無干渉地帯統一戦線(5)
ドローンによる攻撃で連中は多少なりとも混乱しているようだ。
ヤグル、リード、パムジャの3人はそんな状況を立て直そうと指示を飛ばしているがカストム城門に一気に近づくには今しかない。
なので岩場から飛び出し、山を下って城砦へと走る。
走りながら改めてカストム城門全体を見渡し考える。
(このまま突入して評議会のメンバーを順番に撃破していくか? でもそれだと時間が掛かりすぎる……戦力を分散するにはリスクがあるが、ここは評議会のメンバーを同時に潰しにかかるか)
そうとなると誰を誰にぶつけるか考えないといけない、単純に考えて残りの評議会のメンバーは3人。
こちらはケティーがレグルス機内に残ってドローンを操作しているため自分とフミコ、ココ、ドリー、シルビア、キャシー、シーナ、TD-66、ヨハンの9人だ。
単純に考えて3人1組に分かれるところなのだろうが、どうすべきか考えているとキャシーがこんな事を言いだした。
「というかこのままじゃ宿舎のほうもまずいんじゃないの? そっちの方の救援はいいの?」
「宿舎か……悪いが今はそっちまで気を配ってる余裕は……」
「でも宿舎のほうを救援して盛り返せば、宿舎から城砦のほうへ応援を回せるんじゃないの?」
「連絡通路の橋壊されてるじゃん」
「宿舎のほうが落ち着けば、応急処置の橋はかけられるんじゃない?」
キャシーの訴えを聞いて考える。
宿舎のほうを攻めている連中の指揮を取っているのは恐らく女海賊のリードだろう。
城砦と宿舎を繋ぐ橋を壊して分断し、城砦側から宿舎への攻撃の指揮を取っている。
ならば、リードが戦闘状態になれば宿舎への攻撃に対する指揮を取る余裕はなくなるはずだ。
その隙に宿舎に群がる連中を蹴散らせば状況は変わるかもしれない。
しかし、だからと言って宿舎へとどれだけ戦力を割けるだろうか?
何せこちらは9人しかいないのだから……
そう思っているとキャシーが更に訴えてくる。
「それに宿舎にいるのって保安ギルド<ゾゴム>の人達だよね? ゾゴムのレイチェルさんには昔お世話になったというか、指南を受けた事があるし助けたいの!」
「うん、恩返しがしたい」
キャシーに続いてシーナも懇願してきたのでシルビアにも尋ねてみる。
「シルビア、君もそうしたいかい?」
「わたしは……」
シルビアは少し考えた後。
「カイトさん、わたしもレイチェルさんを……ゾゴムの皆さんを助けたいです!」
「シルビア……」
「わがままなのはわかっています。宿舎のほうの救援に向かえば戦力が低下する事も承知してます。それでも、やっぱり見捨てることはできません!」
こちらを見て訴えてきた。
「そうか、わかった……」
そんなシルビアの瞳からは強い意思が感じられた。
ならば反対する理由はない。
「ケティー! 飛ばしてるドローンをシルビアたちの援護に回してくれ!」
『わかった! でもいいの? そうすると川畑くん達のサポートが……』
「問題ない! カストム城門全体の様子を捉えているドローンが1機あれば十分だ!」
そう言って即座に戦力配置を考える。
シルビア、キャシー、シーナを宿舎の救援に回すなら6人で評議会のメンバーを襲撃する事になる。
では誰を誰にぶつけるべきか?
悩んでいる暇はない。すでにカストム城門はもう目の前だ、即決しなければならない。
「よし! カストム城門に突入するぞ!!」
「うん! で、かい君どうするの?」
「評議会のメンバーを2人1組にわかれて各個撃破する!!」
そう言ってヨハンへと視線を向ける。
「けどその前にヨハン! 俺も召喚するから何匹かモンスターを召喚しておいてくれ! いちようの保険だ」
「わかったよカイト」
「それとヨハンはココと組んで元ギルドマスターのヤグルの相手を頼む! やつは全体の指揮を取ってる可能性が高い! 2人で奴を倒して指揮系統を潰してくれ!!」
そうヨハンとココに言うとヨハンは。
「結構重要な役割だね」
そう言って少し緊張した表情となるが、拳を握りしめて気合いを入れる。
「でも、わかった!! ヤグルの相手は任せてくれ!!」
しかし、そんなヨハンの横でココは不満一杯といった表情となる。
「えぇー!? カイトさま、ココはカイトさまと一緒に戦いたいです!! ココの勇姿をカイトさまは見なきゃダメです!! やだやだ! カイトさまと一緒がいいです!!」
そう言ってココは駄々をこねるが、しかしヤグルを確実に仕留めて指揮系統を破壊するにはココの力は必要だ。
ココには申し訳ないが我慢してもらうしかない。
「ココ、今はそんな事言ってる場合じゃないんだ。これが終わったらココの気が済むまで一緒にいてあげるから」
ココを納得させるためそう言うとココが目を輝かせた。
「ほんと!? カイトさま、それほんと!?」
「あぁ、それに離れてもちゃんとココの勇姿を見てるから、
「やったー!! ココ頑張る!! カイトさまにいっぱい褒めてもらう!! カイトさま、ちゃんとココの事見ててくださいね? そして終わったらココといっぱい子作りしましょう!!」
「いや、そこまでするとは言ってない……」
興奮するココにそう言うがココには聞こえていないようだった。
カイトさまと子作り子作りうれしいな~という歌まで口ずさみだしている。
うん、これは色入とまずいのでは……案の定フミコ、ドリー、シルビアがこちらをジトーと睨んできた。
うむ、今はとにかくココの言ってる事を流して話を進めるしかない。
「え、えっとだな……次にフミコとドリーで元海賊リードの相手をしてほしい」
そう言うとフミコとドリーが驚いた表情になった。
「え? あたし、かい君と一緒に戦いたいんだけど? というか何でドリーと組まないといけないわけ?」
「カイトくん、わたしはフミコと組むよりもカイトくんと組んだほうが絶対いいと思うな?」
フミコとドリーはそれぞれ口にすると互いに睨み合う。
「は? かい君の相棒はあたしなんだからね? あたし以外いないんだからね?」
「それはこっちのセリフなんですけど? 海賊船でわたしをどれだけ必死で守ってくれたか教えてあげようか?」
「それ、あんたが足手まといすぎて見てられなかっただけじゃないの? そんなの隣に並び立つ相棒って言わないんだけど?」
「なんだと!?」
言い合いをはじめたフミコとドリーを見て思わずため息がでた。
あーうん、まぁやっぱこうなるよね?
「2人とも落ち着けって! ドリーは海賊時代にあのリードっていう女海賊の事知ってるんじゃないのか?」
「いんや、知らない」
「そ、そうか……何にせよ2人で協力してあいつを倒してくれ!! あいつを倒せたら宿舎のほうの救援に向かうシルビアたちの援護にもなるはずだから!」
何とか頼み込むとフミコとドリーは渋々といった感じで納得していない表情ながらも。
「わかった……かい君がそういうなら」
「カイトくんの頼みなら」
と頷いた。
しかし直後。
「その代わり、帰ったらちゃんと埋め合わせしてよ? ココにはするのにあたしにはしないとかダメだからね?」
「ちょっとフミコ!! その約束わたしが取り付けようとしたのに!! カイトくん!! わたしもちゃんと埋め合わせしてよ!?」
ふたりしてそんな事を言ってきた。
そして圧が凄かった。これ、断ったら命がやばいやつや……
「わ、わかった……わかったよフミコ、ドリー。ちゃんと埋め合わせするから!! だから頼んだぞ?」
引き攣った表情でそう言うとフミコとドリーが「やった!」と小さくガッツポーズをとった。
そんなフミコとドリーを見てココが不満そうに頬を膨らませていた。
そしてシルビアは「そ、そんな……わたしだけ何もない」とガックリと肩を落しており、インカムからはケティーが不機嫌そうに舌打ちする音が聞こえてきた。
あぁ、どうすりゃいいんじゃこれ?
どうすれば円滑で円満な空気になるんじゃ?
教えて!!イケメンハーレム王!!
「と、とにかく!! シルビア、キャシー、シーナは宿舎の救援に! ヨハン、ココは元ギルドマスター・ヤグルの撃破を! フミコとドリーは元海賊リードの撃破を頼む! 俺と機械の騎士さんは元山賊パムジャを撃破する!!」
そう言ったところでカストム城門の入り口が目の前に迫った。
なので足を止めて皆へと視線を向ける。
「それじゃあ行くぞみんな!!」
カストム城門、城砦回廊。
そこで元ギルドマスターでもあったヤグルが無干渉地帯統一戦線の全体の指揮を取っていた。
とはいえ、襲撃を開始した最初の頃は勢いもあって押していたものの、ここにきて警備ギルド<イルゾーグ>が反攻に転じ膠着状態が続いている。
この状況にヤグルは少し苛々していた。
ヤグルはかつてギルド<朝靄の守護者>のギルドマスターとしてギルドユニオンに所属していた。
そしてユニオン時代にカストム城門の警護のクエストを受けた事があり、カストム城門については弱点も把握しているつもりだった。
なのに何故落とせないのか?ヤグルは再度頭の中で情報を整理する。
確かに警備ギルド<イルゾーグ>は何人もの強者が揃う強力なギルドだ。
しかし、その中でも霊長類最強の触れ込みがあった女格闘家はすでに引退し、今はイルゾーグにはいない。
つまりはそこまで苦戦するはずがないのだが……
(さっきの俺を狙った爆発魔法のような遠距離攻撃といい、俺がユニオンを抜けてから警備ギルド<イルゾーグ>の中で何か変化があったのか? しかしそこまで劇的に変化するものか?)
ヤグルが考え込んでいると、ヤグルの周囲に展開していた護衛たちが一斉に警戒しだす。
「な、なんだ!? またさっきの攻撃か!?」
「ヤグルさまを守れ!!」
「くそ!! モンスター風情が!!」
ヤグルは気にせず思考を巡らせているが、その周囲の護衛は上空に現れたコウモリ型のモンスターの群れに対して攻撃態勢を取るが、直後……
「上ばっかり見てていいいのかい?」
何者かの声が響いた直後、暴風が吹き荒れてヤグルの周囲にいた護衛たちが吹き飛ばされていく。
あっという間にヤグルの周囲には誰もいなくなった。
そんな状況を見てヤグルは思考するのを止め、声がした方を向く。
そこには2人の男女が立っていた。
「誰だ?」
ヤグルが尋ねると男の方が一歩前に踏み出して答える。
「僕はかつて冒険者サークル<月夜の刃>の代表だった者……今はギルド<ジャパニーズ・トラベラーズ>で一兵卒をやってるヨハンだ!! 今からあんたを倒す者の名だ! 冥土の土産に覚えておけ元ギルド<朝靄の守護者>のギルドマスター、ヤグル!!」
そう言い放ったヨハンを見てヤグルは鼻で笑うと。
「元冒険者サークルね? つまりはサークルをギルドに昇華できたわけでなくギルドに拾われたアマチュアあがりってとこか? そんなやつが俺に楯突くとはいい度胸だ!」
右手を開いて前に突き出し叫んだ。
「けどまぁ、すぐに死ぬのはてめぇだがな? アマチュアあがりが調子こいてしゃしゃり出てくるんじゃねーぞ? この三下が!!」
直後、開いた右手の手のひらが光り輝く。
するとヨハンとココの背後の空間が突如歪み、その歪みの中から巨大なイグアナが飛び出してきた。
「!!」
「ひひ!! さぁエサの時間だバジリスク!! 食い散らかせ!!」
ヤグルの言葉に反応してバジリスクはヨハンとココへと襲いかかる、だが……
「はぁ……ココなんだか退屈です。こんな相手じゃカイトさまにココのすごいところアピールできないです」
ココはため息交じりそう言って、襲いかかってきたバジリスクに軽く拳を振るった。
誰がどう見てもやる気のない、威力など絶対にあるはずなどないそのパンチだが、しかし当のバジリスクはパンチが頭部に当たるとブチャーと嫌な音を立ててバジリスクの頭部がミンチとなって木っ端微塵に吹き飛び、血が噴水のように周囲に飛び散った。
「な!?」
頭部が潰されその場に倒れ込んだバジリスクを見てヤグルが驚愕の表情を浮かべる。
「バ、バカな!? 俺が喚びだしたバジリスクがこんなあっさりやられただと!?」
信じられないといったヤグルにヨハンが一歩近づいて言い放つ。
「あの程度のモンスターじゃココには勝てないよ? 当然、僕にもね! さぁヤグル、観念するんだな!!」
しかしヤグルはすぐにニヤリと笑う。
「は! 上等だアマチュアあがりが!! その自信をぽっくり折ってやるよ!!」
そして再び右手を突き出し、その手のひらを光り輝かせる。
ヨハン、ココとヤグルとの戦いの幕があがった。




