティーチェッカーに表示される。
「引き出せる上限はこの空間に存在してる数のみ? この空間にしか存在しない代物であるため数を使いきった時点で登録は抹消され以後の引き出しは不可能……まじか」
まぁ当然と言えば当然だろう。
これが地球の爆薬だともしかしたらいくらでも引き出せたかもしれないが、このどこかの異世界の忘れ去られた文明の遺跡の中にしかない爆薬など製造方法も元の異世界でも失われているだろうし復元のしようもない。
現物をコピーして量産できる能力でもあれば話は別だろうが自分はまだ3つの異世界しか回っておらず、そんな能力は得ていない。
したがって残数を気にしながらの使用になるだろうが、それでもこの空間にこの爆薬どんだけあるんだ?
「上限はあるがえげつない数が表示されてる気がするが……爆薬の使用頻度の目安がわからんから何とも言えんな……」
というかこれ、1つでも起爆したら恐ろしいことにならないか?
その事に気付いて血の気が引く、ここから早く出た方が良さそうだ。
そう思った時だった。フミコが背中を可愛らしく突いてきた。
「どうした?」
「どうしたじゃない! かい君さっきから全然あたしのことかまってくれない!」
頬を膨らましてフミコが抗議してきた。
なんだこの可愛らしい生き物は? と一瞬思考が逸れかけたが頭を振って邪念を飛ばす。
「いや、今下準備してるところだから……っとそうだフミコ、石の短剣貸してくれないか?」
「へ? うん、いいけど何に使うの?」
「ちょっと考えがあってな」
フミコから石の短剣を受け取ると引き出せるアイテムに登録する。
思った通りCVZI-Eと違って石の短剣の数に上限はなく∞マークがついた。
「やっぱりな。M9銃剣でも問題はないが未知の混合爆薬は何に反応するかわからないから石が丁度いいだろう」
「?」
「CVZI-Eは粘土のように形を変えられる可塑性の高い混合爆薬だからな、石の短剣に擦り付けて投げつければそれなりに戦力の幅が広がるかと思うんだが……」
「??」
「……ってフミコにはわからないか」
「かい君!! もっとわかるように言って!!」
フミコの抗議にそうりゃそうーだよな、どうしたもんかと頭を悩ませているとカグがニターと笑ってこっちを見ていた。
「わしの気持ちが少しはわかったかの?」
「わからねーよ」
とにかく説明はすべてが終わってからでいいだろう。今は先へ進もう。
フミコをなんとかなだめ、SF世界のような遺跡を後にする。
この先にあるのはいよいよ疑似世界の中心の青白い光を上空へと飛ばすあの長方形のでかいビルのような施設だ。




