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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
12章:定例クエストをこなそう!

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ヴィーゼント・カーニバル(17)

 「えーっと……マスターこれはどういう状況ですか?」


 小砦の前まで戻ってきた自分たちをリーナが困惑した顔で出迎えた。

 無理もないだろう……なぜならば。


 「カイトさま! はやくお部屋に行ってまぐわいましょう! ココもう我慢できません!」

 「何言ってんだこの牛!! いい加減にかい君から離れろ!!」

 「さっさと川畑くんから離れんかこの牛が!! てかまず渡した服着ろ!! いつまで全裸で川畑くんにくっついてんだ!」


 女子3人が自分の周りにベッタリひっついてわいわい騒いでいたからだ。

 フミコとケティーが自分の腕を取り合って何かしら喧嘩しているのはいつもの事なので、リーナもそれだけなら特に気にしなかっただろう。

 しかし今回は違う。


 フミコとケティーの他にもう1人、全裸の美少女が追加されているのだ。

 しかも全裸の美少女はフミコとケティーを押しのけて自分にくっついている。

 そんな全裸の美少女にフミコとケティーが自分から離れろと言うが、全裸の美少女はまったく聞く耳を持たなかった。


 「ははは……リーナちゃん、とりあえず説明は小砦の中に入ってからでいいかな? 誰も来ないだろうけど、さすがに野外でこれは色々とまずいからね」


 そう苦笑しながら言うとリーナが慌てて扉を開ける。

 なので素早く小砦内に入った。

 周囲を確認せずに入ったが誰か他のギルドの面々に見られてやしないだろうな?

 後でリエルにドローンの映像で確認してもらおう。



 さて、この全裸の美少女についての情報はまったくない。

 なんで最果ての小砦(ホーム)に戻ってくるまでに何も聞いていないのか?と思うかもしれないが、まともに聞ける状態ではなかったのだ。


 全裸で自分に抱きついてくるこの美少女にフミコがブチキレ、駆けつけたケティーもチェーンソーやハンマードリルを手に怒り狂って暴れ回るしでそれどころではなかった。

 2人をなんとかなだめながらここまで帰ってきたのだ。

 むしろこんな状況で事情聴取できるスキルを持ってる転生者がいたら今すぐ教えて欲しい、すぐにその能力を奪いに行くから!


 そんなわけで小砦に入ってからも一悶着あったがなんとか落ち着いて話せる状態になった。

 今は元牛の全裸の美少女もこちらが渡した服をなんとか着てくれている。

 そして、ミーティングルームに集まってこの子の事について皆に話したのだ。


 「……そ、そんな事があったんですねマスター。だからフミコお姉ちゃんもケティーお姉ちゃんもすごく怒ってたんですね」

 「え? ていうかこの人がギガバイソンってまだ信じられないんですけど……」


 リーナはいまだ怒り心頭な様子のフミコとケティーを見ながら苦笑いを浮かべるが、エマは困惑した様子であった。

 ヨハンはどう反応したらいいのやらといった感じで困った表情をしていたが、フミカは少し考え込んで。


 「ねぇ、リエルはギガバイソンがこの子になる瞬間をドローンとかいうマジックアイテムで最初から見ていたのよね?」


 リエルに尋ねる。

 それまでニヤニヤしながら話を聞いてたリエルはフミカに尋ねられると。


 「せやで。正直ビックリ仰天っちゅー感じやろうけど、映像はバッチリ記録しとる」


 そう言ってサムズアップして見せた。

 フミカは「なるほど」と言って頷くと。


 「ならこの子がギガバイソンって事は確定なんだろうけど、問題はどうしてこの子がカイトにご執心なのかって事だよね」


 そう言ってギガバイソンが変化した女の子を見る。

 フミカに続いて他の誰もが彼女を見るが、当の本人は注目されても気にすることなくずっと自分の事ばかり見ていた。

 どうやら彼女にとっては周囲の目は気にならないようだ。


 「はぁ……まぁ、聞いてみない事には始まらないよな」


 そうため息をつき、彼女のほうを向く。

 とはいえ、彼女はずっと自分の事しか見てないのですぐに目が合った。


 そしてギガバイソンのメスだとはわかっていても、人の姿をしている今はとんでもない美少女の容姿をしているため意図せずともドギマギしてしまう。

 そんな自分の様子を見てフミコとケティーがギロっと睨んできた。


 まずいまずい、このままでは2人に刺されるかもしれん……

 ラブコメ主人公でもないのに攻略失敗したバッドエンドの死亡エンドとか洒落にならん。

 ゴホンとわざとらしく咳き込んで頭を切り替え、彼女に質問する。


 「なぁ、君はなんで俺の事を知ってたんだ? どうして人の姿になって俺の前に現れた? ヴィーゼント・カーニバルの期間中、メスは小高い丘の上にずっといるんじゃないのか?」


 その質問にまず彼女は笑顔でこう答えた。


 「ココですよカイトさま」

 「は?」

 「だからココです。ココの名前はココ! そう呼んでください」


 そう言う彼女を鑑定眼で見てみる。

 確かにステータスには「ココ」と名前が表示されていた。


 「わかったよココ」

 「はい! カイトさまのココです」


 そう嬉しそうに言うココをフミコとケティーが睨むが本人はどこ吹く風であった。

 まるでこの空間には自分とココしかいないとでも言うように2人を無視して質問に答える。


 「えーっと、ココがどうしてカイトさまの事を知っているのかですけど……それはですね、カイトさまの活躍を丘の上から見たからです! カッコよすぎて惚れちゃいました!! えへへ」


 そうココは頬に両手を当てながら嬉しそうに言う。

 うん、まぁギガバイソンのメスが自分を知る手段ってそれしかないよね……


 そもそもヴィーゼント・カーニバルはメスたちが小高い丘の上から城壁に勇猛果敢に挑んでいくオスたちを品定めするイベントだ。

 ならば当然、脱線を起こしたギガバイソンに対処する人間の姿もギガバイソンのメスたちは目撃してる。


 そして自分は初日にさきほど襲撃してきたレヴェントンの脱線に対処している。

 というか脱線に対処したのはその時だけだ。


 (あの時か……まったく、つまりは初日からこうなる事は確定していたって事じゃねーか)


 ため息をつきたくなるが、今はそれを言っても仕方がない。

 なのでココの話に耳を傾ける。


 「実はココ、正直カイトさまたちヒューマンが言うところのヴィーゼント・カーニバルにまったく興味なかったんですけど、ボスや母の顔を立てる意味で仕方なく参加したんです。でも正直退屈で退屈で……だからほとんど昼寝してやり過ごそうとしたんですけど、たまたま参加してるフリして砦のほうを覗いた時にカイトさまの活躍を見たんです! なんというか、その時ビビビっときちゃいまして、初めて他の皆が発情する気持ち、わかっちゃいました。そこからはずっとカイトさまを目で追ってましたよ、えへへ。だってカイトさま以外に興味がわかなくなっちゃったんだもん。だから夜通しずーっと、カイトさまを見てましたよ」


 ココはまるでのろけるように語り続ける。

 え?夜通し見てたってどういう事?

 牛って透視能力あるの?


 てか応援先の小砦から最果ての小砦(ホーム)に戻ってくる時は絶対に地下道通って、しかもトロッコ乗ってるんですけど、なんで地上から俺の位置追えるの?

 意味がわからない……

 なんだか怖いんですけど?


 そんな事を思っていたが、口には出していないのに、こちらの疑問を感じ取ったのか、ココが笑顔でこう言った。


 「あ、カイトさまをどうしても見失いたくないから、カイトさまが建物の中に入ってからもずーっと聞き耳をたてて、全神経を集中して音を追ってたんですよ! えへへ、だからカイトさまがどこに行ったのかずっと把握してましたし、カイトさまのお名前もわかったんですよ?」


 ココのそんな言葉に思わず全身が寒気に襲われる。

 え?何それ?怖い……

 ていうか牛ってそんな聴力よかったっけ?

 いや、ギガバイソンって魔物だけどさ……それにしたって怖い。

 意識を集中して、そんなめっちゃ遠い先の音聞き分けられるの?

 追跡できるの?


 怖い……この牛の魔物怖い……

 ここにきて初めて、本格的にこの可愛い顔した雌牛の魔物に恐怖を感じたのだった。

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