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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
12章:定例クエストをこなそう!

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ヴィーゼント・カーニバル(3)

 ギルド<ジャパニーズ・トラベラーズ>に割り当てられたコーサス要塞郡、南西最果ての小砦。

 しばらくはここが自分たちの活動拠点となるため、快適な居住空間にすべく一通りの改造作業をおこなった。

 おかげで埃まみれだった砦内はそれなりに暮らしやすい環境となったのだが……


 「なぁ、俺たち一体ここに何しにきたんだっけ?」


 掃除をしている時にふとそんな事を呟いてしまった。

 だって仕方ないよね?これじゃあただの砦リフォームじゃん!

 というか、こんな事しても結局定例クエストが終わったらこの砦とさよならするんだから、これ意味なくね?


 そう思っているとフミカがある提案をしてくる。


 「だったら大砦に見学に行く? そろそろオープニングセレモニーだろうし」

 「オープニングセレモニー? なんだそれ?」


 オリンピックのように、これから定例クエストが始まりますよ~って開幕式的なショーでもやるのか?

 でも大砦であった、学校の全校集会のような、学者が誰も聞いていないのに壇上で話し続けるってあれがそれに近かったような気もするが違うのだろうか?

 よくわからん……と首を捻っているとフミカが苦笑交じりに。


 「まぁ、ヴィーゼント・カーニバル名物みたいなものだね。これを合図にギガバイソンの群れも城壁に向かって突撃しだすみたいな……逆にオープニングセレモニーがないとギガバイソンの群れも城壁に突撃して来ないんだよね、なぜか」


 そう説明してくれた。

 なんだそれ?というかギガバイソンの群れも人間みたいに開幕式とかやるんだな……


 というか、そんな開幕式みたいな事しなきゃギガバイソンの群れが砦に押し寄せて来ないというなら、それをやらなきゃギガバイソンの群れはそもそも人里に近づかないのでは?

 しかし、そうなるとギガバイソンの繁殖がままならなず、生態系に影響が出る危険があるようだ。


 人間本位で考えては行けないという事らしい。

 自然って難しいね。


 「なるほど……まぁ、この砦は暇だって言うし見学してみるかな?」


 そう言うとフミカは決まりだね!と言ってトロッコのある地下道へと行ってしまった。

 そんなわけで全員で見学に行ってもいいのだが、いくら暇だからといって砦をもぬけの殻にするわけもいかず、ヨハンには留守番をしてもらう事にした。


 実際、ヨハンは自身が寝床として使う部屋の掃除が終わっていなかったので、これは仕方がないだろう。

 それとリエルとTD-66にも残ってもらった。


 リエルは留守番する事を嫌がってかなりゴネたが仕方がない、何せまだ小砦内に仮設置したTD-66の簡易整備施設が完成していないのだ。

 リエルにはそれを早急に完成させてもらわないといけない。

 さらにドローンによる砦周辺の監視や、ドローンが撮影した映像を管理する警備コントロール室の設置作業もまだ残っている。

 彼女の仕事は山積みなのだ。


 そもそも、リエルがこの定例クエストに参加してコーサス要塞郡についてくる事自体、本来なら反対だったのだが、TD-66の整備と寝泊まりする滞在場所の警備システムの構築を口実に使われたのだ。

 ならば、その口実以外の事は絶対にさせないようにしないと、なし崩し的にリエルをこの異世界に解き放つ事になってしまう。

 それだけは絶対に避けなければなるまい。


 そういうわけでTD-66にリエルの監視をお願いし、自分とフミコ、ケティー、リーナ、エマ、フミカの面子でオープニングセレモニーを見学しに大砦へと向かった。



 「きゃーーー!! 速い速ーい!!」

 「わーーー!!! 荷物運んでた時ここまでスピードでなかったよ? おもしろーい!」

 「ちょっとリーナちゃんにエマちゃん危ないよ! 2人ともあんまり顔出しちゃダメ!! 川畑くんもちゃんと注意してよ!」


 軽快にスピードを出して地下道を走るトロッコに乗ってはしゃぐリーナとエマをケティーが注意するが、自分は子供はこれくらい元気なほうがいいと思うので、今は大目に見ようと思う。

 もちろん、本当に危なくなったら止めるし注意もするが、こういう経験も必要だろう。


 フミコとフミカはトロッコに乗り込んでからずっと楽しそうに会話している。

 本当にこの2人はすぐに仲良くなったなと関心するが、思えばこれまでの異世界でもフミコはすぐに現地の人間と仲良くなっていた。


 そして大抵はその仲良くなった現地人の女の子が転生者なり転移者なり召喚者なりの仲間であり、カグが言うところの彼らのヒロインであった。

 そう考えるとまさかフミカもそうなのだろうか?


 とはいえ、今回の定例クエストにフミカの所属する冒険者ギルド<明星の(アシェイン)>はフミカ以外参加していないため現時点では確認しようがない。

 これに関してはいずれフミカにお願いして冒険者ギルド<明星の(アシェイン)>の面々に会って鑑定眼で判別すべきだろう。

 そうする為にもフミコにはフミカとこのまま友達でいてもらいたい。


 そう考えているうちにトロッコは大砦の地下へと辿り着いた。

 すると、すでに多くの小砦から同様に見学に来ているのか、トロッコ停留所にはトロッコがいっぱいだった。

 それを見たフミカが少し焦った様子で。


 「これは早くしないといい場所確保できないかも」


 と言って皆を急かしだした。

 うん、なんかロックフェスとか花火大会とかのノリだな?異世界でもあるんだな場所取りって……

 そう思いながらも、急かされるままトロッコを慌てて降りて大砦内に入る階段を昇っていく。


 階段をひたすら登って砦の中でも城壁の上部にあたる歩廊へと出る。


 「はぁ……はぁ……さすがうちが担当する小砦とは大きさが違うな……疲れるわこれ、エレベーター設置しろよ」


 思わず愚痴ってしまうが、この異世界の文明レベルでエレベーターがあったらそれはそれでおかしいか。

 とはいえ、水車を使っての水圧式のリフトか、囚人なり奴隷なりにひたすら回させるネジのような例の棒を使って滑車を動かすタイプのリフトくらいはあってもいい気もするが……


 そんな事を考えながら歩廊の壁面にもたれかかる。

 すると隣にフミコがやってきて水筒を差し出してきた。


 「かい君大丈夫? はい、お茶」

 「サンキューフミコ……」


 フミコから水筒を受け取り水分補給していると、フミコとは反対側の隣にケティーがやってきてジト目で睨まれた。


 「川畑くんさー」

 「な、なんだよケティー」

 「私にリーナちゃんとエマちゃんの子守押しつけないでくれる? 大変だったんだけど」


 そう言うとケティーの横ではしゃいでいる幼女2人が見えた。

 その元気な姿を見ていると、自分では絶対2人をコントロールできないだろうなと思う。

 すげーな、小学生や園児の遠足で引率する先生方って、感心するわ!

 自分まだ高校生だけど……


 「す、すまん……」


 なので素直に謝るとケティーがニヤーっとした顔になった。

 あ、これいつもの面倒ごとになるパターンや。


 「まぁ、申し訳ないと思ってるなら今度1日デートで埋め合わせしてくれたらいいよ? そうだなー、ドルクジルヴァニアの北にある避暑地として有名な村に景色が綺麗な滝があるらしいんだけど、そこに一緒にいかない? なんでも恋人が手を繋ぎならその滝の下を通ると生涯別れる事はないんだって! きゃーロマンチック!」


 ケティーは両手で頬を押えながら体をクネクネさせて、そんな事を言い出した。

 oh……ケティーさん、そんな事フミコがいる前で言ったらこの後何が起こるかくらい容易に想像できませんか?


 なので恐る恐る横を見ると案の定フミコがとんでもない表情になっていた。

 うん、よくない!ヒロインがその顔よくない!


 「ケティー!! あんたねー!! いい加減にしなさいよ!!」

 「何よフミコ、あんたには関係ないでしょ?」

 「あるに決まってるでしょ!? あたしのかい君にちょっかい出さないでくれる?」

 「いつから川畑くんがあんたのものになったのよ!?」

 「最初からですー」

 「嘘つけ! この虚言癖女!!」


 あーはじまっちゃったよ、いつもの喧嘩が……

 うん、まぁケティーの肩を持つわけじゃないけど、自分誰とも付き合ってませんけどね……

 フミコが勘違いする原因を精神世界でフミコに言った事は事実だけど、そもそもその言った内容、自分覚えてないしね?


 うん?最低な男だって?

 ははは……ご冗談を……返す言葉もない……

 うん?ハーレム主人公目指してるのかだって?

 ははは……ご冗談を……そんな男の夢を実現できるような性格有してると思います?


 そんなわけでフミコとケティーの間に挟まれながら、2人の言い合いの喧嘩を無の境地で聞いているとエマとリーナの会話が聞こえてきた。


 「ねぇ、ギルドマスターのお兄ちゃんはフミコさんとケティーさん、どっちとくっつくと思う?」

 「エマ……それはギルド内に派閥を作ってギルドの分裂を招くから言っちゃダメだよ? でもそうだな、あえて言うなら……」


 おう、何を言ってるのこの幼女2人は……まぁ、女子が恋愛の話題で盛り上がるのに年齢は関係ないという事なのだろうが、男がこの場に自分しかいないのがつらいぜ……

 無理にでもヨハンを連れてくればよかった……プリーズ、オトコノコ!仲間が欲しい!!


 そんな事を考えているとフミカが鼻で笑って遠くを指さした。


 「盛り上がるのはいいけどそろそろ始まるよ?」

 「え? まじ? オープニングセレモニーはじまるの? そりゃ見ないと!!」


 これはいい助け船!!

 思わず食いつき気味にそう言って左右の2人に笑顔で言うとフミコとケティーはそこで喧嘩をやめた。

 ふぅー、ほんと自分を挟んで言い合いのやめてほしい……


 「で、詳しい内容聞いてなかったけど結局オープニングセレモニーって何すんだ?」


 ここまで来て今更な質問だが、聞くタイミングがなかったのだから仕方がない。

 しかしフミカは呆れた表情でこちらを見てくる。

 そしてため息をつくと。


 「なんだか君に振り回される2人がかわいそうになってきた」


 そんな事を言い出した。

 ちょっと待て、そりゃどーいう意味だ?


 「ちょっとフミカさん?」

 「あぁオープニングセレモニーだったね、あれを見て」


 こちらの話を聞かずフミカは地上を指差す。

 そこにはだた一人、砦の外に出て城壁の前にたつ闘牛士ギルド<セニョール・マタドール>のギルドマスターであるフランシス・ロメーロの姿があった。


 そして森の入口には5メートルほどの巨大な牛の魔獣、ギガバイソンの1頭が姿を表す。


 そのギガバイソンは体の至るところや顔中に多くの傷跡が残る、まさに歴戦の猛者の雰囲気を醸し出していた。


 そんなギガバイソンと闘技士ギルドのギルドマスター、フランシス・ロメーロは静かに睨み合う。

 それを歩廊や砦の窓から誰もが見守り、森の奥の方でも何頭ものギガバイソンたちが1人と1頭の対峙を固唾を呑んで見守っていた。


 「なぁフミカ、もしかしなくてもこれって……」

 「オープニングセレモニーは闘牛士ギルド<セニョール・マタドール>のギルドマスターとギガバイソンの中で一番強いオスとの一騎打ち。これが終わらない事にはヴィーセント・カーニバルは始まらない」


 フミカが少し興奮気味に言う。ようは彼女も楽しみにしていたという事だろう。


 あぁ、うん……何となく地上に一人だけ闘牛士ギルドのギルドマスターがいる時から予想はしたけどガチだったか……

 ガチでプロレスショーだったか……いや人獣異種格闘大会か?


 うん、どっちでもいいけど、これ定例クエストの内容、実はこれを皆で見守るってのが本当の目的じゃないよな?

 不安になってきたぜ……

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