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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
12章:定例クエストをこなそう!
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ヴィーゼント・カーニバル(7)

 ほんの数秒、草原に倒れ込んだまま寝転がっていたがすぐに懐からスマホを取り出す。


 (城壁までの誘導が無理な場合は殺処分しても構わないって事だったけど、さすがにそれは可哀想というか気が進まないな……)


 横目で倒れ込んでいるギガバイソンを見て思う。

 今は暴れて手が付けられない状態じゃない。

 これ以上抵抗しないのなら、このまま森に帰してやったほうがいいのではないか?と……


 とはいえ、全長5メートルはある巨体を自分1人でどうやって運ぶのか?

 そこで助っ人の要請をする事にした。


 スマホで連絡を取った相手はリエルだ。


 『はいよ、どないしんやキミ? うちなんかに連絡してきて』

 「その反応だとドローンなんかでこっちの様子は確認してないんだな?」

 『そりゃ監視用に飛ばしたドローンの行動範囲は砦の周辺だけやで? 応援先の砦は対象外やがな』

 「ま、それもそうか……ケティーとヨハンはまだ戻ってないのか?」

 『戻って来てんで、ヨハンがトロッコの整備を今はやっとるんちゃうかな? あ、うんやってるわ。ちゃんと監視カメラにせっせと作業してる様が映っとる。ご苦労さん! もしサボってたら即注意したるさかいな!』


 そう言ってリエルは楽しそうに笑い出した。

 まるで刑務所内で受刑者が作業をサボってないか監視する看守だ。

 それはさて置き、リエルはこの感じだとケティーから事情は聞いていないようだ。

 なので経緯の説明をする。


 『なるほどな……つまりその牛さんを森に帰すための搬送役が欲しいと?』

 「あぁ、TD-66をここに寄越して欲しい。機械の騎士さんは動ける状態なんだよな?」

 『そりゃバッチリやで? けどキミの現在地がわからん事にはどうにもならんな……この異世界には人工衛星なんて便利なもんあらへんからGPSでキミのスマホの位置を正確に特定できへんし、一旦ドローン飛ばして場所を確認するわ』


 そうリエルが言うが、最果ての砦から飛び立ったドローンが自分を見つけるまで気長に待っている気もなかった。

 なので、別の方法を提案する。


 「いや、リーナちゃんの千里眼の指輪があればすぐに場所がわかるはずだからリーナちゃんに場所を特定してもらって機械の騎士さんを寄越してくれ」

 『ほいさ、んじゃ飛行ユニットのほう準備しとくさかい』

 「頼む」


 リエルとの通話を終えリーナと連絡を取る。


 『はい、マスターどうしたんですか?』

 「リーナちゃん、お願いしたいことがあるんだけど、実は……」


 リーナに事情を説明してから数分後、上空から強烈な音が鳴り響き、強風が地面を叩きつけ草原の草を激しく揺らす。

 光学迷彩で姿は見えないがTD-66がやってきたのだろう。

 激しい風が吹き荒れる中、スマホにリーナから連絡が入った。


 『マスター、ティーくんは到着した?』


 リーナの言うティーくんとはTD-66の事だ。

 自分はTD-66の事を機械の騎士さんなんて呼んではいるが、そう呼ぶのは自分だけである。


 では他の皆はTD-66をどう呼ぶのか?

 その呼び名がリーナが命名したティーであった。

 TD-66だからティー、安直であるが下手な名前を付けるよりしっくりくる気がした。


 「あぁ、到着したよ。じゃあ光学迷彩を解除してくれるか?」

 『はい、任せてください! 光学迷彩解除!!』


 リーナがそう言うと暴風が吹き荒れている上空に空間の歪みが生じ、光学迷彩が解除され飛行ユニットを背負ったTD-66が姿を現した。


 『お待たせいたしました、マスター』

 「いやいや、思ってたより速い到着だったよ」


 そう言ってTD-66が地上に降りてくるのを待ってから倒れているギガバイソンの方へと歩いて行く。


 「それじゃ、こいつを運びますか」

 『はい、お任せ下さい。とはいえ、わたくしでもさすがにこの大きさを担ぐことはできません。リアカーか何かに詰め込んで押すか引くのですか? しかし生憎とそんな大きなリアカーは持ち合わせていません』


 TD-66はそう言うが、そんな事は百も承知だ。

 なので雑貨屋の能力を使ってロープを取り出す。


 「わかってるよ。だからまずはこいつで縛らないとな!」


 倒れているギガバイソンの前足、後ろ足をロープで縛る。

 そして落とした長槍を拾ってきて錬金術で強度を高め、それをギガバイソンの前後両足を縛ったロープへと通す。

 後は長槍の矛の部分と柄の端っこに持ちやすい取っ手を錬金術で取り付ければ完成だ。


 あとは前と後ろに分かれて取っ手を肩に乗せて担げば、ギガバイソンを吊して森まで運ぶ事ができるはずだ。

 もちろん運んでる途中でギガバイソンが起きないように麻酔を打つ事も忘れない。


 「これで俺と機械の騎士さん2人で運べるぜ」

 『はい、マスター。しかしこれで運ぶにはマスターの身長が足らないのでは?』


 TD-66が疑問を呈するが、それはその通りだ。

 一本の棒に荷物を吊し、棒を前後から担いで運ぶやり方は当然ながら前後で担ぐ人の身長がある程度揃ってなければ双方に負担が生じる。


 そしてギガバイソンのような巨体を運ぶ今回に至っては、TD-66ほどの大きさで統一しなければギガバイソンの体を地面に引きずりながら進むことになる。

 そんな事をすれば皮が擦り剥けたり、体表面が損傷したりしていくら麻酔を打っていてもギガバイソンは目覚めてしまうはずだ。


 だから、ここは2メートル以上あるTD-66の身長に合わせなければならない。


 「まぁ、心配するな。困った時の魔物の擬態能力ってな!」


 なのでここは魔物の擬態能力+1を使う。

 さきほどの戦闘では自身の腕のみを変化させたが、今度は体全体を完全に魔物へと変化させる。


 「いくぜ!! うぉぉぉぉぉぉ!!」


 戦闘時には腕だけ変化させたゴリラアームだが、それが全身へと浸食していく。

 開いた口が獰猛になり歯が牙へと変わる。

 体は大きく膨れ上がり、見るからに筋骨隆々となった。


 身長はTD-66と同じく2メートルほどとなり、全身を灰色の毛が覆った姿、まさにゴリラの魔物へと変化を遂げたのだ。

 まずは自身の両手を見て、そして見える範囲での体の変化を確かめる。

 そして試しに咆吼をあげてみるが、完全に魔物の怒声であった。


 そう、これは紛う事なき「ゴリラアーム」の全身完全変化形態。

 ギガントピテクスとも呼ばれる魔獣ビッグフットであった。


 そんな自分を見てTD-66が質問してくる。


 『話には聞いてましたが、本当に魔獣に完全に変化できるんですね。自我は保てているんですか?』

 「ははは、ロボットにそれを聞かれるのは奇妙な気分だが、普通は気になるよな? 心配するな。魔獣に変化したからと言って人間性が失われるわけじゃない」

 『そうですか、なら問題はありません』


 TD-66はそう言うと、ギガバイソンを運ぶべく長槍の取っ手を持つ。


 (まぁ、正直なところ魔獣に変化し続けて本当に人間性が失われないか、自我を保ち続けられるかって検証はまだやってないから可能性がないわけじゃないんだがな)


 そう思うが、あえて口にはしなかった。

 病は気からと言うように、口にした事で自我が保てなくなる事もあるかもしれない。

 どっちにしろ森かもしくは城壁まで運ぶくらいなら問題はないだろう。


 そう思い、こちらも取っ手を手に取って肩に担ぐ。

 そしてTD-66と2人でギガバイソンを城壁方面に向かって運んでいく。



 「あ、かい君やっと来た!! おーい!!」


 小砦の前ではフミコとフミカが待っていてフミコがこちらに手を振っていた。

 しかしフミコの隣にいるフミカは怪訝な表情をしている。


 「フミコ何言ってるの? カイトの姿なんて見えないけど? 馬で後ろから追いかけてきてる様子はないし……というかティーだっけ? あのゴーレム、なんで魔獣なんか従えてるの?」


 フミカがそう言うとフミコが困った顔でどう説明しようか迷っていた。

 まぁ、ここまで運んできたんだしもう十分だろうと思い、TD-66に声をかけてギガバイソンを地面に下ろし魔獣化を解く。

 元の姿に戻ってフミコたちの元へと向かった。


 「すまんすまん、気を失ったギガバイソンを殺すのはどうしても気か引けたから、ここまで運んでくる事にしたんだ」

 「もうかい君、それなら言ってくれればあたしも応援に向かったのに!」

 「悪い悪い、まぁ運ぶには機械の騎士さんの手がどっちにしろ必要だったし、それにそっちは3頭も誘導しなきゃだっただろ?」

 「それはそうだけど……」


 フミコとそんな風に話しているとフミカがこちらにジト目を向けて会話に割り込んできた。


 「いや、ここまでギガバイソンを運んできたのはいいんだけどさ? さっきのデッカいゴリラの魔獣みたいなの何? なんであれがカイトになったの? もしかしてカイトって地上最大級の霊長類の末裔だったりするの?」

 「いや、そんなわけないでしょ!! 俺はごく普通のヒューマンだよ!!」

 「じゃあさっきのは何?」

 「あれは俺の能力だよ!」


 思わずそう言ったがフミカはジト目でこちらを睨んだまま。


 「能力ねぇ……知能の高い魔物が扱う自然魔法では確かに変化の魔法ってのはあるみたいだけど、噂レベルでまだ実在するかは怪しいんだよね……もしかしてカイトって自然魔法が使えるハーフだったの? それとも変化の魔法で人間に化けてるの?」


 と聞いてきた。

 うん、まぁ、この異世界基準で考えればそうなるよね……

 しくったな。元の姿に戻るタイミング考えるべきだった。

 さて、どう言い訳するか?


 「いや、まぁこれには深ーい事情があって、詳しくは話せないんだけど……とにかく! 俺はハーフでもなければ人間に化けてる魔物でもないごく普通のヒューマンなんですよね、うん」


 そう腕を組んで頷きながら言った。

 当然ながらフミカはジト目でこちらを睨んだままだ。


 「ふーん……」


 そして、しばし沈黙が訪れた。

 あ、うん……これはダメですね。

 もう少しちゃんとした回答を用意すべきだったが、この一瞬でそんなの考えつくほど自分頭回る人間じゃないんだ。


 いっその事、自分が異世界から来たっていう本当の事を話すべきだったか?とも思ったが、正直、そっちのほうがバカな言い逃れをしてるように思われたかもしれない。

 ほんとこういう時、どういう模範解答すればいいの?誰か教えて!


 そう心の中で叫んだ時、フミカが大きくため息をついた。


 「まぁ、言いたくない事は人それぞれあるよね? だから深くは追求しないよ。正直、系統魔法とも自然魔法とも違う異質な力を振りかざすやつはギルドユニオンの中にもいるし、それこそカルテルの連中の特殊能力なんて系統魔法、自然魔法の枠の中で考えてたら整合性が取れないしね」


 そう言ってフミカはポンポンと自分の肩を叩いてくる。


 「でもさすがに、魔物に変化できる能力を持っててごく普通のヒューマンはないんじゃない? まぁ、修復作業の時から錬金術だとかおかしな事してたけど」


 そう言ってさきほどまでと違ってニヤニヤした表情を向けてきた。


 「ぐ……それは、まぁそうなんだが……」

 「そこら辺、隠したいんだったらもう少し考えないとね? まぁユニオンギルドに所属してる面々は誰もが何かしら抱えてるんだろうけど」

 「というか、それがわかってるなら何で追求してきたの!?」

 「ははは」


 フミカは軽い調子で笑うとあたふたしていたフミコの手を取った。


 「どっちにしろ、今はあのギガバイソンをどうするかだよね?」

 「う、うん! そうだよ! それを考えないと!!」


 フミコがそう言ったところで小砦の中から誰かが飛び出してきた。

 その者はこの小砦を任されているギルドのメンバーでテイマーらしい。


 事情を話せば、そのテイマーは自らが使役する小動物たちを使ってギガバイソンをズエの森の奥深くへと運ぶと言ってくれた。

 なのでここから先はテイマーの彼に任せる事にする。


 ちなみに、テイマーの彼は自身の魔力で自分より弱い魔物や小動物を複数使役しているらしいが、そんな魔法はこの異世界には系統魔法、自然魔法どちらにも存在しないらしい。


 貴族(メイジ)だと使い魔として使役できるのは生涯で1匹、それ以上は不可能らしく、複数使役できるなどありえないらしい。

 亜人の自然魔法でも魔物を自身の支配下に一時的に置く魔法はあるが、複数を1度に支配下に置いて使役する事は不可能だという。


 つまるところ、テイマーの彼はこの異世界の理とは違う能力を駆使しているわけだ。

 とはいえ鑑定眼で覗いた時に地球からの転生者、転移者、召喚者らしい情報は提示されなかった。

 つまりはリーナやヨハンと同じく地球以外からの転生者なりだというわけである。


 そして、フミカはテイマーの彼がこの世界の魔法とは違う能力を使っている事を知っていた。

 うむ、つまりはフミカに最初からからかわれていたわけだ。

 まったく……フミカへの対処法を考えとかないとな。


 そう思い、最果ての小砦(ホーム)への帰路につくのだった。

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