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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
13章:緊急クエストをこなそう!

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無干渉地帯統一戦線(1)

 「同志諸君、この停滞した世界を終わらせる時がきた! それができるのは我々だけだ!! 時代は今まさに変革の時を迎えようとしている!! さぁ立ち上がろうではないか!!」


 男はそう言って両手を高々と掲げ、まるでステージのように横たわっている巨大な岩の上から聴衆へと訴えかける。


 カルバティア山脈の中にある洞窟のひとつ、その中にある巨大なサッカースタジアムほどの広さがある開けた空間、そこには今空間を埋め尽くすほどに人が密集していた。


 それらの人々は男の言葉を聞いて大いに盛り上がる。

 至る所で威勢のいい声が飛び交い、洞窟内の空間は異様な熱気に包まれていた。


 その光景を見て男は満足そうに頷き、内心ほくそ笑む。

 そんな男の背後に1人の男が近づいてきた。


 「随分とご機嫌だなパムジャ」


 声をかけられたパムジャと呼ばれた男は振り返って声をかけてきた男を見る。


 その男はまるで古代ローマ帝国の兵士を連想させる鎧、ロリカ・セグメンタタに身を包んでいた。

 しかしその素顔は頭に被ったインペリアル型ガレア(兜)の下に仮面をつけているため窺うことはできない。


 そんな男に対してパムジャはニヤリと笑ってみせる。


 「当然だ、わが同志ハーフダルム。何せこれからわれらの歴史がはじまるんだぜ? これが浮つかずにいられるか? この瞬間はいわば今後何千年に渡って語り継がれるであろう創世神話の冒頭。書物に記される最初の1ページなんだ。興奮するなというのが無理な話だろ?」


 そんなパムジャの言葉に古代ローマ帝国の兵士を連想させる姿のハーフダルムは「そうだな」と答えると視線を横へと移す。

 そこには3人の人影があった。


 パムジャ同様にステージ上から聴衆を見下ろしながらも彼らは何か言葉を発する事はない。

 こういった場で集った者たちを鼓舞する役目でないからだ。

 そういった役目はパムジャ1人で十分、だから彼らは幹部としてパムジャから数歩下がった後方に控えている。


 ただそこにいるだけで意味がある。それがこの場における彼らの役割だ。

 そして、その中には当然ハーフダルムも含まれる。


 ハーフダルムと口を開かぬ3人を従えてパムジャは力強く拳を突き上げて高らかに宣言した。


 「同志諸君、われはここに誓う!! 今こそ無干渉地帯をひとつにまとめあげ統一すると!! そして、われらが国をこの地に建国すると約束しよう!! 今日という日はわれらが立ち上がった日として未来永劫、歴史に刻まれるであろう!! さぁ輝かしい栄光のはじまりだ!! いざゆかん!! 明日のために!! 停滞したこの社会へ宣戦布告だ!!」


 パムジャのその言葉に集まった誰もが熱狂し拳をあげて建国万歳!と叫ぶ。

 その熱狂具合にパムジャは満足し告げた。


 「では手始めに封印されたカストム城門を落すぞ!! 同志諸君!! 出撃だ!!」


 集まった者たちのボルテージは最高潮となり、みな熱狂に包まれて叫ぶ。


 「おーーーー!!」

 「やってやるぜーー!!」

 「われらの歴史がはじまる!!」


 そうして彼らは洞窟を去って行く。

 パムジャが告げた通り、カストム城門を攻め落としに行くために……


 集まった者達が去り、洞窟内に静けさが戻るとハーフダルムがパムジャに声をかける。


 「さて、あいつらは行っちまったが俺らはどうするんだ? 同志パムジャ?」


 するとパムジャはニヤリと笑い。


 「まぁ、しばらくは高みの見物だな? どっちにしろカストム城門の警備は厳重だ。そして封印のための結界も何重もかけられてるに違いない。そうだろ?」


 そう言ってハーフダルム以外の3人のうちの1人に声をかける。

 聞かれた男は。


 「あぁ、その通りだパムジャ。カストム城門の警備はA級ランクのギルドが交代制でおこなっている。そして門の封印は何十人という貴族(メイジ)やエルフが魔法を複雑に絡め合っておこなっているため解除が物凄く面倒だ。俺もかつて、()()()()()()()()()()()からわかる。あれは相当骨が折れるぞ?」


 そう言ってニヤリと笑う。

 しかしパムジャは気にせず別の1人に声をかける。


 「だが、そんな厳重な警備体制にも綻びがある。そうだな?」

 「えぇ、何せあそこは地盤が案外緩いからね? 険しい山肌に囲まれて天然の要塞と勘違いしてるだろうけど、崖崩れなどの天災には脆い。そして地下水が豊富な分、いくらでもそれを誘発できるさね」


 そう答えたのは妖艶な笑みを浮かべる女性であった。

 そして女性に続いてもう1人の男も。


 「それに上空から偵察した限りでは警備も封印も大した事ない。何重にもかけられた封印結界を一発で無効化できるウィークポイントを発見済みだ」


 そう答えた。

 彼らの言葉にパムジャは邪悪に顔を歪める。


 「あぁいいね~素晴らしい! さすが頼もしき同志たちだ!! ひひ! カストム城門へと気付かれずに秘密裏に近づくルートも襲撃ポイントもわれがすでに算出し、連中に伝えてある。こいつは負ける気がしねーな?」


 そう言って笑い出すパムジャにハーフダルムは。


 「さすが元ギルドユニオン、元キャプテン・パイレーツ・コミッショナー、元空賊連合、元カルテルの面々だ。同志諸君、お前らがいれば鬼に金棒だな?」


 そう感嘆の声をかけた。

 しかし、そのハーフダルムの言葉にパムジャは目を細める。


 「……同志ハーフダルム、その言い方は適切じゃないな?」


 そう言ってハーフダルムに近づいて指をさし怒鳴った。


 「()()()()()()()()()()()()()()()()だ! ユニオンだコミッショナーだなどと妙な言い回しはよせ! 特にカルテルなんて邪教徒の組織の名前、聞きたくもない!! わかったか!?」


 怒気を強め、威圧感を出すパムジャに対してハーフダルムは。


 「わかったわかった。すまん、以後気をつけよう」


 謝罪を口にしたが、その言葉はどこか薄っぺらく、パムジャの威圧を特に気にしていなかった。


 「わかればいい……じゃあわれらも行くぞ」


 パムジャはそんなハーフダルムの態度に思うところはあったが、謝罪を口にした以上はそれ以上何か言う事はなく、皆を促した。

 そうしてパムジャたちもその場から立ち去っていく。



 パムジャをはじめ、洞窟内に集まっていた集団は「無干渉地帯統一戦線」。

 いわゆる武装集団である。

 彼らは無干渉地帯で睨み合い、争い合うギルドユニオン、空賊連合、キャプテン・パイレーツ・コミッショナー、邪神結社カルテルという4つのどの組織にも属さない、言うなれば5番目の勢力だ。


 とはいえ、実際5番目の勢力と言えるほどの影響力はない。

 何せ彼らは、さきほどハーフダルムが述べた通りギルドユニオン、空賊連合、キャプテン・パイレーツ・コミッショナー、邪神結社カルテルからそれぞれ離脱した者たちであるからだ。

 そのため、無干渉地帯内に明確な支持基盤がない今までは地下組織として着々と準備を進めて地道に勢力を拡大してきたのだ。


 そしてついに準備が整ったため、表だって行動を開始したわけである。

 無干渉地帯統一戦線、彼らの目的はその名の通り無干渉地帯を統一しここに国を築くことだ。


 ギルド、空賊、海賊、山賊とそれを乗っ取った邪教徒ども。そんな組織が睨み合ってる現状ではいつ周辺国家がこの地に侵攻してくるかわかったものではない。

 そして、周辺国のいずれかがこの地に侵攻を開始すれば、他の国も黙ってはおらず遅れて侵攻を開始するだろう。


 そうなればこの無干渉地帯は連中が争う戦場となり、我が物顔で好き勝手に荒らされる。

 それは我慢ならん事だ。連中に一体何の権利がある?

 この地を好きにしていいのはこの地に住む人間だけだ。


 そして、それを未来永劫維持するためには明確な統治機構がこの地にあらなければならない。

 また、その統治機構が周辺国家から手を出されないためには明確な抑止力を見せなければならない。

 つまりは圧倒的な軍事力……手を出せば、ただではすまないと周辺国に畏怖を抱かせなければならない。


 そう、つまりは圧倒的な武力闘争でもって国を立ち上げ民衆をまとめあげる。

 そう考えたのだ。


 こうして結成されたのが無干渉地帯統一戦線。

 ギルドユニオンから追放されたギルドに空賊連合を抜けた空賊団、キャプテン・パイレーツ・コミッショナーの方針に従えなくなった海賊団に邪神結社カルテルに組織を乗っ取られ不満に感じていた山賊団の一部が脱走し、彼らと手を組んだのだ。


 これに賛同したドルクジルヴァニア市内に潜む闇ギルドのいくつかが無干渉地帯統一戦線に参加。

 それに続いて盗賊団や周辺国から流れ着いた傭兵団も加わり、無干渉地帯統一戦線はそれなりに大きな武装集団となった。


 そんな無干渉地帯統一戦線を束ねるのはパムジャ、かつてはカルテルに所属していた山賊だ。

 しかし、ハーフダルムに言い放った言葉からもわかる通り、彼はカルテル……邪教徒に対し相当根深い恨みを持っている。

 それはカルテルが山賊協定という組織を乗っ取った憎き相手であるからだろうが、それ以外にもカルテルの登場によってギルドや海賊、空賊が変化していったという歴史も絡んでいるだろう。


 何にせよ、パムジャは無干渉地帯統一戦線が勝利し無干渉地帯に国を建国した暁には邪教徒どもを徹底的に弾圧し迫害すると宣言している。

 そんなパムジャに異を唱える者は誰もいなかった。


 とはいえ、それは誰もトップのパムジャに逆らえないからというわけではない。

 そもそも無干渉地帯統一戦線はパムジャだけが意思決定を行える武装集団ではないのだ。


 無干渉地帯統一戦線はその成り立ちゆえに元ギルド、元海賊、元空賊、元山賊の出身者4名で評議会を開いて意思を決定している。

 そのメンバーがさきほどパムジャの背後に控えていた3人だ。


 元ギルドマスターのヤグル、元女海賊のリード、元空賊のスド。

 彼らも邪教徒に対して好印象は抱いていない。

 だからこそパムジャに異は唱えないのだ。


 さて、ではそんな評議会のメンバーではないハーフダルムが何故幹部4人と行動を共にしているかと言えば、彼は特別な客人として無干渉地帯統一戦線に招かれているからだ。

 故に評議会にも意見を述べる。そういう立場なのである。


 とはいえ、ハーフダルムの目的は当然ながら無干渉地帯統一戦線の手助けをし、この地に彼らの国を建てる事の手助けをする事ではない……彼の目的はただひとつ。


 (ひとつの異世界に長く留まる事は異世界渡航者にとってプラスにならない……異世界渡航者の成長は多くの異世界を巡り、多くの転生者・転移者・召喚者から異能を奪い、殺す事でしか得られないからな……そう、ひとつの異世界に留まり続けるなど愚の骨頂だ。だが、この異世界だけは例外だ。本当に笑えるくらいにな……ではGX-A03の適合者(まるさん)、そんなイレギュラーな異世界でお前はどれだけ成長した? どれだけの力を得られた? それを確かめさせてもらうぞ?)


 ハーフダルムはパムジャ、ヤグル、リード、スドの後についていきながらほくそ笑む。


 (さぁGX-A03の適合者(まるさん)、品評会の時間だぜ?)

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