表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
13章:緊急クエストをこなそう!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

245/539

無干渉地帯統一戦線(4)

 カストム城門、そこは山の麓に建てられた堅固な城砦であった。

 この地には城も城跡も存在しないというのに何故「カストム城門」と呼ばれているかについては諸説あるが詳しい経緯はわかっていない。


 ともかく城砦の奥には巨大な門が存在しているが、この門は本物ではなく山の岩肌を削って作られたレリーフであり、当然ながら開く事はない。


 何故そのようなレリーフがあるかと言えば、この門のようなデザインのレリーフこそが封印の根幹だからである。

 この門のようなレリーフには貴族(メイジ)と亜人による強力な封印が何重にもわたって厳重に施されている。

 これをすべて解除し、封印を解き放つのは至難の技だろう。


 それ以前に、この封印に辿り着くにはまず堅固な城砦を突破しなければならず、それは容易ではない。

 なにせカストム城門には要衝警護のスペシャリストである2つのセキュリティーガード、警備ギルド<イルゾーグ>と保安ギルド<ゾゴム>が駐屯し、交代交代で警備に当たっているのだから。


 しかし、そんなカストム城門は今、無干渉地帯統一戦線に一方的に攻め込まれ陥落寸前まで追い込まれていた。

 警備ギルド<イルゾーグ>と保安ギルド<ゾゴム>はカストム城門を1日交代で交互に警備しており、非番のほうのギルドは城砦から少し離れた宿舎で休日を過ごしている。


 とはいえ、何かあった時のためにカストム城門と宿舎は山の岩肌を利用した石橋で繋がっているのだが、その石橋は破壊され2つのギルドは連携が取れなくなっていた。

 そしてカストム城門と宿舎を分断した無干渉地帯統一戦線は両方に同時に攻め込んできたのだ。


 カストム城門はまだ城砦な分、持ちこたえているが、防衛機能がない宿舎のほうはかなり厳しい状況だろう。

 何より人数差では彼らは太刀打ちできない、圧倒されているのだ。

 本当に無干渉地帯統一戦線は一体どこでこれほどの人数をかき集めてきたのか?

 そこまで無干渉地帯統一戦線という組織は人を惹きつける魅力的な組織なのだろうか?


 何にしても遠目で見てもわかる。

 これはもはや一刻の猶予もない。


 「さて、この状況、救援に向かうにしても一体どうする?」


 即席の飛行場陣地から山を下りてきて岩場に身を隠しながらカストム城門を観察していたが、どう救援に向かうべきか迷っていた。

 完全に山を下りて連中の背後から奇襲をかけるべきなのか、このまま狭い危険な細い道からカストム城門に近づいて警備に当たっているギルドに加勢すべきなのか……


 (そもそも、この人数差だと俺らが加わったところで多勢に無勢とならないか?)


 そう考えて長距離無人要撃・護衛戦闘機ヘスピアによる空爆を思いつくが、どれだけ効果があるだろうか?

 そして味方に誤爆する可能性はないだろうか?

 当然ながら、その可能性は否定できない。


 何より、無差別に敵を空爆しても指揮官が無事ならばすぐに態勢を立て直されてしまう。

 無干渉地帯統一戦線という組織がどれだけの統率力を持っているのかわからないが、烏合の衆だと決めつけてかかるのは危険だろう。


 そうなれば、まずは排除しなければならない相手を見定めなければならない。


 「指揮系統を混乱させるには連中の親玉を討つのが定石だが……ユニオンからの情報じゃ無干渉地帯統一戦線はトップは評議会のメンバー4人って話だったな」


 そう呟くと耳につけたインカムからケティーの声が聞こえてくる。


 『そうだね、メンバーは元ギルド、元海賊、元空賊、元山賊の4人でそのうちの誰かがトップってわけじゃないみたい』

 「4人が共同代表ってか? そんな組織、絶対機能不全起すと思うんだがな? なんで成立してんだ?」

 『さぁね? そこは組織の中に潜ってみない事には実態はわからないんじゃない?』

 「絶対に潜入捜査したくない組織なんだがな……あれ」


 そう言ってため息をつき、双眼鏡を手に取ってヨハンに渡す。

 しかし受け取ったヨハンは一瞬首を傾げた。


 「ヨハン、これ」

 「あぁ……って何?」

 「何って評議会のメンバーを探すに決まってるじゃん。この中で鑑定眼を使えるのは俺とヨハンだけなんだから」


 そう言ってこちらも双眼鏡を手にするとヨハンは納得した様子で双眼鏡を覗き込むが、しかし疑問を口にする。


 「でもその評議会のメンバー、名前とかわからないと見つけられなくない?」

 『あぁ、それなら問題ないで! 評議会連中のリストならユニオン総本部から届いてるわ!』


 ヨハンのその疑問に答えるようにインカムからリエルの声が聞こえてくる。

 全員が今つけているインカムはドルクジルヴァニアのギルド本部とも繋がっているのだ。

 これもここに来るまでの道中で通信基地の役割を果たすバルーンを多数打上げて通信環境を整えたおかげだ。


 『リストには評議会のメンバーは元山賊パムジャ、元海賊リード、元空賊スド、そして元ギルド<朝靄の守護者>のギルドマスター・ヤグルと書いてあるわ。探すのはこの4人やで!』

 「了解だリエル! そういうわけでヨハン。パムジャ、ヤグル、リード、スドの4人を探すぞ!」

 「わかったよカイト。しかし、いくら名前がわかってもあれだけの数の中から見つけるのは至難の技じゃない?」

 「泣き言言うな、やるしかないだろ! それに評議会のメンバーっていうくらいだから指揮をとってそうなやつか、後方でふんぞり返ってるやつだろ」


 ヨハンにそう言って双眼鏡を覗くが、ヨハンは大きくため息をついた。


 「それだと今、この場には姿を見せてない可能性もあるんじゃ?」


 言いながらもヨハンは双眼鏡を覗く。

 しばらく無言で双眼鏡を覗いていたがすぐにターゲットを発見した。


 「見つけた!! というか城砦の回廊にいないか? 評議会のメンバーが最前線にいるって組織としてどうなんだこれ?」

 「こっちも見つけたよ! 確かに最前線に出張ってるね? 幹部が前線にでないといけないほど士気が低いのかな?」


 ヨハンが疑問を口にするが、しかし4人のいる位置を考えればそうでもないのかもしれない。


 評議会メンバー4人のうち3人は最前線に飛び出していた。

 残る1人は城砦には入らず後方で飛空挺の準備を数名の部下とおこなっている。


 その人物は確認するまでもなく元空賊のスド。

 かつての空賊仲間たちと空から封印の場所まで攻めようというのだろう。


 一方で城砦の中でも宿舎との連絡通路であった崩壊した橋のあたりにいるのは元女海賊のリード。

 そして、彼女の見つめる先、橋が崩落して分断された先の宿舎には続々と連中の部下たちが押し寄せていた。

 恐らくは彼女が宿舎のほうの襲撃を指揮しているのだろう。


 城砦の回廊、最前線にいるのは元山賊のパムジャだ。

 部下を率いて威勢良く突破口を切り開いている。


 そんなパムジャの後方でじっと動かず状況を観察しているのが元ギルドマスターのヤグルだ。

 戦場全体の指揮でもとっているのだろうか?

 最優先で潰すべき相手かもしれない。


 (最前線にいながらも、それぞれが役割を果たしてるってわけか……さて、この配置を見てどうすべきか)


 そして思いつく。


 (ここはひとつ、相手の幹部の正確な位置を把握してるアドバンテージを最大限利用するとしよう)


 インカムでケティーとリエルに指示を出す。

 そして振り返って皆に伝えた。


 「よし、それじゃ作戦開始だ!」





 カストム城門の正面、続々と突入していく部隊を見ながら元空賊のスドは飛空挺の準備を進める。

 カストム城門を警護しているギルドの連中が城砦の防衛に釘付けになっている隙に部下たちと共に飛空挺で上空からカストム城門奥地の封印を急襲しようという魂胆なのだが、いざ飛空挺を飛ばせるとなったその時、スドは何か違和感を覚えた。


 「ん? なんだ?」


 思わず空を見上げたスドを見て、周囲にいる部下達が声をかけてくる。


 「どうしたんすかスドさん」

 「気になる風でも吹いてきてますか?」


 そんな部下達を気にせずスドは空を見上げたまま、周囲を窺う。


 「なんだ? この妙な感覚は? 何かが……くる!!」

 「へ? 何かってスドさん、この辺りには俺ら以外の飛空挺はいないは……」


 部下が言い終わる前にスドは気付いて叫んだ。


 「まずい!! 敵襲だ!! 全員この場から離れ……」


 しかし、スドは気付くのが数秒遅かった。

 叫んだ時にはすでに上空には2機の飛翔体が爆音を轟かせて通過し、地上に向かって何かを撃ち込んできた後だった。


 飛翔体が放ってきた攻撃をくらってスドを中心とした一帯は大爆発を起し、そこにあった複数の飛翔体はすべて木っ端微塵となり、そこにいた部下達は吹き飛んで同様に木っ端微塵となった。

 当然これにはスドも巻き込まれ、ほぼ即死。後には爆発によって生じた巨大な穴しか残らなかった。




 長距離無人要撃・護衛戦闘機ヘスピアによる爆撃はカストム城門から離れた場所にいたスドに対してのみ行った。

 カストム城門にいる位置を特定している他の評議会メンバーに対してはケティーが操作するドローンからのピンポイント攻撃を実施する。


 近年、米軍他の特殊部隊が対テロ戦で過激派組織の指導者を殺害する際に使用する手段だ。

 そして同じく、近年テロリストが重要インフラへの攻撃で多様する手段でもある。


 「よ~し、ロックオン完了!! これでもくらえ!!」


 ケティーがカストム城門に近づいたドローンから搭載した小型ミサイルをヤグル、リード、パムジャに向かって放つ。

 この攻撃は間違いなく彼らを捉えたはずだった。

 しかし……



 カストム城門から大きな爆発音が複数響いた。

 同時に煙が上がったのも確認できる。


 これで仕留める事ができていたら、後は指揮系統が乱れ混乱する連中を一方的に蹂躙する簡単なお仕事になる。

 そう思っていたが……


 「ダメか……」


 双眼鏡を覗きながら思わず舌打ちしてしまう。


 『川畑くんゴメン! 確かに狙いは完璧だったはずだけど……』

 「わかってる、こっちでも確認した。連中、攻撃に気付いて部下を盾にして回避しやがったな」


 双眼鏡ではドローンの攻撃によって木っ端微塵になった部下の死体を見て何やら周囲に指示を出し、警戒体勢に入ったヤグル、リード、パムジャの姿が確認できた。

 こうなってはもうドローンによる奇襲を続けておこなうのは無理だ。


 ならば後は自分達が直接出向くしかない。


 「ケティー! ドローンはもう周囲の状況を確認するだけでいい! 連中に何か動きがあったら教えてくれ!」

 『わかったよ』

 「幸い、今の攻撃で連中の警戒度は上がったが、動きは鈍った! 今のうちに一気にカストム城門に向かうぞ!!」


 双眼鏡をしまい、振り返って皆に伝える。

 誰もが頷いたのを見て、一気に身を乗り出しカストム城門に向かって走り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ