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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
13章:緊急クエストをこなそう!

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無干渉地帯統一戦線(7)

 「ドリー……そうか、あんたがあの……くっくっく……あーっはっは!」


 フミコとドリーの言い合いを見ていたリードが何やら愉快そうに笑い出した。

 そんなリードを見てフミコとドリーは眉を潜める。


 「何いきなり笑い出してるの? 気持ち悪い」

 「頭でもおかしくなったんじゃない?」


 フミコとドリーにそう言われてもリードは気にせずしばらく笑い続けた。

 そして笑い終えるとリードは口元を歪ませてドリーへと視線を向ける。


 「あぁ、すまないね? 何、ちょっと思いだしただけさね」

 「思いだした? 一体何を」

 「サミューの血族にも関わらず、空の貴公子さまに捕まったマヌケがいるって話をさね」


 リードはそう言ってドリーを嘲るが、しかしドリーは大きくため息をついただけだった。


 「何それ? ひょっとして挑発してるつもり?」

 「事実を述べただけさね?」

 「あっそ……で? それであんたは何が言いたいわけ?」


 ドリーのその反応はリードが求めていた反応とは違っていた。

 その事にリードは眉を潜める。


 「何が言いたいも何も、あたいは事実を述べたださね? ただ……あんたはそれを聞いて何とも思わないのかと思ってね? 自分のマヌケさを改めて聞いてさね」

 「あぁ、そういう事」


 リ-ドの言葉にドリーは呆れた表情となった。


 「あのね、わたしがマヌケに捕まったのは事実だけど、だから何だって言うの? というか、ベルシのやつに捕まってなかったらカイトくんに助け出してもらう事もなかった。つまりカイトくんと出会う事がなかったって事……それって普通に考えてもの凄く怖い事じゃない? だってそれがなかったら今でも海賊やってたのよわたし、カイトくんの事知る事もなく関わる事もなく一生を過ごしたのよ? そんなの恐怖以外の何でもないじゃない!! カイトくんと関わらない、カイトくんの事を知らない人生なんてそんなのただの無よ! 死んでるのと同じよ!! だからあの出来事にはむしろ感謝しかないね!」


 ドリーはそう拳を握りしめて宣言した。

 そんなドリーの横でフミコは舌打ちすると小さな声で。


 「あたしはドリーがベルシに捕まらず今でも海賊やってるそっちのほうが良かったけどね? というか今からでもそうなれ、邪魔者はただ去るべし」


 そう呟いたが、当然それはドリーに聞こえている。

 なのでドリーは引き攣った笑顔になった。


 「ちょっとフミコ? 聞こえてるんだけど? というか敵の前で言う事じゃないでしょ?」


 ドリーの言葉にフミコはただ鼻で笑っただけだった。

 そのフミコの反応にドリーがブチ切れて再び2人の喧嘩が始まる。

 そんな2人を見てリードは呆れた顔になった。


 「あんたら一体何しにここにきたさね? ただ仲間割れをしにきただけなら他所でやってくれないか? こっちは暇じゃないって言ってるだろうに、どっかで勝手にやってろ」


 リードのその言葉を聞いてフミコとドリーは喧嘩をやめると。


 「えぇ、そうさせてもらうわ。ただし、あんたを倒した後でね」

 「そうだね、さっさとこいつを倒すとしよう」


 そう言って戦闘態勢に入った。

 そんな2人を見てリードは鼻で笑った。


 「倒す、ね? あたいに勝てるとでも思ってるのかい?」

 「そっちこそ、余裕ぶっこいてるけどその言葉そのまま返すよ!」


 ドリーはそう言って『水の精霊石』に手をかけ叫ぶ。


 「水よ、我が呼びかけに応えよ!!」


 ドリーが叫んだと同時に『水の精霊石』とドリーが左手に装着していた『魔結晶の腕輪』が光り輝いた。

 直後、リードの足下が液状化していく。


 ドリーが仕掛けたのと同時にフミコも銅剣を手にするが、しかしフミコが動く前に状況が一変した。

 リードは足下が液状化するのも気にせず左手を前に突き出し、こう叫んだのだ。


 「()()()()()()()()()()()()()!!」


 するとリードの求めに応じるように足下の液状化は沈静化していく。

 それどころか、リードの周囲にまるで蛇のような形をした水が浮かび上がる。


 「な!?」


 その事にドリーは驚くが、フミコは気にせず一気に銅剣で斬りかかる。

 だが。


 「わっ!?」


 フミコの斬撃を蛇のような形をした水が受け止め、弾き返した。


 とはいえ、ただの水が銅剣の斬撃を受け止められるわけがない。

 では何が起こったのか?

 フミコの銅剣が触れた箇所が急速に凝固し、硬い氷となって弾いたのだ。


 「こんの!!」


 フミコは再び銅剣を振るうが、蛇のような形をした水の一部分が凝固した氷に阻まれる。

 フミコの攻撃を防いでリードはニヤリと笑った。


 「さっきまでの威勢はどうしたね? まさかこの程度だとは言わないだろうね?」

 「当たり前だ!! これくらいでいい気になるなよ!!」


 リードの挑発に乗ってフミコが目にも止まらぬ速さで銅剣を振るい、斬撃を次々と繰り出すが、やはり氷を崩す事はできなかった。

 その事にフミコは苛立つが、一方でドリーは攻撃に加わらずリードの動きを観察する。


 (あいつ、やっぱり!!)


 そして気がついた。


 「フミコ!! そいつから一旦離れて!!」


 ドリーが叫ぶと即座にフミコは攻撃を止めて後方へと下がる。

 それを確認してドリーが右手を突き出し、リードの周囲の地面から大量の水を噴射させる。

 そして、その噴射した水でもって巨大な水の鏃を作りだし、リードへと放った。


 「ふん、そいつはあたいにはきかないさね」


 しかし、その攻撃をリードは自身の周囲に浮かんでいた蛇のような形をした水を飛ばして粉砕する。

 水の鏃は消滅してしまうが、しかし蛇のような形をした水も同じく消滅してしまった。


 つまり、リードは無防備な状態となったわけだが、直後、リードの胸元が光り輝いて彼女の周囲に再び蛇のような形をした水が出現する。

 それを見てドリーが目を細めた。


 「やっぱりね……それ『水の精霊石』の力でしょ? なんであんたが持ってるわけ? それはサミューの子孫……血族しか持っていないはずの代物なんだけど?」


 ドリーの質問にリードは口元を歪めると首にかけていた『水の精霊石』を取り出して見せてきた。


 「あぁ、そうさね。これは『水の精霊石』の力……本当にすごいマジックアイテムさねこれは。サミューの血族だけが独占してるなんてとんでもない」


 そう言って『水の精霊石』に頬ずりするリードを見てドリーはため息をついた。


 「まぁ、ブラックサムズを抜けてもまだ『水の精霊石』を所持してるわたしが言う事じゃないんだろうけど。サミューの血族にだけ引き継がれていってるのにはそれなりの理由があるんだけどね? 知らないとは言わせないよ?」


 ドリーの問いにリードは鼻で笑う。


 「は! それこそ、キャプテン・パイレーツ・コミッショナーを抜けたあたいには関係のない事さね? もうあたいは海賊じゃない、無干渉地帯統一戦線の幹部、評議会のメンバーなんだからね」

 「そう……ところでそれ、どうやって手に入れた?」


 ドリーは鋭い目つきでリードを睨むが、リードは気にせずニヤリと笑う。


 「海賊なら奪うだけじゃなく奪われる覚悟だってもってないとね? まぁ、その経験が生かされることはもうないだろうけど……まったくマヌケな男だったさね」

 「……殺して奪ったのか?」

 「ちょっとした色仕掛けで鼻の下伸ばして隙を見せる方が悪いと思うけど? そこのところどう思うさね?」


 そうニヤニヤしながら言うリードを見てドリーは「そう……」と小さく呟いた後。


 「ブラックサムズを抜けた以上は義理立てする必要はないんだけど、『水の精霊石(それ)』はサミューの血族以外が手にすべき代物じゃない。回収させてもらうよ!!」


 そう言って左手を突き出し、装着している『魔結晶の腕輪』を光り輝かせる。

 それを見てリードも戦闘態勢を取る。


 「回収ね……それはこっちのセリフさね。2つ目の『水の精霊石』いただくとするさね」


 ドリーとリード、そんな2人から少し距離を取ってフミコも銅剣を両手に持って構える。


 「いくよフミコ!!」

 「言われなくてもわかってるよ!!」

 「はっ!! あたいに勝てると本気で思ってるなら大間違いさね!! まとめてあの世に送ってあげるよ!!」


 3人は衝突し、周囲に衝撃波が吹き荒れた。




 カストム城門の城砦と宿舎を繋ぐ橋は壊され、今現在、宿舎は孤立無援の状態となり危機的状況であった。

 城砦へと救援に向かえず、また城砦から救援をもらう事もできない。

 山の麓の平野から宿舎へと繋がる道には今、無干渉地帯統一戦線の構成員である傭兵団や盗賊団が一気に攻め込んできていた。


 さらにその後方には多くの軍勢が控えている。

 まさに多勢に無勢であり、誰がどう見ても数で押し切られ陥落するのは時間の問題とはっきりわかる状態であった。

 それでもまだ宿舎に立て籠もっている保安ギルド<ゾゴム>の面々は宿舎の前にバリケードを張って持ちこたえていた。


 その陣頭指揮を取っているのはドワーフのレイチェル。

 保安ギルド<ゾゴム>のギルドマスターからもっとも信頼されており、他ギルドにも信奉者が多くいる女格闘家である。


 そんな彼女は棍棒を手にバリケードの前に立って途切れることなく押し寄せてくる傭兵や盗賊達を次々となぎ倒していく。

 レイチェルの気迫に押されて二の足を踏んだ盗賊達をバリケードの奥や宿舎の屋根の上に控えていた弓兵たちが射た矢が次々と襲い、進撃を遅らせていた。


 そんなレイチェルの活躍によって無干渉地帯統一戦線の軍勢はバリケードを越える事はできないでいたが、しかしレイチェルとて無限に体力があるわけではない。

 しだいに疲労が見え始め、肩で息をしているのが誰の目から見ても明らかであった。


 そんなレイチェルに屈強な体の傭兵4人が同時に襲いかかる。


 「弓兵!! 援護を!!」


 レイチェルが叫んで指示を出すが、しかし傭兵4人は飛んできた矢が腕に刺さっても、その強靭な筋肉によってビクともしなかった。

 矢が刺さろうが気にせず襲いかかってくる傭兵4人を見てレイチェルは舌打ちする。


 「ち! 脳筋どもめ!!」


 レイチェルは棍棒を振るってこれを撃退しようとするが、傭兵の1人のタックルによって体勢を崩される。


 「が!?」


 続けて別の傭兵に腕を掴まれてしまった。


 「しまっ!?」


 そのまま傭兵はレイチェルの腕を力一杯捻り、レイチェルの腕は折れてしまう。


 「がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 激痛で悲鳴をあげたレイチェルは棍棒を手放してしまい、そのまま地面に叩きつけられた。


 「がぁ!?」


 そして傭兵によって頭を押さえつけられ、別の傭兵によって足も踏みつけられる。

 その事によって、恐らくは足の骨も折れただろう。

 激痛でのたうち回る事も許されず、地面に押さえつけられたレイチェルは傭兵4人に取り囲まれ、服を剥がされていく。


「この蛮族が!! き、貴様ら許さないぞ!!」


 レイチェルは怒鳴るがどうにもならない、バリケードの向こうから弓兵の矢が飛んでくるが、傭兵4人にはまったく効果がなかった。

 ほぼ服を剥がされたレイチェルに傭兵のうちの1人が覆い被さろうとした時、上空から声が轟いた。


 「レイチェルに汚い手で触れるな!! この変態がぁぁぁぁぁぁ!!!」


 その声を聞いて傭兵4人が空を見上げると、空から無数の爆弾が降り注いできた。

 それは地面に落下するといたるところで爆発を起し、その場は大混乱に陥る。


 そんな中、爆弾に混じって空から下りてきた何者かが混乱に乗じて傭兵4人を一気に殴り飛ばした。


 「はぁぁぁぁぁ!!!」

 「これでもくらえぇぇぇ!!!」

 「やぁぁぁぁぁ!!!」


 レイチェルに群がっていた傭兵4人は殴り飛ばされ、そのまま地面に倒れ込み、空から降り注いだ爆弾の爆発に巻き込まれミンチとなった。


 「誰?」


 レイチェルは自分を助けた3人の影を見上げ、そしてその顔を見て驚く。


 「まさか、あなた達はキャシー、シーナ、シルビア!?」


 3人はそんな驚くレイチェルに笑顔を見せる。


 「はいレイチェルさん! 助けにきました!!」

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