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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
11章:依頼をこなそう!

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ドルクジルヴァニア地下大迷宮(17)~決着Ⅱ

 「あ、マスターが戻ってきた!」

 「かい君、ちょっと遅かったから心配したけど、まさか逃げられたの?」


 地下大迷宮に戻るとフミコがリーナに支えられて待っていた。

 その奥ではTD-66が座り込んでいる。

 稼働はしているが移動は不可能といった状態なのだろう。


 TD-66に関してはリエルが次元の狭間の空間に設置した緊急転移装置で回収できるだろうから今は後回しにする。


 「いや、ちゃんと駆除したよ……と言ってもやったのは俺じゃないんだけどね」

 「え? どういう事?」

 「とにかく開いた穴から地上に出よう、詳しくはそこで話す。でもその前に」


 そう言ってフミコとリーナから少し離れたところにあるヨハンの死体の元へと向かう。

 ヨハンは自分がマンドラゴラの根で貫き殺した。

 そう、表面上は……


 とはいえ、自分はヨハンを殺す気など毛頭なかった。

 スコペルセウスとの決戦の前にヨハンは自分に能力を奪って殺すよう懇願してきたが、それを自分は拒否している。


 ヨハンが地球出身の転生者ではない以上、自分はそれを選択する気はなかった。

 とはいえ、バーニングスコペルセウスはその選択肢を取らない限り倒せない相手でもあった。

 想定しうるすべての攻撃を無効化でき、未知の攻撃に対しても即耐性を得られるうえにHP残量10%を切ったらありとあらゆる攻撃を反射とか、そもそも常にHP全体の80%が自動回復するなんてチートすぎるし反則もいいところだ。


 なので、これはヨハンの提案でもあったのだがアビリティーユニットのシステムの裏をつく事にしたのだ。

 つまりは自分がヨハンから能力を奪って殺し、システムにはヨハンが死んだと思わせる。

 それによって、システムはこの異世界からヨハンの記憶と痕跡を消し去るはずなのだ。


 ではどうやってシステムにそう思い込ませるか?

 簡単な話だ。

 ようは仮死状態にすればいい。


 マンドラゴラの根の毒は強力だが、当たり所によっては死んでも生き返る事があるという。

 というよりかは仮死状態にする毒と言ったほうが正しい。

 言うなれば蘇生可能な毒というわけだ。

 この知識がなければ毒に盛られて死んだと思い込み、そのまま土葬なり火葬なり水葬なりで弔われてしまうことだろう。


 というか、大多数がそうなっているはずだ。

 そして土葬ならば、まだ息を吹き返し埋められた棺桶から脱出する事が可能かもしれないが、火葬ではもう完全に消し炭にされるため息の吹き返しようがない。

 水葬も海や湖に沈められる時点で息を吹き返す前にそのまま溺死だ。助かりようがない。


 そんなわけでマンドラゴラの根で刺されても蘇生が可能だとは知る者はごくわずかなのだが、それでも仮死状態のままでずっと放置しておいていいわけもない。

 時間が経てば経つほど仮死状態からの蘇生も難しくなってくるからだ。


 なので素早く蘇生作業に取りかかる。


 「さて、起きる時間だぜヨハン」




 夢を見ていた。


 それは夢として見るには本当につまらない、ごく平凡なありふれた日常の光景だった……

 代わり映えのしない退屈だと思えた日々の光景だった……

 にも関わらず、そんな光景を目の当たりにして自分は涙を流していた。


 どうして涙を流しているのだろうか?

 どうして自分はこんな何もない退屈な光景に心揺さぶられているのだろうか?


 だっておかしいではないか!

 この光景には何か希望があるわけではない、心躍る冒険も、ワクワクするような非日常的な事件もない。

 本当に退屈で平凡に過ぎゆく何でもない毎日の一幕なのだから。


 そんな光景にどうして自分は涙しているのだろうか?

 そして、その答えにようやく気付く。


 この光景にはちゃんとあるのだ……自分がなくしてしまい、二度と手にする事のできない日常が。


 「ミラ……」


 そこには昔からずっと一緒にいて、自分がずっと好きだった幼馴染みの女の子が。


 「アヒム……」


 ずっとバカをやってつるんできた親友が、他愛もない話題で盛り上がり笑っていたのだ。


 そう、ここには2人がちゃんといる。

 平凡で退屈で何も起こらないつまらない日常だけど、それでも2人はちゃんとそこにいるのだ。

 手を伸ばせば触れられる、そんな距離に、当たり前に2人がいるのだ。


 でも、これは夢だ。

 手を伸ばしたところで、そこには虚像しかない。

 何せ2人はもうこの世にはいないのだから……


 だからこそ、まだ何もなかった、つまらなかったけど2人が当たり前にいた時の日常を夢見ているのだろう。

 もう戻る事はできないから……2人にもう会う事ができないから……


 「ミラ……アヒム……僕は……僕は……」


 あふれ出す涙を止める事ができなかった。

 夢の中であっても、それが夢と気付いてしまい、そこに2人がいてもそこに2人はいないと気付いてしまった。

 自分はこの先どんなに足掻いても2人に触れる事はできない、目の前にいるのに何もできない。


 一体自分はどうすればいいのだろうか?

 涙を流しながらそう思った時、目の前の景色が一気に瓦解していく。


 「あぁ……そうか、目覚めるのか……現実に、戻るのか」


 夢から覚める。そう理解した時、涙を浮かべながらも顔をあげて最後に2人を見た。

 視界は涙で濡れてはっきりとしなかったが、確かに2人はこちらを見て笑いかけてくれたような気がした。


 「ヨハン!! 気がついたか!!」


 目を覚まし、視界に最初に飛び込んできたのはカイトだった。


 「あ……あぁ、それで、どうなった?」


 頭がまだ完全に覚醒していない中、それでも何とかそれだけはひねり出した。


 「決着がついていないならあんたを蘇生させるなんて事しないだろ?」

 「……それもそうだよな」


 そう言って苦笑いを浮かべた。

 どうやら仮死作戦は成功しスコペルセウスは倒せたようだ。


 自分の過ちの尻拭いを彼に押しつけたような気もするが、そうするしか術はなかった。

 でも、成功した。


 だったら今は生き延びた事に感謝しよう。

 償いはこれからしていけばいい……ミラにアヒムを死なせてしまった事も、結果的にカイトたちに迷惑をかけてしまった事もすべて……


 「ヨハン立てるか?」

 「ごめん、力が入らないや……手を貸してくれないかな?」

 「あぁ」


 カイトが差し出してきた手を取り、カイトに起き上げてもらう。

 そしてフラフラしながらも、何とか踏ん張り立ち上がると周囲を見やる。


 かつては盗賊ギルド<毒夜の信奉者>のアジトでありクイーンギガローチのコロニーであった空間はいたるところが破壊され、廃墟のようになっていた。

 おまけに天井に穴まで開いており、夜空と月が覗いていた。

 地上に直通してしまったらしい。


 「ずいぶん派手にやったみたいだね」

 「まぁな……てかこれ、修理とかほんとどうしたらいいんだ? ギルドユニオン総本部に言ったら何とかしてくれるのか?」


 カイトがそう言って悩み出す。

 しかしギルドユニオン総本部はあくまで依頼の遂行と遺跡の損壊に対する保証は別個と考えるのじゃないか?と思う。

 修理とか、こちらから言い出したら修理代は言い出したこちら持ちになるかもしれない。


 あくまで自分がそう思うだけで、アマチュアギルドであるサークルはギルドユニオン総本部とは関わり合いがないため確証は持てないのだが……


 「うーん、わからん。まぁ、今は別にいいか」

 「いいの? これ結構問題になりそうだけど」

 「いや、そりゃそうなんだけど……それよりもヨハン、今は地上にあがるぞ。後の話はそれからだ」

 「あ、あぁ……」


 カイトに促され地上へと戻る準備に取りかかった。




 「これで全員?」


 地上にいるフミカにロープを引っ張って貰い、なんとか地上にあがるとフミカがそう聞いてきた。


 「あぁ、まだ地下にTD-66……あ、いや仲間がいるけど、あいつは自力で脱出できる手段があるから気にしないでくれ」

 「ふーん……そう」


 思わずTD-66はドロイドだから問題ないと言いそうになるが、慌てて言い直す。

 さすがにドロイドの事は隠しておいたほうがいいだろう。


 フミカは「げんない・ふみか」なんてバリバリ日本人名だが恐らくは転生者、転移者、召喚者の類ではない。

 もしフミカがそうならギルド名を名乗った時点で反応があったはずだ。

 しかしフミカは<ジャパニーズ・トラベラーズ>と聞いても特に反応はしなかった。

 だからフミカは100%の確証は持てないが間違いなく現地人だ。


 ここらの裏付けはヨハンから奪った能力の「鑑定眼」を使えば一発なのだろうが、奪った能力は一度次元の狭間の空間に戻ってアビリティーユニットとアビリティーチェッカーをメンテしないと使えない。

 今この場では確認しようがないのだ。


 そんなわけでフミコには自分とフミコがフミカがいうところの『アカツキ』とかいう国出身って事で口裏を合わせておく事にした。

 しかし、これは少し失敗だったかもしれない。


 「へぇ、あなたフミコって言うんだ」

 「うん、似たような名前だねあたし達」

 「そうよね……女の子にフミって名前をつけたがるのは年老いた世代の悪いクセだよね? 流行の名前とかにしてほしかったってほんと思うわ」

 「そうかな? あたしはかい君につけてもらって嬉しかったけど」

 「かい君につけてもらった? 彼に名前をつけてもらったってどういう事?」

 「あ! いや……えっと……なんていうか……その、あ、そう! これ本当の名前じゃないんだ! えっとこっちにくる時に新しい名前が必要になって!」


 フミコの目が泳いでいた。あ、ダメだこりゃ……

 いや、これは俺のせいか。うん、フミコすまん……詳しい設定も考えて伝えておくべきだった。


 しかしフミカは不審がらずに腕を組んでうんうんと頷くと。


 「まぁ手っ取り早く偽名をつけるならとりあえず『フミなんとか~』って当たり障りのない名にするからね! ひねりはないと思うけど、下手に凝った名前よりはいいんじゃないかな? うん」


 そう言って納得した。

 どうやらフミコという名は偽名であると思われたらしい。

 まぁ、実際フミコにはちゃんとした本名もあるし、フミコという名は自分が弥生時代の本名を聞き取れなかったというか色々な規制で聞き取れなくなっているため仕方なくつけた名前だから偽名である事に間違いはないのだが……


 そんなフミカの反応にフミコはどう対処すべきか?と困っているとフミカはフミコの手をガシっと掴むと。


 「むしろ私たち、これからフミフミコンビとしてやっていかない? 同じ東方出身者同士仲良くしようよ!」


 そう目を輝かせながらフミコに言い寄る。


 東方出身者はこの街ではごく少数、しかもフミカは東方の『アカツキ』という国で恐れられるゲンナイ一族だ。

 きっと街にいる数少ない東方出身者からは敬遠されているのだろう。


 だからゲンナイの名を聞いても恐れる素振りを見せないフミコとは仲良くなれると思ったのかもしれない。

 だとすれば、この2人が仲良くなるのは悪い事ではないだろう。

 自分が間に入る必要はなさそうだ。


 そんなわけでしばらくはフミコとフミカの2人は放っておくことにした。

 まずはケティーに連絡して事情を説明し、リエルを次元の狭間の空間に呼んでもらってそこからTD-66を回収して修理してもらわないといけない。


 後はこの開いてしまった穴だが……一様は立ち入り禁止と書いた黄色いテープで周囲を囲ってブルーシートでも被せとくべきなのかな?

 うーん、わからん。とにかく今はやれる事をしよう。




 ケティーと連絡はつきリエルを連れて次元の狭間の空間に戻ったようだ。

 これでTD-66の事はケティーたちがなんとかしてくれるだろう。


 「ふぅ……それじゃあこっちも後片付けをしますか」

 「マスター、この穴の修理を行うの?」

 「ん? いや、錬金術で無理矢理修復してもいいんだけど、後々ここで何があったかを隠蔽したんじゃないか? と難癖つけられても嫌だしな」

 「じゃあこのまま何もしないの?」

 「そうだな……このままにしとけば、まぁ簡単な依頼だと聞いてたけど普通にやべー強敵と対峙するはめになったって証明になるしな」

 「?」


 そうリーナに説明するがリーナはいまいちわかっていないようだった。

 まぁ、聞いてた依頼と違うからお詫びにランクアップポイント多めによこせって言ってやるとはストレートに言えないから仕方ないが、でもこれから先もこのドルクジルヴァニアでリーナは生きていくのだ。

 こういった知恵もそのうち教えないといけないのだろう。

 何せ、自分達はいつまでもギルドメンバーとしてこの子と寄り添っていく事はできないのだから……


 (まぁ、そういった事はおいおい考えるとするか)


 リーナから視線を逸らしてフミコとフミカのほうを見る。

 2人はまだ何やら話し込んでいたが、ここいらで切り上げさせるべきだろう。


 「おーいフミコ、そろそろ帰るぞ! フミカも助かったよありがとう!! お礼はちゃんとするよ。そうだな、報酬金の一部を譲渡って形でいいか? ギルドユニオン総本部からギルド<明星の(アェイン)>に渡してもらうようにするよ!」


 そう言うとフミカは首を振った。


 「そんなのはいいよ、むしろそっちからしたらクイーンギガローチを私が横取りした形でしょ?」

 「何言ってるんだよ! フミカがいなきゃクイーンが今頃、地上のどこかに逃げ込んで見つけられなかったかもしれない……そうなってたら依頼は確実に失敗って判定されちまう」

 「まぁ、それはそうだろうね。地上で繁殖して被害も出ただろうし」

 「うん、考えたくはないが確執にそうなるよな。だから、フミカにも当然報酬の分け前を渡さなくちゃいけない」


 その言葉を聞くとフミカは小さく笑ってこう答えた。


 「ほんと真面目だね、別にいいて言ってるのに……まぁ、そこまで言うならあなた達のギルド本部に今度遊びに行くからその時に高級なお茶でも振る舞ってくれたらいいよ」

 「高級なお茶……ね」

 「そ、でもわかってると思うけど、ここいらじゃ東方のお茶は東方ってだけで高級扱いになるから高いだけの普通のお茶じゃダメだからね!」

 「それはなんともな要求を……」

 「ははは、それじゃ楽しみにしてるよギルドマスター? それにフミコも、お茶飲みながら色々話そうね!」


 フミカはそう言ってジャンプすると、一気に民家の屋根の上まで飛翔し、瞬く間に屋根から屋根へと素早く移動して姿が見えなくなってしまった。

 まさに忍者、異世界の忍者だ。


 「うーん、高級なお茶ね……ケティーに頼んでみるか? とはいえ、やっぱ報酬の一部は渡すべきだろうな」


 言って、でも高級なお茶を買うなら報酬金は全部もらっとくべきなのか?と迷ってしまう。


 「まぁ、それは後で考えよう。とにかく今はギルドユニオン総本部に報告に向かうか!」

 「マスター、でももう夜ですよ? 大丈夫ですか?」

 「まだ深夜じゃないからギリセーフだろ……それよりヨハン」

 「ん? 何かな?」

 「あんたもくるんだ」

 「どこに?」

 「ギルドユニオン総本部」

 「……え?」


 ヨハンは目を丸くして驚いたが、当然だ。

 何せこの地面に開いた穴にせよ、今回の件に関してはヨハンの証言が必要不可欠だからだ。


 こうしてヨハンを連れてギルドユニオン総本部へと向かうのだった。

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