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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
13章:緊急クエストをこなそう!

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ドルクジルヴァニア防衛戦(9)

 手榴弾の爆発による衝撃が収まってから防弾盾から顔を出して状況を確認する。

 当然ながらゴブリンにホブゴブリンの遺体は木っ端微塵に吹き飛んでいた。


 「これで3匹……」


 そう呟いて防弾盾を横へと放り投げようとしたところで。


 「ブゥガァァァァァ!!!!」


 背後からオークの雄叫びが聞こえた。

 振り返ると、オークが手にした槍を構えてこちらに突進してくる。

 しかもそのスピードは何気に速い。


 あっという間にオークは目の前まで迫り、こちらに向かって槍を振るってきた。


 「っち!」


 オークが振るった槍を防弾盾で受け止めようとするが。


 「なっ!?」


 その防弾盾をオークはあっさりと真っ二つに斬り裂いた。

 仮にも※NIJ規格レベル3A以上の抗弾能力を有しているバリスティック・シールドだ。そう簡単に斬り裂かれる事はないはずなのだが、この世界はそうもいかないらしい。


 慌てて手元の残った防弾盾の残骸を横に捨て、地面を蹴ってオークから離れる。


 「おいおい、マジかよ!? さすがにあの槍はヤバいな」


 防弾盾を失った以上、こちらも爆風を防ぐ手段がないため手榴弾は使えない。

 そしてオートシールドモードが使えない今、考えなしに相手の間合いに飛び込むのは危険だ。

 距離を取り、相手の出方を窺おうと考えたが、しかしオークがそれを許さない。

 再び槍を振るい、こちらに迫ってくる。


 「っち! クソったれめ!!」


 これに対処しようとM9銃剣を構えるが、オークは目に止まらぬ速さで槍を連続で突き出してくる。

 そんな攻撃を素人が防ごうなど無謀の極みだ。

 案の定、最初の数撃は運良く弾くことができたが、すぐにオークの繰り出す槍の速さについていけなくなり、防ぎきれずM9銃剣が手から弾き飛ばされる。


 「っ!! しまった!!」


 M9銃剣にスペアはない。サバイバルナイフも予備を含めた2本を使い切っている。

 つまりは攻撃を受け止める手段がなくなったのだ、このままではオークに串刺しにされてしまう。


 「こうなったら一か八かだ! 効くかはわからないがやるしかない!!」


 覚悟を決めてオークの懐へと飛び込む。

 オークの繰り出す槍は速すぎて自分の目では見切る事はできない。

 だから最初のゴブリンにしたのと同じく、地面に転がっている石ころをオークに向かって蹴りつけた。


 幸い、手榴弾を2発も使ったおかげで地面には石ころがわんさか転がっている。

 外れても予備はいくらでもあるのだ。


 (別段、サッカーやラグビーが得意なわけじゃないが、これくらいの距離なら外れる事はないだろ!!)


 思って連続して石ころをオークめがけて蹴りつける。

 その石ころはオークの腹部に辺り、オークはうめき声をあげて一瞬動きが止まった。


 その隙を逃さず、すばやくベルトに取り付けたホルスターから催涙スプレーを取り出し、オークに向かって噴射した。


 「これでもくらえ!!」

 「ブゥビィィィィィィ!!??」


 催涙スプレーの噴射をモロにくらったオークはたまらず悲鳴をあげ、その手から槍を落とし、両手で顔をおさえて後退る。

 そんなオークに対してもう一押しを放つべく、上半身を倒して体を回転させ、強力な後ろ回し蹴りをオークの顔面へと放つ。


 顔面に蹴りをくらったオークは悲鳴をあげてよろけながら数歩後退した。

 その間にこちらは催涙スプレーをホルスターにしまい、腰に取り付けた専用ホルスターからデザートイーグル Mark.XIX .50AEを引き抜き、両手で構える。


 よく映画やドラマ、漫画などでハンドガンを片手で持って撃つシーンを目にするだろうが、TVゲームやエアガン、祭の屋台の射的などならいざ知らず、本物の実銃を素人が撃つ場合は絶対に片手撃ちはしないほうがいい。

 かならずと言っていいほど射撃の反動によって腕がブレてしまい狙いを外してしまうからだ。下手をすれば怪我をする事だってある。


 それが拳銃弾では世界最大級の大きさと最強クラスの威力を誇る50口径の.50AE弾ともなれば、尚のこと片手撃ちなどできるはずがない。

 反動で手元が狂い、見当違いなところを撃ちまくるのが目に見えている。


 さらに撃った後も腕に痺れなどのダメージが蓄積する。

 下手をすれば1発撃っただけで腕がやられてしまう可能性だってあるのだ。


 だからこそ、本来ならデザートイーグルなど初めて実弾を撃ちます! という素人が扱う代物じゃない。

 確かに破壊力は抜群だが、それを使いこなし扱いきれるだけの技術と経験が求められる。玄人向けの拳銃なのだ。


 拳銃は威力が高ければ良いというものではない。

 手軽に扱えて適切に扱えるからこそ拳銃は意味がある。


 ゆえに自分はデザートイーグルを最初から引き抜いて使う事はしなかった。

 仮に最初の1発を外していたら、その後警戒されて逃がす可能性があったからだ。


 反動が大きい分、自分を囲むように展開する3匹に対応する間を与えず短い時間で始末できる自信もなかった。

 だから確実に撃ち殺せる瞬間まで使用を控えたのだ。


 どちらにせよ、今の自分にとってデザートイーグルが切り札である事に変わりはない。

 切り札は最後までとっておくからこそ切り札だ。

 最初から披露して、それを扱いきれなかったら意味がない。


 そして、今がその時だ。

 顔を押え無防備な姿を晒すオークへと銃口を向けセーフティーを解除する。


 「くたばれ!! クソったれが!!」


 叫んで引き金を引いた。

 耳をつんざくような爆音と共に銃口から弾丸が発射され、恐るべき反動が両手を襲い、腕が一瞬大きく上がった。

 その衝撃に思わず後退ってしまったほどだ。


 やはり素人が初めて使う実銃にデザートイーグルはお薦めしない。

 これを最初から使っていたら間違いなく外しまくって失敗していただろう。

 確実に当てられる状況を作り出したからこその今の射撃なのだ。


 そして、その威力は絶大だった。

 何せ銃撃をくらったオークの頭部が一部吹き飛んでしまったほどだ。


 とはいえ、そんな目の前で起こったグロ注意な出来事について深く考えている余裕はない。

 何せ、オークがこれで倒せたという保証はないのだ。

 なので続けて引き金を引き射撃を続ける。


 今度は首元を撃ち抜き、首から肩の一部が吹き飛んだ。

 しかし、そうした結果をいちいち気にしている余裕はない。

 無我夢中で引き金を引き、何発もオークも体に弾丸をぶち込んでいく。


 銃で撃たれ、体に風穴が開くというが、デザートイーグルが開けた穴を果たして風穴と呼んでいいものか……

 言えることは確実に心臓は吹き飛ばしたという事だ。


 すべての弾丸を撃ち終え、マガジンが空となった事により銃身がスライドされたままの状態であるホールドオープンとなった。

 そんな状態のデザートイーグルのマガジンキャッチボタンを押し、空になったマガジンを取り出す。


 とはいえ、デザートイーグルは通常の拳銃と違い、マガジンキャッチボタンが硬く、グッと強くボタンを押さないとマガジンが出てこない。

 だから実際のところ、切羽詰まった状態の戦場ではデザートイーグルは気軽にマガジン交換ができずリロードに時間がかかる拳銃なのだ。


 こういった事もデザートイーグルがあまりプロに好まれない理由なのだろう。

 そんな扱いが面倒な拳銃をケティーはよくもまぁよこしたものだ、と思いながら空になったマガジンを自重落下させた後、予備のマガジンを取り出し装填、スライドしてホールドオープンしたままの銃身をリリースし、ガチャという大きな音がして銃身が元に戻った。


 「ふぅ……よし!」


 一息ついて心を落ち着かせ、両手でデザートイーグルを構え、銃口を倒れているオークに向けながらゆっくり近づく。

 途中でオークが落とした槍が横たわっていたが、オークから視線を逸らす事なく右足で槍を遠くへと蹴飛ばす。

 少なくともこれでオークが立ち上がっても槍は手にできない。


 慎重に近づき、倒れているオークに銃口を向けながら見下ろす。

 とはいえ、これ以上の警戒は不要に思えた。

 何せ、7発の銃撃によってオークは頭部と首元が一部吹き飛び、体には無数の風穴が空き、心臓も破壊されている。

 この状態で生きている事はまずありえない。


 オークの死体に向けていた銃口を下ろし警戒を解く。


 「これで4匹……すべて片付けたか」


 そう呟くとインカムからケティーの声が聞こえてくる。


 『うん、周辺にもうゴブリンもオークもいないみたい、そこはもう安全だよ!』

 「そうか……はぁ、やれやれだ」


 大きく息を吐いてデザートイーグルにセーフティーをかけホルスターにしまう。

 そして、どこかに飛んでいったM9銃剣を回収すべくオークの死体から離れたところで通路の向こうからフミコとココが慌ててこちらに向かってやってくる。


 「か、かい君!! オークとゴブリンが出たってケティーから通信入ったけど大丈夫!?」

 「カイトさま!! ココが来たからにはもう安心ですよ!! ココがお守りします!!」


 もうすでに戦いは終わったのだが、慌てて走ってくる2人を見るとなんだが少しほっとした。

 こんな状況になるには敵の罠に違いなく、そうだとしたらフミコたちも危ないのではないか? と考えたが杞憂だったようだ。


 そもそもアビリティーユニットがない今の自分が極端に弱くなっているだけで、本来ゴブリンやオークに自分達は遅れは取らないのだ。

 そう思うと余計にため息がでてくる。


 「まったく……アビリティーユニットがないとほんと疲れるな」


 そう呟いたところで別方向からもヨハンやシルビアたちの声が聞こえてくる。


 「カイト!! 何か爆発音や銃声が聞こえてきたけど何があったんだ!?」

 「カイトさん!! ごめんなさい!! 私がカイトさんの傍を離れたばっかりに!!」


 それぞれ別方向から慌てて戻ってくる仲間達に向けて声をかけた。


 「心配かけてすまない!! でも問題ない! ここに出てきたゴブリンどもは片付けたからな!!」


 そう言って笑って見せた。



 合流した全員からの話と、上空からドローンで周囲を監視していたケティーからの話を総合するに、この区画のゴブリンやオークの掃討は終わったとみていいだろう。

 なので次の区画へと向かう。


 そうやって順番に区画を潰して回っていたが、このやり方はあまりに時間がかかった。

 他のギルドはどうなのかわからないが、このままでは今日1日では終わらない気がする。

 とはいえ、ギガントがここに到達するまでに残された時間は少ない、1日でも無駄にはできないのだ。

 何か効率よく1日で終わらせる手段を考えないといけない……


 「何か手はないか?」

 「そうだよね……連中を一網打尽にできたらいいんだけど」


 フミコがそう言って考え込み、皆も頭を悩ませる。

 そんな時、ふと思いついた。


 「そうか、よくよく考えればここにはギルド以外の住民はいない、配慮する必要がないんだ」

 「かい君?」

 「だったら使えるんじゃないか? 生物・化学兵器……」


 そう呟いて、しかし即座にその考えを打ち消す。


 「いやいや、待て待て! いくら相手が人外とはいえ、それはさすがに……」


 そう言って1人悩む自分を見て皆が顔を見合わせる。


 「かい君、生物・化学兵器って?」


 フミコが尋ねてきたのでインカム越しに聞いてるケティーやリエルにも向けて全員に尋ねてみる。


 「なぁ、連中に対して非人道的な兵器を使用するのをどう思う?」

※NIJ規格

アメリカにおける装備調達の基準となる規格。国立司法省研究所が定めている。

日本やヨーロッパ諸国も防弾チョッキやベストの防弾能力をランク付けする根拠としてNIJ規格-0101.06を使用している。

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