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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
11章:依頼をこなそう!

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ドルクジルヴァニア地下大迷宮(13)~決戦Ⅲ

 スコペルセウスを仰向けにひっくり返す事には成功した。

 しかしすぐにスコペルセウスは脚をバタつかせて体を丸めようとする。

 そうなればせっかくの苦労も水の泡だ。


 「させるかよ!!」


 なので魔術障壁を素早く展開する。

 とはいえ普通に魔術障壁を展開したところで意味はない。

 スコペルセウスを地面に縫い付けて取り囲むように三方に展開しても簡単に破壊されてしまう可能性がある。


 ならどうするか?簡単だ、魔術障壁の展開密度や表面積を変えればいい。

 具体的には細く長い杭のような棒状に魔術障壁を展開するのだ。


 棒状の細長い魔術障壁にバリア本来の目的である敵の攻撃を受け止めるという効果はない。

 この魔術障壁は防御や敵を封じ込めるといった用途ではなく、敵を串刺しにするために生み出した物だ。


 「こいつでもくらいやがれ!!」


 展開した棒状の魔術障壁を仰向けに倒れているスコペルセウスの口へと放ち、そしてそのまま奥へと刺し込んでいく。


 「おらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 押し込むのに苦労したが、それでもブチブチと嫌な音を立てて杭のような長い棒状になった魔術障壁はスコペルセウスの体内を突き進む。

 そのたびにスコペルセウスは悲鳴をあげながら身をよじって暴れ回るが、それを抑え込むようにさらに奥へと魔術障壁を押し込んでいく。


 やがて杭のような細長い棒状の魔術障壁は仰向けになったスコペルセウスの長い体内を突き破っておしりから飛び出した。

 スコペルセウスの串刺しの完成である。


 「よし、あとは棒状にした魔術障壁の両端に杭を打ち込めば!」


 新たに杭状にした魔術障壁を展開、スコペルセウスを串刺しにした魔術障壁の両端へと打ち込んで固定する。


 「ふぅ……これで逃げられないはずだ」


 そう言った直後だった。

 仰向けで串刺しにされ固定されたスコペルセウスは数多の脚をすべてバタつかせだしたのだ。

 虫が嫌いな人間が見たら卒倒しそうな光景であった。


 「うげ、気持ち悪っ!」


 思わず吐きそうになるが、そんなスコペルセウスの体に変化が起こる。

 ムカデの呼吸器官である気門は脚の体節部分にあるわけだが、それらの気門すべてから何やら粘液を分泌しだしたのだ。


 そしてその粘液は脚をバタつかせた事によって体全体へと行き届き、全体を覆っていく。

 それを見たTD-66が慌てて火炎放射器を装備して戻ってくる。


 『いけません! あれを分泌されたら即座に炎で吹き飛ばさないと手が出せなくなります!』


 そう言ってTD-66は火炎放射器を構え、串刺し状態のスコペルセウスへと火炎放射を放つ。

 炎で炙られスコペルセウスは悲鳴をあげるが、分泌された粘液によって体を守っているようだ。

 なるほど、炎で粘液を消さないと、粘液を分泌した状態では手が出せないらしい。


 しかし、TD-66の火炎放射ではやや火力不足のようだ。

 粘液を消し飛ばせているようには残念ながら見えていない。


 『さきほどまでとは分泌している総量が違うという事でしょうか、焼却しきれません』


 そう言いながらも火炎放射を続けるTD-66の横に立って自分も炎の魔法「フレイム」をスコペルセウスへと放つ。


 「機械の騎士さんよ! 泣き言言わずに踏ん張れよ!!」

 『言われなくともそのつもりです!』

 「よし、だったらこのまま焼き尽くすぜ!! 串焼きにしてやる!!」

 『えぇ、もちろんです!』


 TD-66が火炎放射の威力をあげる。

 こちらも風の魔法も併用してフレイムの威力をあげた魔法「フレイムストーム」へと魔法を切り替えて炎の攻撃を続ける。


 うん、こうしているとムカデの串刺し料理の事を思い出すな……確か中国ではムカデの串刺しが高級食材として売られてるんだっけ?

 炙ったり、タレにつけたりして食うんだとか、あと唐揚げも……


 おぇ、なんだか吐きそうになってきた。

 しかし今は耐えるしかない、心を無にするのだ!


 やがてTD-66の火炎放射器が炎を噴射しなくなった。

 ガソリンかガス、どちらかが底を突いたのだろう、つまりはもう火炎放射はできない。

 あとはこちらの炎の魔法のみがたよりだが、自分もそこまで継続して炎を放ち続ける事はできない。


 別の爆発系の魔法に切り替えるべきか?と考えるが、スコペルセウスの様子が変化する。

 絶えず脚を動かして粘液を出し続けていたが、脚をバタつかせるのをやめたのだ。


 脚をバタつかせるのをやめたという事は粘液を出さなくなったという事だ。

 すると、フレイムストームはすぐに残った粘液をすべて吹き飛ばす。

 あっという間にスコペルセウスは炎で直接体を炙られる事になった。

 まさに串焼きである。


 とはいえ、粘液がなくなってもスコペルセウスの体自体を消し炭には中々できなかった。


 「ち! しぶとい野郎だなクソッタレ! このままじゃこっちの体力が持たないぞ」


 炎魔法のフレイムストームは炎の魔法であると同時に風の魔法の力も借りているため、この魔法を継続して使用するのは相当に体力がいる。

 フレイムストームで消し炭にまで持って行けない以上はこれを使い続ける意味はないだろう。


 粘液は消し飛ばしたのだ、なら後は動けないスコペルセウスにトドメを刺すだけだ。

 スコペルセウスの体を覆う背板や腹板は中々に頑丈であろう、しかし動けなければやりようはいくらでもある。


 アビリティーユニット・アックスモードを構えスコペルセウスを見据える。


 「さて、いい加減ここいらで終わらせてもらうぜ!!」


 アビリティーユニット・アックスモードを頭上に掲げ、勢いよく目の前の地面に刃を叩きつけた。

 そして刃を引き抜くと、叩きつけて刃を刺した周囲一帯の地面も同時に引き抜く。


 それは巨大な一塊の岩であった。

 その引き抜いた巨大な一塊の岩を真上に掲げる。


 「下敷きになってぶっ潰れやがれ!! ギガントロックブレイク!!!」


 そのまま串刺しスコペルセウスへと巨大な岩を振り下ろす。

 大重量が地面へと落とされドスンと大きな音がする。

 同時に立っていられないほどの振動が空間全体を支配し粉塵が舞う。


 それが消え去った時、そこには串刺しスコペルセウスの姿は無く、巨大な岩だけが横たわっていた。

 串刺しスコペルセウスは下敷きとなったのだ。


 「はぁ……はぁ……どうだクソッタレ!」


 吐き捨てて額の汗を拭う。

 どうにも疲労が激しい、さすがに魔法を連発しすぎたか?と思って懐から回復薬を取り出す。

 そしてガスマスクを外して一気に飲み干した。


 「やった!! マスターやりましたね!!」


 リーナがフミコの体を支えながら物陰から出てきた。

 それを見てTD-66も背負っていた空になったタンクを捨てて警戒は続けながらも戦闘モードを解除する。


 『お嬢様、まだ油断しないでください。本命のクイーンギガローチはまだ健在なんですから』

 「わかってるよ君、でもあのデッカいゴ○ブリはマスターが魔術障壁で閉じ込めてるじゃない、もう終わったようなものじゃないの?」


 そうリーナが言う横で、リーナに支えられたフミコは悔しそうな顔をしていた。

 スコペルセウスにやられて戦線離脱してしまったのだ、無理もないだろう。

 怪我も回復薬でどこまで直ったかわからない。

 これはまた次元の狭間の空間のメディカルセンターかリゾート無人島で療養が必要かもしれん。


 そう考えているとヨハンがこちらへと大慌てで走ってくる。

 一体どうしたというのだろうか?どこか焦った様子だ。


 「何やってるんだ!! はやくトドメを刺さないと!!」


 そう言って走ってくるヨハンの横でスコペルセウスが下敷きになっている巨大な岩がドズンと振動し、地面と巨大な岩が眩しく光り出す。


 「な、何だ!?」


 直後巨大な岩が一瞬にして砕け散った。

 ヨハンはその衝撃を受けて吹き飛ばされてしまい、そのまま壁に激突した。

 吐血して床へと倒れ込む。


 「ヨハン!!」


 すぐにヨハンの元へと向かおうとしたがすぐに足を止める。

 岩が砕け散った後、粉塵が舞う中、巨大な影が姿を見せたからだ。


 「まさかムカデやろう、まだ生きてやがったのか!?」


 すぐにアビリティーユニット・アックスモードを構えて警戒する。

 TD-66もフミコを支えるリーナを背後に隠して戦闘態勢に入る。

 そんな自分達を見下ろすように巨大な影は立ち上がり咆吼をあげた。


 粉塵が消え去った時、そこにあったのは超巨大なヨロイオオムカデの姿ではなかった。

 そう、スコペルセウスの姿は変化していた。

 ムカデではないその姿は言うなればオオゲジだ。


 超巨大なオオゲジがそこにはいた。


 「な!? 姿が変化している!?」

 『進化したという事でしょうか?』

 「まじかよ……進化とかありかよ!?」


 といはいえ、ヨロイオオムカデからオオゲジというのは進化というのだろうか?

 というか、そういうの可能なの?

 いや、確かにゲジはムカデの仲間だろうけどさ!


 「ぐ、ダメだ……進化しきる前に……殺さないと」


 吹き飛ばされ壁に激突して倒れていたヨハンがそう言いながらヨロヨロしながらもなんとか起き上がる。


 「おいヨハン、無理するな!」


 叫んで、とにかく今はオオゲジの注意を引きつけてヨハンに攻撃がいかないようにしないといけないとアビリティーユニット・アックスモードを振るう。


 「はぁぁぁ!!! これでもくらえ!!」


 そこら中に散らばった岩の欠片がアビリティーユニット・アックスモードの刃の元にに集まっていく。

 それらはドンドン重なり合って巨大な岩石の塊のハンマーか、もしくは巨人の拳と見間違うほどに肥大化する。

 それを勢いよく振り上げて超巨大なオオゲジへと振り下ろす。


 「くらいやがれ!! 岩塊斬!!」


 しかし、その死の一撃を超巨大なオオゲジはその無数の細長い歩脚で受け止めたかと思うとそのままあっさりと受け流す。


 「な、こいつ!!」


 岩塊斬を受け流した超巨大なオオゲジはこちらから距離を取るように後退する。

 どうやらこちらの間合いを見極めたようだ。

 相当に学習能力があるらしい。


 「ふざけやがって! だったらもう一度火やぶりにしてやる!!」


 右手を突き出して再び炎の魔法「フレイムストーム」を放つ。

 しかし、この炎の魔法に対して超巨大なオオゲジは一切回避するような行動は取らなかった。

 そのままフレイムストームを真正面から浴びるが、しかし超巨大なオオゲジは平然としていた。


 「何!?」


 驚く事に体が燃えることもなくダメージを負っている気配がまるでなかった。


 「そんなバカな! 一体どうなってやがる!?」


 信じられないといった気持ちがこみ上げてくる中、TD-66が冷静に分析する。


 『あのオオゲジが進化した姿だというなら、恐らくはわたくしが何度も火炎放射器で攻撃し、そしてさきほどの炎の魔法の浴び続けた事によって炎に対する耐性を身につけたのだと思われます』

 「な、炎に対する耐性だって!?」

 『はい、恐らくは。つまりはもう、あの超巨大なオオゲジには炎の攻撃は通じないと思われます』

 「……まじかよ、何てこった」


 そうなると炎以外の魔法の攻撃も下手に攻撃したらすぐに耐性をつけられる可能性がある。

 つまりは即死で殺さない限りはこちらの攻撃手段が狭められていく。


 「クソッタレが!! だったら一撃で殺せる技をくらわせるまでだ!!」


 アビリティーユニット・アックスモードを構えて深呼吸し、前へと突き出す。


 (聖斧の秘奥義グランドスラッシュ……こいつなら耐性をつけるも何も回避不能な斬撃だ、これで終わらせる!)


 秘奥義は強力な破壊力を持つが、その分反動も大きい。

 発動すれば、力を使い切ってしまうためその後の戦闘継続は困難となる。

 つまりは完全に勝てる場面で使わないといけない切り札だ。

 果たしてこの場で使う事は正解だろうか?


 しかし、一気に勝負を決めるにはこれしかない。


 「タクヤ、使わせてもらうぜ? そして、できたら力を貸してくれ」


 そう呟いて秘奥義を発動しようとした時だった。

 こちらが次に放つ攻撃を脅威と感じたのだろうか?

 超巨大なオオゲジが咆吼をあげるとその場から逃げるように素早く移動する。


 「何!?」


 そしてそのまま魔術障壁に取り囲まれて逃げることも出来ずにいたクイーンギガローチの元まで行くと細長い歩脚でクイーンギガローチを掴み取る。

 紐のような細長い歩脚で縛り上げられたクイーンギガローチは暴れ回って抵抗するが超巨大なオオゲジは気にせずそのまま咆吼をあげ、体全体を眩しく発光させる。


 「な、なんだ!?」

 『もしやクイーンギガローチを取り込んでいる? 融合しようというのですか?』

 「融合だって!? そんな事が可能なのか!?」

 『わかりません、しかしそうとしか説明のしようがありません』


 TD-66に言う事はもっともだ。

 説明のしようなどない、しかし目の前でそれは起きている。


 超巨大なオオゲジは発光してその体内にクイーンギガローチを取り込んだ。

 みるみるその姿が変化する。


 ムカデの顔に顎肢はより一層巨大化し小顎も8本ある。

 胴部はオオゲジの名残は消え、とても長くムカデの要素を戻している。

 しかし脚は短くなっておりオオゲジのように細長い。


 そんな体はしかし地上を這わない。

 なぜなら頭部近い背板が割れて開き、中から羽根を姿を見せているからだ。

 その羽根で宙を飛び回り移動するのである。


 そしてその体全体が赤く燃え上がるように光り輝きだした。

 炎の耐性を身につけたその先、自らが炎と発せられるようになったという事なのだろう。


 Gを連想させる羽根を持ったゲジの脚を持つ宙を舞う燃えさかるムカデ……そんな姿がそこにはあった。

 バーニングスコペルセウス誕生の瞬間である。

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