表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
4章:これはただ君を救うためだけの物語

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/538

これはただ君を救うためだけの物語(6)

 秘奥義・颶風裂光斬。その威力は凄まじく、巨大な赤黒い大蛇と化したニギハヤヒは影さえ残らなかった。


 「終わったか……」


 ニギハヤヒがいなくなったのを確認してレーザーの刃をしまう。

 精神世界ゆえなのか、最初の異世界でのススムのような疲労しきった状態にはなっていない。

 むしろ清々しいくらいだ。


 「さて……もうここに用はない。帰るか、現実に」


 言ってフミコのほうを向く。すると、フミコがこちらへと笑顔で駆けてきて抱きついてきた。


 「かい君やった!!」

 「わ!? ふ、フミコ!?」


 いきなりのことで理解が追いつかず思わず押し返してしまう。

 するとフミコは強烈なショックを受けた表情を向けてきた。


 「かい君!? な、なんで!?」

 「いや、なんでも何もいきなり抱きついてくるから……」

 「え? だってあの時……」


 不安な表情を浮かべるフミコを見て思わず頭を抱えそうになった。

 無我夢中でまったく何を言ったか思い出せないが、ニギハヤヒに抗うために言葉をかけてくれと言われた時のことだよな?

 本当に自分は一体何を言ったのだろうか?

 今更聞くわけにもいかないしどうしたものか?


 そう悩み出した時だった。

 突然自分とフミコの間の地面に亀裂が入り、フミコ側の地面が崩落したのだ。


 「え!?」

 「フミコ!!」


 その崩落に巻き込まれるようにフミコが奈落の底へと落下しそうになる。

 それを見て考えるよりに先に体が動いた。

 右手を伸ばしてフミコの手を取る。


 「かい君!!」


 フミコも何が起こったのか理解していないようだったが、こちらが伸ばした手を掴み直してなんとか落下は免れる。

 だが……


 「おわ!?」


 当然と言えば当然だが気軽に片手で人1人を引き上げられるほど腕力に自信はない。

 むしろ引っ張られてこちらも落ちそうになる。


 「ぐ!! くっそ!! ふざけんな!!」


 なんとか踏ん張り、両手を使ってフミコを引き上げようとするが引き上げられない。


 「なんでだ!? ここは精神世界だろ!? なんで引き上げられないんだ!?」


 叫んで思いっきり力を入れて引き上げようとするがまるで効果がない。

 一体どうなってるんだ? と思った時だった。

 崩落した地面の底がまるで火山の火口のように沸々と赤いマグマが煮えたぎる赤い灼熱の海と化す。どう考えてもあれに落ちたら即アウトだ。

 なんとしても引っ張り上げないと……全身の力すべてを使って引き上げようとする。


 精神世界故に心の中でずっと俺はできる! 俺はできる! と暗示をかける。

 それでもフミコを引き上げられない。

 少し焦りが見え始めた時だった。

 赤いマグマの海から真っ黒な人の形をした何かが這い出てくる。


 「逃がさんぞ………小童ども!!」


 真っ黒な人の形をした何かは叫んで壁を両手で掴み這い上がってくる。


 「あいつ、まさかニギハヤヒか!?」


 思わず息を呑んでしまう。


 「まだ生きていやがったのか!? それよりも早くフミコを引き上げないと!」


 しかし、こちらが必死になって引っ張り上げようとしている間にニギハヤヒは目にもとまらぬ速さで這い上がってきてフミコの足首を掴んだ。


 「きゃ!?」

 「ぐはははははははは!!!! 捕まえたぞ裏切り者の小娘ぇ!!!! 貴様を取り込んで今度こそわれは覇道を極める!!!!」

 「この死に損ないが!!! フミコから離れろ!!!」


 必死で引き上げようとするがどうにもならない、さらにフミコの足首を掴んだニギハヤヒはフミコを火口へと引きずり込もうとする。

 上下から引っ張られフミコの表情が苦痛で歪む。


 このままではまずい、リスクを承知でフミコを引き上げる手を片方放しアビリティーユニットを取り出す。

 なんとか銃身を取りつけ拳銃モードの銃口をニギハヤヒに向ける。


 「クソッタレが!! フミコを放せ!!」


 数発ニギハヤヒへと銃撃を放つ。

 ニギハヤヒはそのことに一瞬たじろいだ。


 「今だフミコ!! そいつの呪縛を断ち切るんだ!!」


 その言葉にフミコは頷いてニギハヤヒの顔面を蹴りまくる。


 「放してください!! ていうか落ちろ!!」


 フミコは叫んで何度も何度も蹴りまくる。顔に何度も蹴りをくらって「うぐ」と唸っていたニギハヤヒだがたまらず掴んでいた足首を放してしまう。

 その瞬間を見逃さず一気にフミコを引っ張り上げ抱き寄せる。

 そして銃口をニギハヤヒの顔面に向ける。


 「いい加減もう終わりだ! さっさと地獄へ落ちやがれ!!」

 「黙れ!! われはここで終わらぬ!! この先へ! 貴様の知らぬ1800年の歴史を始めるのだ!!」

 「残念だが、俺の知ってる歴史にてめーの入り込む余地はねーし、てめーの築く歴史に興味もねー! とっとと歴史の彼方に消え去りやがれ!!」


 言って引き金を引く。

 銃撃を食らってニギハヤヒは火口へと落ちていった。


 直後、地面が大きく揺れ出す。

 いや、地面だけじゃない。空間全体が振動している。


 「な、なんだ!? どうなってる!?」


 周囲を見回すといたるところで空間が軋み、ひびが入り出している。

 精神世界が崩壊するということだろうか?

 思わず抱き寄せているフミコの顔を見るが


 「ほ、ほわわわわわ」


 顔を真っ赤にして何か変な言葉を発しているだけだった。

 あ、ダメだこりゃ……確実にこの状況わかってない。


 そうこうしてるうちに空間すべてにひびが入り窓ガラスが砕けるようにパリーンと音がして精神世界が粉々に砕け散った。


 そして目の前の景色は疑似世界の古墳のような遺跡の頂上へと変わっていた。

 精神世界から戻ってきたのだ。


 「帰ってきたのか………はぁ~~疲れた」


 そのまま地面に大の字になって寝転ぶ。

 同じくフミコも横に寝転んでこちらに笑顔を向けてきた。

 何はともあれ一件落着だ。

 そう思って一息つこうとした時だった。カラスが突然視界全体に入り込んできた。


 「何をのんびりしとるんじゃ!」


 そしてクチバシで顔を突いてくる。


 「痛て! 何すんだこのヤロウ!!」


 思わず上半身を起こして手をとりあえず振ってカラスを追い払う。

 バサバサと少し離れた所に飛び去ったカラスはやれやれとため息をつく。


 「まったく何を終わった気でおるか? 最後の片付けをせんかい!!」

 「あぁ? 最後の片付けだ?」


 自称神のカラスが一体何をい言ってるのかさっぱりだがとりあえず起き上がる。

 フミコも自分に続いて起き上がった。


 「あれを見よ」

 「あれ?」


 その方向には赤い雷光の大蛇が出てきた高床式の神社のような建物があった。

 よく見れば建物の中にひび割れた丸い大きな鏡があるのがわかる。

 精神世界の主祭殿にあったのとよく似ている。


 「あれがある限りやつは何度でも蘇るぞ」

 「まじかよ?」

 「あの建物の下、大きな円筒埴輪に取り囲まれてる地面の下に石室が埋められておる」

 「石室?」

 「棺を置いておく部屋じゃ、本当に貴様は歴史の勉強を少しはせい」

 「へいへい、自室に戻ったらな。で? その棺ってまさか」

 「言わんでもわかろう?」

 「そうだな……()()()だな?」


 さすがにここまでくればわかる。棺に葬られているのはニギハヤヒだ。

 その棺を放置しておけばいくらでも蘇る。

 ならやるべき事は明白だ。


 死者の眠りを妨げるのは無粋で気が引けるがやつは別だ。

 何度でも目覚め邪魔をするというなら容赦はしない。


 深呼吸して手を前に出すとアタッシュケースが出現した。

 そしてすぐにアビリティーユニットを取り付ける。

 直後、アタッシュケースは91式携帯地対空誘導弾SAM-2B、通称ハンドアローにその姿を変え、ハンドアローを担いで高床式の神社へと標準を合わせる。

 そしてミサイルを放った。


 高床式の神社はあっけなく破壊される。

 石室は地面に埋まっているとのことなので念のためもう一発撃っておいた。

 それ以上はさすがに気が引けたのでここで打ち止めにする。


 「終わったな……」


 ハンドアローの外装をパージしてアビリティーユニットを懐にしまいフミコの方を向いた。

 フミコは笑顔で頷く。

 ニギハヤヒの呪縛からはもう完全に解放されたと思っていいだろう。

 自分はフミコを救えた。そう思うと何か気が楽になった。


 今までも、そしてこれからも自分は地球を救うという「大雑把で曖昧な目には見えにくい大義名分」のもと、異世界に旅立っていった目に見える同胞を殺していく。

 そんな陰鬱な状況の中で唯一救いに手を伸ばすことができた。

 救うことができた。


 そう思うと自分はフミコを救った以上に自身の心が救済された気になった。


 これから先も気が滅入ることばかり続くだろうが、フミコを救ったおかげで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 「ところで、ここはニギハヤヒの墓ってことだよな? ってことはこの遺跡は……あの精神世界もニギハヤヒの国だったってことか」


 カグに聞いてみると意外な答えが返ってきた。


 「何か勘違いしとるようじゃが、貴様が精神世界で戦った相手は日本神話の神ニギハヤヒなどではないぞ?」

 「は? いや、ちょっと待て!」

 「貴様が早とちりしてそう思い込んだだけじゃろ? 言ったはずじゃ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と」


 じゃあ、やつは一体何者だったのか?

 歴史に名を残すことも記録に納められることもなかった豪族の1人ということか?


 「とはいえ、最後は少々危なかったがの?」

 「最後?」

 「あのままいけば、本当に貴様の知らない1800年の歴史が降りかかるところじゃったからの?」

 「どういうことだ?」

 「貴様が1800年後の世界の人間だとか、ここは滅ぶ記憶以上の結果は変えられないとか言いよるから。なら自分がそれとは違う未来を選ぶとやつが思い、精神世界ゆえにその思いが作用しかけたんじゃ。正直冷や冷やしたわい」

 「……まじか」


 仮にそうなった場合どうなっていたのだろうか? それは誰にもわからない。

 何せそれはもはや想像の範囲外の話なのだから……


 これは例え話だ。

 もし自由自在に時間を行き来できたら?

 当然、そのようなことはできないし、手段もない。


 だが、本当にそうだろうか?

 現代の科学技術での見解で、現代の計算数式の上では無理かもしれないが、それが絶対ではない。

 現代の科学の最先端は科学の最終到着点ではない。


 これから100年後、200年後の世界は現代では想像もできない科学力が存在してるかもしれない。

 そこにはタイムマシーンも存在しているかもしれない、あっても不思議ではない。

 もしそれほどの年月をかけて尚、科学がまったくの進化を遂げていないとすれば…それは地球上には人類は存在せず、文明はすでに絶滅したと考えるべきだろう。


 さて、ではもしもタイムマシーンがあったとして……あなたならどうするだろうか?

 過去に行くも未来に行くも、そこは未知の領域になるはずだ。


 タイムマシーンによって未来を垣間見たとしよう、そこに存在する歴史を見てあなたはどう思うだろうか?

 もしも世界が破滅していたら? その原因を知ることができたら?

 現代に戻って、あなたはどう行動するだろうか?

 破滅を回避しようと努力するか、決められた未来ならと諦めるか……


 どちらにしても、気が気でないはずだ。

 それが近い将来、自分が確実に生きてるであろう時代に訪れるのであれば……

 では過去ならどうだろうか?


 自分の知らない歴史を垣間見ることができるかもしれない。

 うまく干渉すれば自分に都合のいいように歴史を改竄できるかもしれない。

 ただし、それには危険を伴うだろう。


 ある一つの仮説がある。

 タイムパラドックスとも言われるそれは現代にタイムマシーンが存在すると定義する。

 もちろん、現代の技術では公には無理だが、それは人工的に造り出された物ではなく自然界にランダムに存在する世に言う「次元の断層」だ。

 強力な磁器の乱れや不可解な現象が多数発生する地域とも考えられているそれは人をある時期にまで遡らせたり、まったく別の場所に移動させたりする。


 もしそれに出くわし、過去に行くことができたとしよう。

 そこで何もしなければ現代に帰還は可能かもしれない、過去を弄らないのだから歴史は自分の知っている通りに進む。

 しかし、もし過去を改竄したりしたら、二度と現代に帰還することは叶わなくなるだろう。


 過去を改竄し、歴史が変われば過去を改竄した者が知っていた現代は消滅し、存在しない世界となる。

 つまり、過去を改竄した時点で現代は消え、改竄した過去が現代となる。

 改竄した者が本来いるべき現代は存在しえない未来となってしまうのだ。


 それにも関わらず消えた未来(現代)に戻ろうとすれば、それは無の世界へ遡行するのと同義。

 つまり存在が消える、これが世に言う神隠しである。


 では過去に行けたとして、何もしなければ歴史の改竄にはならず現代に戻れるのかと言えば、そうとも言いがたいのが事実だろう。

 本来そこにいるべきでないイレギュラーな存在がいるのだ、たとえ人以外にも動物に見られなくとも、()()()()()()()()()()()()()()()、それが時空を歪めていく可能性は低くても存在する。


 つまり過去には干渉しないのが一番なのだ。

 でも、もし今現在が未来から来た誰かの手によって改竄された世界だったらどうだろうか?

 そうでないと言い切れるだろうか?

 その瞬間を見ていないからそうではないと言うのは正しいのか?

 もし仮に複数の人間が未来から現代に来て歴史を改竄していたらどうだろう?


 世界は常に未来から来た人間に改竄されて、改竄された未来から来た人間にまた改竄される。

 それの繰り返しの上に今の現代が存在していたら?

 それらの先に待っているものは何だろうか?


 ここから先は証明のしようがないので堂々巡りだ。

 ただ1つ言えることは、特定の過去を変えて現在を都合良く改竄することはできない。


 特定の出来事の結末を変えることは容易い。

 だが、変わった結末の後どう世界が動くかは誰も知らないのだから当然である。


 その出来事が変わったことによって、本来生まれるべきだった結果や過程が消え誰も予想しえない結果に結びつくかもしれないからだ。

 もしかしたら死ぬはずだった人間が生き残り、生まれるはずもない命が生まれる可能性もある。

 本来なら死んでいたはずの人間が生き残り、生き残るはずだった人間が死に、生まれるはずだった命が生まれない。そうなる可能性もある。

 本来なら出会うはずの2人が出会わず死ぬはずだった人間と結ばれ、現代だと生まれているはずの命が生まれず、まったく別人が生まれているかもしれない。

 その人物が現代では記録にない事件や革命を起こしているかもしれない。


 そこまでの可能性を計算して過去を変えて現代を都合のいいように変えるのはほぼ不可能だろう。

 ゆえに過去は変えた時点で現代とは違え、異世界と呼べるものになっていく。


 では、今回の精神世界でのケースはどうだろうか?

 1800年も前の結果を変えた場合、もはや現代と同じ勢力図の地球ができあがるのはほぼ不可能だろう。


 弥生時代終焉後、飛鳥時代以降の日本は開国して近代化に踏み出す江戸時代末期の幕末まで基本的には海外との関わりは活発ではない。

 当然、貿易や文化学道交流面では活発であり、江戸時代に鎖国するまでは海外に多く人が貿易や旅行で出かけ東南アジアには日本人街も多くあった。

 江戸時代にも長崎の出島で数カ国と交友はあり医学の発展に海外からの学問は欠かせなかった。

 また戦国時代に宣教師が日本に鉄砲とキリスト教を持ち込んでからは女子供が宣教師と共にきた貿易商たちに奴隷として連れ去られるというケースもあった。


 しかし日本が戦乱という形で海外の勢力図をかき乱した例は近代化以前ではあまりにも少ない。

 弥生時代、古墳時代、飛鳥時代でいえば朝鮮半島への侵攻、新羅や高句麗との戦争や白村江の戦い。

 平安時代にも新羅からの組織だった海賊行為や刀伊の入寇と呼ばれる満州族の襲撃があった。

 鎌倉時代にはかの有名な元寇があり、室町時代や戦国時代には日本人が中心となって朝鮮人や中国人とともに中国沿岸部や朝鮮で海賊行為を行う倭寇が多発している。

 この倭寇は高麗の崩壊の一端を担ったという説もあるが定かではない。

 そして安土桃山時代には秀吉による朝鮮出兵。


 近代化以前の日本が関わった海外の戦乱とは東アジアに限られるわけである。

 しかし、仮にこれが別物の道を辿った場合、どうなっていたかは想像できない。

 まさに未知なのである。

 ゆえにカグは誰も知らない1800年の歴史が降りかかることが危なかったと言ったのだ。


 「まぁ、しかしそうなる前に片がついてよかったわい」

 「本当に良かったと思っているとは到底思えないんだがな?」

 「貴様、ひねくれるにもほどがあるぞ?」


 カグが呆れた口調で言ってきたが、こいつが本気で心配してるとは思えないからな。

 なのでカグを無視してフミコに声をかける。


 「フミコ、これからどうする?」

 「え? これからって?」

 「一様、あの神社っぽいのは壊したからもう大蛇が復活することはないだろうけど……まだ声が頭の中で聞こえるか?」


 その質問にフミコは首を振って答える。

 声は聞こえない、つまりは大丈夫ってことだ。

 とはいえ、このままここに置いていくのもなんだか可哀想な気がする。


 「ねぇ、かい君……もしかしてあたしをここに置いていこうとしてる?」


 そう考えた時、フミコにまったく同じことを指摘されてギクっとしてしまう。


 「え? いや……」

 「かい君、あの時言ってくれたよね!?」


 フミコが少し怒った顔で詰め寄ってくる。

 いや、だからその時言った内容を無我夢中だったせいでまったく覚えてないんだが……


 「あたしはかい君と一緒に行きます! ついて行きます!」

 「いや、ちょっと待って! おいカグ大丈夫なのか?」


 カグに話を振るとなぜか体中を地面にこすりつけていた。

 カラスが蟻を体に浴びて体を綺麗にする蟻浴という行為である。


 「唐突にてめーは何しとんじゃ! ここに蟻がそんなにおるんか!!」

 「仕方なかろう? そこに蟻がおるんじゃ」

 「てめーな!!」


 このカラスぶん殴ってやろうか? と思った時だった。

 涙目でフミコが抱きついてきた。


 「かい君!! ちゃんとあたしを見てよ!!」

 「ちょ、フミコ?」

 「一緒にいさせてよ! 言ってくれたじゃない!! ねぇ!!」

 「え~っと……」


 どう言葉をかけるべきかと悩んでいるとフミコが震えながら涙声で訴えてきた。


 「もうひとりぼっちは嫌だよ……」


 その言葉はひどく心に刺さった。

 この遺跡が滅ぶのを最後まで見ていた。誰もいなくなって1人次元の狭間で悠久の時を漂っていた。

 そんな彼女がようやく存在を確定させ人に出会ったのだ。

 その自分がこんな態度を取っていいのだろうか?

 いいわけがない! 何のために彼女を救ったというのだ!


 フミコの背中に両手を回して抱き寄せる。

 そして囁いた。


 「ごめんな、不安にさせて。そうだよな、一緒にここを出よう」

 「うん……うん!」


 フミコは涙を流して頷いた。

 そんな彼女を抱きしめながら絶対に守らなければと決意を新たにする。


 こうして数多の異世界を巡る旅路に1人の仲間が加わったのだった。







 ここからは余談

 異世界渡航者、川畑界斗が知らない1つの真実。


 あたしはかい君と一緒にいたい。

 どうしてそう思うのか?

 あの時、あの言葉をかけてくれたから?

 あたしを滅んだ後のーーーーで見つけ出してくれたから?


 どれも正解でどれも少し違う気がする。


 では何だろう?

 その答えはかい君に抱きしめられた時にわかった。


 「ごめんな、不安にさせて。そうだよな、一緒にここを出よう」


 そう言って抱きしめてくれた時、1つの記憶が頭の中に流れ込んできた。

 これはかい君の記憶?

 いや、違う……()()()()()()()()()()1()8()0()0()()()()()だ。


 あの日、あたしは助けたのだ。国の外の民を。

 山や太陽を信仰しない、野の獣を信仰する野蛮な連中、集落を持たないはぐれ者を……


 国の外で山菜や祭りに使うものを採りに行った時に出くわした彼らをあたしは見逃した。

 たぶん感謝されることはないだろう。

 それでも、そうすべきだと思ったのだ。

 そのまま兵に引き渡しても主祭のための人柱にされるだけ……

 本当ならーーーーならそうすべきなんだろうが気が引けた。


 遠くへと去って行く彼らを見てもう出会うことはないだろうと思った。


 そしてあの日がやってくる。

 滅びの日、闇に乗じて攻め入ってきたーーーーの侵攻を防ぎきれなかった日。


 意識が途切れた後、すべてが終わった後、彼らは廃墟となった国へとやってきたのだ。

 まだ使える物などを奪っていく彼らは、しかしあたしの亡骸に気付き

 どういうわけかあたしを埋葬したのだ。


 それを主導したのはあたしが見逃した時、最後までこちらを警戒していた男の子。


 やがて、国は忘れ去られ、朽ち果て、国があった場所は茂った地となった。

 時代が進んでも荒れ地のまま、何かが建てられることも整備されることもなかった。

 だが、あたしを埋葬した彼らの子孫はこの周辺に住み続けていた。


 時代は進み、このあたりにも村がいくつかできた。

 そして村の民は足軽として戦に招集されるようになる。

 やがて戦乱が訪れいくつかあった村は略奪され消滅する。


 だが、あたしを埋葬した彼らの子孫たちはどうにか逃げおおせて助かったらしい。

 再びこの付近に戻ってきて小さな集落を作る。


 そして時代は進む。徐々に集落は大きくなり村へ、そして町になった。

 そんな町にあたしを埋葬した彼らの子孫たちは職を持ち住み続けている。


 時代は進む、進む、進む。

 古くなった家屋が壊され、新たな家屋や仏閣が建ち、国道が整備され、人の往来が多くなる。

 しかしあたしを埋葬した彼らの子孫たちはずっとこの地に根付き続けた。


 やがて、時代が進み町は都市になった。しかしすぐに空に無数の何かが飛び交うようになる。

 それらはこの地に何かを無数に落としていき、それらによって都市は焼かれ無残な姿となった。


 しかし、あたしを埋葬した彼らの子孫たちはその惨状にくじけず、都市を立て直した。

 そして復興を果たし、より発展した都市になった。


 そして、あたしが埋葬された場所には病院と呼ばれる施設が建つ。

 その病院で1つの命が生まれた。

 あたしを埋葬した彼らの子孫、川畑界斗が。



 そう、かい君は……あの時彼らを見逃したからこそ生まれた命。

 あの時助けた命が紡いできた命の連鎖、それが今自分に手を差し伸べてきたのだ。

 あの時の判断は間違ってなかった。


 あの時、彼らを見逃したのはきっとこの時のため……かい君と出会うためのものだったんだ。

 自然と涙が溢れていた


 「うん……うん!」


 かい君に抱かれ涙を流して頷く。


 ありがとう。

 あたしを助けてくれて。

 あたしを見つけてくれて。

 ずっとあたしの傍にいてくれて。


 だから、あたしはあなたのために………この先も力になる。

 そう決めたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ