3.5章:神々の会合.Ⅰ
そこはどこか薄暗い空間だった。
広さは相当なものだが多くの支柱が乱立しているため実際のところは狭く感じる。
天井は高く空間の広さも相まってどこか埼玉県春日部市の地下神殿の異名を持つ首都圏外郭放水路を連想してしまう。
そんな空間にポツンと何の変哲もない丸いテーブルが置かれていた。
そして椅子が3つ並べられている。
その3つの椅子の内、2つにはすでに腰を下ろしている人物がいた。
1人は漢服に仮面をつけており、来ている漢服はどこか中国の宋朝時代の皇帝を思わせる。
とはいえ、その人物は男ではなく女。
中国道教では女仙として知られる中国神話の女神、九天玄女だ。
その名を白亜という。
もう1人は上下白のイスラム教というよりはゾロアスター教に近い衣服を身に纏っている男であった。
ゾロアスター教では最高神アフラ・マズダーに従う七柱の善神である不滅の聖性アムシャ・スプンタの一柱、ゾロアスター教よりさらに古いペルシャの神スプンタ・マンユとして知られる。
その名をスプルという。
2人は椅子に腰掛けながらも視線を合わすことなく無言でいたが、やがて奥のほうから足音が響いてくる。
「ほっほっほ。どうやら待たせてしまったようじゃの?」
そう言って姿を現したのは異世界渡航者、川畑界斗からは自称神と呼ばれまったく信用されていないカグであった。
姿はいつも次元の狭間の空間にいる時のカラスの姿ではなく、地球で川畑界斗にアビリティーユニットを渡したときの老人の姿であった。
「来るのが遅いですよカグ?」
「ほっほっほ。すまないのう」
言ってカグも椅子に座る。3人がテーブルでそれぞれ向かい合う形で席に着いたところで遅れてきたカグが話を切り出した。
「さて、それでは会合を始めようかの?」
カグの言葉にスプルはニッコリと笑い白亜は腕組みをして無言で頷いた。
「それで? 今回は一体何を話し合うんです? データによればアビリティーユニットに今のところ問題はないはずですがね?」
そう言ったのはスプルだ
ゾロアスター教の創世神話において万物を創造したとされるスプンタ・マンユである。アビリティーユニットの開発はそんなことから彼が行ったのだ。
設計・開発に携わった後も次元の狭間の空間にあるメンテ施設からの情報を受信して継続的に開発を行っている彼は、しかし今回はそこまで会合を行うような緊急的なことはないと思っていた。
同じく白亜も仮面で表情は窺えないが明らかに態度に苛立ちが目立つ。
「そうだ。一体何の話をするつもりだ? こちらもそこまで暇じゃないんだがな?」
白亜の言葉にカグはしかし売り言葉に買い言葉で返す
「ほっほ。新たな希望が芽吹いた今、白亜が忙しい理由がわからんの?」
「あぁ?」
「それとも、まだ次世代の代替え案を探しておるのかの?」
「ふん、サブプランは多い方がいい」
そう言った白亜に続いてスプルもこんなことを言い出す。
「ネクストプロジェクトは別途にもある事忘れたかい爺さん?」
「ほっほ。忘れとらんわい。GX-A03の適合者のデータは役に立っとるかの?」
「大いに。とはいえ、まだまだデータは少ない」
「そればかりはまだ始まったばかりじゃからの?」
言ってカグはゴホンと咳払いしてから本題を切り出す。
「話とは他でもない。GX-A03の適合者に仲間を与えるべきだと思うのじゃ」
カグの提案に白亜とスプルが顔を見合わす。
「それは本気か?」
「もちろんじゃ」
「まさかとは思うけどGチューバーの動画の件とか絡んでないよな?」
「お前の担当、なんちゅう環境やねん! って批判はあったが関係ないぞい?」
カグの反応に益々白亜とスプルは困惑する。
「なら別段このままでいいだろう? そもそも異世界から能力以外持ち出せないんだ。仲間を作るって行為はGX-A03の適合者には不可能なんだ。それをなぜ今更」
「あぁ、それに孤独のほうが入らぬ知恵や影響を他者から受けずこちらにとって都合が良いはずだが?」
白亜とスプルのもっともな意見にしかし、カグは首を横に振る。
「確かに普通に考えればそうじゃの? じゃが、あやつはそのうち1人じゃと頭打ちになる……成長の限界が見えてきた」
「ほう? なぜそう思う?」
「毎日見てるからわかるわい。巡る異世界の数だけ成長するだろうが、そこまで数を訪問しないうちにやつの成長は止まる、今のままじゃとな。それを阻止するには外部からの刺激が必要じゃ」
言うカグの言葉に白亜はふむと考え込む。
「確かに一理あるな。個人で成長するには限界がある。その限界が高いレベルならいいが、案外低いと後がどうにもならん」
「ではどうする? 訪れる異世界で仲間を作れない以上、GX-A03の適合者の仲間は同じアビリティーユニット適合者でないと無理だぞ?」
そこまで言ってスプルは手元の携帯端末に目を落とす。
小さな液晶画面がついたガジェットで複数のボタンと小さなボールのようなボタンか何かがついたそれの液晶画面にはアビリティーユニットGX-A03に似てるがどこか違う何かの設計図らしきものが映し出されていた。
しかし、カグはそんなスプルの思惑を真っ向から否定した。
「いやいや、まだその段階には早いわい。まるふたの時のこと忘れたわけではあるまい?」
「………ではどうする?」
スプルの問いにカグは口元を歪ませて答えた。
「そんなもの、次元の狭間にいくらでも漂ってるじゃろ?」
その回答に白亜もスプルも思わず苦笑する。
「お前ってやつはほんとサイテーだな?」
「よりにもよってそこからだと?」
「では他に選択肢はあるかの?」
カグに言われて白亜もスプルも返す言葉がなかった。
確かに現状ではそれしか方法はないが……
「大丈夫なのか?」
「何がじゃ?」
「次元の狭間から拾うってことは次元の迷い子になるかならないかの不安定な状況から確固とした存在を確定させなければならない。できるのか? GX-A03の適合者に?」
白亜の問いにカグはどこか楽しそうに答えた。
「してもらわなければ困る。というよりできなければ今後のさらなる成長は見込めんよの?」
カグの言葉を聞いて白亜はそれ以上は何も言わなかった。
「それに仲間は与えておかなければ………奴にも仲間がいるのじゃからな?」
その言葉にスプルは忌々しそうな顔になった。
「奴の仲間ね……ハーフの野郎の情報か」
「何にせよ仲間を与えると決まった以上は候補を選定しないとな……で? どうやって次元の狭間に漂ってる連中と引き合わせるんだ?」
「それについでじゃがの………」
カグの提案にスプルも白亜も呆れた。
「おいおい、それはいくらなんでもバレるだろ?」
「かもの? 特にGX-A03の適合者はこちらを信用しとらんからの?」
楽しそうに笑いながら言うカグに白亜もスプルも呆れた。
「お前それダメなやつだろ?」
「はぁ、これは仲間候補は複数配置しといて、誰を選ぶか、どう転ぶかは本人の意思に任せるってのがいいだろうな?」
そう言って3人は詳細を詰めだした。
異世界渡航者、川畑界斗がまだ3つめの異世界で異世界転移者の居酒屋店主とゴタゴタしていた時の出来事である。




