次元の狭間の空間にて(5)
次元の狭間の空間にあるアビリティーユニットをメンテナンスするための施設。
その中にある医療施設であるメディカルセンターは基本的に人間のための施設である。
これはフミコが仲間になる前、カイトがまだ1人(当時すでにケティーとは知り合っていたが、その時はまだ売店の店員と客の関係で仲間とは言えなかった)の時にプログラミングの能力で作った施設のため、カイトが自身の健康状態をチェックするのとトレーニング中に負傷した場合に対応する事しか想定していないかったから当然なのだが、検査機器も治療薬なども人間のものしかメディカルセンターには置いていない。
なのでココを次元の狭間の空間に連れて来ても即座に検査をする事はできなかった。
とはいえココは人間の姿に変化しているため、ヒトとして検査すればいいのでは?と考えるかもしれないが、本来の姿の健康状態を調べない限り、正確な事はわからない。
そこで嫌がるココをなんとか説得して、一旦ギガバイソンの姿に戻ってもらい、本来の姿の健康状態をチェックする事になった。
とはいえメディカルセンターにはさきほど述べた通り、人間を検査する施設しかない。
そこで新たにギガバイソンを検査できる巨大な検査施設をプログラミングの能力で追加し検査を行った。
その結果は予想通り……家畜された動物やペットとして飼われている動物と違って野生の魔物だ。
まず持ってその体が綺麗で健康そのものなわけがなかった。
ココの体には多くのシラミ、ハジラミ、食皮ヒゼンダニなどがくっついてた。
典型的な疥癬症である。
さらに体内を調べればコクシジウム症を患っており、線虫などの寄生虫も多く発見できた。
こればかりは家畜として飼われていても感染してしまう。
ならば野生の魔物ならば仕方がない事だろう。
とはいえ、放置しておいていいわけがない。
これが人間態にどう影響するか未知数だからだ。
なのでココには即注射で寄生虫駆除剤を投与したのだが、ココが暴れ回ったため引き抜く際に針が折れてしまった。
そんなわけで本当に投与できたのか疑問符が湧いたので背中にかけるだけのプアオンタイプの薬も試した。
このプアオンタイプの薬は疥癬症にも有効でありダニ、シラミ、ノサシバエ、マダニなどの駆除にも効くのだとか。
なのでこれでまずは一安心かとも思ったがココが体をブルブルと震わせてせっかく背中にかけたプアオンタイプの薬を周囲に弾き飛ばしてしまった。
一様は注射もしているから大丈夫だとは思うのだが、体についているダニやらシラミやらはこれ効果なくなってしまうのでは?
そう思い、まずはココの体を全身くまなく洗浄する事になったのだ。
これにはカイトも加わる予定だったがフミコとケティーが頑なに拒否した。
なのでカイトが自身の身体検査を行っている間に水着姿になった女子一同でココの体(ギガバイソンver)を綺麗にしよう!シャワー大作戦が決行させる事になったのである。
「うーん、トレーニングルーム内のシャワールームをこいつの体を洗うためだけに改造してよかったわけ? この巨体洗うの今回だけでしょ?」
フリルのビキニ水着を来たフミコは口を尖らせてそう言いながらモップでゴシゴシとココの体をこする。
そんなフミコの不満を聞いて、ココの体を挟んで反対側にいたチェック柄の三角ビキニ水着を着たケティーが。
「どうせ川畑くんがまた元に戻すと思うから平気じゃない? それよりもなんで巨大な魔物の体をあたし達が洗わないといけないわけ? 車の洗車機に突っ込めばすむ話じゃないの?」
そう答えた。
それをフミコの隣で聞いていたリーナは苦笑しながら。
「それだとココさんに過度なストレスがかかるからダメだって話になったじゃないですか」
そう言うとフミコが鼻で笑いながら。
「魔物のストレスとか気にする必要なくない?」
「そうよね、むしろ快感とか言い出すかもよ?」
そう言って、ケティーも同意する。
そんな2人に意見にリーナは苦笑しながらホースをココの体に向けて、ココの背中に水をかけている。
そんな3人と違ってリエルは動き回って念入りにココの体をモップでこすり、目でダニやらがいないかチェックしていた。
そのリエルの働きっぷりにケティーが眉を潜める。
「リエルのやつ、なんであんなはりきってこいつの体洗ってやってるわけ?」
そんなケティーを気にもとめずリエルは黙々と作業をこなす。
おかげで排水溝へと流れていく水は当初、黒く汚れていたが、今は汚れがなくなっていた。
ココの体についていた汚れやダニ、ノミ、シラミなどが洗い流されて綺麗になってきた証拠だろう。
ココもさきほどから笑顔で気持ちよさそうに鳴いている。
「ふぅ……これで汚れは洗い流せたで……後はシャンプーしてあげて、体乾かしてやってクレンジングやな! まだまだやる事山積みやで!」
そう言ってリエルは額の汗を拭う。
そしてニヤリと笑うと。
「ギガバイソンの体が綺麗になったら次は人型になってもらってそっちの検査やな。人型で問題あらへんかったら晴れてカイトの部屋に出荷やで。へへへ……悲願までもう少しや!」
小さな声でそんな独り言を言い出した。
しかしリエルは気付いていなかった……ケティーがリエルを不審に思い、気配を消してこっそり背後に近づいていた事に。
そしてリエルのその独り言を聞いてケティーが引き攣った笑顔でリエルに声をかける。
「こいつを川畑くんの部屋に出荷? 悲願? リエル……それは一体どういう事かな?」
背後からの突然の問いかけにリエルが「ひぃ!」と声をあげて驚き振り返る。
「ケ、ケティー! いつからそこにいたんや? 気味悪いな! 背後に立つんやったら一声かけてーな! 心臓に悪いで!」
思わず飛び跳ねて距離を取るリエルを見てケティーから怒りのオーラがにじみ出る。
「リエル……今までは冗談で川畑くんにちょっかい出してると思って大目に見てたけど……まさか本気で裏切る気? しかもこいつを? 何考えてるのリエル?」
「ちょ、ちょっと落ち着きやケティー! まずは話を聞かんかいな! ちゅーか大目に見てたて、今までも冗談と捉えず本気に捉えとってからかいがいがあったでケティーは!」
そうリエルは笑いながら言うがケティーは今冗談が通じない雰囲気で目が殺る気モードだ。
あ、これはあかんわ!と察したリエルは即座にケティーの元に駆け寄り、ケティーの肩に腕を回すと顔を近づけ、耳元で囁く。
「実はな、とてつもない可能性っちゅーもんに気付いたんや! これは商人のケティーにとってもええ話かもしれへんで?」
「は? とてつもない可能性?」
眉を潜めるケティーにリエルは笑顔で力説する。
「せやで! ええかケティー、ヴィーゼント・カーニバル初日に食べたギガバイソンのステーキめちゃめちゃうまかったやろ? 思いだしてみ?」
「まぁ、おいしかったけど」
「せやろ? うまかったやろ? で、考えてみ? 野生で食用として家畜されてないのにあのうまさやで? って事はやで……肉であんだけって事はミルクはどんなうまさなんやろな?」
そう言ってリエルはニヤリと笑う。
そんなリエルを見てケティーは驚愕の表情を浮かべる。
「リエル……突然何言い出すの? それ絶対獣臭くてクセあるやつでしょ」
「ケティー、それは山羊のミルクちゃうか? ちゅーか行商人ならわかるやろ? 乳牛の品種改良のためにバイソン種は何度も交配してきたんや、つまりは乳牛の一部なんやで? 魔物とはいえ、ギガバイソンにもその可能性はあるんとちゃうか? うちはそう思うで! まさに乳製品の革命や!!」
そう拳を握りしめて言うリエルをケティーは冷めた目で見る。
「いや……さすがにそれはない」
「何やケティー、そないな冷めた目して……まぁ確かに実物を飲んだ事ないから確証はできへんけど、つまりは実物を飲まな始まらんっちゅー事やで? わかっとるか? 酪農家が家畜しとる乳牛なんかは発情期がだいたい20日から21日の周期で妊娠するまでやってくるさかい、チャンスはいくらでもある……それでも牛が一生のうちに生み出す卵子の数は決まっとるさかい、発情期がきたら絶対に妊娠させないとミルクは製造できんし、貴重なミルクを生み出せる卵子を台無しにする……それは農家にとって死活問題や。チャンスが多い農家でそうなんやで? せやったらうちらはどないや? ギガバイソンは発情期がこの時期だけ言うやないか! つまりはチャンスは今しかないんやで? 今ここでカイトがこの子を孕まさな、うちらはギガバイソンのミルクにありつけんのや!! ケティー、親友としてうちはケティーの恋は応援したい、せやけど事態は一刻を争う……事の重大さ、理解してくれた?」
そう真面目な顔でリエルは告げるが、ケティーは無表情のままだった。
「いやリエル、あんた何言ってるの?」
そう言ってギガバイソンの体をココを指さし。
「そもそもリエルの言うように、こいつからミルク搾乳するとしてどうすんの? この状態にして搾乳すんの? それとも人間の体で搾乳すんの? それもう色々無理があるでしょ? 商売にもならんわ!」
そう叫ぶが、リエルは極めて冷静に。
「いやいや、うちがそのミルクかそこから生み出される乳製品を堪能できたらええんや、だから流通できる搾乳量とかどうでもええわ」
などとぬかした。
いや、それ説得中の商売人に一番言ったらダメなやつでしょ。
「リエル、それ行商人にまったくいい話になってないんだけど!? というか仮にこいつが川畑くんの子を孕んだとして、こいつミルク絶対提供しないと思うけど!?」
ケティーがそう怒鳴った直後、ココが突然大声で鳴いて両前足を持ち上げて暴れ出した。
「わ!? ココさんごめんなさい!! ちょっと水の勢い強すぎたですか!?」
ケティーとリエルが揉めている反対側、フミコの横でホースを手にしてココの体に水をかけていたリーナが慌てて叫ぶ。
目立った汚れも取れてきて、綺麗になってきたと思ったのでリーナがココの体全体に水をかけようと蛇口を捻ってホースから出る水の勢いを増したのだ。
結果、今まで気持ちよさそうに鳴いていたココは突然の事に驚いてしまった。
ココは持ち上げた両前足を床に勢いよく下ろすと、ドン!と床が振動した。
「きゃ!?」
「わっと!? ちょっとココ!! いきなり何暴れ出してるの!? 危険と感じたら討伐するって約束忘れたの!?」
フミコがモップを構えてココに叫ぶがココには聞こえていない。
ココはビックリしたまま周囲を見回している。
「こ、こいつー!!」
フミコはココのそんな態度に腹が立ってモップで叩きつけてやろうかと思ったが、この時フミコは隣のリーナがさきほどの振動で転んだ事に気付いていなかった。
というよりかは視界に入っていなかった。
なので……
「いたっ!!」
ホースを持ったまま振動で足を滑らせ転んでしまったリーナは手にしていたホースをそのまま手放してしまう。
とはいえ、ホースからはまだ勢いよく水が噴射しており、制御を失ったそれは一目散にフミコを襲う。
「ココいいかげ………ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ココをモップで殴ろうとしたフミコはそのままホースの噴射の直撃をくらい真横に倒れて、しばらく水に流されるように床を滑っていく。
この時バスト部分のブラ水着が噴射の勢いのせいで吹き飛ばされてしまったため、フミコは上半身裸の状態になってしまった。
「いたた……あ! ふ、フミコお姉ちゃん!! ごめんなさい!!」
足を滑らせ転んでしまったリーナはこの事態にすぐに気づき、起き上がってフミコの元に駆け寄ろうとするが、すぐにホースを踏んづけて再び転んでしまう。
「きゃ!?」
その事でホースが位置を変え、再び噴射がココの体を襲う。
ココは再び驚いて大きな鳴声を上げると両前足を持ち上げて暴れ出した。
「な、なんや!? 駆除剤に抵抗する体内の寄生虫がこの子の体を乗っ取って暴れだしたんか?」
「リエルそんな事あるわけないでしょ!」
「いや、異世界の寄生虫ならやりかねんで!!」
ココが暴れ出したのを見て慌てるケティーとリエルは直後、ココが両前足を持ち上げて、後ろ足だけで立ち上がった時に反対側から噴射してきた水(リーナが踏んづけて転んだ事によって向きが変わったせいなのだが)を真正面から浴びてしまう。
「きゃぁぁぁ!?」
「な、なんやこれーーー!?」
2人は叫びながら水圧に押し倒されてそのまま壁際まで水に流されながら滑っていく。
そして真正面から勢いのある噴射をまともに受けて水着が無事なわけがない。
フミコ同様にケティーもバスト部分の水着のブラが吹き飛んで上半身裸の状態になっていた。
リエルにいたってはココ人間態の登場によって失われた巨乳キャラの尊厳を取り戻すべく、自身のスタイルを最大限に強調してアピールできる黒色セクシー紐ビキニ水着を着ていたため、当然ながら紐ブラ&紐ショーツが強力な噴射に耐えらるわけもなく、こちらは完全に上も下も水着が吹き飛んで完全に全裸になっていた。
そして驚いて立ち上がったココは、今回は両前足をドンと床に下ろした際、水に足を滑らせてそのまま倒れてしまう。
ギガバイソンの巨体が倒れた事で再び振動がシャワールーム全体を襲ったが、ココはそのまま目を回して気を失ってしまった。
「いたた……み、みなさん大丈夫ですか?」
リーナが頭を押えながら起き上がって周囲を確認した時、リーナ以外の全員が床に倒れている状況だった。
「えーっと……どうすべきでしょうかこれ?」
リーナは困ったように笑って、とりあえずは脱げてしまったみんなの水着を回収すべきかと思って歩き出す。
ちなみにリーナはワンピースタイプの水着であったため被害はなかった。
リーナがさて壁際まで流されたフミコの水着の元に向かおうとしたその時、ドドドドと音がして誰かが慌ててシャワールームの中に入ってくる。
「フミコ! ケティー! リエル! リーナちゃん! どうした!? トレーニングルームに入った瞬間、なんかすごい振動と悲鳴が聞こえたんだけど、大丈夫か!? まさかココが暴れ出したのか!?」
そう叫んでシャワールームに入ってきたのはカイトだ。
さきほどのココが暴れた2回の振動で心配して慌てて駆けつけたのだろう。
とはいえ、その原因はリーナのホースによる水かけの噴射の勢いを間違ったのが原因だ。
なのでリーナは困ったなと笑って、どう説明しようと考えてすぐに気付く。
(あれ……? そういえば今の状態って……)
思ってリーナはゆっくりと視線を床へと移す。
そこには自分以外の全員が水浸しの床に倒れているが、ココはギガバイソンの姿なので問題ない。
しかし、フミコ、ケティー、リエルの3人は水着のブラが吹き飛んでいるため胸を露わにした状態で倒れていた。
リエルにいたっては完全に全裸状態である。
その事を確認して視線をたった今シャワールームに入ってきたカイトに移す。
当然ながらカイトもすぐに室内を見て3人が裸の状態であるのがわかった。
そしてどうしたらいいのか困ったのだろう、赤面した顔を背けて。
「え、えーっと……一体何がどうなって……?」
そう言ってカイトはとりあえず、一旦はシャワールームから退散しようとした。
しかし、いまだホースからは水が流れ出した状態のままのため、カイトが入って来た入り口付近も水浸しであり。
「うわ!?」
カイトはそのまま足を滑らせて中へと倒れこみそうになる。
「ま、マスター!? 危ない!!」
なのでリーナは慌ててカイトの元へと駆け寄ろうとするが、再びホースに足を引っかける。
「わわ!?」
そして再び盛大にこけてしまった。
しかし、今度は床ではなく足を滑らせて倒れて滑ってきたカイトの上にである。
「きゃ!? いたた……マスター、ごめんなさい」
リーナは慌てて起き上がるが、時すでに遅くカイトは足を滑らせて床に倒れたのと、さらにリーナに上から倒れられた影響でそのまま気を失ってしまった。
シャワールーム内で唯一無事であるリーナは自分以外がノックダウンしているシャワールーム内を見回して。
「これ、どうしたらいいの?」
そうつぶやくのだった。




