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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
12章:定例クエストをこなそう!

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空賊連合(1)

 コーサス要塞郡、そのメイン城砦である大砦。

 その中にある会議室には今、ヴィーゼント・カーニバルに参加してる数多くのギルドの中でも特に有力なギルドの幹部たちが集まってある議題を話し合っていた。


 その議題というのは他でもない、ギルドユニオンの宿敵である空賊連合が今回のヴィーゼント・カーニバルに介入しているのではないか?という件だ。


 情報を提供したのはAランクの冒険者ギルド<明星の(アシェイン)>のメンバーであるフミカ=ゲンナイだ。

 ギルド<明星の(アシェイン)>は今回のヴィーゼント・カーニバルには参加していないのだが、彼女はギルド<ジャパニーズ・トラベラーズ>のサポート役として単独参加している。


 そんな彼女はさきほど起こった出来事を会議室に集まった皆に伝えた。

 そして今、会議室内は困惑に満ちている。


 「空賊連合……しかもあの『空の貴公子』ベルシだと!?」

 「確かに今回のギガバイソンたちの行動は例年では考えられないおかしなものだったが……それが連中のせいだったとは」

 「ベルシが介入してきたとなると、操られた個体が1体だけとは限らないんじゃないか?」

 「これ、普通にヴィーゼント・カーニバルは現時点で打ち切って、今すぐ討伐隊を編成すべきじゃないか?」

 「今から森に入るのか? 何の調査もなしに危険すぎるぞ?」

 「連中がどれだけの規模できてるかわからないのに、そんな事できるか!」

 「だったら攻められるまで待ってるつもりか?」


 誰もが意見を述べるが結論がでない。

 無理もないだろう、この場において皆の意見をまとめられる人材がいないのだ。


 確かにヴィーゼント・カーニバルにはCランク以上の実力あるギルドが数多く参加しているが、一方で今回に限って言えばイレギュラーな事態が発生した際、リーダーシップを発揮できるギルドが不在なのである。


 理由は簡単、無干渉地帯における情勢の変化だ。


 空賊連合、キャプテン・パイレーツ・コミッショナー、邪神結社カルテル。

 これらギルドユニオンの敵対組織は近年その活動を活発化させている。

 そのためギルドユニオンは監視や牽制の意味もこめて、実力のある多くのギルドを最前線の砦に配備しているのだ。


 しかしそうすると、必然的に定例クエストでこうした不測の事態が起こった場合、皆をまとめられるギルドがいなくなってしまう。

 そういったわけで、今会議室に集まっているギルドの多くは実力はあっても、この集団をまとめあげて引っ張って行く力がないのである。


 フミカはそんな口々に意見を言うが、ただそれだけで話もまとまらず結論もでない会議の様子を見てため息をつく。


 (まぁ、こうなる事は予想できたんだけどね……でも、だからと言ってこのままにしておく事もできない。どうするべきかな?)


 周囲を見回しても、この場をまとめあげられそうなギルドは見当たらなかった。

 とはいえ、フミカはギルド<明星の(アシェイン)>の名前を使って自分がこの場を取り仕切るのも何か違うように思っていた。


 というより、フミカはそもそもリーダーとして組織をまとめあげられるような人間ではない。

 それは本人が一番よくわかっている。

 だから混迷する会議を見ても、何か意見を言う事はなかった。


 なのでフミカは、とりあえず学術ギルド<アカデミー>の面々にこの場を託すことにした。

 現在<アカデミー>の代表として会議に出席しているのは<アカデミー>の中でも最高齢の学者であるロバートだ。

 フミカはロバートに目配せするとロバートも頷き、懐から法廷の裁判長が使っている木製の小さなハンマー「ガベル」を取り出し、トントンと机を叩く。


 「静粛に!」


 ロバートがそう言うと、皆が話すのをやめロバートに視線を向ける。

 会議室が静かになったのを確認するとロバートはゴホンとわざとらしく咳込み、皆の顔を見る。


 「色々な意見があるのはわかる。だが、空賊連合が介入してきたとなればヴィーゼント・カーニバルをこのまま続けるのは困難だろう。とはいえ、なぜ今年に限って奴らは介入してきたのかの?」


 ロバートがそう言うとフミカが口を開く。


 「今年に限って介入してきたのではなくて、空賊連合は毎年介入しようとしてたんだと思う。そして前回まではまったくできなかった。でも今回は介入する事ができた……理由は簡単、今回はギルド<鷹の目>が参加してない」


 フミカがそう言うと、会議室にいた誰もが頷く。


 「確かにギルド<鷹の目>の連中、今回は対空賊連合との最前線であるヒトール砦に行ってて不参加だよな」

 「いつもはギルド<鷹の目>が森の中に入って見張り台と櫓を建てて対空警戒してくれてるからな」

 「今年は<鷹の目>がいないから誰も空賊連合の接近に気付かなかったのか」

 「<鷹の目>が不参加なのは最初からわかってたはず、なんで誰も<鷹の目>の代わりに空の監視をしなかったんだ?」

 「無茶言うな! ギルド<鷹の目>は対空賊連合に特化した集団だぞ? あんなのの真似事なんかできるわけないだろ!」


 再び会議室内が騒がしくなる。

 このままではギルド<鷹の目>がいないのに気付きながら対空警戒を代わりにやろうとしなかった犯人捜しに議題がすり替わってしまう。


 そんな会議の雰囲気にフミカは呆れてしまったが、ロバートは再びガベルでトントンと机を叩き、皆の注目を集める。


 「そこまで!! 今は過ぎてしまった事を言っても仕方がない、そうじゃろ? 今話し合うべきは空賊連合への対処じゃ!」


 ロバートの言葉で皆が再び静まりかえる。

 それを見て闘牛士ギルド<セニョール・マタドール>のギルドマスター、フランシス・ロメーロが口を開いた。


 「それはわかるが具体的にはどうするんだ? 空賊連合が介入してきた以上ヴィーゼント・カーニバルを続けるのは困難なのはわかる。だがそれは人間側の都合だ、繁殖期のギガバイソンはこちらの都合には合わせてくれないぞ? 朝になればこれまで通り、城壁にギガバイソンの群れはやってくる。それは放置か? ギガバイソンも城壁の補修も無視して森の中に空賊狩りに出掛けるのか?」


 フランシス・ロメーロの言葉に別のギルドの者が口を挟む。


 「城壁に群れがやってこない可能性もあるぞ? 聞いただろ『空の貴公子』ベルシがギガバイソンの1頭を支配下に置いて、その1頭が群れを強制的に統率した。って事はすでにベルシがすべてのギガバイソンを支配下に置いた可能性だってあるんだぞ?」


 その言葉に誰もが頷く。


 「確かにな……でもその場合、すべての群れをどこかの砦にぶつけて潰しにかかると思うけどな?」

 「いや、コーサス要塞郡の砦のひとつを潰すよりもギガバイソンの群れをドルクジルヴァニアに向かわせて街に被害を出させるような気がする」

 「まぁ連中は空賊だしな、ギガバイソンの群れに襲われて大パニックになったドルクジルヴァニア市内を上空から襲うってのは考えられる」

 「いや、それをするには連中にもリスクが……」


 再び会議室が騒がしくなるが、ここで今までこの場にいながら発言する事なく黙って聞いていた青年が両手でバン!と机を叩いて立ち上がる。


 「さっきから聞いてりゃどうでもいい事を延々ベラベラ言い合いやがって! ようは森の奥に潜んでいる空賊連合の連中をぶっ叩けばいいんだろうがよ!!」


 そう皆の前で言ったのはギルド<深き森の狩人>のギルドマスター、ロギ・フードだ。

 弓矢の名手である彼の実力は誰も認めており、その名は無干渉地帯全域に轟いている。


 そんな彼をロバートが。


 「そうだとしても森の奥に潜んでいる空賊連合の規模がわからない事には迂闊には動けん。どれだけのギガバイソンを従えたのか、もしくは従えていないのかもわかっとらんのじゃぞ?」


 そう諭すが、しかしロギ・フードは鼻で笑うと。


 「だったらオレが今から偵察に行ってくるよ! 夜ならギガバイソンたちも活動してねー、気兼ねなく空賊どもの根城を探せるってもんだ! オレ以外に適任がいるか? いねーだろ!」


 ドヤ顔でそう言いきった。

 そんなロギ・フードにフミカはため息をつきながら。


 「確かにあなたなら偵察には適任かもしれない。日中であろうと夜であろうと森の中の任務において、あなたの右に出る者はいないと思う」


 そう言うとロギ・フードは満面の笑みを浮かべ。


 「そうだろそうだろ? オレ以外にこれをやれる奴はいねーよ! つーか偵察どころかオレが空賊どもを全員狩りとってきてやるぜ?」


 自信満々に言うが、しかしフミカは。


 「それでもあなた1人でどうにかできるとは思えない。仮にギガバイソンたちがすべてベルシの支配下に堕ちてた場合、夜であってもベルシの指示に従って襲ってくる可能性はある」


 そう指摘するがロギ・フードは気にせず。


 「警鐘を鳴らしたつもりか? 確かに噂に聞く『空の貴公子』ベルシ様が相手なら何が起こっても不思議じゃないな? けどよ、それがどうした?」


 ニヤリと笑って指をパチンと鳴らす。

 すると会議室の扉が開いて、外に待機していた数名が会議室内に入ってくる。


 入って来た彼らはギルド<深き森の狩人>のメンバーであった。


 2メートルはあろうかという身長が特徴である「のっぽのジョン」。

 修道士でありながらその本分を忘れ、1日中飲んだくれている酒豪、「ダッチ修道士 」。

 吟遊詩人でありながら弓の腕はロギ・フードと同等かそれ以上だと言う「ウィル・アラン」。

 ロギ・フードの妹であり、家出して密猟者に身をやつしていたが再開したロギ・フードと戦って負け、仲間となった「密猟者チャーム」。

 そしてお転婆な元お嬢様でロギ・フードの恋人である「アンリ」。


 そんな彼らの元にロギ・フードは歩いていくと。


 「ギルド<深き森の狩人>は誰もが森のプロだ。オレだけじゃなくオレのギルドが偵察に向かう。それで文句はないだろフミカ?」


 そう言ってニヤリと笑う。

 しかしフミカはギルド<深き森の狩人>のメンバーを見て眉を潜める。


 「確かにギルド<深き森の狩人>なら問題はないかもしれない。でも相手はベルシ。偵察に向かうならチャームとアンリは同行させないほうがいい」


 フミカのその言葉にチャームとアンリが反応する。


 「ちょっとフミカさん、それどういう意味!? わたしが兄さんたちの足を引っ張るっていいたいの!?」

 「聞き捨てなりませんねフミカ! わたくしの実力知らないはずがないでしょ?」


 そう言って怒る2人を見てフミカはため息をつく。


 「2人はベルシと戦ったことないんでしょ? ベルシがどういった能力を持ってるかも」

 「そりゃ名前くらいしか知らないけど」

 「森の中での依頼が多い分、空賊連合と戦う機会はそんなにないですしね」


 チャームとアンリの言葉を聞いて、フミカはより真剣な表情となる。


 「だったらやめといたほうがいい。ベルシは……」


 しかし、フミカがチャームとアンリに伝える前にロギ・フードが言葉を遮る。


 「あーわかったわかった! 2人が同行するのが不安だってフミカの気持ちはよくわかった! けどな? オレらは森の中においては他の誰にも絶対負けねープロだ、そうプロなんだよ! そのプライドに泥を塗るつもりならいくらあんたでも許さねーぞ?」


 そう言ってロギ・フードはフミカを睨むとギルドの面々を引き連れて会議室から立ち去っていく。


 「まぁ、忠告はちゃんと聞く。今夜は偵察だけにしとくさ」


 そう言い残してギルド<深き森の狩人>はズエの森へと向かっていったのだった。

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