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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
4章:これはただ君を救うためだけの物語

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これはただ君を救うためだけの物語(1)

 階段を駆け上がる、ただひたすらに頂上を目指して。

 ただフミコを助けるためだけに遺跡の階段を駆け上る。

 しかし、どうぞ進んでくださいとそのまま通してくれるほど甘くはない。


 階段の脇から上層から次元の迷い子が現われ襲いかかってくる。

 時に土偶、時の埴輪のそれらを銃撃で退けていく。


 「邪魔だどけぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


 フルオート射撃だけでは対処しきれない時は斬撃で斬り落としていく。もちろんレーザーブレードではない。

 いちいちステアーAUGの外装をパージしてレーザーの刃を出して、またステアーAUGに戻して繰り返していては時間が掛かる。

 そこでステアーAUGの銃口の下にナイフを取り付けていた。いわゆる銃剣である。

 取り付けたのはM9銃剣。

 本来は米軍のM16小銃専用のものであるが、オーストラリア軍が銃剣の装着が可能なステアーAUGのモデル、Enhanced F88を自国ライセンス生産し専属の銃剣として採用してることからこれを取り付けている。


 銃剣で刺し、弾丸を撃ちつけながら頂上を目指す。


 「まもなく頂上じゃの?」

 「言われなくてもわかってら!!」


 隣を併走して飛んでいるカグは器用にこちらが銃を撃つとひらりと身をかわして戦闘の邪魔にならないように飛んでいた。

 今まで戦闘中はどこかへ飛び去っていたのにどうしたのだろうか?

 疑問に思ったが今はどうでもいい、とにかく頂上を目指すんだ。


 次々と押し寄せてくる埴輪の群れに銃撃を浴びせ駆け上がる。


 「道を開けやがれこの埴輪ども!!!!」


 弾丸をぶちかまし、倒れなかった一際大きい馬形の埴輪を銃剣でなぎ倒す。

 そしてついに階段を登りきり広い開けた場所へと出た。

 頂上へとたどり着いたのだ。


 「フミコ!!」


 叫ぶがフミコの姿は見当たらない。

 今いるのは前方後円墳で言うところの方形部にあたる。

 そして少し先に後円部とも言うべき円形の部分へと続く緩やかな坂道があった。


 「この先か!」


 その坂道の先には柵のようなものが見える。

 まずはそこを目指すしかない、一息つくこともなく坂道へと駆け出す。

 しかしまるで壁のように几帳面に頂上の端に隙間なくずらっと並べられた騎馬型埴輪が一斉に動き出し迎撃態勢を取る。

 それらに向かって走りながら銃撃を放っていく。


 「邪魔だどけぇぇぇぇぇ!!!!!」


 埴輪どもを蹴散らし円形部分へと到達する。

 広い空間である円形部分の頂上は木の柵でぐるっと頂上全体が囲まれていた。

 とはいえ一々入り口を律儀に探す必要もあるまい、走ってきた勢いそのままに木の柵へと跳び蹴りを放つ。

 そこまで強固に作られていないのか、木の柵はあっけなく一部が崩れた。そのまま受け身を取って柵の内側へと侵入する。


 「フミコ!! いるか!?」


 叫んで周囲を確認する。

 円形部分の頂上の中心には大きな円筒埴輪が中心を取り囲むように並べてあり、その囲まれた中には高床式の神社のような建物があった。

 そしてその建物の前にフミコが項垂れて突っ立っていた。


 「フミコ!!」


 すぐにフミコの元へと駆けつけようとした時だった。

 高床式の神社のような建物の中から赤い雷光が轟き、赤い雷光の大蛇が出てきたのだ。


 「こいつはさっきの!!」


 ステアーAUGを構えて銃口を赤い雷光の大蛇へと向けるが蛇は構わずその巨体を高床式の神社のような建物からさらけ出す。

 どう考えても建物の中に収まっていたとは思えない大きさの体をすべて出すと大きく口を開いて牙でこちらを威嚇する。


 「あの化け物を倒せばフミコは助かるのか?」


 大蛇を睨み銃を構えながらカグに聞く。

 しかしカグから聞こえてくる返答は緊張感のないものだ。


 「んなわけなかろう? それじゃただの次元の迷い子を倒すのと変わらんぞい?」

 「じゃあどうしろってんだ!?」


 思わず怒鳴るがカグは面白おかしく笑うだけだ。


 「そう焦るな。すぐに始まるわい」

 「始まる? 何だが?」

 「融合じゃ」


 カグがそう言うと赤い雷光の大蛇がフミコを丸呑みした。


 「な!? ウソだろ!? フミコォォォォォォォォォ!!!!!!」


 思わず大蛇に乱射しそうになるがカグに制される。


 「やめんか!! よく見ておれ!!」


 怒りでどうにかなりそうになるのを堪えてフミコを丸呑みした大蛇をじっと睨み付ける。

 するとその体に変化が生じる。

 大蛇の胴体が無数に裂け、いくつもの頭を持った姿となったのだ。

 まるでヤマタノオロチのようなその姿を見てカグがようやく制するのを止める。


 「なんだあれは!?」

 「あれがフミコの本来の次元の迷い子としての姿じゃ」

 「あれが!?」

 「とはいえフミコ以外にも複数混ざっておるがの」

 「複数だって!?」


 だからヤマタノオロチのように首が複数あるのだろうか?

 しかし、となるとどの首がフミコなのかまるでわからない。


 「一体どうすればいいんだ? どうすればフミコを助けられる?」


 この胡散臭い神を自称するカラスに乞うのは癪だが方法はカグにしかわからない。

 するとカグは気味の悪い笑みを浮かべる。


 「簡単じゃ、まずは奴を弱らせる。そして抵抗できなくなったところで奴とシンクロするのじゃ」

 「……は? シンクロだって?」

 「さよう、奴の中に潜ってフミコの精神を拾い上げる。そうすることでフミコと奴を分離できる」

 「奴の中に潜るってどうやるんだよ?」


 そんなこと言われても困惑してしまうがカグがアビリティーチェッカーを見ろというのでアビリティーチェッカーに目を落とす。

 すると新しいエンブレムが追加されていた。


 「これは?」

 「特別に能力を追加しておいたわい。ただし今回限りの1回使い切りの能力じゃ。精神潜航(メンタルダイヴ)、これで奴の中に潜ることができる」

 「まじかよ」

 「ただし、これを発動するには奴を相当に弱らせる必要がある。そのさじ加減は難しいぞ? 何せやり過ぎると倒してしまうし、中途半端じゃとメンタルダイヴはできんからの?」


 そう言って楽しそうに笑うカグに思わず舌打ちしてしまった。

 なんて面倒くさい……確かにこれは次元の迷い子として倒してしまったほうがはるかに楽だろう……

 しかしそれではフミコは救えない。助けると決めたんだ。困難だろうとやってやる!


 「上等だ!! 殺さない程度にいたぶればいいだけの話だろ!! そんな温くていいのかよ!?」


 言ってステアーAUGを構えるがカグはからかうように笑ってどこかへと待避していく。


 「ほっほ、そうならよいの?」

 「あぁ!? 何が言いたい!?」


 そう言った直後だった。

 目にもとまらぬ速さで大蛇の無数の首の一本が襲いかかってきた。


 「!?」


 思わず引き金を引いて射撃するが効果はなくそのまま頭突きを食らってしまった。


 「がはぁ!?」


 吐血してそのまま後方に大きくはじき飛ばされる。

 木の柵に当たってようやく止まったが柵が倒れてその下敷きとなる。


 「ぐ……ゲホ、ゲホ」


 なんとか倒れた木の柵をどけて立ち上がるがあまりの痛みに一瞬思考が停止する。

 直後、真下の地面が突如盛り上がり大蛇が地面を突き破って出てきた。


 「!?」


 そして、そのまま大きく上空に弾き飛ばされてしまう。


 「まずっ!!」


 なんとか体をひねって真下から追いかけてくる大蛇の顎をギリギリかわす。

 だが、その無理な動きのせいで地面に落ちたときに受け身を取り損なってしまった。

 あまりの激痛にのたうち回るがそれを見逃すほど大蛇は優しくはない。

 トドメと言わんばかりに無数の頭が一斉に牙をむいて迫ってくる。


 「ぐ……クソッタレ!!」


 なんとか上体を起こし銃を構える。そしてとにかく撃ちまくった。

 すると無数の頭のうち、ひとつが怯む。そこを逃さなかった。


 「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 激痛をなんとか我慢して起き上がり銃剣を突き出して前へと走る。そして怯んだ大蛇の頭に銃剣を突き刺した。


 「おらぁぁぁぁぁ!!」


 大蛇は悲痛な雄叫びを上げる。そのまま銃剣を大蛇の頭に深く食い込ませ銃口から外す。

 銃剣を刺した頭は叫びながら大きく暴れ回る。その動きは周囲の大蛇の頭も巻き込んで大蛇は混乱状態に陥った。

 その間にステアーAUGの外装をパージしてレーザーの刃を出す。


 「これでどうだ!!!!」


 レーザーブレードを大きく振るい大蛇の無数の頭を数本斬り落とした。

 とはいえ、まだまだ不十分だ。

 なのでアビリティーチェッカーを取り付け聖剣の能力を選択、レーザーの刃の出力を増してダメ押しの斬撃を行う。

 

 「はぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 自分には剣術の心得はない。だからこの剣術はきっとプロが見たらなんと品のない無駄の多い動作だと笑われるだろう。

 だが、今はそんなこと気にしてる場合ではない。

 とにかく追い詰められればそれでいい。所詮自分にはスマートに勝つなんて技術はないのだから。

 だから不細工でも無我夢中でレーザーブレードを振るう。


 「おらぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


 どんなに形になってなくたっていい。今この大蛇を弱体化させられればそれでいいのだ。

 そんな無茶苦茶な斬撃でも効果はあったようだ。大蛇がたまらず全速力で後退しだす。


 「逃がすかぁぁぁぁ!!!!!」


 全速力で追いかけるが速さがまるで違う。このまま走って追いかけてもダメだ。

 そう判断し、レーザーの刃をしまいアビリティチェッカーを装填してライフル銃のエンブレムを選択する。

 アサルトライフルはダメだ。ステアーAUGでは効果が薄かった。ならば……


 「バトルスペシャル・スカーヘヴィーモード!!」


 SCAR-Hを構え、撃ちつける。

 大蛇はたまらず叫び声をあげる。が、そこまでのダメージはないように見える。


 「ならばこれはどうだ!! アンチマテリアルスペシャル・ゲパードGM6 Lynx .50 BMGモード!!!」


 SCAR-HをパージしゲパードGM6 Lynx .50 BMGへと変更し構えなおす。


 「うおらぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 そして強力な14.5mm弾を連続で撃ち放っていく。

 これには大蛇もたまらず無数の頭をぶち抜かれひっくり返ってしまった。

 しかし、これで相当弱ったとは思えない。

 もう一発ダメ押しが必要だ。

 ゲパードGM6 Lynx .50 BMGの外装をパージし、その手にアタッシュケースを出現させアビリティーユニットを取り付ける。

 91式携帯地対空誘導弾SAM-2B、通称ハンドアローにその姿を変えハンドアローを担いで大蛇へとミサイルを放つ。


 ミサイルを食らい大蛇は悲痛な雄たけびを上げその場に倒れこんだ。

 それを見てようやく緊張の糸が解ける。


 「はぁ……はぁ……やったか!?」


 ハンドアローの外装をパージし、その場に座り込もうとした時だった。

 今までどこに退避していたのか、カグが猛烈な勢いで上空から降下してきて頭突きをかましてきた。


 「ぐほぉぉぉ!? 何すんじゃ!!」

 「バカもん!! 何のんびりしとるんじゃ!! あの大蛇は次元の迷い子じゃぞ? 少し時間が経てばすぐ復活しよるわい!!」

 「……っ!! まじかよ!?」


 思わず倒れた大蛇のほうを見て身構えるが、まだ大蛇はダウンしているようだ。


 「わかったらはやくメンタルダイヴせんかい!」

 「痛っ! 突っつくな! わかったから突くなコラ!!」


 珍しく急かすカグに困惑しながらも倒れた大蛇の前まで行ってアビリティーユニットにアビリティーチェッカーを取り付ける。

 そして今回限りという精神潜航(メンタルダイヴ)のエンブレムを選択する。

 すると()()()()()()


 「な、なんだ!?」


 平衡感覚を保てなくなり、思わず転びそうになる。

 なんとか踏ん張るが今自分がどういう状況なのか、本当に立っているのかすらわからなくなった。

 そして耳鳴りが酷くなる。


 「今貴様の体から精神が抜け出ようとしとるのじゃ。はやくその蛇の体に触れよ! でないと精神が肉体を離れ戻れなくなるぞ!」


 カグが何か言っているが、しかしうまく聞き取れない。

 とにかく転けないようにと目の前の大蛇の体に手をつける。

 すると


 「!?」


 そのままストンと心が大蛇の中へと落ちていく感覚がした。


 「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 そしてどこまでも奈落へと落ちていく。


 ここから先は精神世界。フミコと次元の迷い子たちが魂を共有する深層心理の地である。

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