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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
12章:定例クエストをこなそう!

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海賊団ブラックサムズ(6)

 「カイトくん!!」


 ドリーが巨大なイルカのような形を模した水の塊が放った無数のウォータージェットをくらって甲板の端まで吹き飛ばされてしまった自分の元へと駆け寄ろうとするが。


 「裏切り者はそこで黙ってみてろ」


 フレデリカがそう言うと巨大なイルカのような形を模した水の塊がドリーの足下へとウォータージェットを放つ。


 「っ!!」


 ドリーはそれをバックステップでかわす。

 悔しそうな表情を浮かべるドリーになんとか声をかける。


 「ドリー、大丈夫だ……心配しなくていい」

 「カイトくん!! でも」

 「問題ない、大丈夫だ」


 そう言って簡易錬成で万能薬を復元して一気に飲み干し、空になった瓶をぽいっと横に投げ捨てた。


 (ふぅ……さすがに修復できるのはこれで最後か。次に何かくらったら回復手段がもうないぞ)


 思ってフレデリカの周囲を遊弋する巨大なイルカのような形を模した水の塊を見る。

 その動きはまるで生き物のようにも思えるが、恐らくはフレデリカがウォータージェットを放つために海水を汲み上げ塊にしたものだろう。


 つまりはウォータージェットを放ち続けたらあのイルカは萎んでいくはずだ。

 ならば無駄弾を撃たせまくって萎ませる以外の選択肢はないだろう。


 「まったく、不覚だ。イルカごときにやられるなんて……でも、次はそうはいかないぞ!」


 日本刀は落としてしまって手元にはない。

 なので懐からアビリティーユニットとアビリティーチェッカーを取り出し、聖剣の能力のエンブレムをタッチしてレーザーの刃を出す。


 聖剣の能力によってレーザーの出力があがったレーザーブレードを構えてフレデリカを睨む。

 フレデリカはそんな自分を見て鼻で笑った。


 「イルカって……これシャチなんだけど?」

 「いや、知らんがな」

 「イルカとシャチの見分けもつかないなんて……ギルドマスターってのは無知で務まるのね?」

 「ただの水の塊でそれを言われてもな」

 「ただの水の塊ね……じゃあそのただの水の塊に殺されな」


 そう言うとフレデリカは指をパチンと鳴らす。

 直後、巨大なイルカ(フレデリカ談シャチ)のような形を模した水の塊がこちらに向かって無数のウォータージェットを放ってくる。


 「生憎とイルカなのかシャチなのかよくわからないもんに殺される気はないんでな!」


 叫んでレーザーブレードを振るい、光のカッターを無数のウォータージェットに向かって放つ。

 光のカッターはウォータージェットのひとつを弾き飛ばすが、すべてを弾き飛ばす事はできない。

 なので続けてレーザーブレードを振るい、こちらも光のカッターを無数に飛ばす。


 光のカッターとウォータージェットは衝突し、その場で消えていく。


 (さてどうだ!?)


 シャチの形を模した水の塊を見ればその大きさが先程よりも縮んでいた。


 (思った通りだ! このままウォータージェットを撃たせまくれば!!)


 思ってレーザーブレードを真横につきだし水平に構える。

 するとレーザーの刃に渦のように光が纏わり付き、より一層輝きを増す。


 「これでもくらいやがれ!!」


 輝きが増したレーザーブレードを力強く振り上げる。

 するとレーザーの刃に纏わり付いていた光が上空へと打上げられ分裂し、そのまま流れ星のように周囲一帯へと無数の発光弾となって降り注ぐ。


 どこへ逃げようとも発光弾が降り注ぐ聖剣による広範囲攻撃だ。

 これを見たフレデリカは特に何かするでもなく。


 「そんなちゃっちい攻撃であたしを倒せると思ってるの?」


 ため息交じりにそう言うとシャチの形を模した水の塊から無数のウォータージェットが上空へ放たれ、降り注ぐ発光弾を迎撃していく。


 そして、無数のウォータージェットが一気に上空へと放たれたため、シャチの形を模した水の塊は急激に萎んでいく。

 それを見て勝機は今しかないと確信した。


 「よし!! 今だ!!」


 レーザーブレードを構え、フレデリカに向けて一気に駆け出す。


 「はぁぁぁぁぁ!!」


 レーザーの刃に今まで以上に眩しい光が渦を巻いて纏わり付き、レーザーブレードがより一層強く光り輝くシャイニングブレードとなる。

 そんな光の剣でもってフレデリカに斬りかかるが。


 「へぇ、確かにこれはちょっとは厄介かもね?」


 特に焦った素振りは見せず、フレデリカは右手を真横へと突き出し、小さく呟く。


 「おいで」


 すると海面から小さな水上竜巻が発生し、その中から金属製の物体がフレデリカに向かって飛んでいく。

 それをフレデリカは真横に突き出した右手でキャッチする。


 フレデリカがキャッチした金属製の物体は、外観はまるでス●ーウ●ーズに登場するラ●トセーバーの柄のようであった。

 それを手にしてフレデリカはニヤリと笑う。


 「お前の武器、刃のない柄から光の剣を出せるマジックアイテムみたいだけど、あたしも似たようなの持っててね?」


 そして金属製の柄をこちらに向かって突き出すと、フレデリカの周囲を遊弋していたシャチの形を模した水の塊が一気にその金属製の柄へと吸い寄せられ、水流の剣と化す。


 「何!?」

 「アクアセーバー、普通の剣とはひと味もふた味も切れ味が違うから覚悟しなよ!」


 フレデリカはそう言ってアクアセーバーを振るい、こちらのシャイニングブレードによる斬撃を受け止めた。


 「っち!」


 一旦フレデリカから距離を取り、再度斬りかかる。

 が、フレデリカのアクアセーバーは崩せなかった。

 相手が金属の剣であったならばシャイニングブレードの敵ではなかったが、アクアセーバーはシャイニングブレードと同出力の剣であった。


 しかも、アクアセーバーの特性は多岐にわたる。

 シャチの形を模した水の塊がアクアセーバーとなった事で、こちらが放った光弾の広範囲攻撃を迎撃するウォータージェットがなくなった。


 よって、自分と斬り合いを行うフレデリカの元に光弾の広範囲攻撃が迫るが、フレデリカは自分を押し返して一瞬距離を取るとアクアセーバーを上空へと振るう。

 すると、上空に向かってウォータージェットカッターが発射され、光弾がすべて迎撃されてしまった。


 「何!?」

 「まだまだこんなものじゃないよ」


 次にフレデリカはアクアセーバーを前へと突き出す。

 すると水流の剣が伸びて、水のムチと化す。

 フレデリカはこれを振るい、攻撃してくる。


 「ち!」


 水のムチの攻撃をかわしながら、こちらもシャイニングブレードの出力を最大限にあげ、光の刃をしならせて光のムチを生み出す。


 「それならこっちも負けてないぞ!!」

 「へぇ、だったら試してみるか?」


 光のムチと水のムチの叩き合いが始まるが、水のムチは甲板に叩きつけられるたびに水滴が弾けて、それが水の泡の弾丸となってこちらに襲いかかってくる。

 ムチと弾丸、ふたつを警戒しないといけない状態となった。


 「っち! まったく厄介だな!」


 なんとか光のムチを振るって水のムチと水の弾丸を弾き返すが、そのたびに水が弾けて更なる攻撃となって返ってくる。


 (くそ! これは元を絶たないとそもそもダメか)


 そう考え、フレデリカが手にしているアクアセーバーを生み出す金属製の柄に狙いを定める。

 力強く光のムチを振るい、水のムチを弾き返した直後、光のムチをシャイニングブレードへと戻し一気にフレデリカの元へと駆ける。


 水の泡の弾丸が襲いかかってくるがオートシールドモードもあるため気にせず、一気に距離を詰める。

 とはいえ、オートシールドモードは水の泡の弾丸にあっさり破られてしまうが、傷は負ってもかすり傷程度で致命傷じゃない。

 だからこそ、躊躇わずに前に踏みだしフレデリカの手元目がけて突きを放つ。


 「はぁぁぁぁ!!」


 しかし……


 「アクアセーバーを生み出してるこれを壊そうって? そんなにうまく行くわけないでしょ?」


 フレデリカがニヤリと笑うと、今まで高出力の水流の剣を生み出していたその水が、一瞬にして剣の形をなくし、ただの海水へと戻った。


 「は?」


 するとどうなるか?

 目の前には解き放たれた大質量の水の壁が現れる。


 「うそだろ!?」


 まるで荒波の中を突き進む船の甲板上に叩きつけられる波のごとく、水の壁が遅いかかってきた。


 「クソッタレ!!」


 慌てて魔術障壁を展開して、この波を防ぐ。

 あとほんの少し発動が遅かったら波に呑まれてそのまま流されていただろう。

 こんな狭い甲板上で津波など勘弁願いたいものだ。


 しかし、その攻撃ですべての水を使い切ったのか、フレデリカが持つ金属製の柄からは水流の剣は出ていなかった。


 「へぇ、中々耐えるじゃない。ならもう少し威力を増したほうがいいかな?」


 フレデリカがそう言うと、再び海面からシャチの形を模した水の塊が飛び出してくる。

 しかも今度は前よりも大きさが増していた。


 「さて、今度はどうかな?」


 そう言ってフレデリカはシャチの形を模した水の塊を金属製の柄に吸い寄せ、さきほどよりも大きく水流の増したアクアセーバーを生み出す。


 「マジかよ……これはちょっと切り口を変えないとダメか?」


 フレデリカが新たに生み出したアクアセーバーを見て冷や汗が頬を伝う。

 シャイニングブレードであれとやり合うのは得策ではないだろう……ではどうすべきか?


 (やれるかどうかわからないが……試してみるか)


 ゴクンと唾を飲み込んで、フレデリカを見据える。

 成功するかはわからないが、今はこれしかないだろう。


 シャイニングブレードを消して深呼吸する。

 そしてアビリティーユニットにアビリティーチェッカーを装着して支援サポートのエンブレムをタッチする。


 「頼むから成功してくれよ!! エンチャント!!」


 左手でアビリティーユニットを持って、右手をアビリティーユニットにかざす。


 アイテムを強化したり、アイテムに能力を一時的に付与する支援サポートの能力であるエンチャント。

 この補助の力がアビリティーユニットにも効果が発揮されるかは不明だ。

 次元の狭間の空間のトレーニングルームでもこれは試した事がない。

 だから無意味に終わる可能性がある……それでも。


 (やらないよりはましだ)


 今エンチャントでアビリティーユニットに付与したのは魔法の威力を高める効果。

 発動するかどうかはわからない。

 わからないが、今はこれに賭けてみるしかない。


 深呼吸し、そしてアビリティーユニットを強く握る。

 そして……


 「こいよフレデリカ!! その水の剣を消し去ってやる!!」


 フレデリカを睨み付けて言い放った。


 「へぇ、一体何をするつもりか知らないけど。やれるものならやってみなさいな」


 フレデリカは口元を歪めてアクアセーバーをこちらに振り下ろしてくる。

 それを見てこちらも魔法を発動した。


 「あぁ、やってやるさ!! 燃やしきれ!! フレイムブレード!!」


 アビリティーユニットから火炎の刃が出現する。

 その赤く眩しい炎の剣を見てフレデリカが鼻で笑う。


 「は! 何をするかと思えば炎の剣だって? 水の剣相手に気でも狂ったか?」


 そう言ってアクアセーバーを振り下ろしてくるフレデリカを見てニヤリと笑う。


 「そいつはどうかな?」


 フレイムブレードをアクアセーバー目がけて力強く振るう。

 すると、フレイムブレードが出力を増し、火炎の刃の色が赤い炎から青い炎に変わったのだ。


 「!?」


 その事にフレデリカは驚き、そして……


 青い炎のフレイムブレードがアクアセーバーと衝突して小規模の爆発を起した。


 「っち!」


 フレデリカは舌打ちして甲板を蹴って後方に下がり距離を取る。

 そして手にしている金属製の柄を見た。


 さきほどの爆発によってアクアセーバーは消え、金属製の柄にも若干の亀裂が生じている。

 とはいえ修理が可能なレベルの損傷でしかないが、戦闘中にそのような悠長な事をしている暇はない。

 実質、アクアセーバーは封じたも同じだ。


 フレデリカは不機嫌そうに金属製の柄を海へと放り捨てた。


 「お前、パクリやがったな?」


 そう言って睨んでくるフレデリカに青い炎のフレイムブレードを向ける。


 「あぁ、あんたが仕掛けてきた水蒸気爆発……あれには遠く及ばないが似た事をさせてもらったぞ」


 蒸気爆発、それは急激な蒸発現象を伴う爆発だ。

 水蒸気爆発とは一部違ったプロセスである事から、水蒸気爆発とは分けて考える場合もあるが、蒸気爆発も水蒸気爆発も大抵は同じ括りにされている。


 この蒸気爆発、発生条件はいくつかあるのだが……これを参考に攻撃をしかけた。

 厳密には蒸気爆発もどきだが成功したようだ。

 アクアセーバーを構成していた海水は蒸発し、それを生み出すアイテムも破壊した。

 後は次の一手を打たれる前にフレデリカを倒すのみだ。


 「さて、ケリをつけさせてもらうぞ!!」


 フレイムブレードを構え、一気に斬りかかろうとするが。


 「アクアセーバーを攻略したくらいでいい気になられてもな?」


 そう言ってフレデリカは再びシャチの形を模した水の塊を出現させる。

 しかも今度は複数だ。


 なるほど海上では無敵というのは間違いではないらしい。

 何せ海水という尽きることのない補給物資が常にあるのだから……


 「まったく面倒な事この上ないな!!」


 フレイムブレードを振るって蒸気爆発もどきを起こし、シャチの形を模した水の塊を消していくがキリがない。

 正直、ほぼ永久に海面から補給できる以上、海上での持久戦では勝てる気がしない。ならば……


 「戦略を変えるか!! 召喚……こい! メガサイモイデウス!!」


 右手を突き出し叫ぶ。

 右手の前に浮かび上がった魔法陣から巨大な虫がいくつも飛び出し、それらはシャチの形を模した水の塊へと一斉に飛びかかっていく。

 そして、飛び出してきた虫たちはシャチの形を模した水の塊の表面にくっつき、次々と消し去っていった。


 「な!? なんだと!?」


 その光景にフレデリカははじめて驚愕の表情を浮かべた。


 「お前、一体何をした!? あの虫はなんだ!?」


 驚くフレデリカを見て思わず口元が歪んだ。


 「あの虫はなんだって……まさか海賊のくせに知らないのか?」

 「何?」

 「あれはウオノエだよ」

 「……は?」


 フレデリカはその答えに目を丸くした。


 ウオノエ、それは魚の体に寄生する甲殻類の寄生虫である。

 釣りをする人にはなじみが深いかも知れないし、スーパーで売られている鮮魚であってもごく希にウオノエがくっついた状態のものを拝める場合がある。


 ウオノエは主に魚の口内やエラ、体表面にへばりついて体液を吸うのだが、特に口内に寄生するタイプのウオノエは魚の舌にくっつき、その血を吸って舌を壊死させる。

 そして舌があった場所に居座り生活するのだ。

 だからスーパーの鮮魚コーナーでウオノエを拝見できるとすれば、それは魚の口を開けた時だろう。

 そして、このウオノエ、何でも食べたらうまいとか何とか……


 ちなみにダイオウグソクムシもこのウオノエの仲間である。


 そんな寄生虫の名前をだされてフレデリカは一瞬思考が止まった。

 が、すぐに我に返る。


 「いやいやいや! あんなデカいウオノエいねーし! それに魚じゃなくて海水の塊にくっついてるし!」

 「そりゃ召喚獣だしな? 魚っぽい魔法でできたものならくいつくんじゃないか?」

 「いやいやいや! シャチは魚じゃねーし!!」


 フレデリカがツッコんでる間にシャチの形を模した水の塊はすべてメガサイモイデウスによって消し去られた。

 それを見てフレデリカは舌打ちするが。


 「なるほど……召喚獣ね。だったらこっちもお返ししなくちゃな?」


 そう言ってフレデリカは右手を海面に向ける。

 すると海面から小さな鍵のようなものが飛んできた。


 フレデリカはそれをキャッチして口元を歪めた。


 「なぁ? クラーケンは好きか?」


 直後、船体が大きく揺れて海面が迫り上がる。


 「な、なんだ!?」


 そして、それは姿を現した。

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