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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
3章:ロストシヴィライゼーション

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ロストシヴィライゼーション(1)

 石畳の狭い路地にその店はあった。外観こそ現地の店と遜色ないが内装は現地の店とは違う。

 まるで日本の居酒屋のような内装をしていた。というより、そのまんま日本の居酒屋だった。


 それは当然である。この店はまさに日本から()()()()()()()()()のだから。

 普段なら店内は現地では物珍しい料理を求めて冒険者や地元民でごった返しているが今は店内には3人しかいない。

 1人は客や従業員から大将と呼ばれているこの店の料理人にして店主、1人はここで働く現地民の女給。そして最後の1人は異世界渡航者、川畑界斗である。


 「うぐ!! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


 店内に異世界転移者であるこの店の店主の絶叫が響き渡る。

 女給が恐怖のあまりガクガクと震えて床に尻もちをついたまま動けない目の前で店主の体から光りの暴風があふれ出しそのままカイトの持つアビリティーユニットの中へと吸い込まれていく。


 やがて光の暴風はすべてアビリティーユニットの中に吸い込まれ収まった。

 するとアビリティーユニットに取り付けてあるアビリティーチェッカーの液晶画面上に新たにフライパンとターナーが交差したエンブレムが浮かび上がった。店主から能力を奪ったという証だ。


 それを見てカイトはアビリティーユニットからアビリティーチェッカーを外して店主へと近づく。この世界で残された最後の気が重いミッションを遂行するために……


 「さて、この世界であんたが得た能力は奪った。後はあんたを殺せばこの世界とはおさらばだ。その後の次元調整なんかのややこしい処理は自称神とやらの仕事で俺の知ったことじゃない」


 言ってアビリティーユニットのボタンを押してレーザーブレードを出す。


 「最初に謝っているから謝罪はしないぜ? だからあんたに恨みはないが地球のためだ、死んでくれ」


 そのまま倒れている店主へとレーザーの刃を突き刺した。

 それを見ていた女給が悲鳴をあげるがその声が店の外に、街の住民に届くことはなかった。




 「はぁ………まったく気分が悪い」


 次元の狭間の空間に戻ってすぐにため息が出た。当然だ。毎度こんな胸くそ悪い気分になる旅も早々ないだろう。

 そんなこっちの心情を気にもせずカラスの姿をした自称神を名乗るカグが陽気に近づいてきた。


 「ほっほっほ、お勤めご苦労さん!! 慣れたものじゃの~今回も楽々だったじゃないか」

 「あ?」


 自称神のカグの言葉に苛っときた。慣れたものだと? ふざけるな!!


 「てめーなめてるのか? こんな胸くそ悪い結末慣れるわけねーだろ!!」


 思わず掴みかかろうとしたが相手はカラス、簡単にかわされる。


 「そうカッカしなさんな。それに今回で3件目じゃ、いい加減割り切れ」


 カグの指摘により一層嫌悪感が増す。


 「こんなもん慣れてたまるか! 俺は殺人鬼になるつもりはねぇ!」

 「まったく、今からそんなんでこの先大丈夫か?」

 「うるせー!」


 これ以上自称神と話してたら頭がおかしくなりそうだ。会話を断ち切ってメンテナンス施設へと向かう。

 そう、すでに3件目だ。地球で奪ったプログラミングの能力を加えれば奪った能力は4つとなっていた。

 とはいえ、能力を奪う際にまともな戦闘になったのは最初の異世界のみで今回と前回の異世界では戦闘にはならなかった。


 (それもそうだろう……何せ奪った能力が()()じゃな……本当に次元の亀裂を生むほどのイレギュラーだったのか?)


 ついさきほど奪ってきた能力はパーフェクト・クッキングというらしい。

 要するにどんな食材だろうが絶対に失敗することなく調理し美味しい料理を生み出せるという。

 果たしてこれが次元の亀裂を生み、それを拡大させる要因となっているのか? まったく理解ができない。


 そして前回奪った能力は上限や制限、制約、登録してないといけない物、登録出来ない物等はあるものの道具をほぼ無尽蔵に引き出せるというものだった。

 こちらに関しては次元の亀裂を生み出し加速させているというのはなんとなく理解できた。というか、確実にごく限られた地域だけだが確実に異世界を蝕んでいた。


 前回のその道具の能力はさきほどの料理人同様、異世界転移者から奪った。

 状況も料理人とほぼ同じ、料理人が日本での自身の経営する居酒屋が店内まるごと異世界に転移したのと同じく、前回の転移者も日本で自身が経営する雑貨店が()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 料理人と違うところは、料理人は店が異世界に転移して完全に地球に戻れなくなったのに対して雑貨店は異世界に転移した後も地球と繋がったままであった。

 要するに地球にも雑貨店はあるが異世界にもあるという状況だ。


 地球側からは店主しか雑貨店に入ることはできず事実上地球からは雑貨店は消失しているが店主は普通に地球と異世界(雑貨店)を行き来できる。

 異世界側の人間は雑貨店に入って買い物はできるが、そこから店主と一緒に地球に来ることはできない。

 どういう理屈かはわからないが、そういう状況だった。


 そして無尽蔵に地球の品物を地球側から仕入れて異世界で販売できるため異世界にオーパーツがあふれかえり、異世界では職人たちが自分たちで出来る範囲の質と量でそれなりの金額で売っていた品物を転移者は地球から大量に持ち込んで安く売り、価格破壊が起こった。

 結果、経済は大混乱に陥り職人たちが守ってきた伝統をブチ壊した。


 厄介なことにこの事実に転移者が気づいておらず、自分の知ってる範囲の人間の生活環境がよくなったことで人助けができた、異世界に貢献できたと思い込んでおり、地域全体で何が起こったか把握していない。いや、把握しようとしていなかった。


 まぁ別段、そこに関しては批難するつもりはなかった。

 局地的に見れば商売をして人助けをしたにすぎず、それに異世界の事情に首を突っ込めない身としては広い範囲での経済だとかその辺りはどうしようもなかった。

 とはいえ商売人ならそこらを考慮してないのはどうかと思ったが。


 そして雑貨店でもっとも面倒だったのが地球の状況の説明だった。

 何せ雑貨店は地球と繋がってるのだ。ジムクベルトなど知らない店主にとってこちらの言うことは理解不能だっただろう。何せ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだから……

 繋がっている先の地球がジムクベルトが出現しなかった平行世界、いわゆるパラレルワールドなのか。もしくは最初の異世界の時と同様、自分のいた地球の時間とズレがあるのかはわからなかったが説明には苦労した。


 (とはいえ、どちらも結果的に戦闘にはならずこっちが一方的に能力を奪った形になったが……まぁ戦闘できるような人らでも能力でもなかったがな)


 考えながらアビリティーユニットをメンテナンスする施設に入りアビリティーユニットのメンテナンスに取りかかる。

 能力を奪いエンブレムが増えるたびにこうしてメンテを行わなければならないのは少々面倒だが、次の異世界にたどり着くまで数日か数週間か数ヶ月かかかる以上やらない言い訳は立てられない。

 とはいえメンテをしなくても奪った能力は限定的だが使用することはできる。ただし出力は下がるし、やはりチート級の能力に関してはメンテしなければ使用できない……


 (まぁ、メンテすることによってどんな能力なのか詳細を知れるし。趣味のない身としてはこれをやることによってやりたいことの時間が裂かれるなんて不満はないし、この時間は好きだけどね)


 施設内に存在する多くのモニターに目を通す。そのうちの1つにパーフェクト・クッキングの詳細が表示された。


 (自動発動ね………アビリティーチェッカーに浮かび上がるエンブレムをタッチしなくても発動するのか、プログラミング能力と同じだな)


 これにより食堂で本格調理が可能となった。

 とはいえ、ここは次元の狭間の空間。異世界から能力以外の物を持ち込めない以上食材が倉庫や食堂の冷蔵庫に現われることはない……のだが。

 雑貨店の店主から奪った能力のおかげで倉庫には常温保存の食材が、冷蔵保存が必要な食材は食堂の冷蔵庫にいくつもあった。


 (つまりは自炊ができるってわけだ)


 地球にいた時はそんなことできもしなかったのに奇妙な感覚に陥りそうになる。

 ちなみに道具を無尽蔵に取り出せる能力を得たおかげで就寝部屋のロックも解除されたらしく、なぜか取り出せなかった私服類の取り出しが可能になった。

 これで衣食住の問題は解決したことになるが……


 「どうも解せないんだよな~これって実際()()()()()()()()()()()()()()()()今回と前回の異世界を訪れた気がしてならないんだよな……」


 最初の異世界にたどり着くまではこちらの生活態度についてまったく口出ししてこなかったカグが最初の異世界以降なぜか生活環境を改善するよう促してくるようになったのも気になる。

 一体何があったのだろうか?

 そういえば、他に誰もいないのに印象が悪くなることはやめとけとか言ってたが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 まぁ気にしても仕方ないが、そういえば夢だったか誰かに何かインタビューを受けたようなあやふやな感覚はあるのだが……まぁ今は一旦頭の片隅に置いておくことにしよう。


 「それにしても………また頭痛?」


 モニターを眺めながら頭を押さえる。この現象は次の異世界が近づいたら起こる現象だが、つい先程ここに帰ってきたばかりなのにもう次の異世界に着こうってのか?


 「ちょっと間隔早すぎないか? 今まで2週間近くは到着までかかってたのに……」


 頭を押さえて椅子の背もたれにもたれ掛かるとカグが施設内に入ってきた。


 「どうした? 頭など押さえて」

 「見てわかんねーか? いつもの異世界が近づいたら起こる頭痛だよ!」

 「何じゃと? そんなわけなかろう? さっき戻ってきたばかりじゃろが」

 「は? だったら何だよこの頭痛は?」


 苛々しながら言うとカグは簡易ラーニングマシーンのほうに飛んでいく。


 「ふむ? おかしいの? ラーニングマシーンは反応しとらん。つまりはまだラーニングする次の言語が定まっとらんということじゃ」

 「つまり?」

 「まだ次の異世界には着かんはずじゃ。そもそもそんなすぐに着くはずなかろう?」

 「じゃあ、この頭痛は何だよ?」

 「ふむ……一旦今日はもう部屋に戻って休め。目が覚めたら痛みは引いとるかもしれん」

 「いい加減だな」

 「まぁそう言うな、こっちでも貴様が寝ている間にMRスキャンにかけて調べといてやる」

 「さらっと怖いこと言うな」


 まぁ、アビリティーユニットのメンテとアップデート完了には時間が掛かるが自動化プログラムを組み立てたことで特段こっちでやることはなくなっているので問題はない。

 今日はそのまま寝ることにした。



 次の日の朝。

 次元の狭間はいつも真っ暗なため朝も昼も夜もないが、体感時間を失わないためにあえてこの表現を使っている。

 とはいえ窓の外は暗い、そういつも……


 話は逸れたが次の日の朝、目が覚めたのは目覚ましが効いたからでも憎たらしい自称神のカラスが訪れたからでもない。強烈な頭痛に襲われたからだ。


 「ぐっ………! なんだよこの痛みは?」


 頭を押さえてなんとか起き上がると目眩がした。


 「なんだ? こんなこと今までなかったのに?」


 壁に寄りかかりながらなんとか歩いて部屋を出ると外の景色が一変していた。


 「な!? どうなってんだ!?」


 次元の狭間の空間に変りはない、だがおかしな景色が追加されていた。

 次元の狭間は真っ暗な無の空間なため次元の狭間の空間から見える景色はないはずなのに、まるで巨大な山のような遺跡のような廃墟都市のような、形容しがたい何もかもがごっちゃまぜになったようなものが桟橋の先に出現していた。

 いや、桟橋が乗り上げていた。


 「起きたか……お寝坊さんじゃのう」


 広場に自称神のカラスがその桟橋の先にある何かを見ながらこちらに悪態をついてきた。

 苛っときたが今はそれどころではない。


 「何だよあれは?」


 カグの元へと走って行くとカグは自分の肩に飛び乗ってきた。


 「おい?」

 「まぁ落ち着け、貴様が昨日感じた頭痛の原因はあれじゃ」

 「つまりあれも異世界なのか? でもこの空間から見えるって今までとは違うな」

 「勘違いするな、あれは異世界じゃない」

 「?」


 カグはクチバシをくいっと上に向ける。

 その方向を見ても謎のごちゃまぜな景色があるだけだ。


 「何だよ?」

 「どう見る?」

 「は?」

 「何か統一性のない品のないものに見えんかの?」

 「まぁ、そうだな……」

 「あれは次元の狭間に流された失われた文明の欠片……それが寄せ合わさったものじゃ」

 「……?」

 「わからんか? あれは本来奇跡的に起こりうるかもしれないが、早々起こらない現象というわけじゃ……失われ次元の狭間に彷徨う文明の欠片たちが次元の狭間で出会い、結合し、そして1つの疑似世界を形成している」

 「疑似世界?」


 自称神のカラスであるカグによれば多くの異世界に存在する失われた文明の遺跡は時に世界から忘れ去れた存在ゆえに次元の狭間に流れ着くことがあるという。

 そしてそれらは無限に広がる次元の狭間の中で単独で漂流するちっぽけなものであるはずだが、奇跡的に接近しぶつかり合い、結合してしまうことがあるという。


 「とはいえ、そんなことは早々起きないし、起こったとしてせいぜい多くて3つくらいの遺跡がくっついた程度だろう……じゃがあれは明らかにおかしい、偶然ではなく故意に起こったと考えるべきじゃの」

 「故意に? どういうことだ?」

 「あれを形成し、疑似世界を生み出しておる奴がおる」

 「……マジかよ?」

 「本当にわかりやすいの、あの疑似世界の中心から力が漏れ出しておるわい。そこに恐らく首謀者がおるの」

 「……で? どうすんだ?」


 疑似世界の説明を聞いて、続けて聞かなくてもこの後何をしろと言われるかは予想がついたが一様は確認する。

 もしかしたら自称神がこれはこちらで処理しとこうと言うかもしれない、まぁ確実にないだろうが。


 「当然、貴様が乗り込んで元凶を倒してこい」

 「ですよねー……はぁ、ちなみにあれは異世界じゃなく疑似世界だからジムクベルトとは関係ないんだよな?」

 「当然じゃ」

 「ならここで頑張っても意味なくね?」

 「元凶を倒し、疑似世界をなくさないと次の異世界に進めないぞ?」

 「疑似世界を迂回できないのか?」

 「もう他の失われた文明の欠片と同じくここも疑似世界に取り込もうとしてぶつかってきてるよのう? 今更それはできんよのう」

 「こうなる前に気づけよ?」

 「面目ない」


 とても反省してなさそうな言い草だったのでぶん殴ってやろうかと思った。

 だから昨日、俺が頭痛がした時に調べれば対処もできただろうに……そう思った時、ふと広場の奥に目をやる。


 「なぁ、あの宇宙船もどきを使って飛び越えることはできないのか? あれを使えば次の異世界まで行けるんじゃないのか?」


 言われたカグは哀れな生き物を見る目をこちらに向けてくる。


 「あれはまだ解放されてないスペースじゃぞ?」

 「いや、だからその意味不明な理屈なんだよ?」

 「それにあれで移動したとして、次の世界についてもそこで旅は終わるぞ?」

 「は?」

 「母港のこの空間がここに止まったままなんじゃ、当然じゃろ? あれ単独では補給なしで進める距離は限られとる。燃料がなくなったらどうする? 船なら漂流して流されるから進むことは進むが飛行機や車は燃料なしで飛ぶか? 動くか? よく考えい」

 「……まぁ、そりゃそうか」

 「わかったら準備せい」


 カグの偉そうな物言いに苛っときたが確かに今のままではどうにもならないのも事実だ。

 メンテナンス施設からアビリティーユニットを取ってきて食堂で軽く食事を済ませる。すると食堂でカグが物珍しいことを言い出した。


 「今回は貴様の言った通り感知できなかった落ち度はこちらにもある。じゃから今回は帯同してアドバイスしてやろう」

 「……何だ? 明日は次元の狭間なのに雨でも降るのか?」

 「失礼じゃの、これでも責任は感じとるわい」

 「そうは見えないがな」


 食堂から出て広場へと出る。かるく準備運動をして疑似世界を見上げた。本当に趣味が悪いとしかいえない光景だ。


 「さて、では行くか。疑似世界の中心とやらに」


 自称神のカラスのカグを肩に乗せて桟橋を越え疑似世界へと足を踏み入れた。

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