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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
12章:定例クエストをこなそう!

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海賊団ブラックサムズ(8)

 甲板へと登ってきたクラーケンの無数の触手に対してレーザーブレードで斬りかかろうとしたところでドリーに止められた。


 「か、カイトくん!! クラーケン相手にそれは無謀だよ!! とてもじゃないけど、クラーケンの巨大な触手に斬りかかるなんて! それに触手の数も一本だけじゃないんだよ?」

 「確かにそうかもそれないが、何本か輪切りにすればクラーケンもビビって逃げ出すんじゃないか?」

 「本体は海の中なんだよ!? いくら触手を輪切りにしても意味ないよ!」

 「じゃあどうすんだよ?」

 「そ……それは」


 ドリーは言葉に詰まって、それ以上何も言えなかった。

 そんなドリーを見て思う。

 ドリーはこれまで海賊として圧倒的なまでのクラーケンの恐ろしさを見てきたのだろう。


 仲間であるうちは頼もしいが、敵になったらと思うと背筋が凍る。

 そういう相手なのだ。

 そして海賊であるうちはクラーケンと敵対することなど想定していないため、相対した時の対処法などは考えてこなかったに違いない。


 ドリーが海賊を辞めてギルドの一員として自分達の仲間となったのはつい最近だ。

 まさかこんなにも早く海に出てクラーケンと戦う羽目になるとは思ってもみなかったのだろう。

 だから、もしもの時の対策など考えていなかったのだ。


 これは仕方がない事だろう。

 しかし、そうなるとクラーケン攻略のための助言はドリーからは得られない。

 そして、ドリーが言ったように甲板上で剣を振り回してクラーケンと戦うのは得策ではない。


 昔観たパニック映画の海賊船の甲板上のマストなどをなぎ倒しながら、クラーケンが海賊たちを触手でさらって海に引きずり込み、喰らっていくシーンを思い出す。

 レーザーブレードで斬りかかっていってもあれと同じ結末になるのがオチだろう。

 ならどうするか……


 考えてる間に甲板へと登ってきた無数の巨大な触手は勢いよくこちらに向かって突っ込んできた。

 それを見て決断する。


 「これは擲弾をぶっ放してミンチするのが正解だな」


 レーダーの刃をしまい、懐からアビリティーチェッカーを取り出し素早く装着、投影されたエンブレムをタッチする。


 タッチしたのは銃のエンブレム。

 地対空誘導弾モード、グレネードランチャースタイルだ。


 アビリティーユニットの周囲の空間に紫電が迸り、何もない空間にドラム型弾倉や銃床、バレルなどの外装が半透明に浮かび上がる。

 やがてそれは完全に物質化し、アビリティーユニットの元へとくっついていき、グレネードランチャー、LG5/QLU-11へと姿を変えた。


 LG5/QLU-11を手に取り、銃口をこちらに突っ込んでくる巨大な触手に向ける。


 この中国で開発された11式狙撃グレネードランチャーとも言われるこの擲弾発射器には高精度照準器、レーザー距離計、サーマルカメラ、エアバースト機能を提供できる弾道コンピューターを備えた射撃統制システムを装備できるのだが、この差し迫った状況で悠長にそんなものを使っている暇はない。

 今はすぐにでも目の前にグレネードをぶっ放さないといけないのだ。


 「くらいやがれ!!」


 引き金を引き、グレネードをクラーケンの触手へとぶっ放した。

 反動による衝撃が体全体を襲い、耳をつんざくような射撃音が轟く。

 そして圧倒的な破壊力でもってクラーケンの触手が木っ端微塵になった。


 甲板に登ってきた大部分が吹き飛ばされ、残った部分が慌てて海面下へと引っ込んでいく。

 直後、反対側の左舷から無数の触手が姿を見せた。


 「今度はそっちか!!」


 銃口をそちらに向け、コッキングレバーを引き、引き金を引く。

 放たれたグレネードが新たに姿を見せた触手を破壊していく。


 LG5/QLU-11は中国軍向けのLG5と輸出向けのQLU-11で若干口径が異なるようだが、基本的な性能は変わらない。

 そして11式狙撃グレネードランチャーという中国軍での名からもわかる通り、スナイパーグレネードランチャーという対物ライフルのように狙撃精度をあげたグレネードランチャーだ。


 米軍などが使うグレネードランチャーよりバレルが長く、対物ライフルより威力が高い。

 何より高初速、長距離射程というのが魅力だ。


 こんな狭い船上で使う分には長距離射程はあまり意味がないだろうが、高初速で高威力なのはこの局面では助かる。


 次々と姿を見せるクラーケンの触手をグレネードで木っ端微塵にしていくが、やがてクラーケンも学習したのか次に姿を見せた触手は超巨大なシャコ貝のようなものを吸盤にくっつけて盾にしていた。


 「そんなもんで防げると思うなよ!!」


 構わずグレネードをぶっ放つが超巨大なシャコ貝はこれを防いだ。


 「ち!」


 コッキングレバーを引き、もう一発グレネードをぶっ放つが超巨大なシャコ貝を破壊する事はできなかった。

 それどころか超巨大なシャコ貝がグレネードをくらった衝撃によって少し開き、中からドロドロと異臭を放つ体液が滴り出す。


 そして、貝が開き、その体液がドバっと一気に甲板上に落下し、ベッチャと音を立てた。

 あまりの異臭に思わず鼻を摘まむが、ドリーが怯えながらその甲板にぶちまけられた体液を指さす。


 「あわわわわ! ま、まずいよカイトくん! あれは、まずい!」


 ドリーが指さす先、甲板上にぶちまけられた体液の上をバタバタと体を動かして暴れている生物がいた。

 あの超巨大なシャコ貝が吐き出したのだろうか?

 ぶちまけられた体液で全身で濡らしたその生物はすぐに起き上がる。


 それは巨大なハサミを持つ巨大なロブスターであった。

 巨大なロブスターは威嚇するようにハサミを広げて頭上に掲げ、そしてこちらへと突っ込んできた。


 「ひ!! レグギガスター!! あいつのハサミはマジでヤバイ!! どうしよう!?」


 よほどドリーはあの巨大なロブスターであるレグギガスターとやらが怖いのか半狂乱となった。

 とはいえ、超巨大なシャコ貝を盾とするクラーケンの触手に対処しながらレグギガスターとやらの相手はできない。

 巨大ロブスターの相手はドリーにしてもらうしかないだろう。


 「ドリー! あいつはドリーに任せた!! 俺はクラーケンの相手をする!」

 「な!? 何言ってるのカイトくん!? 無理無理無理!! あいつの相手はマジで無理!! 殺される!! というか水の精霊石が封じられてる状態のわたしじゃ勝てないよ!!」


 涙目で訴えるドリーを見て、どうすべきか考え、即決断する。


 「ドリー、銃は扱えるな?」

 「え? う、うん」

 「だったら武器をいくつか渡す! それであいつを倒すんだ!!」


 右手を突き出し叫ぶ。


 「召喚……こい! カールグスタフM4!」


 浮かび上がった魔法陣から無反動砲のカールグスタフM4が飛び出してくる。

 続けて魔法陣から武器を連続で召喚する。


 「召喚……こい! パンツァーファウスト3!! 召喚……こい! RPG-32!!」


 ドリーに短い時間で装填方法を教える事はできないし、一発で理解できるとも思えない。

 必要最低限の操作方法、発射する際に後方に注意を払うことを素早く告げてカールグスタフM4、パンツァーファウスト3、RPG-32を使い捨てで使えるようそれぞれ数本ずつ召喚して甲板上に置いた。


 「ドリー、こいつであいつを仕留めるんだ! その後余ったぶんでクラーケンへの攻撃だ!」

 「う、うん……わかった。やってみる」


 ドリーはゴクリと唾を呑み込んでカールグスタフM4を肩に担ぐ。

 それを見てドリーから少し離れ、クラーケンの触手によって盾にされている超巨大なシャコ貝を睨む。


 「スナイパーグレネードランチャーじゃ無理か……だったら!」


 LG5/QLU-11をパージし、アビリティーチェッカーの画面上に浮かび上がった銃のエンブレムをタッチする。

 新たにタッチしたのは地対空誘導弾モード、ロケットランチャースタイルだ。


 アビリティーユニットの周囲の空間に紫電が迸り、何もない空間に発射管やスコープが半透明に浮かび上がる。

 やがてそれは完全に物質化し、アビリティーユニットの元へとくっついていきロケットランチャー、SMAW Mk153と姿を変えた。


 SMAW Mk153を構え、スコープを覗き照準を超巨大なシャコ貝に定める。


 「こいつでどうだ!!」


 叫んで引き金を引く。

 ズドーンと鼓膜が破れそうなほどの爆音が轟き、衝撃波がSMAW Mk153の後方へと広がっていく。

 放たれたロケット弾は轟音と共に超巨大なシャコ貝に命中、大爆発を起しこれを粉砕した。


 「っしゃ!! 弾種をサーモバリック爆薬のSMAW-NEにして正解だったぜ!!」


 超巨大なシャコ貝という盾を失ったクラーケンの触手は慌てて海面下へ逃げようとするが、ここで触手を海面下に逃せばまたシャコ貝を持って戻ってくるかもしれない。

 続けてロケット弾を放つべきなのだろうがSMAW Mk153はシングルショットだ。

 そしてロケット弾の装填は、発射装置の後部に弾薬ケースと発射管を取り付けるだけとはいえ拳銃や小銃のように素早くできるわけではない。


 (装填までの時間を稼ぐには……これしかないか)


 今にも海面下に潜ろうとする触手にSMAW Mk153を向け引き金を引く。

 直後、SMAW Mk153に取り付けられたスポッティングライフルが火を噴いた。


 スポッティングライフルはランチャーに照準装置として付属している小口径のライフル銃だ。

 元来は曳光弾を射撃して相手の位置や火砲の弾道を予測して照準を合わせるためのものであるが、今は牽制に使う。


 スポッティングライフルの射撃をくらい、クラーケンの触手は一瞬動きを止める。

 さすがに9mm銃弾では触手の一部を粉砕する事もできないが足止めにはなったようだ。


 (今だ!)


 すばやく発射筒から空になった弾薬ケーシングを取り外し、新たな弾薬ケーシングを取り付ける。

 安全装置等を素早く解除し、そしてSMAW Mk153を構え触手に向かってロケット弾を放った。


 「くらいやがれクソッタレ!!」


 触手は粉々に粉砕し、ミンチとなった欠片が海面へと落ちていく。


 「ふぅ……さて、次だ! まだ他にも触手がいやがる」


 発射筒から空になった弾薬ケーシングを取り外し、新たな弾薬ケーシングを取り付ける。

 丁度その頃にはドリーがレグギガスターを仕留めていた。


 どうやら用意したカールグスタフM4すべてとパンツァーファウスト3を1本使っただけで、まだパンツァーファウスト3数本とRPG-32数本も残っているようだ。

 なのでSMAW Mk153を構えてドリーに声をかける。


 「ドリー、左舷側と船首側の触手を頼む! 俺は右舷側と船尾側の触手を片付ける!!」

 「わかったよカイトくん! 任せて!!」


 ドリーはこちらにウインクしてサムズアップして見せるとパンツァーファウスト3を手に取り、左舷側の海面から姿を見せる触手に銃口を向ける。

 それを見てこちらも右舷側から姿を見せている触手へと照準を定めた。


 自分とドリーの2人によるランチャー祭によってクラーケンの触手は次々と粉砕されていく。

 とはいえ、一向に終わりが見えずキリがなかった。


 触手の先を粉砕され、海面下へと消えていく触手だが、また新たな触手が海面から姿を現すのだ。

 クラーケンの触手は無限増殖でもするのだろうか?

 それとも海水に浸かれば即再生でもするのだろうか?

 いずれにしろ、このままではこちらが根気負けしてしまう。


 「カイトくん!! もう武器がないよ!?」


 最後のRPG-32を撃ち終えたドリーが訴えてくるが、こちらもSMAW Mk153に新たな弾薬ケーシングを取り付けてる最中だ。

 すぐに召喚を行える状態ではなかった。


 (くそ! 一旦11式狙撃グレネードランチャーに戻すか? しかしそれだとまたシャコ貝を盾に使われたら……)


 考えながらSMAW Mk153を触手にぶっ放し粉砕する。

 そして周囲を見回す。

 召喚した武器のストックが切れたドリーの方面は触手が2本、こちらは3本だ。


 数としては多くないが、それも現時点の話だ。

 なんとかしてこの5本を粉砕してもまた新しいのが海面から姿を現すだろう。

 まったくもってキリがない、そもそも姿を見せる触手を粉砕していったところでクラーケンにどれだけダメージを与えられているかはわからない。


 結局のところ、海面下に隠れている本体を叩かないことにはどうにもならないのだ。


 (でもどうやって海上に引きずり出す? いや……海上に姿を現したところでこの船、壊されて沈められないか?)


 あまり長く考えている時間はない。

 だが、考えなければノープランの無策のままだ。

 そんな状態では勝機が見えない長期戦の果てにこちらの体力が尽きてしまう。


 (いっその事、一か八か海の中に向かって混成能力をぶっ放つか? それか何か秘奥義を……)


 そんな事すればぶっ倒れて戦闘継続が不可能になる。

 クラーケンの後もフレデリカと海賊団ブラックサムズと戦いながら陸地を目指さないといけないのだ。

 自分が倒れた後、ドリー1人でそれができるとは思えない。


 何より今いる船を自ら沈める行為だ。

 最大火力の技はこの場においては使えない。


 (ダメだ……混成能力や秘奥義以外の手を考えないと……海の中に潜って戦うか? いや、そんな水中でクラーケンと互角に戦える能力は持ってない……そもそも俺あんまり速く泳げないし……それとも魔物の擬態能力でって……ダメだ。擬態できる水生生物がいない)


 と、そこまで考えて気付く。


 (ん? 待てよ? そもそも今クラーケンはこの船の船底に貼りついてるんだよな? ……だったら!)


 思わずニヤリとしてしまう。

 ひょっとしたら、案外あっさりとクラーケンを倒せるんじゃないか?


 「ドリー! 一旦甲板中央まで下がってくれ!!」

 「え? う、うん……わかった」


 ドリーは頷いて素早く甲板中央まで移動する。

 それを見てSMAW Mk153をパージし、海面から姿を見せる5本の触手に魔法を放っていく。


 右舷側の3本に火球を放ち、左舷側の2本に稲妻を放った。

 当然、これらの魔法では触手は粉砕できない。


 火球も触手に当たって爆発を起すがそれだけだ。

 稲妻も一瞬触手の動きを奪うが痺れた程度にしか感じていないだろう。


 だが、魔法をくらって5本の触手は一瞬怯んで動きを止めた。

 その隙を見逃さず、一気に船尾に向かって走る。


 (ここからは時間の勝負だ! 間に合ってくれ!!)


 船尾部分は舵が設置され、甲板より高くなっている。

 その手前まで来ると走るのをやめ、片膝をつき甲板に触れる。


 (クラーケンは船底に貼りついてやがる。このままクラーケンに攻撃すればこの船も沈んじまう……だからこそ船体強化だ!!)


 船体の材質を掌握し、簡易錬成でこれを硬化、船体の強度をあげる。


 (よし! これでちょっとの衝撃で沈むことはない!)


 船体の耐久強化を終えると、前を見据えて右手を突き出す。


 「召喚……こい! ヘッジホッグ!」


 突き出した右手の先に魔法陣が浮かび上がるが、それを船尾の甲板からは少し高くなっている舵の部分へと飛ばす。

 そして、舵を踏み潰す形で対潜迫撃砲のヘッジホッグが姿を現した。


 ヘッジホッグは第2次大戦時にイギリスで開発された一度に24個の爆雷を海中に投射する、ドイツのUボート相手に大きな戦果をあげた前投式の多弾散布投射装置だ。

 それを船尾に設置して、深呼吸し起動のレバーを引く。


 「いくぞバケモノ!! これでもくらいやがれ!! 投射!!」


 パパパパパパパン!!と耳をつんざく音を立てて、レバーを引く度にヘッジホッグから爆雷が次々と投射されていく。

 投射され、海面下へと潜っていった爆雷たちは船底にはりつき触手を伸ばすクラーケンに接触。

 驚き目を見張るクラーケンを巻き込んで海中で大爆発を次々と起した。


 耳をつんざくような爆発音と海面へと立ち上る衝撃波、海面上には水しぶきがあがり水柱がいくつも立ち上がった。

 船体も大きく揺れ、立ち上がった水柱が船上に海水の雨を降らせる。


 爆発の衝撃と船体の揺れが収まるのを待ってヘッジホッグの操作盤から離れ船尾から海面を覗き込む。


 「やったか!?」


 水柱が収まった海面にはクラーケンの残骸とおぼしき破片がいくつも浮かび上がっていた。

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