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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
13章:緊急クエストをこなそう!

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ギガント(3)

 カストム城門の内部にある封印の間へと続く通路の入り口手前、自分とフミコは今そこに立っていた。


 城砦回廊にはさきほどまで警護ギルド<イルゾーグ>と保安ギルド<ゾゴム>の面々が多くいたが、今はカストム城門から撤退し、超音速爆撃機レグルスが駐機している山頂付近を目指している。

 そんな誰もいなくなった城砦回廊には本来なら自分1人が残ってしんがりを務め、カストム城門内部から飛び出してくるギガントたちの足止めを行うはずであったが、フミコも一緒に手伝うと言って聞かなかったのだ。


 女性陣は全員、超音速爆撃機レグルスに乗り込んで撤退する以上、フミコも皆と一緒にここを離れないと離陸の時間が遅れてしまうのだが、せめて最初の一撃くらいは一緒におこなうと一歩も引かなかったため、しかたなく了承したのだ。


 「まったく……何考えてるんだフミコ」


 ため息交じりにそう言うとフミコがジト目で睨んでくる。


 「かい君……なんでそんなにあたしと一緒にいたくないの?」

 「一緒にいたくないわけじゃないよ、ただフミコも皆と一緒に行かないと皆の避難する時間が遅れるから言ってるんだよ。っていうかこれさっき説明したじゃん」


 そう言うとフミコはさらに目を細める。


 「それを言うならかい君だって、すぐに逃げないとヨハンとティーの避難する時間が遅れるよ? それにかい君が錬金術で無人機改造しないと男性陣は逃げられないじゃん」

 「まぁ、そうなんだけど……」

 「それにまだ封印の間で何があったか詳しく聞いてないんだけど? あたし一瞬喪失感のようなもの感じたんだからね? かい君がいなくなったような、そんな感覚を……」


 そう言うとフミコの表情がどこか不安に満ちた表情となった。

 フミコにはまだハーフダルムに一度殺されて蘇生された事を告げていない、さてどのタイミングで切り出したものか……


 そう思ったところで三途の川で出会ったフミコの母親の言葉を思い出す。


 『マジであの子泣かしたら祟るからね?』


 うん……これは無理して話さなくてもいいかもしれないな?


 「それに関してはまぁ、おいおいな? ……にしてもギガントども、一向に出てこないな。これは意外とトラッップが効いているのか?」


 とりあえず話題を逸らしてみるが、再びフミコからジト目で睨まれる。

 とはいえ、ギガントが飛び出してくるのが遅いのは本当であった。


 確かに地雷やトラップの類を大量に撒き散らして逃げてきたが、とはいえ、カストム城門の内部はそこまで複雑な構造ではない。

 ましてや巨大な体を持つギガントだ。例え複雑な構造をした内部であってもその巨体でもってすべてを破壊して突き進んでくる、そう思っていたのだがどうやら外に出てくるのに連中は苦労しているようだ。


 「カストム城門全体がずっと振動している以上、ギガントどもが外に出ず中に引き籠もっているわけじゃない……じゃあなんでだ?」


 ブロアによれば、封印されているギガントの数は星の数ほどと言われ、正確な数字はわかっていないらしい。

 そんな数のギガントたちが解放されたのだ。ひょっとしたら中で大渋滞でも発生しているのかもしれない。

 そう思っていると、ドーン! と大きな音がして、立っていられないほどの振動がカストム城門全体を揺らす。


 「っ!!」

 「きゃぁ!?」


 思わず転びそうになるが、なんとかその場で踏ん張って耐え凌ぐ。


 「か、かい君……今のって……」

 「あぁ、間違いない。ギガントどもめ、ようやく外の世界にお出ましのようだ」


 封印の間へと続く通路の入り口の奥からは地響きが聞こえてくる。

 やがてそれは大きくなっていき、異様な空気が城砦回廊を支配していく。


 「ふぅ……さて、それじゃしんがりの勤めを果たすとするか」


 深呼吸し、ダークブレードを構える。

 できるだけ引きつけて撃破し、できるだけ数を減らす。

 そしてある程度のところで特大の攻撃を放って連中の進撃を躊躇させ、その隙に撤退、この地を去る。


 (そううまくいけばいいが、さて……どうなるかな)


 先制攻撃として、ギガントどもが城砦回廊に出てくる前に封印の間へと続く通路の入り口に空間断絶剣でも放とうとしたところで。


 「フミコ?」


 フミコが一歩前へ出た。


 「かい君、ここはあたしが特大の一撃を放つよ……こいつで!」


 そう言ってフミコが手にしたのは鞘に収められた装飾付大刀であった。


 「おいフミコ、そいつは!!」


 思わず声をあげるとフミコが。


 「わかってる、()()()()()()()使()()()()。だって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だもん……だからこれを放ったらすぐにこの場から離れて山頂に向かう。だって使っちゃったらもう戦闘を継続できる余力はないと思うし」


 そう言って困ったように笑う。

 そんなフミコを見て確認した。


 「いいのか? ここで使って……それはザフラってやつと再戦した時の切り札として温存しておくはずだったろ?」

 「それはまぁ、そうなんけど……ここで使わなきゃかい君の負担は軽減できない、だから使いどころは今のような気がするんだ。それに、かい君ならまた頼んだら作ってくれるよね?」


 そう言うフミコを見て思わずため息が出た。


 「そりゃ頼まれたら作るけどさ、軽々しく言ってくれるなよ……それ以前にザフラってやつがこの場を傍観してないって補償はないんだぞ? 手の内を晒すことになってもいいのか?」


 その指摘にフミコは。


 「確かにザフラは姿を透明にしてこの場を監視してるかもしれない……それでも……いや、だからこそ見せつけてやるんだ!!」


 そう言ってフミコはぐっと拳を握りしめた。

 そんなフミコを見て思い出す。フミコが今手にしている装飾付大刀を作ってくれと言ってきた時の事を。

 それはザフラとの戦いで負傷したフミコの療養の地としてリーナが購入した無人島での事だった。




 「ねぇかい君、次元の狭間の空間に戻ったら錬金術でこれを作ってほしんだ! お願いできるかな?」


 そう言ってフミコは日本で発掘された古くは古墳時代の物など多くの国宝級の文化財の写真を収めた資料集のあるページを開けてこちらに見せてきた。


 「ん? これのレプリカを錬金術で造ってほしいって?」

 「うん!」

 「それは構わないけど……これ、()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 フミコが見せてきたにページに掲載されている写真のものは弥生時代ではなく古墳時代のものであった。

 当然ながら、フミコが生きている間に古墳時代に製造された代物に触れた事などあるわけがない。

 しかしフミコは。


 「うん、あたしは自分が生きていた時にこんな物見た事がない……でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だから知らない時代のものも取り入れる! 鬼道を進化させる! 神道ってやつを身につける!」


 そう決意に満ちた表情で言った。

 だから、自分もそれに応えようと思った。


 「……わかった! 任せとけ!」

 「ありがとう! 完成楽しみにしてるね!」


 それから次元の狭間の空間に戻り、工房(アトリエ)に籠もってそれの製造に取りかかった。

 ギルドの依頼の合間を縫って、就寝前の時間を利用して、錬金術でそれを作り上げた。


 「できた!!」


 そうしてできたその代物は、強力な呪術を放てるがレプリカゆえに一度使用してしまえば壊れてしまう耐久値でしかなかったが、フミコにとっては新たな切り札となったのだ。



 フミコはそんな一度しか使えない装飾付大刀を手にしてカストム城門の内部にある封印の間へと続く通路の入り口の奥を睨む。

 そして左手で装飾付大刀の鞘を持ち、右手で柄を握り目を瞑ったところで、再びカストム城門全体が大きく揺れて、封印の間へと続く通路の入り口が崩落する。


 入り口が崩落した直後、巨大な異形のバケモノであるギガントたちが一斉に中から飛び出してきた。

 聞いた事もないような雄叫びなのか奇声なのかわからない不気味な声が城砦回廊に響き渡る中、フミコは神経を研ぎ澄まし、ゆっくりとした動きで右手を動かして鞘から大刀を引き抜く。


 そして一息ついて目を見開き、叫んだ。


 「かしこみかしこみ頼みもうす!! おいでませ!! 2柱の龍よ!!」


 それは短いながらも祝詞(のりと)、神道における神に対して唱える言葉だ。

 そして、当然ながら倭国大乱の弥生時代に神道はまだ成立していない。

 フミコが扱う呪術は古神道よりも古い鬼道であり、祝詞(のりと)などまだ存在しなかった。


 そんなフミコがなぜ祝詞(のりと)を唱えたかと言えば、それこそがフミコの手にした装飾付大刀を扱うのに必要だからだ。


 装飾付大刀は実戦で扱う武具ではない。儀式で使うための祭具だ。

 だから装飾付大刀を戦場に持ち込んでも実際は何の意味もない。


 そんな装飾付大刀は弥生時代末期にも存在はしていたが、それは中国や朝鮮から日本へと渡ってきた物がほとんどであった。

 本格的に装飾付大刀が国内で製造されはじめるのは古墳時代になってから、大和政権が各地の豪族に配ったとする説が有力である。


 ちょうどこの頃に古神道が現在の神道の原型へと変化していき、大和政権が各地を統一する意味合いでも各地の伝承をまとめ上げ、統一した見解の神話を作り、共通の宗教を形作っていった。

 それが神道の始まりであり、各地に配布された国産の装飾付大刀には共通の宗教である神道の儀式で使う祭具という各地をコントロールする意味合いが持たされたのだ。


 古墳時代に大きく飛躍した神道の祭具として、各地に多く配られたとされるその装飾付大刀。

 フミコが手にするそれの柄頭には透かし彫りにより2匹の龍が向かい合わせで玉を食む姿が表されている。

 また柄や鞘には朝鮮半島の友好国、新羅の影響を受けたS字形のモチーフが飾られている。


 その装飾付大刀の名は双龍(そうりゅう)環頭大刀(かんとうたち)

 それを手にして掲げたフミコは勢いよく双龍環頭大刀を地面へと突き刺す。


 すると、柄頭が眩しく光り輝き、周囲に暴風が吹き荒れる。

 そして、眩しく輝く光はドンドンと大きくなっていき、やがて巨大な2匹の龍の姿へと変貌した。


 巨大な2匹の龍が出現するとフミコは地面に突き刺した双龍環頭大刀を引き抜いて切り先をギガントたちへと向け、叫んだ。


 「さぁ穢れを祓いたまえ!!」


 フミコの叫びに応じるように2匹の龍がギガントたちを睨み、そして雄叫びをあげた。

 そして柄頭の装飾で描かれていたように、赤い玉を2匹で食しながら絡み合い。そのままギガントたちに向かって突っ込んでいった。


 そしてギガントたちに突っ込んだ直後、赤い玉を2匹で食しながら絡み合った龍は巨大な呪力の塊へと戻り、城砦回廊を除いたカストム城門全体を吹っ飛ばした。


 「うぉ!?」


 周囲に波及した衝撃波とその圧倒的な破壊力に思わず目を丸くしてしまう。


 「ま、まじかよ……ここって結構大きい遺跡だったけど、それを一発とは」


 実際に双龍環頭大刀の威力を目にするのは初めてであったため驚きを隠せない。

 しかし、それ以上にいくら撤退するとはいえ、この遺跡破壊してもよかったのか? と思わず顔が引き攣ってしまう。

 まぁ、深くは考えないようにしよう……


 「やったよかい君!」


 そんなこちらの考えなど知らないとばかりにフミコが笑顔でこちらに振り返ってサムズアップしてみせた。

 しかし、直後フミコが手にしていた双龍環頭大刀が粉々に砕け散り、そしてフミコも力が抜けたようにその場に倒れそうになった。


 「フミコ!!」


 慌てて駆け寄りフミコを支える。


 「大丈夫か?」

 「ははは……ごめん、もう力でないや。でも結構数は減らせたんじゃない?」


 そう言って笑うフミコを見て頷いてみせる。


 「あぁ、十分だ。後は俺に任せてフミコはレグルスに向かってくれ」

 「うん、そうする……」


 疲れた表情で言うフミコを召喚で呼びだしたグリフォンの背中に乗せてその場から退避させる。

 フミコを乗せたグリフォンが安全圏まで飛び去ったのを見て視線を噴煙うずまく、カストム城門のあった場所へ向けた。


 「フミコに負けてられないな!! それじゃ、もう少しだけ数を減らすとするか!!」


 ダークブレードを構えたと同時、再び大地が激しく振動する。

 そし噴煙の向こうから無数の巨大な影が出現した。

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