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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
3章:ロストシヴィライゼーション

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ロストシヴィライゼーション(2)

 桟橋を出た先は瓦礫の山だった。

 かなり広い範囲が丸々瓦礫で、時折建物らしき物の支柱が建っているがそれ以外の構造物はこの周囲には見当たらなかった。

 疑似世界と言うが要は廃墟や遺跡の寄せ集めだ。しかも世界から存在を忘れられるほどに放置されたものなのだから歩けるスペースを探すだけで至難の業である。


 「しかしこれをずっと進むのか? 一体どれだけの広さなんだ?」

 「まぁ淡路島ほどの大きさかの? もしくはグアムか……まぁそのあたりじゃ」


 瓦礫の山を見渡しながら言うと肩に乗っているカグが笑いながら答えた。

 それ結構な規模の広さじゃねーか? どう考えても1人で歩いて隈なく散策できる面積じゃない。思わずため息をついてしまった。


 「おい、それ洒落になんねーぞ?」

 「心配するな、隅から隅まで見て回るわけじゃない。言ったじゃろ? これの元凶は疑似世界の中心にいると」


 言ってカグはクチバシで顔を突いてくる。


 「痛っ!? 何すんだ!」

 「あれを見ろ」

 「?」


 言われた方を見ると、ここからは遠いが上空に青白い光を放つ巨大な構造物があった。

 その形は何のひねりもない長方形。ビルか何かかもしれないが、ここから見る限りでは壁に窓などの類いもオブジェも確認できない。

 次元の狭間は何もない真っ暗な空間なため、あの青白い光だけがこの疑似世界を照らす灯りとなっている。


 「あれがそうなのか?」

 「そうじゃ……この疑似世界の中心、あれを目指せば良い。他は気にするな」


 カグは気にするなと言うがこの瓦礫の山を見るに、真正直に最短直線コースはほぼ無理だろう。

 歩ける箇所を探しながら、時に迂回しないといけない場所もあるに違いない。やれやれ、これは骨が折れそうだ。


 「はぁ……なんだが時間がかかりそうだな」

 「文句を言わず足を動かせ。立ち止まっていても疑似世界の中心は向こうから来てくれないぞ?」

 「うるせ、わかってら!」


 ただ肩に乗っかってるだけのカラスに言われてイラッときた。

 言われるまでもない、とにかく先へと進むことにする。


 ある程度進むにつれて景色がガラっと変わってきた。

 さきほどまでの瓦礫の山から一変、木造の構造物や橋などが多く目立つようになったのだ。


 なんというか東南アジアの山岳民族の住居に似ているような気もする。

 とはいえ、所々見たこともない装飾も目につくのだが、まぁ、別段東南アジアの建築に詳しいわけではないから自分が知らないだけかもしれないが……


 進むと木造の構造物は壊れたり倒壊したりしたものが多く目立ってくる。

 しかし、それもある一定を過ぎると今度は石造りの神殿のような景色に変わった。

 それはどこか中東やアラブ圏の石造りの神殿を連想する建築物であった。


 「なぁ、これらは異世界の失われた文明なのか? それとも地球のなのか? なんだか地理や世界史の授業で見たような記憶があるんだが?」

 「どっちもじゃの。ここは次元の狭間じゃ、ありとあらゆる世界の忘れ去られた遺跡が彷徨っておる。地球も例外ではない。地球とて異世界から見れば自分たちの世界と違う異世界なんじゃからの」

 「そりゃそうか……」

 「まぁ、似たような建築を見て妙な錯覚に陥るのは仕方あるまい? 所詮辿った歴史は違えど霊長類ヒト属として似たような進化を遂げた人類なら思考回路も大体似てくる。建築に関してもそれは同じじゃ」

 「ふーん」


 カグの言葉でふと異世界の人間は種としての分類はどういう位置づけなのかと気になった。

 最初の異世界では魔王の軍勢は魔族、2つ目の雑貨店の世界ではエルフやドワーフなどと言ったファンタジーバリバリな種族がいたがあれらは一体学術的にどういう位置づけにされるのか?

 ヒトの亜種になるのか? 地球の現生人類と異世界の人類は当然違う祖先を持つからヒト亜科ヒト族ヒト亜族までは同じでもホモ・サピエンスと近い亜種ではないだろうが……


 などと珍しく苦手な理系分野に思考を巡らせているとカグが不服そうにこちらを見てくる。こちらから質問したのに反応が薄いのが気にくわないのだろう。


 「興味ないか?」

 「いや、そんな事ないよ? ただ異世界人もホモ・サピエンスの一種なのかネアンデルタール人なのか異世界固有名の何とか人なのかと気になっただけで」

 「その話は聞かせてやれんこともないが、恐らく貴様が一番苦手とする分野でとても長ーくなるぞ?」

 「なら遠慮しとくよ」


 言って懐からアビリティーユニットを取り出す。


 「それにそんな悠長に話を聞いてられそうにないしな」


 グリップのボタンを押してレーザーの刃を出す。


 「ふむ、次元の迷い子か……まぁいて当然じゃの。疑似世界とはいえ、ここは次元の狭間なのじゃから」


 中東やアラブ圏の石造りの神殿を連想させる建物の中や柱の陰、階段の先から続々と次元の迷い子が姿を表す。

 その姿は地球で見た怪人のような異形というよりは曖昧な輪郭の人間の体に狼や鷹、ワニといった獣の頭をした獣人のようだった。


 「次元の迷い子に統一性はない、次元の狭間に追い出された者のなれの果てじゃからの……彼らは恐らくはこの遺跡が文明を築いていた頃の関係者じゃろ。門番かあるいは警備兵か軍人か……何にせよここに執着しておる亡霊じゃ」

 「まぁ、倒すことに変りはないがな」


 地面を蹴って一番近くにいた次元の迷い子に斬りかかる。

 次元の迷い子は槍のようなものを持っていたがそれを振るより速く懐に潜り込みレーザーブレードで胴体を切り裂く。

 槍と剣では槍のほうがリーチが長く圧倒的に有利だが、一点に攻撃が集中する槍に対して懐に潜り込みさえすれば逆に槍では剣に対処できない。

 故に槍を相手にする場合はいかに速く相手の懐に入れるかが鍵となる。それが出来なければ実際の所、槍は剣より勝るのだ。


 (次元の迷い子に知性があるのかはわからんが、こちらの動きを読んだり対処される前にケリをつける!)


 素早い動きで数体を切り裂いていく。トレーニングルームでの特訓の成果が出たようだ。


 (とはいえ、数が多いな)


 周囲の数体は素早く倒せたが離れたところにいる個体までは手が出せない。

 数体倒した所で次元の迷い子たちは一斉に引いて距離を取りだした。そして槍の矛先をこちらへと向けて威嚇してくる。こうなると中々剣では攻め込みにくい。


 (わざわざ串刺しに成りに行くバカはいないからな。合戦で突撃の合図に逆らえないでもない限り、あんな所に突っ込むバカはいないだろ)


 腕に自信があるか一騎当千の化け物なら話は別だろうが自分はそうではない。なので一旦攻めるのを止める。

 懐からアビリティーチェッカーを取り出しグリップに取り付ける。


 (ライフル銃をぶちかましてもいいが、ここは一度試してみるか)


 液晶画面上に浮かび上がった複数のエンブレムの中から剣のエンブレムを選択する。

 最初の異世界で異世界転生勇者ススムから奪った聖剣の能力だ。


 (トレーニングルームで能力の確認は何度も行ってるが、その後の異世界で戦闘がなかったからな……実戦で使うのはこれが初めてだ)


 聖剣の能力が発動しレーザーの刃がより出力と輝きを増す。どことなく刃渡りも伸びて刃幅も増した気がする。


 「さて、それじゃレーザーブレード聖剣モード。どれほどの威力か試させてもらうぜ!」


 レーザーブレードを真横につきだし水平に構える。するとレーザーの刃に渦のように光が纏わり付きより一層輝きを増す。


 「技の名は何だったかな? そう、確かこうだ! 聖天閃光剣!!」


 そのまま真横につきだしたレーザーブレードを宙を斬るように振るう。

 するとレーザーの刃に纏わり付いていた光がまるでカッターの刃のような形状となって次元の迷い子たちの方に飛んでいく。

 最初の異世界での戦闘でススムが見せた技の1つだ。


 「もういっちょ! 聖天閃光剣!!」


 振るったレーザーの刃をまたもう一度元の位置に戻すように振るうと再び光のカッターが放たれる。

 連続して聖天閃光剣を使用する応用技、聖天閃光双剣である。


 これを食らって複数の次元の迷い子が胴体を真っ二つに切り裂かれ消滅した。

 間髪入れずレーザーの刃を地面に突き刺す、すると地面に亀裂が走り次元の迷い子たちの方へと向かっていく。

 そして亀裂から眩しいばかりの光が漏れ出し、それは光の竜となって次元の迷い子たちに襲いかかった。これも最初の異世界での戦闘でススムが見せた技だ。

 光の竜が暴れ狂い、階段の上など高い位置にいた次元の迷い子たちも叩き潰していく。


 (聖剣の力、こいつは確かにすごいな! だが……)


 ここで一気に畳みかけるべきところだろうが、額の汗を拭って一旦攻撃をやめる。


 (あまりに負担が大きい)


 呼吸を整え意識を保つ。

 まだ慣れていないからなのか、それとも戦闘経験が少なすぎるからなのか疲労が全身を襲っていた。


 「これじゃとてもあの秘奥義は使えないな……」


 秘奥義・颶風裂光斬はススムですら使用後にまともに立っていられないほどの疲労と脱力感に陥っていた。

 今の自分じゃとても使いこなせないだろう。


 「だったら……今はこいつで残党を駆逐するしかないな!!」


 レーザーブレードを力強く下から上へと振るう。その勢いに合わせてレーザーの刃に纏わり付いていた光が上空へと打上げられ分裂し、そのまま流れ星のように周囲一帯へと発光弾が降り注いだ。


 「広範囲攻撃……これでとりあえずは片づいただろ」


 周囲を見回す。とりあえずここらにいた次元の迷い子はすべて駆逐したようだ。


 「ほっほ……やるの、奪った能力も使いこなし取るわい」


 カグの言葉に息を整えながら答える。


 「これが使いこなしてるように見えるか? 実戦で使用して初めてわかるがトレーニングルームのシミュレーションとまるで違う。正直ここまで疲労が激しいとは思わなかった」

 「まぁ、そこはこれから経験で補っていけばよい」

 「簡単に言うな」

 「ほっほ……しかし、今ので確実にわしらの存在はバレたの?」

 「はぁ、やれやれ………戦闘経験は積んでおきたいから次元の迷い子と戦うのは結構なんだが、一方で極力戦闘は避けて体力を温存して元凶とやらに挑みたかったんだけどな」

 「まぁ、諦めろ。これも経験じゃ」

 「その言い草、ものすごく腹が立つんだが?」

 「ほっほ」


 戦闘が終わり再び肩に乗ってきたカグを睨みつけるがこの腹立たしいカラスはどこ吹く風だった。

 その態度に文句の10や20言ってやろうかと思ったが、しかしここで立ち止まっていても仕方がないので先に進むことにした。

 中東やアラブ圏の石造りの神殿を連想させる建物を抜け、地球では見たこともない水晶の通路のような幻想的な遺跡ゾーンへと足を踏み入れる。





 順調に疑似世界の中心へと向かう中、その中心では動きがあった。


 「……………今のは?」


 青白い光を放つ床しかない広大なスペースに彼はいた。


 「………この感覚、間違いない………間違いないぞ!」


 深くフードを被った姿で宙に浮かぶ小さな椅子に腰掛けて、ただ一点のみを見つめる。


 「………おのれ忌々しい勇者め! ………こんな地に余をおいやって尚まだ足りぬと追撃をかけてきたか!」


 怒りに震える拳を椅子の取っ手に叩きつけ、そのおぞましいまでの素顔をフードから晒す。


 「…………勇者め! どこまで!! どこまで余に屈辱を与えれば気がすむのだ!! 許さん!! 許さんぞ!! 殺してやる!! 絶対に殺してやる!!!」


 雄叫びを上げ、その眼が赤く光る。

 疑似世界にいるすべての次元の迷い子たちに彼の思念が行き届く。


 「勇者を殺せ!! 勇者を屠れ!! なぶり殺せ!! 食い殺せ!! 八つ裂きにしろ!! バラバラに切り刻め!! 首をもげ!! 胴体をもげ!! 串刺しにしろ!! すり潰せ!! 燃き殺せ!! 爆殺しろ!! 氷漬けにして砕け!! 石化して砕け!! 毒殺しろ!! 窒息死させろ!! ありとあらゆる手段を用いて殺せ!! 絶対に!! 殺せ!!! 殺せ!!! 殺せ!!!」


 その憎悪の思念に当てられて次元の迷い子たちがゾロゾロと動き出す。


 そして、その思念は疑似世界の片隅にも影響を与える。





 「………殺せ!!」


 (………?)


 曖昧な意識の中、頭の中にその言葉が流れ込んでくる。


 (ころ……す? だれを……?)


 「………殺せ!! 勇者を殺せ!!」


 (ゆう……しゃ? ……だれ……それ?)


 「………殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!!」


 (だから……だれ?)


 曖昧な意識はやがて徐々に鮮明になっていく。

 そして、()()()()()した。


 「うぅ………ここ、は?」


 疑似世界の片隅に次元の迷い子でも、疑似世界を形成する何者かでも、疑似世界に乗り込んできた川畑界斗とカグでもない存在が出現していた。

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