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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
12章:定例クエストをこなそう!

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ラスノーフ監獄脱獄大作戦(1)

 ドルクジルヴァニアの中でも街のはずれに存在し、見る者を威圧感を持って圧倒する建物があった。

 それがラスノーフ監獄である。


 ドルクジルヴァニアという街が人口増加により拡大していった事で、近年では誰も気にしなくなったが、そのラスノーフ監獄は小高い丘の上に建っており、かつては非常時には要塞としても機能した。


 そんなラスノーフ監獄の城壁の幅は5メートルと重厚なもので、高さも20メートルもあり、尚且つそれが3重になっている。

 監獄を取り囲む、それら3重の城壁はそれぞれ中に進む度に道は狭くなり迷路となっていく。


 侵入した敵が容易に要塞にたどり着けず素早く攻め込めないようになっているのだ。

 また監獄としては脱獄した囚人が容易に外へと抜け出せなくなっている。


 そんな3重の城壁にはそれぞれ非常時には敵を、監獄として使用している平時には脱走者がいないか監視する回廊が隠されており、回廊の窓からは誰もが恐れる武器が顔を覗かせているという。


 それが「死のオルガン」と呼ばれる兵器である。

 これは簡単に言ってしまえば、回廊の窓に特徴的な木の板を嵌めて、その上に複数の大砲を並べ連続発射するという代物だ。


 この異世界の産業レベルでは連射できる銃など生産できない。

 銃身内にライフリングすらまだできていないレベルだ。

 だからこそ、まだまだこの異世界では銃という武器は戦場では重宝されていない。


 とはいえ、大砲となれば話は別である。

 どの時代においても強力な火力を持つ大砲は心強い戦場の女神だ。


 そして発射してから、次の砲弾を詰め込む作業に手間取り時間が生じたとしても、大砲が潰されない限り、砲弾が底を尽きない限り、次弾の発射を信じて兵隊は前へと進むのだ。


 そんな単発で強大な威力を放つ大砲が大量に並べられて、連続して撃ってきたらどう思うだろうか?

 一つの窓から大砲が連続して撃ってくる。

 それを運良く回避できたとして、別の窓からまた大砲が連続して撃ってくる……まさに恐怖だ。


 そして窓に大量の大砲を並べられるその木の板と、そこに並べられた大砲という外観がパイプオルガンにそっくりであり、いつしか「死のオルガン」と呼ばれるようになったのだとか……


 そんな攻めるにも、脱走するにも面倒なラスノーフ監獄の上空を光学迷彩で姿を隠したドローンが飛行していた。

 ドローンは監獄の上空をじっくりと飛行し、監獄の全体像を録画していく。


 「リエルどうだ? 大体は撮影できたか?」


 ラスノーフ監獄のすぐ近くの建物の影に隠れ、スマホでリエルと通話する。


 『バッチリやで!! 建物の配置やら何やら完璧や! でもあくまで上空からの外観だけやで?』

 「わかってる。内部がどうなってるかはこれから調査するよ」


 そう言って通話を切った。


 「ふぅ……さて、そんじゃ行くか!」


 そう言って服装を正し、建物の影から路地へと出た。

 路地の先にはラスノーフ監獄の正面、城壁と入り口の門が聳えている。


 そこへと自分は何食わぬ顔で歩いて行く。

 門の前には警備員が数名おり、彼らに止められたが用件を告げると門を開け、中へと入れてくれた。


 3重の城壁に囲まれた細長い道を警備員と一緒に歩いて行く。

 どうでもいい世間話をしながら監獄へと進むが、そんな中でも密かに小型のレーダースコープを要所要所に設置していく。


 これは監獄内の3Dデータマップを作るためだ。

 さらには小型の監視カメラ搭載のドローンもばらまいておく。


 こうして、監獄へと案内する警備員に気付かれることなく監獄内のデータマップ作りの下準備は整った。

 後は上空からの撮影映像と照らし合わせればそれなりの詳細な地図が作れるはずだ。

 「死のオルガン」の配置図などもついでにわかれば万々歳だが、小型のレーダースコープにそこまでは期待できないだろう。


 そうこうしているうちに監獄の前までやってきた。


 「こちらです」


 警備員はそう言って監獄の入り口の扉をあけた。

 ギィィィィという、いかにも重そうな音を出し、金属の扉が開いていく。


 扉が開くと警備員に中に入るよう促された。


 「どうも」


 会釈して中へと入る。

 予想はしていたが、さすがは監獄、中の空気は重苦しかった。


 中に入ると恐らくは看守のひとりでだろう案内係が自分の元へとやってきた。

 そんな案内係に用件を伝え、目的の場所へと案内してもらう。


 案内係の後に続いて建物の中を進む中、ここでも小型のレーダースコープを要所要所に設置していく。

 当然、小型の監視カメラ搭載のドローンをばらまく事も忘れない。


 そうこうしているうちに収容棟へと辿り着いた。

 とはいえ、その収容棟には囚人と言っても、いわゆるプリズン・ギャングのような集団は存在しない、比較的治安のいい収容棟であった。


 当然である。

 何せ、その収容棟には比較的軽微な罪で投獄されたり、本来なら投獄する必要はないが、民衆を納得させるため、対面を保つために形式の上で短い期間だけ投獄される人が集められていたからだ。


 そんなわけで、窓もない地下牢に収容される貧しい囚人や地下に閉じ込めておかないといけない凶悪犯と違い、この収容棟ではそれぞれに簡易のインフラが整備されている個室が割り振られる。


 そんな個室の一つに自分は案内係に連れられてやってきた。

 個室の扉の前に立つと案内係から注意事項が告げられる。


 「中に入っての面会時間は10分。こちらは基本的に中に入らないが、何かあればすぐに突入する。囚人が暴れた場合は即面会は中止だ。それとくれぐれも変な真似はするなよ? 囚人を脱走させようとするのもそうだが、囚人が女性だからと襲ったりするのもだ」

 「わかってますよ……じゃあ入っていいですか?」

 「あぁ、では今から10分後にドアをノックする。それまでは自由に話すがいい」


 そう言って案内係の看守はドアを開けた。


 中に入ると、そこは簡素な作りの机と椅子が個室の中央に設置されていた。

 そんな椅子に腰掛けて1人の女性が熱心に机に広げた紙に何かを書き込んでいる。


 監獄日記でもつけているのだろうか?

 気になったので聞いてみた。


 「何を書いてるんだ? 日記か何かか?」


 しかし、女性は一向に反応しなかった。

 机に広げた紙に顔を近づけて、ブツブツ小声で何か言いながら一心不乱に何かを書き込んでいく。


 こちらを無視しているのか、気付いていないのかわからないが、さすがに反応があるまで突っ立ているわけにもいかない。

 面会時間は10分と決まっているのだ。

 あまり時間を無駄にはしたくない。


 なので、机の前に新たに椅子を持ってきて、女性の目の前に座ってみる。

 すると、そこではじめて女性は顔をあげてこちらに視線を向けた。


 そして自分と目が合うと、面白いくらいに顔を急激に真っ赤にさせていき。


 「はわわぁぁぁぁぁ!? な、ななななななんで部屋に人が入ってきてんの!? か、看守は!? 看守は何してんの!? ねぇ!!」


 ビックリしながらそう叫んで、慌てて後ろに下がろうとしたものだから勢い余って椅子から転げ落ちた。


 「あ痛っ!」

 「ちょっと大丈夫!?」


 あまりの転けっぷりに思わずこちらも立ち上がって、女性に駆け寄ろうとすると、机からさっきまで女性が何か書き込んでいた紙がひらひらと床へと落ちていく。


 思わず視線が女性からその紙へと移った。

 その事に転けた女性も気づき、涙目で訴える。


 「だ、ダメ!! それを見ちゃダメ!!」


 しかし、そう言われても床へと落ちた紙に書かれていた内容はしっかりと目に焼き付いてしまった。

 そして、その内容にどう反応すべきか困っていると、涙目の女性が素早く起き上がって紙を拾い、そして素早く部屋の隅へと移動して膝をかかえながらガクガクと震え出す。


 そんな女性にどう声をかけようか迷っていると。


 「え、えーっと……」

 「見ましたか?」


 低い声のトーンで聞いてきた。


 「へ?」

 「見ましたよね? ここに書いてた内容……はっきりと見ましたよね?」

 「あー……うん、まぁ、不運にも目に飛び込んできた……かな? でもじっくりと読む時間はなかったかなー?」


 そう言うと女性は涙目になって紙を抱えながら部屋の壁にヘッドバッキングをし始めた。


 「ちょっと!? 何やってんの!?」

 「いやーーーーーー!!! もう死ぬーーーーー!!! これを読まれたからにはもう死ぬしかーーーーーー!!! いやーーーーーー!!!」

 「落ち着け!! いいから落ち着け!!」


 女性は泣きながら鬼気迫る勢いで壁に全力で頭突きをし続け、おでこからは血が出始めている。

 このままではこの騒ぎに看守が部屋に入ってきて面会は強制終了となってしまう。


 本意ではないが、ここはもう二度と使わないと決めたアビリティーユニット・ミラーモードを使用するしかない。


 「くそったれ!! 本当にこいつを使うのはこれっきりだからな!!」


 アビリティーユニット・ミラーモードを展開して女性へと向ける。

 鏡面からレーダービームが放たれ、それは女性に直撃し、それ以降女性は物静かになった。


 「はぁ……やれやれだ」



 「あ、あの……さっきは取り乱してしまってすみません」

 「いや、いいよ。人間誰しも他人に知られたくない趣味はあるもんだしな」

 「うぅ……本当に、書いてあった内容は忘れてくださいよ?」


 涙目で言う女性を見て苦笑しながら頷いた。


 アビリティーユニット・ミラーモードを解除して催眠術も解いた後、冷静になった女性と机を挟んで向かい合う形で対面しているが、女性はしょんぼりとしていた。

 無理もないだろう……何せ自分の恥ずかしい趣味が他人にバレてしまったのだ。

 しかもその内容というのが……


 (いやー、まさか病院からこの監獄に女性たちを搬送してきたメンバーの男性の1人と、今外で待機している看守とのホモホモしい妄想……おっと失礼。BL小説とでも言ったらいいのか? それを熱心に書き込んでたんだからな……そりゃビックリだわ)


 まぁ、こんな娯楽のない監獄の個室に放り込まれたらそりゃ妄想に生きるしかないわな……

 牢獄にぶち込まれた経験ないからわからんけど……


 とはいえ、話を聞けばBL小説を書くのは彼女の趣味らしいが、まぁ、ここは詳しくは触れないでおこう。

 そんなわけで、ようやく落ち着いて話をする事ができた。


 彼女の名前はソラ。空賊連合の所属である。

 彼女はさきほどのように集中してBL小説を書いていると他人の声が聞こえなくなるようだ。

 おかげで空賊連合の本拠地でベルシから声をかけられたりしても、BL小説を書くのに夢中でいつもベルシを無視する形となり、それでベルシの怒りを買って目をつけられたのだ。


 そんな彼女に司法取引をする気はないか聞いてみたが。


 「ごめんなさい……ベルシにされた事は許せないけど、そのベルシが死んだ以上は空賊連合を裏切る理由はありません。私にとって空賊連合は私を育ててくれた大事な場所……空賊のみんなは家族同然です。裏切れるわけがないです。家族を売るくらいなら、私はここで処刑されるのを選びます。それが私を育ててくれた空賊連合へのせめてもの恩返しです」


 そうキッパリと言い切った。

 彼女は司法取引をする事はまずないだろう、その決心はきっと揺るがない。


 「そうか、わかったよ……」

 「ベルシから解放してくれた事には感謝します。そして、あなたが助け出したからこそ処刑されるのを見過ごせないって気持ちも理解します。ですが……私は空賊連合以外で生きていく道を探る気はありません。だから、空賊連合に戻れないのであればここで処刑される事を選びます」


 ソラのその言葉を聞いて椅子から立ち上がった。

 これ以上は意味がないだろうと思ったからだ。


 そして部屋から出る前に最後に尋ねる。


 「最後にいいかな? 空賊連合に戻れるとしたらどうする?」

 「……それはもう無理なんでしょ?」

 「あくまで可能性として」

 「……戻れるのなら戻りたいです。私の居場所は空の上に……空賊連合の中にあるんですから」

 「そっか」


 それだけ言って部屋を出た。


 次に訪れた部屋にも空賊連合の少女がいた。

 が、彼女もまた司法取引を拒否した。


 その次に訪れた部屋にはキャプテン・パイレーツ・コミッショナーの海賊少女がいた。

 名はボニ。その海賊少女はドリーとは違った印象だった。


 なんというか男っ気があるというか、ボーイッシュな感じの女性であり、あぐらをかいて椅子に座ってグラグラと椅子を揺らしてこちらの話を聞いていたが、やがてこんな事を言い出した。


 「ただ自分が生きたいためだけに仲間を売れって? んな事できねーよ! できるわけねーだろ! もしボクから海賊の情報聞き出したきゃ、ギルドユニオンの重鎮の席くらい用意しろっての! そうじゃなきゃボクのリスクがデカすぎるだろ! 解放されてもその後の護衛も保護も何もなしなんて馬鹿げてる! 情報売って死ねって言ってるようなもんだ、ボクに得がない」


 それはごもっともな意見だ。

 当然、ボニは司法取引を拒否した。


 その後も空賊1人、海賊2人、邪神教徒1人と話をしたが誰もが司法取引をする気はなかった。

 そして最後のひとりがいる部屋にやってくる。


 その部屋にいたのは邪神結社カルテルに属する少女であった。

 しかし、その外見や雰囲気からは、とても山賊をやっているようには思えなかった。


 では山賊ではなく邪神を信仰する信者か司祭なりなのか?と言われればそうのようにも見えない。

 まぁ、外見で判断すべきではないが、彼女は山賊や邪神信徒どちらとも違うように感じた。


 彼女の名はルーニャ。なんというかクラスに必ずひとりはいる地味で存在感がないボッチな窓際族の女の子といった印象だ。

 眼鏡をかけたお下げ髪に少し猫背気味と根暗な雰囲気を醸し出している。

 そんなルーニャは人生に疲れたような暗い口調で自らを山賊少女(シーフガール)だと名乗った。


 話を聞く限りではルーニャは邪神結社カルテルに強い忠誠心を持っている雰囲気ではなかった。

 とはいえ、ルーニャは司法取引の話には乗ってこなかった、なぜならば。


 「そもそも司法取引できるほどのカルテルの情報を私は持ってない……私は旧山賊協定の人間だから」

 「つまり、カルテルの所属ではあるけどカルテルの事は何も知らないと?」

 「そう。邪神結社カルテルは山賊協定という組織の枠組み……母体と拠点を奪い取った。でも、山賊協定とカルテルはあくまで別組織、密接な連携はない」

 「どういう事だ? 組織を乗っ取られたって事は山賊はカルテルに従っているんじゃないのか?」

 「従ってない……あくまで独立した下部組織に成り下がっただけ……だからたまに勅命が下る事はあるけど、基本カルテルの方針に反しない限り活動に制限はされてないし、何かしでかしてもお咎めをくらう事はない。」

 「なるほどな……つまりは山賊はカルテルの顔色を窺うだけでカルテルの組織内の事はわからないと」

 「そう……だから司法取引しようにも情報を私は持ってない」


 ルーニャはそう言って黙りこくった。

 こうなってはどうしようもない。


 ここに搬送された少女たち全員が司法取引を拒否した。

 これは益々持ってプリズンブレイクの道に突き進む必要がでてきたわけだ。

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