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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
12章:定例クエストをこなそう!

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次なる定例クエスト(3)

 ギルドユニオン総本部、1階エントランスフロアに儲けられた待合スペース。

 そこでフミコとケティー、リーナ、ココは自分が戻ってくるのを待っていた。


 「あ、かい君! 報告お疲れ様!」


 フミコは自分が待合スペースに入るとすぐに笑顔で駆け寄ってきた。

 他の面々もフミコの後に続いて駆け寄ってくる。


 リエルはこの場に姿が見当たらないが、そもそもこの異世界に今はいない。

 次元の狭間の空間にTD-66と戻って、TD-66のメンテナンスを行っている。

 ヨハンとエマは今は自宅に帰っているはずだ。


 そんなココを除けばいつものメンバーが集結している待合スペースでさきほどヨランダから告げられた内容を話す。

 話を聞いてココを除いた皆が驚きの声をあげた。


 「ほんとですか!? マスターすごいです! 上級ランク入りですよ!!」

 「B級って確かこの前C級ランクになったばかりじゃなかったっけ? かい君やったね!」

 「え!? B級ランク!? なんでそんな事になってるわけ?」


 そんな3人の反応に苦笑しながら。


 「まぁ、空賊連合の幹部2人を倒したんだ。それくらいしなきゃ示しがつかないって事らしい」

 「それにしたって一気にランクアップしすぎじゃない? C級ランクになったばかりなのに」

 「だよな……変に目立っちまうぞこれ。それにメンバーも3人も追加とか言うし……どうすんだよ、ほんと」


 そう言ってため息をつくと、会話には参加していなかったココが待合スペースの入り口の方を見て眉を細める。


 「というかカイトさま、あそこに変なやつがいます」

 「ん? 変なやつ?」


 ココはそう言って入り口を指差した。

 全員がそのココが指差してる方を向くと、自分が入って来た待合スペースの入り口とは別の入り口の前にどこかで見た事がある顔が立っていた。


 その誰かはこちらをチラチラ見ながら何やらもじもじしていたが、自分と目が合うとぱぁーっと表情を明るくして。


 「カイトくーん!! 会いたかったよーーーー!!!」


 そう言ってこちらに手を振って「あはは」と笑いながら駆け寄ってきた。

 うむ、一体どちら様だろうか?


 そう訝しんでいると、自分の周りにいたフミコ、ケティー、ココの表情が険しくなる。

 というか隠しきれないほどの殺気が外に漏れ出しており、リーナはオロオロとしている。


 そんなフミコたちが敵意を向ける相手は、フミコたちの事などお構いなしに満面の笑顔でこちらに向かってくると。


 「ん!?」


 蜃気楼が消えるように、その姿がぼやけて見えなくなった。


 「え?」

 「は?」

 「な、どこいった!?」


 目の前から相手が突然姿を消した事にフミコたちは驚いて周囲を警戒するが、直後。


 「カーイトくん! ……えい!」


 背後から、何やらデートの待ち合わせ場所に先に到着して待ちぼうけをくらっている彼氏に背後から抱きついて脅かしてやろうとしている彼女みたいなかけ声が聞こえてきた。

 というか、実際背後から抱きつかれた。


 不意打ちの衝撃に、思わず「わ!? な、なんだ!?」と声をあげるが、直後、背中に伝わる押しつけられた柔らかい何かの感触にすべての思考が持って行かれた。


 (む!? この感触はどこかで?)


 そして答えが導き出された。

 コーサス要塞郡からドルクジルヴァニアに帰ってくるまでの間、物資を運ぶ馬車の中で散々味わった感触だ。

 うん、詳細は差し控えるが、フミコたちとあーだこーだと言い争っていたある方が自分に胸を押しつけてきた時のあの感触だ。


 胸の感触で相手が誰か判断するなど最低!などと避難はしないでほしい。

 だって仕方ないじゃない……自分、日本では思春期真っ盛りな男子高校生だったんだもん……


 「もしかして君、ドリーか!?」


 振り返って、自分の背中に抱きついてきた誰かにそう尋ねると。


 「そうだよ? 他の誰に見えるの? あー! もしかして……たった1日でわたしの事忘れたの?」


 そう背中に胸を押しつけながら上目使いで言ってきた。

 うん、忘れたわけではないのだが、どうにも今のドリーは印象が違いすぎた。


 「いや、なんか印象が全然違ったもんだから……」


 なのでそう素直に伝えると、ドリーはクスクスと笑って。


 「ひょっとして髪型や衣服が違うからかな? 昨日まではその……ほら、ベルシが用意した衣服にベルシにこうしろって言われた髪型だったから」


 そう前髪を弄りながら答えた。


 ドリーは今、ベルシが親衛隊(コレクション)に着せていたバニースーツのような黒色の露出の高いセクシー衣装を着ていない。

 なんというか、ドルクジルヴァニア市街のメインストリートでよく見かける、用事で出掛けるのでお洒落してきました!といった感じの町娘の格好をしていたのだ。


 おそらくは病院でもらったのだろう。

 そういう服装をしていると、この子が海賊とはとても思えなかった。


 そんなドリーはさっきからずっと自分に抱きついているが、当然それをフミコたちが許すはずがない。


 「この海賊が!! いい加減かい君から離れろ!!」


 叫んでフミコが銅剣でドリーへと斬りかかる。


 「よっと!」


 が、これをドリーは自分から素早く離れてかわした。

 おかげでフミコの振るった銅剣に危うく斬られそうになった。


 「わ! あぶねー!」

 「あ! ご、ごめんかい君!」

 「フミコ、危ないから室内で剣を振るうなって!」

 「で、でも!」


 フミコが困った表情になったが、それを見てドリーが笑う。


 「あはは! 何やってるのよフミコ? いくらカイトくんがわたしにメロメロだからって、嫉妬に狂ってカイトくんを斬っちゃダメだからね?」

 「こいつ! 誰のせいだと思って!!」


 フミコがドリーに怒鳴ったところでケティーが拳銃でドリーを撃とうとし、ココもドリーに殴りかかろうとしたので慌ててとめに入る。


 「ちょ! ちょっと待て!! 落ち着け!! つかユニオン総本部で発砲とか洒落にならんから!! ココもなんか建物損壊させそうだからやめて!! ほんと冗談抜きでやめて!! とりあえずみんな落ち着けって!!」


 そう言って皆の間に割って入ると。


 「まぁ川畑くんがそういうなら……」

 「むー、仕方ないです。カイトさまに免じて今回だけですよ?」


 ケティーが拳銃を卸してホルスターに収め、ココもファイティングポーズを解いた。

 フミコも不服そうにしながらも銅剣を霧散させる。


 不満ながらも矛を収めた形の3人とニコニコ笑顔でこちらをじっと見つめているドリーを見てため息をつく。


 (やれやれ、疲れるな……しかし一体どうなってるんだ?)


 ここはギルドユニオン総本部、いうなればユニオンの中枢だ。

 そんなところにユニオンの敵対組織であるキャプテン・パイレーツ・コミッショナーの一員である海賊少女のドリーがなぜいるのだろうか?


 そもそもドリーは他の元親衛隊(コレクション)たちと一緒に今は病院にいるはずなのだ。

 まぁ、体調面と精神面に問題がなければ、病院から隔離施設という名の牢獄に移送されるのだろうが……まさかそこへの移送中に逃げ出してきたのか?

 しかし、その割には厳重な警備態勢が街中に敷かれていないが……ほんとどうなってるんだ?


 疑問が浮かぶが、考えたところで答えが出るわけがない。

 なので本人にストレートに聞いてみることにした。


 「なぁドリー、どうして君がここにいるんだ? それにその服装……君は今病院にいるはずだろ? まさか脱走してきたのか?」


 そう尋ねるとドリーはニコニコ笑顔でこう答えた。


 「脱走ってまっさかー! そんな事しないって! それじゃお尋ね者になってカイトくんに会えないじゃん!」

 「じゃあ、なんで?」

 「ふふふ、心配しないで! ちゃんと後ろめたいことせずに解放されて堂々と真正面からシャバに出てきたから! まぁ海賊業から足を洗うことにはなっちゃったけど」

 「へ? 海賊業から足を洗った?」


 ドリーは笑顔でVサインをこちらに向けながら言うが一体どういう事だろうか?

 疑問に思っているとドリーが。


 「えーっと司法取引? ってやつだよ! カイトくんに会うためにキャプテン・パイレーツ・コミッショナーの情報色々ゲロってきちゃった! てへ! キャプテン・パイレーツ・コミッショナーからすれば明確な離反行為だからこれでもう海賊には戻れないかなー? でもこれで誰に咎められることなくカイトくんの傍にいれるね! やった!」


 と言ってきた。

 マジか……この子マジで組織を売ったのか……

 まぁ、敵組織に捕まった下っ端の構成員の忠誠心なんてこの程度なのかもしれない。

 ドリーがキャプテン・パイレーツ・コミッショナーで下っ端の構成員だったのかは知らないが……


 一方でドリーの言った言葉にフミコ、ケティー、ココは即座に反応する。

 誰に咎められることなくだ?うちらが咎めるわ!と言わんばかりの雰囲気まで醸し出している。

 うん、これはこのままここで話を聞くのはまずいかもしれないな……場所を変えた方がいいかもしれない。


 そう思って、まずはギルドユニオン総本部の外に出ようと言おうとしたところで気がつく。


 「ん、待てよ……ドリー、その司法取引って病院でしたのか?」


 その質問にドリーは首を振った。


 「ん、違うよ? ベルシに操られてた子たちはみんな体調面も精神面も問題なかったから、すぐにみんな病院から別の場所に搬送されたよ」

 「まじか……どこに搬送されたかわかるか?」

 「要塞みたいな外観の建物だったけど、たぶん監獄じゃないかな? 病院からみんなを搬送した人もそれっぽい事言ってたし」


 ドリーの言葉でおおよその見当がついた。

 ドルクジルヴァニア市内にはかつて街を囲っていた城壁が存在する。

 今は人口拡大に伴い、城壁の外にも家屋や多くの公共施設が建てられ、城壁はもはや観光名所以外の意味を成さなくなったが、そんな城壁の外側、増築していく街のさらにはずれにその建物は聳えていた。


 かつては城壁から少し離れた場所に囚人達を収容する監獄を建てたのだろうが、今やその監獄の手前まで街は広がっている。


 とはいえ、監獄はやはり街のもっとも外れであり、監獄の近くの区画はあまり治安がよろしくないのだとか……

 まぁ、それを言ったら悪徳の街と称されるドルクジルヴァニアという街そのものが治安がよろしくないのだが、その事は今は置いておこう。


 (ヨランダは処刑はすぐには行わないと言っていたが、監獄に搬送したって事は準備としては整ってるって事なんだろうな)


 ドリーは司法取引をしたと言っているが、他の子もドリーと同様にギルドユニオンに情報を売って解放されるだろうか?


 それはわからない……何せ自分は彼女たちの事を何も知らない。

 どのような性格なのか、自らが属していた組織にどれほどの忠誠心があるのか、まったく知らないのだ。


 だから、彼女たちの選択をここで予想する事はできない。

 それ以前に、ギルドユニオンに情報を売って解放されたとして、晴れて自由の身になれるだろうか?


 ドリーは解放されて自分を頼ってきた。

 今のこの瞬間だけをみれば、自分達が保護してドリーの安全を確保している状態だ。


 何かしらのギルドが暗殺の類の密命を受けたとしても、今この瞬間だけはドリーに手は出せないだろう。

 しかし、他の子はどうだ?


 ギルドユニオンの中に頼れる者がいない場合、情報を売って解放されても行く当てがなく彼女たちは彷徨うしかない。

 そこを狙われて暗殺というケースは考えられないか?


 それはドルクジルヴァニア市内に潜んでいる敵対組織のスパイかもしれない。

 敵対組織のスパイから依頼を受けた闇ギルドかもしれない。

 もしくは彼女たちから情報を得たギルドユニオンがどっちにしろ解放後に暗殺するかもしれない。


 彼女たちはこのまま処刑されるにしろ、情報を売って自由を得ようとするにしろ、明るい未来はない気がする。

 そして、甘いと思われるかもしれないが、やはり放っておけなかった。


 元はと言えば、コーサス要塞郡からドルクジルヴァニアに戻ってくる時に、そのまま放置しておけばよかったのを自分が他のギルドなどに協力を要請して無理矢理に連れ帰ってきたのが原因なのだ。

 ならば、最後まで面倒をみなければならないだろう。


 決心してドリーに尋ねた。


 「ドリー、わかる範囲でいい……教えてくれないか? 監獄の内部の様子を」


 この質問にドリーはビックリした顔を見せた。

 そしてケティーが慌てて自分の元にやってくる。


 「ちょっ、川畑くん!? まさかとは思うけど、何考えてるの!?」

 「何を考えてるって、これは俺なりのケジメだよ」

 「けじめって……まさかとは思うけど、監獄に忍び込むつもり?」


 ケティーが呆れた顔で尋ねてくると、同じくフミコも自分の元にやってきて尋ねてきた。


 「かい君、一体何をする気なの?」


 なので、ふたりに自分の意思を明確に伝える。


 「決まってるだろ! プリズンブレイクだ! 彼女らを助け出すんだよ!」


 それを聞いてフミコとケティーは困った表情を浮かべるが、もう誰に止められようと決行すると自分は決めた。

 だから何が何でも監獄から彼女たちを助け出す!


 こうして無謀な脱獄計画がスタートしたのだった。

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