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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
12章:定例クエストをこなそう!

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空賊連合(8)

 フミコはフミカに自分も一緒に行くと言い出した。

 そんなフミコにフミカは怪訝な表情を見せる。


 「フミコ、何言ってるの? ……状況わかってる?」


 しかしフミコは。


 「わかってるよ! わかった上で言ってるの! あたしだって<ザ・ライジン>の皆を助けに行きたい! かい君もあたしの力が必要だよね?」


 そう言ってこちらに同意を求めてきた。

 しかし素直に首を縦に振る事はできなかった。

 元ギルド<深き森の狩人>のメンバーだったアンリとチャームの亡骸を見れば余計にそうなるだろう。


 フミカもその亡骸を指さし。


 「フミコ……あぁなりたいわけ? わかってるの!? ベルシの手に堕ちればもう殺すしかない、私はフミコを斬りたくはない!」


 そう切実に訴えた。

 しかしフミコは。


 「大丈夫、魅了(チャーム)に対する対処法はフミカが教えてくれたじゃない、心配ないよ」


 そう言って引き下がらなかった。

 確かにフミカはベルシの魅了(チャーム)を回避する方法としてベルシと目を合わせない、真正面から彼を見据えないことを徹底するよう語っていた。


 「フミコ! あれはあくまでも運悪く遭遇してしまった時の対処法だよ! 一番いいのは最初からベルシと会わないこと! わかって!! 私はもう回避できたのにそうできなかったって事にはしたくないの!!」


 フミカは彼女にしては珍しく声を大きくしてフミコに訴えた。

 そんな素振りは見せなかったがそれほどまでに、さきほどアンリとチャームを斬り殺したのは堪えたのだろう。


 だからこそフミカはこちらを向いて自分にもフミコを説得するよう訴えてくる。


 「カイト! あなたもフミコに言ってあげて! 一緒に来るのは危険だって!! カイトだってフミコをベルシに取られたくはないでしょ!? 奪われたくないでしょ!?」


 フミカの言い分はその通りだ。

 ベルシとやらに会った事はないが、フミコを渡してなどなるものか!

 奪われてなるものか!


 さきほどのアンリとチャームを見ていれば、あんな事をさせるゲス野郎に大切なフミコを渡せるわけがない。

 フミコの体にベルシとやらが触れると思っただけで吐き気がする。


 だからこそ、フミコには安全なここで待っていてほしい。


 しかし、フミコは自分が何か言う前にこんな事を言い出した。


 「かい君、安心して! それにフミカも……あのね、なんでかわからないけど大丈夫な気がするんだ。あたしとかい君の絆にベルシとやらは割って入れない……この絆を上書きする事はできないってね! 確信してるんだ」


 なんとも希望的観測とも取れる発言だが、しかしこれを全否定する事はできなかった。

 実を言うと自分もフミコなら大丈夫、魅了(チャーム)にはかからないと思っている。

 そう思い当たる節があるからだ。


 しかし、これを言ってしまっていいものか迷ってしまう。

 病は気からというように、思い込みで乗りこなしてしまう事もある。

 しかし同時に、強い思い込みは慢心も生む。


 自分は魅了(チャーム)にはかからない、大丈夫!と油断しているとあっさり堕ちてしまう。

 そうなる事のほうがほとんどだろう。


 だから、フミコの根拠のない自信は諫めるべきであり、フミカはそうした。


 「フミコ! そんな精神論でどうにかできる相手じゃないのよ!」


 そんなフミカに対して、フミコは。


 「わかってるよフミカ……あたしはフミカみたいに訓練で魅了(チャーム)への耐性を身につけてはいない。ベルシと目を合わせない、顔を見ないって対処法も実戦になれば難しいと思う。だからフミカが危険だっていうのも理解してる」


 そう言うとニヤリと笑って翡翠の勾玉の首飾りからあるアイテムを取り出す。


 「だからフミカを安心させるためにも秘密兵器を見せないとね! ジャジャーン!!」


 そう言ってフミカが見せたのは豪華な装飾が施された鉄鏡。

 金銀(きんぎん)錯嵌(さく がん)珠龍文(しゅりゅうもん)鉄鏡(てっきょう)だ。


 「フミコ、それは!!」

 「ふふーん、そうだよかい君!! 銅鏡の呪力はまだ溜まりきってないけど、こっちはすでに溜まってるんだ! だから十分に効果を発揮できるよ!」


 そうフミコはドヤ顔で言った。

 確かにこの鉄鏡には呪いを解除する効果がある。


 その効果によってフミコはザフラとの戦いで彼女の透明化を解除したり、かつて悪役令嬢転生者エリオが自分にかけた呪いを解除したのだ。

 つまりはフミコがベルシの魅了(チャーム)にかかっても、金銀錯嵌珠龍文鉄鏡を使えばフミコを元の状態に戻すことができる。


 問題はフミコ以外の自分やフミカが金銀錯嵌珠龍文鉄鏡を使ってちゃんと効果が発揮するかどうかというところなのだが……


 「そうか! それを使えば確かにフミコが魅了(チャーム)にかかっても元に戻せるな! ってフミコ? なぜ突然こっちをジト目で睨んでくるんです?」


 どういう事だろうか?突然フミコの機嫌が悪くなった。


 「そう言えばこの鏡でかい君を正気に戻したけど……あの時、似たような状況じゃなかった? かい君呪いにかけられて、あのエリオとかいう女の事を美しいとか言い出してあたしを見なくなって……」

 「あ……言われてみれば……そうだった……かな? ……うーん、たしかに相手が男か女か、自分の虜にする対象が女か男かの違いだけで状況は同じ……なのか?」


 フミコに言われて少し考え込む。

 たしかにあの時、悪役令嬢に転生したエリオに自分は呪いをかけられて、フミコに金銀錯嵌珠龍文鉄鏡で呪いを解除してもらうまで正気を失っていたが、確かあれは相手も使うつもりがなかったアイテムを咄嗟に使ってしまった事故ではなかったか?


 今回の相手のベルシのように自ら積極的に使っていた相手ではなかったはずだ。

 まぁ、フミコが思いだして突然機嫌が悪くなるほどに傷つく出来事だったのだろう。


 つまりはベルシの魅了(チャーム)にフミコが堕ちてしまったら、同じ感情を自分も持つ事になってしまうのだ。

 うん、これは断固阻止しないとな!

 やはり戦場にフミコを連れて行くべきではない。


 そう決意した時、フミカがこちらに問いかけてきた。


 「え? カイト、あんた魅了(チャーム)に堕とされた事あるの?」

 「いや、あれは事故でそうなっただけで」

 「かい君!! たとえ事故だとしてもあたしはすごく傷ついたんだからね!?」


 自分の回答とフミコの怒り具合を見て、フミカは頭を傾げる。


 「つまり……ベルシみたいに男を魅了(チャーム)で堕とす女とかつてカイトとフミコは対峙してまんまとカイトは女に堕とされたけど、フミコのその鏡で元に戻したって事?」


 フミカの問いにフミコが頷くと、フミカは微妙な顔となって、アンリとチャームの亡骸に目を向ける。


 「ていうかそういうのあったなら、なんでベルシの話をした時にそれを言わなかったの? そうすれば2人と戦わずに正気に戻せたんじゃないの?」

 「…………あ」


 別に批難されてるわけじゃないが、フミカに指摘されたフミコは顔面蒼白となった。


 「あわわわわ……言われてみれば、なんであたしそんな事に気付かずに……もっと早く気付いていればフミカが友達を斬るなんて事なかったのに……」


 フミコがガクガクと震えだしたので慌ててフォローを入れる。


 「ま、まぁフミコ! その金銀錯嵌珠龍文鉄鏡が確実に呪いを解除して正気に戻せるって保証はないんだ。フミカの話じゃ魅了(チャーム)はコンボが増える度に効果が増すっていうじゃないか! 気にするなよ?」


 そうフミコに言った直後、フミカがツッコんできた。


 「いやカイト、フミコにはそれでいいかもしれないけど、こっちは気にするからね? ていうか、その理論で行くとやっぱフミコは連れて行けないね? フミコはここに残って」


 フミカの指摘にフミコは「うそーん!」と言って固まってしまうが、次の瞬間何かに気付いた顔になると、勢いよくこちらを指さしてくる。


 「だったらかい君! あのエリオから能力を奪ったじゃない! そうだよ!! つまりはかい君もベルシとかいう奴と同じ事ができるって事なんじゃない? 魅了(チャーム)みたいに相手を堕とせる!! という事はあたしがベルシの魅了(チャーム)で堕とされても、かい君が堕とし返してくれたらいいんだよ!!」

 「は、はぁーーーーーー!?」


 興奮気味に言うフミコの指摘でようやく自分も気付いた。

 確かに悪役令嬢転生者エリオから光を浴びた相手を下僕にできる呪いの光を放つ鏡の能力を奪っている。

 しかしあれは使用すれば呪いが使用者に降り注ぐというものだったはずだ。


 だから異世界で転生者、転移者、召喚者から能力を奪った後はいつも次元の狭間の空間のトレーニングルームで能力のチェックをするが、あの能力だけはアビリティーユニット・ミラーモードに切り替えて能力チェックをしていない。


 そもそもトレーニングルーム内には自分の関係者しかいないため、あの能力のチェックはできない。

 そして新たな異世界にいって能力を試すという事は、まさしくこれから倒しに行くベルシみたいに赤の他人の女性を堕とすという事だ。

 そんな事したらフミコとケティーに確実に殺されるため実行できない、できるわけがないのだ。


 つまりは能力を使うとすればぶっつけ本番となる。

 個人的に実戦でそれはあまりしたくない……


 それ以前にあの能力は使用すれば自身に呪いが降りかかる。

 その呪いがどういったものかわからない以上は、あまり使いたくない。


 「あ、あのなフミコ……あの能力は」

 「カイト……ベルシみたいな事できるんだ……へぇー……最低」

 「フミカさん!? なんで俺最低な男認定されてんの? あの能力使った事ないんだけど!? 俺能力で堕とした女の子はべらせてないよね? 知ってるでしょ!?」

 「でもギルドメンバーの女子率高いよ? 男子まったくいないし」

 「いや、男女構成比率みたらそうだけどね!? 能力で堕として集めたメンバーに見える!?」


 フミカにジト目で睨まれてあらぬ疑いをかけられたが、もう何がなんだかわからない。

 これ以上はドンドン自分の評価と信頼が落ちていき、大切な何かを失う気がする。

 なので勢いでこの場を乗り切ろうと。


 「あーわかった! わかった!! よーしフミコ安心しろ!! 金銀錯嵌珠龍文鉄鏡をよこせ!! もしフミコがベルシの魅了(チャーム)にかかった時は俺がこいつで解除してやるし、それが失敗したら俺がフミコを堕とし返して、俺の魅力を再確認させてやるぜ!! フミカ、ベルシの魅了(チャーム)と違って俺の力は大切なフミコをこの手に取り戻すためだけの能力だって事を見せてやるよ!!」


 そう叫んでフミコの手を掴んでフミコを抱き寄せた。

 抱き寄せられたフミコは顔を赤く染めると。


 「もうかい君……みんなが見てる前で恥ずかしいよ。抱くならみんなが見てないところでしてほしいな? そういうとこだったらキスとかも……」


 そう言って幸せそうに目を閉じた。

 そんな自分とフミコを見てフミカはため息をつき、ココは怒りで一瞬その姿がギガバイソンに戻り、警備コントロール室でケティーがブチ切れて何かをぶん殴ったのか、インカムから物凄い音が聞こえてきた。


 うむ……何か、後々面倒が起きそうな種を蒔いてしまった気がするが、今は考えないようにしよう。

 走り出した列車は止まれない、一度乗ってしまったこの列車は途中下車はできないのだ。



 さて、そんなわけで結局、救援に向かうためトロッコに飛び乗ったのは自分とフミコ、フミカの3人だけで、救援メンバーもこの3人だけとなった。

 これには元より急ぐため最高時速のスピードを出す時にトロッコに乗れる人数が3人までという制限があるのも絡んでくるが、TD-66はオプションパーツを即装着でき、切り替えも即できるここで待機させておいたほうがいいだろうとなったためだ。


 そしてヨハンに関しては自分が召喚した武器を渡さない限りは現状では戦力とならないが、仮にフミコがベルシに堕とされて、それを能力で堕とし返すなんて事をやり合ってる場合、ヨハンにまで気が回らない可能性がある。

 フミコを堕とし返す際の呪いの反動で召喚などの能力が使えなくなると、何かあった時、ヨハンは丸腰となってしまうのだ。


 そうなるとヨハンの生存率は限りなく下がるため、ここでの待機となった。


 「やれやれ……本当にこれで大丈夫なのかな?」


 トロッコに乗り込んでフミカはため息をつくが、ウソでも今は大丈夫だと言うしかない。


 ベルシの魅了(チャーム)対策は金銀錯嵌珠龍文鉄鏡と自分の能力で何とかなると思うが、もう1つの思い当たる節に関しては慢心を生みかねないため黙っておく。

 それ以外の懸案事項は他でもない地下坑道に侵入したであろうギガバイソンたちだ。


 TD-66を小砦待機にした以上、ギルド<ザ・ライジン>の受け持つ小砦に向かうまでの通路の安全の確保は難しくなる。

 だからと言って地下坑道内を走って移動するわけにはいかない、やはりトロッコを走らせるべきだろう。


 では地下坑道内をどう安全に移動すべきか?

 悠長に考えて対策している時間はない、なのでトロッコを即興の装甲車両に改造する事にした。


 急ぎ駅や地下坑道内に落ちている鉄くずや錆びて廃棄された線路の断片などをかき集め、簡易錬成でそれらとトロッコを融合させて、装甲車両の外観を作る。


 車両の天井には銃座を作り、アビリティーユニット・高火力モード重機関銃スタイルのXM806重機関銃を設置する。

 銃座の隣にも天井を作り、そこからはフミコが顔を出して枝剣から大蛇を車両前方に展開できるようにした。


 車両の周囲には常にオートシールドモードを発動するようにして、防御力も即興だがバッチリ高めた。


 こうして、フミコが大蛇で前方のギガバイソンたちを薙ぎ払いながら、それを躱して接近してくる個体を自分がXM806重機関銃で撃ち殺せる装甲車両にトロッコが改造されると自分達はすぐに装甲車両へと乗り込んだ。


 フミカにはギルド<ザ・ライジン>の受け持つ小砦に到着するまでは操縦に専念してもらう。

 基本的に操縦系統は原型のトロッコから弄ってないため問題はないはずだ。


 「それじゃ行ってくる! 後のことは任せた!!」


 天井から顔を出して銃座に設置したXM806重機関銃を手にしながらヨハンに声をかける。


 「わかったよカイト! 気をつけて!!」

 「あぁ!! ちょっくら空賊連合とベルシってやつをぶっ飛ばしてくる!! ここもまだ完全に安全とは言い切れないから警戒は怠らずに頼む!!」


 そう告げたところで装甲車両は動き出す

 そしてスピードを増して地下坑道を一気に駆け出した。


 ついに空賊連合との決戦が始まる。

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