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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
12章:定例クエストをこなそう!

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空賊連合(16)

 屋上で上空を見上げ、両手を前に突き出したTD-66の元へとミサイル発射筒がドローンによって運ばれてくる。

 TD-66はその発射筒を両腕にセットし、背中に射撃用レーダー装置を背負う。

 そして、ミサイル発射筒をTD-66に届けたドローンが上空へと飛翔しデータ観測を開始した。


 警備コントロール室ではリエルがそれを確認しデータリンクを開始する。


 「おっしゃ!! 入力完了やで!! レーダーの信号処理もバッチリや!! いつでもぶちかませんで!!」


 すべての準備が整い、リエルはTD-66へとGOサインを出す。


 リエルからいつでも撃てると通信を受けたTD-66はミサイル発射筒がセットされた両腕を上空へと掲げ。


 『了解です。ロックオン完了!! 発射します!!』


 ミサイル発射筒からアクティブ・レーダー・ホーミング方式の中距離地対空ミサイルを数発発射した。


 凄まじい量の煙が噴射され、小砦の屋上を飲み込んでいく。

 そして爆音を轟かせ、中距離地対空ミサイルが恐るべき速度でもって逃走を図るベルシが乗る風竜ソルデスの元へと飛んでいく。




 ズエの森上空。

 かすかに小さな雲が存在する高度を風竜ソルデスは猛スピードで飛翔していた。

 それは自身の背中に乗る友、ベルシを安全な場所に逃がすためであるのだが、しかしベルシは悔しさを滲ませながらも次の一手を考えていた。


 (くそ! どうする? このままおめおめと本拠地(ホーム)まで逃げ帰るのか? そんな恥さらしできるか! どうにかして反撃しないと……森の中の拠点はさすがにダメだ、放棄するしかない。ならどうする? 他に拠点を構築するか? どうやって? 人手もないのに?)


 ベルシは右手の親指を悔しそうに噛みながら考える。

 しかし、妙案は浮かばなかった。


 (大体、なんだあのギルドは? フミカが一緒だったという事は明星の(アシェイン)の新メンバーか? いや、それにしてはフミカ以外の新入りの態度がフミカに対して横暴すぎだ……フミカが別のギルドと行動を共にしていたんだろう。くそ! そのあたりの情報もアンリとかいう女から聞き出しとくんだったな……いや、あの女も知らなかったのか)


 ベルシは苛々しながらも思考を重ねるが、その時、風竜ソルデスが何かに気付いた。

 そして大きな鳴声をあげてベルシに知らせようとするが、ベルシには聞こえていない。


 (そもそも上級ランクのギルドのやつらは魅了(チャーム)が効きにくい……まさかあいつらも上級ランクのギルドだったのか? 最近、上級ランクに昇級したギルドがあるなんて、そんな情報は入って来てないが……くそ! やはり何かイカサマを使っていたとしか思えん! ……いや待てよ? 連中は最初から僕と戦う事を想定してやってきた。元より魅了(チャーム)がくると身構えていたんだ。という事はだ……不意打ちで魅了(チャーム)を仕掛けたらどうだ? これはいけるんじゃないか? ひひ! そうだ! イカサマ野郎のギルドの周囲に潜んで、女が1人になる時を窺い、不意打ちで魅了(チャーム)を仕掛ける! そうしてあのイカサマ野郎の周囲から1人ずつ女どもを奪っていき、最後にイカサマ野郎を捕らえて、あいつが悔しがって喚く顔を見ながら、あいつの前で奪った女どもを1人ずつ順番に犯してやる! ひひ! これは楽しみだ!)


 愉快に口元を歪めるベルシであったが、風竜ソルデスは鳴声をあげ、ベルシに必死で危機を伝えようとする。

 直後、風竜ソルデスの真横に遙か真下の地上から恐るべき速さで飛翔してきたミサイルが現れた。


 「……は?」


 ベルシは当然ながらミサイルをじっくり見た事がない。

 さきほどの小型飛空艇から風竜ソルデスへと飛び移った時も、一瞬の出来事でミサイルの事など見ていなかったのだ。


 そもそもこの異世界にミサイルなんてものは存在していない。

 だから、突如真横に飛来したそれを見ても、逃げなければ!身を守らなければ!という考えには至らなかった。


 これは仕方がないことだろう、未知のものに対してどう対処していいかなど普通はわからないのだ。


 あるいは小型飛空艇から風竜へと飛び移った時に冷静に周囲を観察できていれば、ミサイルの脅威に気づけたかもしれないが、足を撃ち抜かれ、左手を切り落され、片手で必死にしがみついてる中、地上からの攻撃にさらされパニック状態だった時にそんな余裕あるはずがない。


 なので、ベルシは真横に現れたミサイルを見ても、ただ呆然とするしかなかった。

 そして、次の瞬間ミサイルは自爆する。


 「う、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 ベルシは強烈な光と爆炎にさらされ、直後、爆風と強烈な勢いで飛び散ったミサイルの破片が風竜ソルデスとベルシを襲う。

 真横で発生した爆発によって鼓膜が破れてしまいそうなほどの爆音が轟き、ベルシの耳から音を奪う。


 何も聞こえない無音の世界が訪れると同時に、爆風によって体が煽られ、一瞬にして風竜ソルデスの背中から空中へと放り出される。

 突風が吹き荒れ、重力が一気にベルシを遙か真下の地上へと引きずり落そうとする。


 「ひいぃぃぃぃぃぃぃ!! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 落ちるぅぅぅぅぅぅぅ!!」


 ベルシは地上へと落下していく中、同様に爆風と飛び散った破片をくらって空中を回転してバランスを失う友である風竜ソルデスの姿を視界に収める。


 「そ……ソルデーーーーース!!!」


 ベルシは彼の名前を叫び、まだ手首より先が残っている右手を必死に伸ばす。

 しかし、耳の視力が復活していないため、本当に自分が彼の名を叫んだのか、自分でもわからない。


 そして急激に落下速度が加速する中、キーンという耳鳴りがしながらも、ようやく耳に音が戻ってくる。


 風が吹きすさぶ音が徐々に大きくなってくる中、風竜ソルデスは必死に鳴声をあげてバランスを取り戻すと、一気に急降下して落下するベルシを後ろ足でキャッチし急上昇。


 そして体勢を立て直すとベルシを高く上へと投げ放って背中でキャッチした。


 「はぁ……はぁ……はぁ……あがぁぁぁぁぁ!! ひぃぃぃぃ!! し、死ぬぅ!! 死ぬところだった!! ソルデス、君がいなかったら今頃僕はっ!! あぁぁぁぁ!!!!」


 ベルシは惨めに顔を歪めて泣き叫び、風竜ソルデスの背中に顔を埋める。

 そんなベルシを慰めるように風竜ソルデスは短く鳴声をあげるが、直後、風竜ソルデスの尻尾の真後ろに新たなミサイルが現れる。


 「ひ! ひぃぃぃぃぃぃ!!!! あぁ!! あぎゃぁぁぁぁぁぁ!!! ソルデス!! 大変だ!! 速くぅぅぅ!! 速く逃げないとぉぉぉぉぉ!!」


 ベルシが涙を流して鼻水を垂れ流し、涎を撒き散らしながら恐怖に顔を歪めて叫ぶ。

 風竜ソルデスも悲痛な鳴声をあげて速度をあげようとするが、真後ろに飛来したミサイルは容赦なく自爆し、風竜ソルデスとベルシを吹き飛ばす。


 「あがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! いやぁぁぁぁぁぁ!!! た、だずげでぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 不様な叫び声をあげてベルシが再びバランスを崩した風竜ソルデスの背中から宙に投げ出される。

 風竜ソルデスは爆炎が尻尾に当たって、尻尾が燃えだし、飛び散ったミサイルの破片によって翼が斬り裂かれ、うまく飛べなくなってしまったが、それでも友であるベルシの悲鳴に目を血走らせながら前へ飛び、ベルシを背中にキャッチする。


 「あぁ!! あぁぁぁ!! ソルデス!! ソルデス!!」


 助けられたベルシは左手がない分、右手だけで必死に風竜ソルデスの背中にしがみつく。

 しかし、その背中はすでに破片によって傷だらけで血だらけであった。


 どうにかしないと!

 ベルシはそう思うが、しかし何か考える時間を与えてはくれない。


 今度は風竜ソルデスが必死に飛ぶ先にミサイルが現れる。


 「あぁぁぁぁ!!! ソルデス!! 回避だ!! 回避だぁぁぁぁぁ!!」


 風竜ソルデスが目の前のミサイルを回避するため右へと急旋回しようとする。

 しかし、それよりもはやくミサイルは自爆し、風竜ソルデスは爆炎に飲み込まれる。


 「あぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!! あぢぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」


 爆煙から脱出した風竜ソルデスとベルシはその体に炎が燃え移っていた。

 しかし、すぐに爆風によって体の炎は吹き飛んで消える。

 それでも、その体は火傷に苛まれた。


 満身創痍の彼らの後方にさらにもう一発ミサイルが飛翔して自爆、爆風で吹き飛ばされ、制御を失ってクルクルと回転し、飛び散る破片によって体中が切り刻まれる。


 爆炎にさらされ続け、喉がカラカラで、思考が追いつかなかった。

 それでもあと一発、あれがやってきたらもう助からないだろうという事だけは理解できた。


 (ダメだ……もう終わりだ)


 ベルシは死を覚悟したが、しかし4発目を最後にミサイルはそれ以降、飛来しなかった。





 小砦の屋上から逃走を図る遙か上空の風竜ソルデスとベルシに向けて中距離地対空ミサイルを発射したTD-66であったが、放ったミサイルは4発で打ち止めだった。


 仕方がない、何せTD-66が両腕にセットしたミサイル発射筒は4つのみ。

 右手に2つ、左手に2つだけだ。

 これで十分だろうとリエルは考え、TD-66もこれだけあれば仕留められると思っていた。


 しかし、ベルシの悪運はこちらの予想を遙かに上回る相当なものだったようだ。

 中距離地対空ミサイルでも仕留められなかったとなると、いよいよもってベルシを取り逃がすことになるだろう。



 崩れた壁際に立ち、スマホでリエルからの報告を聞きながら双眼鏡で上空を覗く。

 双眼鏡がなくても上空に煙が立ちこめるのが確認できるが、はっきりと視認するには双眼鏡はかかせない。


 「うん、うん……こっちでも確認した。そっか、やっぱ新たな地対空ミサイルを用意するには時間がかかるか……だったらそれはもう用意しなくていい、そうしてる間に逃げられる。今は一旦待機していてほしい」


 そう言って通話を切った。

 直後、思わず頭を抱えてしまうが、フミコが心配そうに声をかけてくる。


 「かい君、これ以上はもう攻撃できないの?」

 「あぁ、新たなミサイルを用意するには時間がかかりすぎる……その間に逃走されるだろうから多分無駄足に終わっちまう」

 「そっか……これだけ距離が離れちゃうとかい君の魔法でも厳しいもんね。あたしは遠距離攻撃できないし、ごめんね」


 別段フミコが謝ることではないのだが、フミコは申し訳なさそうにしていた。

 それを言ってしまえばこの場にいる全員があそこまで逃げ果せたベルシを攻撃できる手段がないのだ。

 フミコが気に病むことではない。

 これは仕方がない事だ……


 そう思ったのだが、そこである可能性に気付く。


 「いや、待てよ……ひょっとして」


 独り言のように呟いて懐からアビリティーチェッカーを取り出す。

 そして、最近能力を奪ってもないのに増えた、カグに言われるまで気がつかなかったそのエンブレムを見る。


 どこか複数のエンブレムを組み合わせたようにも見えるその形を見て、目を細める。


 (こいつは昨夜カグに言われて気付いたばかりだ……当然トレーニングルームで試しに使ってみたという事もない……カグは奪った能力のブレンド……極奥義なんて言っていたが、使うとすればぶっつけ本番だが……)


 それは具体的にどんな能力かはわからない。

 そして使えば秘奥義以上の反動があり、疲労、虚脱感に見舞われ、使用後はぶっ倒れるのが確定という。

 しかし、もうここには……少なくともこの小砦には空賊連合の連中はいない。

 ぶっ倒れたところで問題はないはずだ。


 ならば試す価値はあるかもしれない。

 何より、これならばいけると直感が告げていた。

 確証はないが、ベルシを倒せるという予感があった。


 それに、やはりここでベルシを取り逃せば後のリスクが大きくなる。

 フミカが断言したように、どれくらいの期間が空くかはわからないが、ベルシは必ず復讐しに自分達の前に現れるだろう。


 そんなベルシをまた今回のように追い払えればいいが、次も勝てる保証はない。


 ベルシのような自己中心的なタイプはプライドが傷つけられる負け方をすると、その後の行動に変化が起こる事がある。


 そう、あぁいったクズ野郎はその後3つのタイプに分かれるのだ。


 プライドを傷つけられた事で頭が沸騰し冷静になれず、なぜ自分が負けたのか敗因を探ろうともせず、性懲りもなく勝算なしに再び挑んでくるバカなタイプ。

 そして負けた屈辱と憎しみによって周囲も驚くほどにパーソナルステータスが引き上がってパワーアップするタイプ。

 最後に冷静に敗因を分析し、状況を見極め、対策を練れるタイプ。


 ベルシがバカなタイプの場合は別段放っておいても問題はないだろう。

 何度も相手にするのは面倒だが、こちらに脅威はないのだから……


 しかし、ベルシがパワーアップしてくるタイプだった場合とてつもなく厄介だ。

 何せ、ベルシの魅了(チャーム)や魔物を従わせる力はフミコやココには「束縛」「保護」「加護」「菌糸隷属強化」のおかげで通用しないが、これらを力技で正面突破するほどの力を身につけて帰ってくるかもしれない。

 というより、そうなる可能性は高いような気がする……


 そして脳筋の力技以上に厄介なのか冷静になって分析するタイプだ。

 このタイプはプライドを傷つけられ怒り心頭ながらも、脳内はどこか他人事として自身を客観視でき、冷静に状況を見極め、敗因を分析、対抗策を導きだせるようになる。


 そうなると、「束縛」「保護」「加護」「菌糸隷属強化」に対してもこちらが想定してないような抜け道や裏技を見つけ出して、そこをついてくるかもしれない。

 そうなれば確実にフミコたちはベルシに奪われるだろう……



 ベルシのような人間はプライドを傷つけた相手に固執し、粘着するようになる。

 プライドを傷つけられた仕返しとして、その相手から大切なものを奪ってやろう、傷つけてやろう、壊してやろうと考えるのだ。


 すべてを奪って自分と同じ目に合わせてやろうと、同じ惨めな思いを味合わせてやろうと思うようになるのだ。


 もちろんプライドが高く、自信があるがゆえに奢りから身の程をわきまえず、あの時失敗したのはたまたまだ、次はうまくいく!と何の対策もせず再び襲ってきて返り討ちにあう可能性もあるが、それを期待するのは危険だ。

 それこそ、傲慢であり慢心が過ぎるというものだろう……


 それを期待していると、さきほどの結果が自分に跳ね返ってくる。

 それはつまり、ベルシにフミコたちを奪われたり、奪われなくても傷つけられたり、最悪殺されたりする結果に繋がりかねない。

 ベルシをここで放置すれば大切な仲間を失う可能性がある。


 そんな事させてたまるか!

 フミコたちに危険が及ぶ可能性がある以上、このまま見逃すわけにはいかない。

 ベルシは確実にここで殺す!


 「やってやるぜ……」


 アビリティーチェッカーを握りしめて決意を固めた。


 「ベルシをここから撃ち落とせる手段は……まだある!」


 そう言った自分をフミカが怪訝な表情で見る。


 「カイト、さすがにこれだけ遠くに逃げられたらもうどうにもならないでしょ? 何をする気?」


 そんなフミカに不適な笑みを向け、答えた。


 「混種能力……極奥義をやつにぶっ放つんだよ」

 「極……何それ?」


 フミカは眉を潜めるが、フミコとココは目を輝かせる。


 「かい君!! 秘奥義よりも強力なの使うつもりなの?」

 「カイトさま、何だかかっこいいです!! やっぱりココのカイトさまです!」


 そんな2人の反応に愛想笑いを浮かべて、用件を伝える。


 「で、フミコはわかってると思うけど混種能力は秘奥義以上に体力を消耗するから確実に発動後はぶっ倒れると思う。だから後の事は任せた」


 そう言うとフミコが目を輝かせ。


 「うん、わかってるよ!! いつでもかい君を受け止めるからね!」


 そう言ってきた。

 うん、まぁ色々と思うところはあるが、フミカもいるし後は任せるとしよう。


 「じゃあ、とりあえずドリーの目隠しもとってあげて彼女と一緒に地下に避難してくれ、多分この小砦、盛大にぶっ壊れると思うから」


 その言葉の意味をどこまで理解したかはわからないが、フミコ、フミカ、ココはドリーを連れて地下へと避難した。

 それを見届けて、崩れた壁から見える上空を見上げる。


 今は双眼鏡を手にしてないので、目視で風竜ソルデスとベルシを確認するのは難しい。

 だが、大まかな位置はわかる。


 「さて混種能力の……極奥義の最初の犠牲者になってもらうぞベルシ!! てめーはここで殺す!!」


 叫んでアビリティーチェッカーを軽く上へと放り投げる。

 そしてアビリティーユニットを手にして前へと突き出し、落下してきたアビリティーチェッカーをキャッチ、そのままアビリティーユニットへと取り付け「混種能力:獣」のエンブレムをタッチする。


 するとアビリティーユニットが音声を発する。


 『ability blend……creature』


 直後、アビリティーチェッカーの液晶画面上に投影されていた「混種能力:獣」のエンブレムが巨大化し、まるで獣のように蠢いて雄叫びをあげた。


 その雄叫びに引き寄せられたのか、小砦の上空には雷雲などないにも関わらず、目を開けていられないほどの眩しさを放つ黄金の稲光が発生し、小砦に落雷した。




 ちょうどこの時、遙か上空の風竜ソルデスとベルシはその黄金の稲光を背にする形で逃走を図っていたが、まるで心臓を直接鷲掴みされたような錯覚を覚える。


 「ひぃぃぃ!!!! な、なんだ今のは!?」


 まるで恐怖の大魔王がこの地に降臨したような、そんな絶望に近い恐怖を肌で感じる。

 ベルシは腰を抜かして恐怖に顔を歪めながら恐る恐る後ろを振り返る。

 そして風竜ソルデスはまるで飛び方を忘れたように翼を動かせなくなっていたが、そんな風竜ソルデスも恐怖に顔を歪めながら後ろを振り返った。




 金の稲光が落雷した小砦だが、直後、小砦周辺が地震のように大きく揺れ、地盤が持ち上がる。

 そして空賊連合の襲撃によって破壊された小砦の中から巨大なイグアナの口を連想させる何かが飛び出した。


 そして上空に向かって大きく開いた巨大なイグアナの口の中から莫大なエネルギーが噴出し、それは超強力な熱放射となって勢いよく上空へと放たれた。


 その熱線は莫大なエネルギーでもって大地を揺らし、小砦近くの木々をなぎ倒し、大気を震わせ、暴風を上空に発生させる。


 そんな圧倒的な暴力を見て、上空を飛ぶ風竜ソルデスとベルシな何もできず一瞬で熱線に飲み込まれ、塵も残さず蒸発する。

 ベルシは断末魔の叫びをあげる事もできず、この世から姿を消したのだった。





 その上空に放たれた熱線はあまりに強力で強大な威力を誇り、無干渉地帯のどこにいてもはっきりと観測できたという。


 それを空賊連合のある者は浮遊する空の遺跡、空賊連合の本拠地から観測し、キャプテン・パイレーツ・コミッショナーのある者は海上を航行中の海賊船上から観測した。


 邪神結社カルテルのある者は山頂からそれを見て不敵に笑い、ギルドユニオンのユニオンギルドマスターはドルクジルヴァニア市庁の市長室の窓からそれを観測して口元を邪悪に歪めた。


 そんな事などいざ知らず、強大な熱線を放った張本人はベルシを消し去った事を確認すると。


 「はぁ……はぁ……やったぜ……てか、これヤバイな……マジでもう無理」


 そう言って、バタンとその場に倒れた。

 そんな彼の元へ数名の少女達が駆け寄っていく。


 こうして空賊連合によるヴィーゼント・カーニバル介入事件は幕を閉じたのだった。

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